燃え尽きる灯火   作:研磨の琉璃

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第1話

 

 

## 1.

 

それは寒い冬の夜、山奥の古びた旅館でのことだった。吹きすさぶ風の音が窓を鳴らし、外は暗く、わずかな明かりも無い闇に包まれていた。旅館の中はひっそりとしていて、まるで時間が止まっているかのように感じられる。訪れる人もなく、長い年月が経過して埃がたまり、家具も古びていた。その日は特に冷え込みが厳しく、館内の空気がどこか湿っぽく重苦しいものに変わっていた。

 

若いカメラマンの高田は、廃墟の写真を撮るためにこの場所を訪れていた。彼は廃墟や古びた場所に人知れず残る「記憶」を写し取ることに強い興味を持っていた。だが、この旅館には他とは違う「何か」が漂っているように感じられるのだった。それがなんなのか、彼には言い表せないが、その場を去りたくないような引き寄せられる力があった。

 

彼が部屋の奥へ進むと、ひとつの部屋だけが不気味なほど整然としたままで残っていた。布団がきちんと敷かれ、まるでつい先ほどまで誰かが眠っていたかのようだ。部屋の中央には古びた灯籠が一つ置かれ、その中には煤けた蝋燭が今にも燃え尽きそうに揺れている。火が燃え続けていることに違和感を覚えた高田は、その灯籠をじっと見つめた。

 

## 2.

 

火はゆらりゆらりと不自然に揺れ、時折かすかに赤みを増している。彼がその火をじっと見つめていると、突然、頭の中に見知らぬ声が響き渡った。

 

「私を見つけたのは、あなたか?」

 

その声は冷たく、重々しい響きを持っていた。高田は驚き、辺りを見回したが、誰もいない。館内には彼一人しかいないはずだ。だが、確かに聞こえたその声は、耳元で囁くようにリアルだった。

 

恐怖に凍りつく心を落ち着けようと深呼吸を繰り返し、彼は再び灯籠に目をやった。すると、火の中に人影が浮かび上がり始めた。やがて、ぼんやりと女性の顔が現れ、彼をじっと見つめていることに気づいた。その目は悲しみと怒りに満ちているが、同時に何かを求めるような眼差しをしている。

 

「あなたは……誰なんだ?」

 

高田は思わず声に出して問いかけた。すると、その女性の顔はさらに不気味に微笑み、再び彼に囁いた。

 

「ここに閉じ込められたの。私の命を燃やし尽くすまで、決して離れることができないのよ。」

 

## 3.

 

その言葉にぞっとしながらも、高田はカメラを構えてシャッターを切った。しかし、撮影した写真には何も映っていなかった。何度撮影しても、灯籠の火も女性の姿も、そこには何も残っていない。ただ、彼の目の前で実際に燃え続ける火だけが静かに揺れている。

 

「助けてくれるの?」女性の声が、再び彼の耳に響く。

 

「どうすれば……君を救えるんだ?」

 

高田は自分でも信じられない言葉を口にしていた。まるで彼がここに来たのは、彼女を救うためだったかのような錯覚に囚われている。

 

「灯籠の火が消えるとき、私は永遠に解放されるの。でも、それはあなたの命と引き換えなの。」

 

彼女の言葉に、高田の体が震えた。だが、引き返すことはできない気がした。彼は不思議な衝動に駆られ、灯籠に近づき、そっと手を伸ばした。彼の手が灯籠に触れると、突然火が大きく燃え上がり、彼の体を包み込んだ。

 

## 4.

 

熱が彼の肌を焼きつけるように感じられるが、奇妙なことに痛みはなかった。炎に包まれながらも、彼は確かに自分が生きていると感じた。そして、その炎の中で彼は女性と向き合うことになった。

 

彼女の顔は、今や恐ろしいほどに美しく輝いていた。炎の中で彼女は再び微笑み、静かに彼に近づいた。

 

「ありがとう……これで、ようやく私も自由になれるわ。」

 

その瞬間、火が一層強く輝き、彼の視界が真っ白になった。彼の意識が薄れ、やがて深い闇の中へと消えていった。

 

---

 

## 5.

 

数日後、地元の警察が山奥の古い旅館を捜索した際、彼の焼け焦げたカメラだけが見つかった。しかし、彼の姿はどこにも見当たらなかったという。そのカメラには一枚だけ写真が残っており、それは炎の中で微笑む一人の女性の姿だった。彼女の顔は奇妙なほど美しく、悲しげであり、まるで彼に感謝の意を伝えているかのように見えた。

 

それ以来、その旅館に訪れた人々は、不意に揺れる灯籠の火の中で何かの「気配」を感じるようになったと言われている。それが彼の魂なのか、女性の魂なのか、それとも全く別の存在なのかは誰にも分からない。ただ一つ言えることは、あの灯籠の火は消えることなく、今もなお静かに燃え続けているということだった。

 

 

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