風都探偵 The ANOTHER CASE   作:竜・M・美日

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後章3「fの決断/決意のツインマキシマム」

 ぼくはファングを直線状に変形させ、ガイアメモリの先端部分のスイッチを押す。

「ファング!」

「行くよ、翔太郎」

 ベルトにジョーカーメモリが転送されてくる。

 それにしても相棒が変身しているときの癖で左スロットを握ってくれていたのは助かった。

 おかげで攻撃を受けても翔太郎側のスロットは無事で済んだのだ。

「変身!」

 かけ声とともにジョーカーを押し込み、続けてファングも押し込む。ベルトを開く。

「ファングジョーカー!」

 身体にすさまじい力が湧き起こる感覚がする。

 強化皮膚が全身に形成されたぼくは白と黒のWに変貌を遂げた。

 普段のスマートなWとは違い、身体中に鋭利なデティールが飛び出る。

 ようやく、ぼくの身体をメインとして変身するWファングジョーカーのお披露目だ。

 

 ファングについて改めて説明しよう。

「シュラウド」……ぼくの母親・園咲文音(ふみね)から、用心棒として贈られた存在だ。

 これまでの様子のとおり、ファング自体が機械恐竜としてライブモードで動き、かなりの戦闘力を持っている。

 それをメモリとして使用することで、ぼくの肉体を起点とする戦闘形態・ファングジョーカーになれる。

 ファングジョーカーはその名に相応しい野獣のような機敏性を持ち、相手を鋭利な刃で寸断する。

 Wの中でも戦闘力においては、最強形態・サイクロンジョーカーエクストリームでさえ追随(ついずい)を許さない。

 だが、良いことばかりではなく、いくつかのデメリットがある。

 一つは、翔太郎に連絡を取らないと変身できないこと。

 通常の変身なら翔太郎がベルトを装着するだけで、同時にぼくにも自動的にベルトが現れる。

 だから翔太郎が変身に迫られると、ぼくが離れていてもその場でわかる。

 しかし、これが逆だと成立しなくなる。ダブルドライバーは「ぼくとの融合」が前提のため、たとえばぼくがベルトを付けても翔太郎の腰にベルトは現れない。

 じつは、一人でも変身できる状況は作れるのだが……今は、その話はしなくてもいいだろう。

 二つ目は、ファングに込められた凶暴性。

 ファングメモリには使用者を凶暴化させる「牙の記憶」が内包されている。

 先ほど言ったとおり、用心棒としての側面を持つということは、それは「ぼくを守る(イコール)あらゆる危険を徹底的に取り除く」ということだ。

 しかし、その危険は頼れる相棒の精神(優しさ)のおかげでほとんど起こったことはない。

 その上、現在ではぼくたちが成長したことで、短期間ではあるがこの牙は「一本」だけではなくなっている。

 すなわち、すっかりバランスが取れたファングジョーカーは緊急時では強力過ぎるほどの戦力なのだ。

 

 ファングジョーカーに変身したぼくは、意識がなくなっているであろう相棒の身体を心配して声をかける。

「大丈夫かい、翔太郎?」

《あぁ、俺の顔が海水に浸かってないことを祈るぜ》

「それはまずい。もう少しだけ待っていてくれ」

 ぼくの計算が正しければ、もうすぐエレベーターが復旧するはずだ。

 そうなれば、香澄さんとときめが翔太郎を救助してくれるだろう。

《まかせな。我慢なら得意だ》

「すまない。今は、また一つ。ぼくの過去の因縁を終わらせるときだ」

《そうだな》

「『悪魔』の家族の生き残りがごちゃごちゃと……! 何様のつもりだァ‼」

 ウォーターから怒り混じりに尋ねられる。

 それにしても、悪魔か……今では懐かしい響きだ。

「生憎、ぼくはきっともう悪魔ではない。だが『何様』か……。知りたいのならば教えてあげよう」

 ぼくたちが強い誇りを持ち、愛する街の住人から授けられた「街の希望」であるこの名を。

「ぼくたちは」《俺たちは》

「二人で一人の探偵で」

「《仮面ライダーWだ!》」

 それが「今のぼくたち」の名前だ。

 

