風都探偵 The ANOTHER CASE   作:竜・M・美日

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後章4「fの決断/喧嘩するけど仲が良い」

 ぼくが目を覚ましたとき、丸一日近くが経っていた。

 怪我に関しては、やはりぼくの考えは正しかったようで、見た目の割には傷が浅かったようだ。

 自分の足で動ける程度には不自由しなかった。

 それからぼくたちは事件解決の打ち上げを兼ねて、福田が腕によりをかけたという料理に舌鼓(したつづみ)を打っているところで、帰還用のヘリが到着するとの連絡が入った。

 

 食事を終えたぼくたちは荷物を持って、満身創痍(そうい)でヘリポートについた。

 空を見れば、何機もの警察のヘリがヘリポートを離着陸し、それに若山たち布川の残党が連行されていき、福田・若狭・オサカナちゃんの三名もそれぞれ保護された。

 その内にぼくたちが乗ってきたベージュとグリーンのヘリが着陸した。

 ぼくたちの番だ。

 いちばん重傷を負っている照井竜を先に入れて、亜樹ちゃん、ときめという順番で乗り込んでいく。

 ぼくらの順番になったとき、香澄さんが傍にいないことに気づいた。

 見れば、夕陽に照らされながらぼくの帽子を胸に海を見つめている。

 ぼくは香澄さんの下に向かった。

「……香澄さん、行こう……」

 ヘリに乗るように促そうと手を伸ばす……その手をつかまれ香澄さんの身体の前に回される。

 彼女を後ろから抱きしめるような体勢になった。

「……フィリップ君。私ね……ずっと、こうして欲しかったの」

「そう、だったのか……」

 ふとヘリに乗り込もうとする翔太郎と目が合った。

 相棒はフッと笑って帽子を目深にかぶると、なぜかヘリから外を覗こうとしていた亜樹ちゃんとときめを無理矢理機内に押し込んだ。

「フィリップ君……」

 呼ばれて見てみれば香澄さんがぼくに顔を向けると、目を閉じた。

 そのままじっとして動かない。

「香澄さん……」

 かつてはわからなかったが、今のぼくならその行為の意味を理解している。

 ぼくも顔を近づけた……。甘く温かいものだった、とだけ言っておこう。

 

 ヘリに乗り込んだぼくたちは疲労が溜まっていたのだろう、みんなすぐに眠り込んでしまった。

 ふと、ぼくは目を覚ました。辺りを見渡す。

 隣にいる照井竜は空気タンクから酸素を吸入しながら、ぼんやりと微睡(まどろ)んでいる。

 その向かい側で亜樹ちゃんが『熟睡』と書かれたスリッパを枕にしていた。

 翔太郎は帽子を顔に乗せ、だらしなく足を投げ出していびきをかきながら、ときめの膝で寝かされている。

 俗に言う「膝枕」という行為だ。比較的最近知った。

 ぼくの対面に座るときめは、その翔太郎の頭を優しくなでている。

 そして、ぼくに気づくと何も言わずに微笑んだ。

 見れば、ぼくの肩に香澄さんが頭を預けながら寝息を立てていた。

 彼女も心身ともに疲弊(ひへい)し大変だったことだろう。本当に頑張ってくれた。

 その姿を見てぼくも笑みで返すと、ときめは静かに窓の外に目を向ける。

 ぼくも目線を移す。

 うみねこだ。優雅に空を飛んでいる。

 これから越冬(えっとう)していくのだろうか。

 それを感慨深く見ながら、ぼくたちを乗せたヘリは夕陽に照らされながら本土へ向かっていく。

 こうしてぼくたちは思い出を残した島との別れを告げたのだった。

 

