誕生日。
養子に取ってから初めての日が来た。私は数日前からスーパーや知り合いの農場を通じてフルーツをかきあつめていた。
当日の朝は特に何も言わず、いつも通りの会話を繰り返した。
アリスはいつも通りのハイテンション。今日がその日だということは知っているだろうが、私には押し付けないつもりだろうか。少し心が痛むな。
「純粋な子だからね。ちゃんと褒めてあげないと拗ねるかも」
「先生〜。私たちがいるのに独り言なんて寂しいことしないでください〜」
「うわっ、また勝手に着いた」
「うわとは何ですかうわとは! 怒りますよ!?」
なんとも朝から騒がしい。ただ、最近はその騒がしさも少し嬉しい。
1年。1年だ。卒業から1年。
アリスはほとんど有給も取らない。家にはほとんど私のみだ。テレビと会話することも多い中、やはり彼女らの存在がどれほどなのか計り知れない。
「冗談だよ。アロナ、おはよ」
「……はいっ、アロナちゃんですよ〜」
「プラナは?」
「……おはようございます……」
プラナ、寝起きだな。
彼女らはまるで第二第三の娘だ。
起きなければ無理やり電源を着けるようにもしている。
「今日はアリスの誕生日なんだ」
「! もうそんな日ですか!」
「そうだね。時間が過ぎるのは早いよ」
調べていたケーキやローストビーフ、色んなレシピの紙媒体を机に広げる。
時間がかかるものから手をつけようか。
「私たちだってレシピぐらい言えますよ?」
「たまには頭を使わないと」
「まあ、そういうならいいんですけど」
────
「ただいまです〜!」
「おかえり〜」
1日を終えても元気な声。きっと色んな人から祝福されたのだろう。
廊下をトコトコ歩いて来る。リビングへのドアを開けた時
パーン! パパン!!
「わっ!」
「誕生日おめでとう。アリス」
クラッカー数発しか1人では鳴らせなかった。
もうちょっと人を呼んでも良かったかもしれない。
爆音で数秒固まった後だ。アリスは明るい表情から急に泣き始めてしまった。
わけも分からず私は謝ってしまう。大きい音が苦手だったのだろうか。
「違います……! 私、誕生日忘れられだとおもっでぇ〜……」
「あ、朝。ご、ごめんよぉ。サプライズの方が嬉しいかと……」
「い、いや、違うんです〜! うれじいんでずー!!」
出だし不安すぎる誕生日会になってしまったが、アリスは私の作った料理を心配するほどよく食べてくれた。
時々ポロリと涙を流して、その度私はオドオドしていたが、アリスはそれでも笑ってくれた。ケーキを出した時の笑顔はまるで天使かのように可愛かったよ。
────
「せ、先生。今日は一緒に寝ても良いですか?」
「!?!?」
「いやその、1回だけ! 一緒の布団で寝たいんです」
アリスは私を親としてみてくれている。だからこそこの発言だ。
私は、まだ生徒と子の境がわからない。
その日は初めて彼アリスと同じ布団で寝た。彼女は無意識か体を寄せていたが、私は手だけ繋いで寝た。ベットが狭かった。
親と子が同じ布団で寝るのはあまりに成長しすぎているかもしれない。
でも、私は嬉しかった。親子を感じれたからだ。布団が暖かった。ベットが狭かった。独りじゃなかった。
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「なあアリス〜!」
「どうしたんですかー!?」
「ちょっと遠くないか〜!?」
今日は近くの公園に来ている。休日だからか子供も多い。
にしてもだ。キャッチボールにしては声が届くか届かないか、顔が分かるかわからないかギリギリの遠さである。
アリスはヒョイとボールを投げるが、一般人には辛いぜ。
なんかもっとこう……会話のキャッチボールも楽しむのが親子でやるやつじゃないの?