「君もまた運命に翻弄(ほんろう)された、ある意味では被害者なのだろう」

 ぼくはウォーターの過去を想像して、じつのところ少々同情の念が湧いていた。

 ガイアメモリを作った者として、またWとして倒した相手として、とても他人事(ひとごと)では済ませられなかったからだ。

「……だが、だからと言ってその所業(しょぎょう)を見過ごすことはできない」

《当然だ。よくも相棒の大切な人を怖がらせてくれたな。俺も、もう知らねぇぞ》

 ファングジョーカーの左手が握り締められる。それを抑えて肘置きにすると、顎に右手を置く。

「《大嶋凪》」

 右人差し指を立てて、相手に向かって指した。

 ぼくたちは声を合わせて、いつもの決め台詞(ぜりふ)を放つ。

 鳴海荘吉から受け継ぎ、Wの歴史そのものを体現しているようなフレーズで。

 街を泣かせる者に、ぼくたちが永遠に投げかけ続ける、あの言葉……。

 

「《さあ、おまえの罪を数えろ!》」

 

「……俺は(おまえ)が嫌いだ……。特に『その色のW(ファングジョーカー)』がこの世でいちばん大嫌いなんだああああッ‼」

 過去のトラウマからかウォーターが絶叫を上げて襲いかかってくる。

 六本ある内の給水用のホースの四本をぼくたちに向けてきた。

 そこからすさまじい勢いの水流を放水してくる。

 ホースを給水だけではなく攻撃にも転用してきたようだ。

 だが、我を忘れたような無軌道な攻撃はファングジョーカーの機動力を活かせば、当たることはない。

《おいおい、水鉄砲の次は消防車か?》

「威力まかせに闇雲に攻撃をしても無駄だ。それにおまえの能力もすでに検索済みだ!」

 ファングメモリの角型のレバーを二回弾く。

「ショルダーファング!」

 右肩から白い刃が生えてくる。

 巨大なブーメラン・ショルダーセイバーを取り外すとウォーターめがけて投げつけた。

 狙いはウォーターの能力全般を支えているホース部分だ。

 ここからの給水をできなくすれば、ウォーターはほとんどの能力を封じられる。

 ショルダーセイバーは意志があるように放水をかわすと、容赦なく六本のホースを切断する。

 痛覚が(かよ)っていたようで、ウォーターが痛みにうめきながら膝を折った。

「《今だ!》」

 ファングメモリのレバーを一回弾く。

「アームファング!」

 ファングジョーカーの右腕の突起が伸びて巨大な刃・アームセイバーに変化する。

 そのまま素早くウォーターに接近すると、たえまない斬撃を加えた。

 左腕のカノン砲を破壊する。水の膜も薄くなり今では意味をなしていない。

 能力を破ったことであっさりと海岸に倒れ込むウォーター。

《なんだよ。意気込んでたわりには、全然だな。『配管工さん』よ》

「やはり肉弾戦には弱かったか。攻撃の大半が遠距離だったからね。予測できていたことだ」

《さあ、マキシマムで決めるぜ相棒!》

「あぁ……。うっ……」

 Wの右半身がフラリとして片膝をついた。

《えっ? お、おい、調子悪そうだぞ! いけんのか⁉》

 こんなときに眩暈(めまい)がして、意識が朦朧(もうろう)としてきた……。

「……じつのところ、フラフラだ……。数日まともに寝てないし、仮眠も取らずに作業に追われていたからね……」

《そんな状態で戦えんのかよ! 無茶すんな!》

 翔太郎が心配してくれるが、ぼくは気合を入れてゆっくりと立ちあがる。

「大丈夫さ……。君がぼくの相棒でいてくれて……。そして、一人でもぼくを信じてくれる人がいる限り……。ぼくは絶対に諦めない……!」

 Wはファングのレバーを三回弾いた。 

「ファング・マキシマムドライブ!」

 ファングジョーカーの脚部に巨大なブレード・マキシマムセイバーが出現する。

 砂浜を蹴りあげ、身体を高速回転させた。

「《ファングストライザー!》」

 二人の息を合わせて、必殺の回転キックをウォーターに向けた。

 だが、その勢いはぼくの弱っていた三半規管をグラグラと揺さぶった。

 まずい……目が回る……!