 あの依頼が解決してから、少し日が経った。

 風流島は警察の事件の調査のために、一時的に封鎖されることになった。

 犠牲者を出してしまったが、責任者である香澄さんが真摯(しんし)な対応を続けたことで、思ったよりも早く解放された。

 一方で今回の事件の原因である若山たちは、香澄さんに対する殺人幇助の疑いで裁判にかけられ、これまでの悪事も白日の(もと)(さら)されることとなった。

 ぼくがフランクリン・ウォルターに証言を取りに行った際に、フロッグポッドを仕掛けておいたのが功を奏した。

 フロッグポッドが記録していた録音から決定的な発言がいくつも飛び出し、さらにぼくが提出したフランクリン・ウォルターのスマホが決め手となった。

 布川不動産は社長である布川の死亡とともに、責任の追及とこれまでの被害者への賠償を払った末に倒産した。

 もう二度と香澄さんの手を(わずら)わせることはないだろう。

 

 解放された風流島では早速、観測ユニットの改修工事が行われた。

 香澄さんが出すと言ってくれた報酬料を修繕費にしてほしい、とぼくが頼んだからだ。

 そして、より安全性が高くなるようにした。

 ぼくのアイデアで。

 そう、このプロジェクトにぼくも参加することになったのだ。

 ウォルターの代理として、ぼくが管理システムを再構築することになった。

 ギジメモリのAIを参考に自動的に効率よく動くように組み替え直した。

 とくにエレベーターには力を入れ、そう簡単にはハッキングできないようにしておいた。

 二度と香澄さんをあの中に閉じ込めるなんてさせるものか。

 それ以降、トラブルが起きたとの話は聞いていない。

 

 風流島のメンバーは伏水……大嶋を除けば、変わっていない。

 福田は新しく入った弟子を叱りつけながら厨房に立っているようだ。

 また若狭、いや、福田文も別荘で業務に(はげ)んでいるらしい。

 どうやら風流島から福田が出ていかなかったのは、彼女が香澄さんを案じて(かたく)なに出なかったことに要因があったようだ。

「……惚れた男の弱みだ」

 左薬指に指輪を付けた福田はそう不器用に笑っていた。

 彼も「格好つけた男」だったのだろう。

 オサカナちゃんも相変わらずだ。

 時々、会うことがあって海棲生物の話題で白熱していると、香澄さんが不機嫌になることがあるが……。どうしてだろうか。

 そして、この事件の真犯人である大嶋は……今も身体は発見されていない。

 おそらく今度こそ、日も当たらないはるか海の奥底でだれにも見つかることなく漂い続けているのだろう。

 これからもひっそりと……永遠に。

 

 そういえば、香澄さんからポストカードが届いていた。

 写真には香澄さんが新しくなった観測ユニットでぼくの帽子を被り、白い猫を抱きあげている姿が写っていた。

 名前は「マーロウ」と言うらしい。なんだか親近感が湧く名前だ。

 そこには「今度、またみなさんで島に遊びに来てください」というメッセージとともに、いつかぼくといっしょに弓岡あずさに面会に行きたいとの(むね)が書かれていた。

 その心理は不明だが、きっと母親に喜んでほしいということはわかった。

 ぼくは二つ返事で了承した。もしかするとそう遠くない未来、ぼくと香澄さんが「より親密な間柄」になる日も……なくはないのかもしれない。

 これで「海上の楽園」で起こった事件の顛末(てんまつ)は以上だ。

 

 ところでぼくがこの「報告書」という名の日記を打っているのにはわけがある。

 それはついさっき翔太郎のいつもの習慣であるタイプライター打ちを邪魔してしまったからだ。

 今回の事件をまとめていたらしく、書き出しに「firippu ga」と打たれていたのが目に入った。

「『フィリップ』の(つづ)りは『F』ではなく『P』だよ。翔太郎」

「あっ! 見るなよフィリップ!」

 翔太郎が差していた紙を引き抜きクシャクシャに丸めて、顔を赤らめていると思ったら、急に冷静になってぼくのことを見てきた。

「あっ、そうだ。たまにはおまえが打ってみろよ」

「えっ? そのタイプライター打ちは君にとって、事件解決のあとの大切な儀式ではないのかい?」

 今回であれば香澄さんに出すための正式な「調査報告書」は亜樹ちゃんが制作している。

 もともとは翔太郎が、師匠・鳴海荘吉が事件後にタイプライターを打っているのを見て、それを探偵の所作(しょさ)であると勘違いしたのがきっかけだ。

 今ではそれがガイアメモリ犯罪に遭遇したときに、自身以外には難解なように多言語を混ぜて資料として残した物だと、翔太郎も理解しているがやめられないらしい。

 しかもローマ字でだ。だから今回のような打ち間違いが起きるわけだが。

 その習慣をぼくにまかせるとは……。

「今回の事件解決の立役者はおまえなんだし、たまにはやってみろって」

 翔太郎に(なか)ば強引に(すす)められるまま、ぼくはタイプライターの前に座らされた。

「……じゃあ」

 そして、ぼくは新しい用紙を差し込んで「REPORT」という書き出しではじめた。

 