「最近はどうー!」
「うまくいってますよ〜! モモイが大事なパソコン壊したぐらいです〜!」
「えやば、あいてっっ!!」
「! 大丈夫ですか〜!?」
モモイのやらかしに素で反応してたら、額にボールが直撃した。
いってぇ……いってえよぉ……
「大丈夫ですか? もろにくらってましたけど……」
「……もうちょっと近くでやろうか」
────
公園の外周には丁度散り始めた桜がある。昼は花見にした。
「アリスは、進学とかしなくて良かったのか?」
「進学ですか?」
「そそ、大学とか、専門学校とか」
「うーん……。あんまり後悔はしてないです!」
「そっか。ならいいんだ」
一応親として、子の将来には気をかけたいものだ。後悔するような選択を後押ししたなんて思いたくない。
ただ、アリスが後悔してないと聞いて良かった。花見に集中出来る。
「先生こそ、良かったんですか?」
「何が?」
「アリスの代で、先生をやめたじゃないですか。後悔とかないんですか?」
「うーん」
「難しいな」
「でも、先生は楽しそうですよ?」
「そっか」
「じゃ、いいかな。今んとこ」
アリスは時々本質を突いたことを言ってくる。
アリスの成長を見守るはずが、私が成長させられているのかもしれない。
桜の散り際を一通り嗜み、子供の声で腹だけじゃなく心まで満たす。
アリスもどこか幸せそうだ。大人になったな。
日が登りきった後、私たちはそこそこに公園を去った。
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時間が過ぎるのは早い。あっという間に成人式だ。
成人式と一括りで言っても、キヴォトスの成人式は私らの成人式とは少し勝手が違う。
ここでは、キヴォトス中の同年度に卒業した生徒を集め、それを後輩先輩関係なく祝いに来ても良いことになっている。ホールはまるで野球場のような大会場だ。一人一人顔を見れないほど小さい。ていうか老眼で見えない。
「で、何故か私のありがたい話をしなきゃいけないらしいね」
担当した教員が祝いの言葉をスピーチするということになっている。なんという辱めだろうか。30を過ぎると若者のきらびやかな視線が痛い。そんな大層なことも言えない。
「はぁ……、まあいいよ。きっと皆この後色々したいことがあるだろうから、ここでは簡潔に済ませて頂きます」
「私からは1つ、後悔するな。とだけ成人した皆様に告げておきたいと思います」
「今を幸せに、自分をいちばん大切に。そうやって生きた結果が私です。
皆様から見て私はどう映るか分かりません。が、私は貴方達と会えて、関われて、卒業させてあげられて、とても幸せです」
「皆、ありがとう。こうやって君たちの晴れ姿を見れて、私はとても幸せです。本当に、ありがとう。それでは、これで終わらせて頂きます」
拍手の音が元気に溢れている。耳が痛いなあ。こんな短いスピーチに
──ー
その後も何事もなくプログラムは進んだ。
ちなみに私のスピーチはプログラムには書かれていない。あったらもっといいことを言っている。謀ったな主催。
「キキキッ! 先生、去年はプログラムに書かれていたのを忘れたのか? あれだけ大層なことを言っときながら今年はないとでも思ったのか?」
「やめてくれマコト。歳がかさむと忘れたいこともある。去年のスピーチも壇上にたって思い出したよ」
「先生、いいスピーチでしたよ」
「先生〜!! 先生だ〜!!!」
「イブキとイロハも……元気だった? 聞かなくても良さそうかな?」
ニッコニコのイブキとイロハもあとから追って来た。
サッカー場ほどある談笑広場のような場所で見つけてくるのはすごいな。
「キキッ! そうは言えど、今年もいいこと言うじゃないか。来年はちゃんと用意してくるんだぞ」
「そうさせてもらうよ」
「さて……」
パンデモニウム御一行の後ろにもどうでもない列ができている。
そんなに私と話さなきゃいけな……いや、そりゃ彼女らの卒業から2年も経ったし、積もる話もあるだろう。
「……今日は頑張るかぁ!!」
「? 何を頑張るんです?」
「人と話すことかな!」
「ふふっ。話は変わりますけど、私の振袖、どうですか?」
「みんな可愛いよ! ……30過ぎたおっさんが可愛いとか言うべきじゃない?」
「いや、良いんですよ。その言葉のために着てきましたから♩」
その後はゲヘナ、ミレニアム、トリニティ、アビドス、こっそりアリウスの子達とも話したりした。みんながみんな笑ってくれていた。
私はそれだけでおなかいっぱいです(*^^*)
ただ生徒たちは違うらしい。
「ん、先生は私たちと二次会に行くべき」
「じゃあ先生。私たちはアソコで待ってますから。三次会で会いましょう?」
「ハナコ! えっ、エッチなのはダメっ!」
「うへぇ」
ということだ。各学園による成人式後の振り回され具合は、例年稀に見る忙しさだった。去年は酷すぎて記憶から消していた。
カラオケからバー、ボウリングからまたカラオケ、いくらなんでも30超えたおっさんにはきついものがある。しかし去年に比べたら楽だった。
酔ったミカに比べたらマシだ。無理くりホテルに連れ込まれそうになったし、それを止めようとミネ団長が……ああ
結局6時会まで会は長引き、日が登り始めたところでアリスに迎えに来てもらった。6時会がユウカとノア達で良かった。疲れた私を労わって帰らせてくれたよ。
「うえっ……ごめんねアリスぅ……」
「先生は本当にもうちょっと体を労わってください!」
「ううっ……」
「でも、先生は頑張り者です。私はそんな先生が好きですよ」
「……うぷっ、あ、ありがとう」
「背中で吐かないでくださいね!?」
ちなみに先生はアリスら1年生を卒業させた時点で29歳です。