 そんなことはお構いなくウォーターの身体に足が当たる。

 弱音を吐いている暇はない、Wはそのまま蹴り抜く。

 蹴飛ばされたウォーターは水切りのように海面を跳ねると、そのまま海中に消えた。

 Wは砂浜に(わだち)をつけながら着地する。

 ぼくはすぐに海面に目を向けた。爆発が起きていない。

「し、しまった……! うまくマキシマムが発動できなかった……!」

《おい、大丈夫か⁉》

「……この状況では、ハードスプラッシャーを待ったほうが……いいか……」

 ぼくはなんとかアドレナリンと気力だけで立っているような状態だった。

 この体調で海を潜るのは無謀だ。

 

《ちっ……。ん? フィリップ……なんか、海の様子がおかしくねーか?》

 翔太郎に言われて気づいた。波が打ち寄せずに異様なほど引いている。

「たしかに……。まだ、引き潮には早いはず……」

 それも、かなり深い所が見えるほど、明らかに異常な速さで潮が引いていく。

 この現象は……まさか!

「違う。これは引き潮ではない!」

 そこでファングジョーカーの影を覆い隠すように巨大な影が現れた。

《おいおい冗談だろ……⁉》

「やはり……津波だ……」

 それも恐ろしく大きい津波が風流島にすさまじい勢いで迫っている。

《なんてデケェ津波だよ……!》

「……歴史上、アラスカ湾でさまざまな要因が(かさ)なったことで五〇〇メートル以上の津波が観測されたことはあるが……!」

 さすがに五〇〇メートル級ではないが、目測だけでも一〇〇メートルはあった。

《あんなのが島に直撃したら!》

「確実に島全体が水没する……!」

 そこで壁のように反り立った海面から触腕が現れるとWを海にひきずり込む。

「ウワアアアアッ⁉」

《フィリップ! 大丈夫か⁉》

 その触腕はWをいたぶると海上に(さら)し上げた。

 目前には津波が迫っている。 

《くっそぉ! 特等席ってか⁉》

 見ればウォーターが波に乗るよう津波の中を動き回っている。

《あの野郎……! サーファー気取りかよッ!》

「……だが、おかげでどこに力を発揮しているのか……丸わかりだ!」

 ここでぼくはファングの二本目の牙を剥いた。

「トリガー!」「ファングトリガー!」

 ぼくたちの成長して使用可能になった姿、白と水色の牙と銃撃手の戦士・ファングトリガーに代わる。

 あの津波が奴によって引き起こされたものならば……。

 ファングトリガーの右拳の甲からフィストニードルを放つ。

 これには相手の能力を麻痺させる効果がある。

「目標が大きい故に狙い放題だ!」

 予想どおり、滅茶苦茶に放ったものの水流にフィストニードルが刺さると、支えがなくなったウォーターが投げ出された。

 Wも触腕から解放される。

「よし、これでどうだ……!」

《いや、駄目だ! 津波のほうは止まってねぇ!》

 見れば相変わらずすさまじいスピードのまま津波が迫っている。

 くそっ、さすがに津波の潮力(ちょうりょく)自体は抑えられなかったか!

「だが……絶対に止めてやる‼︎」

 絶対に香澄さんが愛した島を守ってみせる!

《どうするんだ⁉》

「津波にマキシマムをぶつけて、勢いを殺す!」

 ぼくはファングメモリを間を置いて一回ずつ弾く。

「アームファング!」「アームファング!」

 トリガー側の手首に青いアームセイバーを二つ展開する。弓のような形になった。

 さらに、三回弾く。

「ファング・マキシマムドライブ!」

 ファングメモリの角から矢が生成され、それを左腕の弓に(つが)えた。

「《ファングスクリュードル!》」

 逆さまになりながら()た、エネルギーをまとった矢が螺旋(らせん)を描きながら津波に迫る。

「吹き飛べええええッ‼︎」

 ぼくの想いがこもった一撃は津波に大穴を開けた。

 急速に勢いが弱り、島につく前にはなんとか小さな波へと変わった。

 