 キリのいいところまで打ち終わると、相変わらず苦い顔でコーヒーを飲んでいた翔太郎が声をかけてきた。

「ところでおまえ、香澄さんとはどこまで進んだんだ?」

「『進んだ』? 『どこまで』とは?」

「男と女の仲だよ」

「? キス以外は何もしていないが……」

 逆にそれ以外の知識はほとんどない。

 なぜか翔太郎が頭を抱えだした。

「ったーく……そろそろおまえもいい年だろ? ラブホに誘う気概(きがい)ぐらい持てよ」

「『ラブホ』?」

「ラブホテルだよ。ラブホテル」

「『ラブホテル』……?」

 単純に考えれば「愛」と「宿泊施設」。

 この二つの単語になんの因果関係があるのだろう?

「翔太郎。なんだいそれは……」

 興味を持ったぼくが相棒に尋ねようとしたとき、事務所のドアが開いてだれかが入ってきた。

 その相手にぼくたちは目を疑った。

「ときめと……香澄さん?」

「ど、どうしたんだよその恰好……」

 見れば、ときめが翔太郎の格好、香澄さんがぼくの格好を模倣(もほう)していた。

 俗に言う「コスプレ」という行為に酷似(こくじ)している。

「どうかな、翔太郎?」

「似合ってる? フィリップ君?」

「あっ、あぁ……。似合ってる」

 ぼくの言葉に二人が黄色い悲鳴を上げながらハイタッチする。

「いや、なんで香澄さんがいるんだよ⁉」

「……あっ、そう言えば……」

「えっ?」

『明日、探偵事務所に遊びに行きます』

 昨日、送られてきていたスタッグフォンの文面を思い出した。

「おまえ、また忘れてたのか!」

「すまない……」

 だが、今回はぼくたちが事務所にいて良かった。香澄さんの機嫌を損ねずには済んだだろう。

 

