先生「アリスを養子に取った」   作:ゆんゆんマル

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遅くなりました


時はすぎ

 

 

 

「先生! 凄くおめでたいメールが来てますよ!! 読んでください!!」

 

 

 

 座布団を挟んだ椅子に座りつつ、会話を嗜む。最近はこうすることでしか時間の使い方を知らない。世間的な30代は階段を上る努力をしているが、私は下る一方だ。

 

 

「アロナ、読み上げて」

「いいんですかぁ? なら読みますけど〜」

 

 

 

 ’’拝啓 新春の候 益々ご健勝のことをお慶び申し上げます’’この度私 早瀬ユウカ ○○○○ との婚約が整いました。つきましては、私らの粗餐に貴重なお時間をいただければ嬉しく存じ上げます。

 以下の日程で行いますので、良ければご返信ください

 ○○○○○○ ○○○○○

 敬具

 ’’早瀬ユウカ’’

 

 

「との事です!!」

 

 

 

 アリスの卒業から5年、ユウカの卒業からは6年がたった。

 ユウカとは2、3年は会っていない。最後にあったのは彼女の資格合格を祝う小さな祝賀会を開いた以来だ。

 

 それでもユウカは定期的にメールをくれる。可愛かったお叱り口調のユウカの口調は年々固くなるばかりで「私が何かしたか」と指をふるわせて返信するが、

 

「大人の大変さを知りました」

 

 

 だって。それだけしか言われないが、俺に対して尊敬の念だとか、そんなもんを抱いてるのかと心配する。俺は正直尊敬されるほどの人間でもないからな。

 

 また話がズレた。よく頭がこんがらがるのも許してくれ。

 

 

 ユウカは卒業1年目で簿記2級。2年後には公認会計士試験にも合格していた。元々会計担当なだけはある。その時、私はユウカと二人でお酒を飲んだのを覚えている。

 

 

 

 ────

 

 

 

「せ、先生。こんないい店、いいんですか?」

「その分今日は合格の喜びを分けて欲しいな」

 

 彼女は初めてのお酒だったようで、軽いみかん酒から勧める。

 

「先ずは、合格おめでとう、ユウカ」カコンッ

「ありがとうこざいます」カコンッ

 

 

 少しお酒が入り2人とも口が回る。最初は店の空気に圧迫されたユウカも、お酒が入ると生徒だった時と同じようにおしゃべりになってくれた。

 

 学園生活の思い出、卒業後の苦労、成功、人間関係の難しさ。

 社会人になったことの無い私が1丁前に話を聞いていた。

 

「あっ……、すいません。私だけ喋ってますね」

「いいんだ。今日はそういう話が聞きたかったんだ」

「……先生は、アリスと上手くやってますか?」

「ん? アリス? ああ、多分。最近料理頑張っててさ、ほら写真」「おぉ……」

 

「アリスのこと、その、ちゃんと子供として見れてますか?」

 

 

 

 ────

 

 

「……うぉぉぉ! なんかすごい元気が出てきた!! 若さが戻ってくるような!」

 

「おお! 久しぶりに先生がみなぎってます!」

「先生の興奮状態を確認、落ち着かせましょう」

 

「今日のご飯はがんばるぞぉ!」

「アロナプラナ、まだアリスにはユウカのことは話さないでね!」

「「はいッ」」

 

 

 歯切れのいい返事、2人も嬉しいんだろう。

 

 結婚式、ああ、いい響きだ。

 自分の生徒が真っ当に幸せにしていることが、私の幸せにも繋がるなんて。先生という職はなんて素晴らしい。誇らしくて堪らない! 

 不思議とキャベツを切る手が心地よいリズムを成している。

 感覚が研ぎ澄まされている。

 

 

「結婚式とは別にユウカにおめでとうと送りたいな!」

「勿論結婚式には行くんですよね?」

「当たり前だろ! ふたつ返事で返信するさ!」

 

 

 

 

 

 一瞬、キャベツの千切り中に頭の中にふと浮かんだ。いや、振り返った。

 

 卒業から6年がたった。その言葉。その思考。

 

 卒業から、6年だ。私が家でゴロゴロしている間に、外の世界はどうなっているのか。私は知らない。

 私は時間のすぎる速度にまたひとつ、寂しさを覚えた。

 

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

 

 

 

 時はすぎた。私は一瞬で40代の壁を超えた。

 つい先日のようにユウカの結婚式を思い出すが、それも何年も前だ。

 

 爪楊枝で歯間に詰まった肉を弾き出す。取れた快感ほどしか私の楽しみは無い。

 

 

 

「くぷっ!?……うぐっ……ゲプッ……っはぁ、……」

 

 毎回突然来るのだ。手で口を抑え、吐瀉物であれと願うものを見る。

 手には真っ赤な液体だ。吐血、30代後半から顕著になって来た。

 手にあったはずのシワのに染み渡り、言い表せないグロテスクさが表れる。

 

 ようやっと自身の体について意識を向け病院に行き始めた。

 至って健康ではあるらしい。なわけあるかと言いたいところだが、心当たりがある。診断について何も言い返すことは出来なかった。

 

 

 

 

 

 最近の外出は食材の買い出しと病院のみだ。

 ……なぜ、私がこうも外に出られないのか。

 

「先生」連邦生徒会お墨付きの役職には多大なる権限と、それに伴う責任が伴う。私は責任の消化期間にあるのだ。

 各学園の機密事項や連邦生徒会との関係、ゲマトリアなどとの接触は代償なしにはできないのだ。

 

 私はその情報の塊としての存在を恐れられて半幽閉されている、と思っている。

 事実、窓の外には10〜30分定期にドローンが飛び回り、私を確認するのだ。あの風切り音はこの部屋に閉じこめる一因だ。

 

 リンちゃんからは謝られた。そりゃあ、頭を地面に擦り付けて。生徒会長代理でも、その総意は変えられなかったと言われた。

 君は悪くないんだと言ってもそのままだった。悲しかった。ただ、悲しかった。

 

 

 

「……せん、せい?」

「……大丈夫、大丈夫だよ、アロナ」

 

 

 吐血の心当たりはある。幽閉の原因の半分でもありそうだ。

 

「大人のカードの代償は、重い」




外に出るとアリスに迷惑をかけるかもしれない。その一心で先生は外に出れなくなりました。
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