 Wはそのまま真っ逆さまに海中へと飛び込んだ。

「くっ……奴は⁉」

 辺りを見回すが姿は見えない。

 すると大きな魚影がWに喰らいついた。

「ウワアアアアッ!」

 その正体を見れば二十メートルほどの大きさで、かつて白亜紀後期の海に生息していた水生爬虫類・モササウルスを模したウォーターの変異体だった。

 その身体の中央辺りにウォーターがいる。 

「よくも好き勝手にやってくれたな! 俺に傷をつけていい者は、もうだれもいないッ‼」

 数十本の鋭い歯で容赦なくかみ砕こうとしてくる。

「グワアアアアッ‼」

《フィリップ!》

「このまま全員まとめて水底に沈めッ‼」

 その言葉で、ぼくだけじゃなく香澄さんたちにも狙いをつけていることに気づいた。

 

 変異体にかみつかれながらも本体に向かってフィストニードルを撃ちまくる。

「……やらせるか! やらせるもんかァッ‼」

 だが、撃っても撃っても次々と代わりの海水が身体を修復して、本体には届かない。

「無駄だァ! 水の中では俺は不死身だ‼」

 ぼくはファングの暴走性とは別に、痛みで意識が飛びそうになっていく。

「ガァッ……だ、駄目だ……意識が……!」

《相棒ォッ‼》

 ついには香澄さんたちが乗るエレベーターめがけて思いっきり投げ飛ばされる。

 ぼくは直撃だけは避けるために力を振り絞って身体をひねった。

 カツン……。

 なんとか、Wのボディーでエレベーターのガラスを破らずに済んだが、ぼくにはもう力は残っていなかった。

《おい、フィリップ! フィリップ……‼》

 翔太郎の声が遠くに聞こえた。

 目の前では大切な人が涙ぐんでいる。

 香澄さん……。

 力なく水中を漂う右手がガラスをなでるような形になった。

 

 その手に香澄さんはガラス越しに手を合わせてくれた。

 すま、ない……まもれ、な、か……。

「……フィリップ君……!」

 香澄さんの声に閉じかけた目がほんの少しだけ、開く。

 涙ながらに笑顔を浮かべる香澄さんの顔があった。

「信じてるわ。フィリップ君」

 

『駆けつけるよ。君が求めれば必ず……!』

 

 ……そ、そうだ……。

 翔太郎がぼくの相棒でいてくれて……。

 そして、一人でもぼくを信じてくれる人がいる限り……。

 ぼくは絶対に諦めない。

 そう……決めたんだ!

 まだだ……!

 まだ……やれる……!

「死ねッ、園咲来人ォ‼」

 エレベーターごとかみ砕こうと変異体の牙が迫る。

「んっ!」

 中にいる二人が最期を覚悟して目を閉じた。

 

 ……ガギン!

「……ングッ⁉」

 変異体が間抜けな声を出す。

「……えっ?」

「二人とも……もう、大丈夫、だよ」

「メタル!」「ファングメタル!」

 喰われる直前にメタルメモリに変えた。

 これがもう一本の牙。牙と鋼のファングメタル。

 その装甲はちょっとやそっとじゃ傷を付けることもかなわない。パワーも折り紙つきだ。

「フィリップ君!」「フィリップ!」

 ぼくはかみ砕こうとした顎を強引にこじ開ける。

「アガァッ……⁉」

「ぼくは、これまで愛する人をだれも守れなかった……。父さんも、母さんも、姉さんたちも……。鳴海荘吉も……」

《フィリップ……!》

「……だが、今度こそ、絶対に、守ってみせる!」

 ぼくは大切な人を見る。

 その人は涙を流しながら力強くうなずいてくれた。

 

 そこでファングメタルのボディを眩いライトが照らした。

《やっと来たか!》

「なっ……グワァッ⁉」

 ウォーターを跳ね飛ばすと、Wの前にようやくハードスプラッシャーが到着した。

 ぼくはファングの角を二回ごとに二度弾く。

「ショルダーファング!」「ショルダーファング!」

 両肩のショルダーセイバーに加えて、二の腕に二枚、前腕に三枚ずつ小ぶりな牙が装着され、合計十二枚の牙を生やしたトゲトゲしいフォルムへ変貌した。

 重ねて三回弾く。

「ファング・マキシマムドライブ!」

 Wはハードスプラッシャーのフロントカウルに足を置く。

「《ファングスピアバレット!》」

 両腕の全セイバーをさらに大型化させると、ハードスプラッシャーを足がかりとしてそのまま高速回転しながら、変異体をドリルのごとく削り貫きながら体当たりした。

「《ウオオオオオオオオオッ!》」

 ファングメタルのパワーとハードスプラッシャーの推進力を使って浮上する。

「おまえを、海から、引き剝がす!」

 水柱を上げてWはウォーターを吹き飛ばした。

 