 すると、ときめが香澄さんに何か耳打ちをする。二人はうなずく。

 二人が一つ咳払いをする。

「『頼むぜ、フィリップ。検索だ』」

「『わかったよ、翔太郎。検索をはじめよう』」

 すると二人がぼくたちの口調や行動の真似をはじめたのだ。

「「『さあ、おまえの罪を数えろ!』」」

 そこまで言い終わると二人はやり切った顔をしていた。

「ヒューヒュー! ええで! ええで! 二人とも! 決まってるぅー!」

 ぼくたちの後ろで亜樹ちゃんがあらゆる角度からバットショットで写真を撮って、二人を褒め(たた)えている。

「いや、だから、どうしたんだよ。二人ともそんな格好して……?」

「「私たち仮面ライダーが大好きな大親友だもん」」

「ねぇー『トッキー』」

「ねぇー『かすみん』」

「いつの間にそんなあだ名で呼び合う仲に……?」

 どうやらあの風流島の事件以降、二人の仲は一気に親密になったようだ。

「じつは……」

 せーの、と二人は背中に隠していたうちわをぼくたちに見せてくる。

「「じゃあーん!」」

 ときめがブラック、香澄さんがグリーンでデコレーションされた、それに書かれていたワードを二人で読みあげる。

「「『風都、ライダー、ガールズ』……?」」

「私たちが発足(ほっそく)したの」

「風都を守る仮面ライダーの非公式ファンクラブ。三人しかいないけど」

「「三人?」」

 その疑問に二人がぼくたちの後ろをうちわで指した。

 振り返れば、亜樹ちゃんが赤いジャケットを羽織っていた。おそらく家にあった物を持って来たのだろう。

「……『振り切るぜ』」

「……なるほどね」

「これからも陰ながら応援してるから頑張ってね!」

 香澄さんの言葉にぼくらは目を合わせる。

「おう!」「ああ!」

 二人にその期待に応えるように返事をした。 

「「やっぱり格好良いな〜」」

「翔太郎は」「フィリップ君は」

「「えっ?」」

「……へっ?」

 もう何度目だろうか、またもや二人の間に不穏な空気が流れる。

「「いやいやいやいや」」

「事件が解決したのは、フィリップ君がWになってくれたおかげよ」

「それだけじゃなくて、翔太郎が親身に支えたおかげだから」

 二人がまた顔を近づけた。

「かすみん……」「トッキー……」

「「……格好いいのは」」

「翔太郎だよ!」「フィリップ君よ!」

「って、またかよぉ⁉」

 またもや二人が口論をはじめてしまった。

 と言っても出会ったときのような険悪なものではなく、ぼくと翔太郎の「良いところの言い合い合戦」と化していたが。

「翔太郎はハーフボイルドだから格好いい」とか「フィリップ君は好奇心が旺盛(おうせい)で周りが見えなくなるところがいい」など。

 聞いている本人からすると、本当に褒めてるのかなんなのかわからない。

 

「……まあ、喧嘩するほど仲が良いってか?」

 その光景を見て、苦笑する翔太郎がそう言った。

 ぼくはその言葉に引っかかった。

「『喧嘩するほど仲が良い』……?」

「フィリップ?」

「喧嘩」と「仲が良い」という本来は矛盾した表現が合わさるとは、じつに……。

「じつに興味深い!」

「いっ⁉︎ 嘘だろぉ⁉︎」

 興味を持ったぼくは、すぐさま二人をじっくりと観察した。

 たしかに喧嘩しているはずなのに仲が良いように見える気がする。

 なるほど! これが「喧嘩するほど仲が良い」という現象なのか!

 

「翔太郎はどう思うの!」

「えっ……えっ、えっ?」

「翔太郎さんはどう思われますの!」

 二人が翔太郎に詰め寄る。

「「どっちが恰好いい⁉」」

「いや、その話題、俺に振んの⁉︎ お、おい、亜樹子ォ!」

「私、知らなーい……」

 亜樹ちゃんは我先にとガレージに避難する。

「「どっち!」」

「あぁーもぉー! 好きなほうが好きじゃ、ダメなのかよぉーっ‼︎」

 風都の風に乗って翔太郎の絶叫が(とどろ)いた。

 

 その後、翔太郎はときめのご機嫌取りに東風大(とうふうだい)通りに行くことを約束させられて、そこでまた事件に巻き込まれることになるのだが……。

 それを語るのは、別の機会に取っておくことにしよう。

 

フィリップ・記

 

 〜F・fの決断〜

《完》




おまけ

ハードボイルド妄想日記
〈もしもときめと香澄さんがWだったらぁぁぁ‼︎〉

「ウォーター!」

「ドーパント! 行くよ、香澄!」
「OKよ、ときめ!」
「サイクロン!」「ジョーカー!」
「「変身!」」
「《さあ、おまえの罪を数えろ!》」

「くっ、相手が強い! メモリチェンジしよう!」
《了解よ! えーっと……》
「ヒート!」「ルナ!」「メタル!」「トリガー!」
《どれがいちばん良いのかしら?》
「水だし……ヒートとメタルじゃない?」
《なるほど、じゃあ!》
「メタル!」「ヒート!」
「いや、香澄! 逆!」
《あっ、ごめんなさい》
「改めて……あれ? メモリがうまく入らない?」
《見ないで入れるのって、思ったより大変ね……》
「あれ、あれ?」
《あれー……?》

「悪戦苦闘しているようだね……」
「まだまだ二人にWは荷が重たかったみてぇだな……」
「やっぱりぼくらのWがいちばんバランスが良いんだろうね……」

「ジョーカー!」「ファング!」
《メモリが入らないー!》
「だから逆ぅー!」

おしまい
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