 ウォーターは海面を滑ると大嶋の姿に戻ったが、しばらくするとまるで地面に立っているようにユラユラと立ちあがった。

 そのときに砕けたガイアドライバーと強化アダプターが海に沈んでいくのが見えた。

「……まだだ……まだだァ……!」

「ウォーター!」

「……や、やめろ……!」

 ぼくは止めたが、大嶋はコネクターなしに喉に直接メモリを刺した。

 もはや自分の命のことは(かえり)みていない行為だ。

《まだ、メモリブレイクできないのかよ! しぶとい野郎だな!》

「……言ったはずだ……! 水がある限り俺は不死身だァ……!」

 再び変身したウォーターは海面に両手をつく。だが、波紋が起きるくらいで何も起こらない。

「……⁉ なぜだ⁉ なぜ、力が出ない……⁉」

 Wは浮上してきたハードスプラッシャーになんとかまたがるとハンドルにもたれかかった。

「たしかに……ウォーターのメモリは、想像以上に、強力だ……」

 肩で息をしながらぼくは指摘した。 

「……しかし、本来の、ウォーターの能力は、自身の体液を水に変えて使用する能力……。君は強力にして、使用し過ぎたが故に、水分を欲していた。よく水を飲んでいただろう……。その反動だ……」

 伏水だったときの彼は都度(つど)、水を飲んでいた。

「……さらに、たとえ水と言えど、淡水と、海水では、意味が違う。海水は、人体には有毒だ。多量に摂取(せっしゅ)すると、塩分過多で死に至る。君でさえ、地球を包む、果てしない水を支配することは……叶わなかったということだ……!」

「……ふざけるなァ! 俺は、水を(つかさど)る者だ‼ この地球のすべての水は俺の水だァ‼︎」 

 その叫びに呼応してウォーターの身体を海水が包み十メートルほどの大きさのイカのような姿になった。

「……まるで、神話に出てくる、クラーケンだ……」

《ちくしょう! 最後の悪あがきかよ!》

「……いくらか小さくなったとは言え……あの触腕で叩かれれば、施設は一撃で崩壊する……!」

 なんとか立ちあがろうとしたWの身体に電撃が走った。

「くっ、バランスが崩れる……!」

 ぼくの活動限界はとうに過ぎ、暴走しかけていた。

「ジョーカー!」「ファングジョーカー!」

 それに気づいた相棒がメモリをいちばん相性が良いジョーカーに変えてくれた。

「……すまない、相棒……」

《水臭いこと言うなよ、フィリップ!》

 だが、奴をファングジョーカーのマキシマムで止められるか、どうか……。

 いや、危険を承知で、「あの技」を……。

 しかし、リスクが大きすぎる……。

 

「……頑張って、仮面ライダー……」

「!」

 このとき、翔太郎の耳越しに香澄さんの声を聴いた。

 おそらく耳元にスタッグフォンをつなぎっぱなしで置いていたのだろう。

 ぼくは水中エレベーターに閉じ込められている香澄さんを見た。

 香澄さんがぼくの帽子を握りながら祈っている。

 ぼくのことを信じてくれているのだ。

 

『おまえは今まで一つでも、自分で決めて何かをした事があるか?』

 

 鳴海荘吉の声が思い起こされる。

 ぼくは……何も決断しなかったあのころの悪魔(ぼく)ではない!

 決断したんだ。もう、迷わない!

 ぼくは限界を超えて震える手で、ファングのレバーを三回弾く。

「ファング・マキシマムドライブ!」

 再び、足にマキシマムセイバーが出現する。

 そして、左側のスロットに手を伸ばす……左手が止めた。

《おい、何する気だ⁉》

「ツインマキシマムを使う……。それしか暴走した奴を倒す方法はない」

《何言ってんだよ! 井坂のときだって、おまえ、あんなにも反対してたじゃねーか!》

 ぼくの静止を振り切って発動した翔太郎は一度使って死にかけた。

 その恐ろしさは彼が身を(もっ)て知っているだろう。

「……あのときとは、状況が違う。ぼくは肉体を持つが、半分はデータで構成されている。ダメージも君と比べればいくらか少ないはずさ……」

《それでうまくいかなかったらどうするんだよ! それにおまえもう何発マキシマムを打ってんだよ! 暴走するかも知れねぇんだぞ!》

「うまくいくさ……。ぼくなら……『ぼくたち』なら。それに君もジョーカーを通して感じているはずだ……。ぼくの……ぼくの感情の(たかぶ)りを……!」

《……フィリップ……!》

 今のぼくなら翔太郎に及ばずとも、最大限にジョーカーのパワーを使えるはずだ。

 ぼくはやせ我慢で笑う。

「……せめて惚れた女の前でくらい、最後まで恰好つけさせてくれ……!」

《!》

「頼む……相棒! 君の『切り札』を、抜かせてくれ‼」

 相棒がフッと笑う。ぼくのことを頑固だと考えているのがわかった。

《なら、思いっきりいけ‼ 心配すんな! もし、暴走しても、俺がぶん殴ってでも止めてやるさ‼》

「……心強い。半分力を借りるよ、相棒!」

 

 Wはハードスプラッシャーで海上を駆け、可能な限り暴走体のウォーターに近づく。

 ツインマキシマムがどんな技を発揮するのか予測できないからだ。

「同じ(てつ)を踏むかァッ‼」

 海面のあらゆる所から触腕が現れて叩き潰そうとしてくるが、ハードスプラッシャーの小型魚雷や運転テクニックで避ける。

「ぼくたちも同じ敵に同じ手を使う気はない!」

「園咲、来人ォォッ‼」

 前から暴走体の触腕が迫る。

 その中でWはゆっくりとシートの上に立った。

「最後に訂正しておこう……。ぼくはもう園咲来人ではない……! 今のぼくは!」

『フィリップ!』

『フィリップ君!』

『フィリップ……』

『フィリップ』

『……フィリップ君……』

 みんながぼくの名前を呼ぶ声がする。

「ぼくの名前は……フィリップだ‼ 翔太郎、メモリブレイクだ‼」

《おう! 暴れてこい相棒ォッ‼》

 左手(翔太郎)から右手(ぼく)にバトンを渡すように受け取ったジョーカーを素早くマキシマムスロットに叩き込む。

「ジョーカー・マキシマムドライブ!」「マキシマムドライブ!」「マキシマムドライブ!」

 通常でのマキシマムではないため、ガイダンスボイスが狂ったように鳴り響く。

「《ウオオオオオオオオオッ‼︎》」

 すさまじいエネルギーがWの身体に沸き上がった。

 

 そのぼくたちの死闘をいちばん近い海岸の木の上に乗り、優雅を気取って眺めている存在がいた。

「あれがWの禁忌(きんき)の技。『ツインマキシマム』か……。どこまでやれるか見物だね」

 それは七色の光、オーロラを羽衣(はごろも)のようにしているオーロラ・ドーパントだった。

 

 Wはハードスプラッシャーのシートを踏んで飛んだ。

 ジョーカーの特性で本来の身体能力の限界を遥かに超え、すさまじい跳躍力で前面からの触腕をかわし上空へと飛び上がる。

「マキシマムドライブ!」

 微かに残る理性でマキシマムスロットを叩く。

「《ガアアアアアアアアッ‼》」

 ファングジョーカーの頭を(かたど)ったエネルギーから黒いオーラが伸びる。

「J」の字を反転させ曲がった部分を尻尾に見立てた、まるで恐竜の王・ティラノサウルスのような形状を作り上げていく。

「み、水底に沈めえええええっ‼」

 ウォーターは八本の触腕を伸ばし叩きつけてくるが、そのすべてが弾かれ触れることすらかなわない。

「ば、馬鹿なああああああァッ⁉」

「《ガアアアアアアアアッ‼》」

 ファングジョーカーのツインマキシマムがウォーターの暴走体にかみつく……両足で相手を挟んだ。

 その強靭な顎でウォーターの本体ごと暴走体に喰らいつくと縦横無尽に振り回し、海面に何度も叩きつける。

 全体で見れば違和感はないだろうが、間近で見れば、きっとWは有り得ない軌道を描いているはずだ。

 トドメに空に放り投げると強靭な尾で力の限り叩きつける……Wの右足で切り裂いた。

「ウガッ……グワアアアアアアァァッッ!」

 身体に「F」の軌跡が浮かんだウォーターの断末魔とともに爆発が起こった。

 

 この島に……二度と近づくな‼

 

 それを見届けたWはこの島に向けられるすべての悪意に対して、その想いを込めて獣の如き咆哮(ほうこう)を上げた。

 

 砕けたメモリとともに大嶋は海に落ちる。

 その傍をあのイヤリングが漂っていた。

「……きょく、ちょう……」

 だが位置が悪かったのだろう。大嶋は突如発生した渦潮になすすべなく巻き込まれると、そのまま海の底へと消えていく。

 できることなら助けたかったが、ぼくにその余裕はなく、なんとかハードスプラッシャーの上に着地するのがせいぜいだった。

 眠気もあってか意識が急速に落ちていく。

《……ったく、無茶苦茶するぜ。俺の相棒は》

 ハードスプラッシャーからずり落ちそうになる身体を相棒が支えてくれた。

「……あり、がと、う……あい、ぼう……」

 そこでついにぼくの意識は本当の意味でなくなった。

 

 一部始終を見ていたオーロラ・ドーパントは変身を解くと、藤色の長髪に虹色のメッシュを入れ、その部分を()んで金のリングでとめた、特徴的な容姿をした白いスーツの男が出てきた。

 万灯(ばんどう)雪侍(ゆきじ)。現在のWの主たる敵・「裏風都」のリーダーだ。

「一度Wと戦ったならば中々やれると思ったが……。あれだけの御膳立(おぜんだ)てをして、ファングジョーカーに二度も敗れるとは……使えない奴だ。やはり『ジョーカーの力』は強力か。また次を探そう」

 そう喜びを(にじ)ませつつ吐き捨てると、裏風都への道を開いて去った。

 

 次に目を覚ましたとき、ぼくはあてがわれた部屋のダブルベッドに寝かされていた。

 周りには香澄さんを含めた仲間たちが顔を覗き込んでいる。

 ぼくが目を覚ましたことに気づいたみんなから歓声が上がった。

「フィリップ君!」

 いちばんに香澄さんが抱きついてきた。

「……良かった……」

 嬉しいが身体に痛みが走る。見れば、身体中に包帯が巻かれていた。

 ぼくがこうなるのは珍しい。これも人間らしく生きているということなのだろう。

「すまない……ちょっと痛い……香澄さん……」

「あっ、ごめんなさい!」

 あわてて離れる香澄さんと入れ替わるように、翔太郎とときめが顔を見せてくれた。

「……まったく心配かけさせやがって」

「本当、心配したんだよ」

「翔太郎、ときめ。無事だったんだね」

「おかげ様でな。エレベーターは無事に動いた。さすがは相棒だぜ」

 どうやらシステムは無事に作動したらしい。

「良かったよ」

 続けて照井夫妻が声をかけてきた。

「フィリップ君! 目を覚ましたんだね!」

「……さすがに心配したぞ」

「……それに関してはお互い様だ。照井竜」

「ふっ、違いない」

 仲間たちはぼくの生還に喜んでくれた。口々に安堵の言葉や感謝の言葉をかけてくれる。

 ぼくは傍で涙ぐんでいる香澄さんに言った。

「……守れたんだね」

「うん……全部守ってくれたわ。ありがとう!」

 再び香澄さんが抱きついてきて、また身体中が痛みで悲鳴を上げたが、それを越えるほどの満足感に包まれていた。

 ぼくたちは禅空寺香澄からの依頼を達成した。

 ぼくはやり遂げた。大切な人たちを守り切ったんだ。

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