先生「アリスを養子に取った」   作:ゆんゆんマル

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次回蛇足なるものを書いて終了です


締

 

「どうか、アリスさんを僕に下さい! ……絶対に幸せにします」

「そうか……」

「……」

「だめ、でしょうか……」

「いや、そんなことは言わないでくれ。少し、ほんの少し時間をくれ」

 

 

 

 張り詰めた空気が漂う。でもきっと、俺が漂わせているんだろう。

 卓越しに座る二人の目は真剣だ。迷いの一つもない。

 俺は悩む、というより複雑だった。

 

 お父さん面をしてさあ幸せになれなんて、自分ににあってないこと。重々承知だった。

 お父さんってなんだ。俺はアリスに何ができたんだ。

 みっともなく悩み続けている。そんな俺が嫌いで、悲しかった。

 

 数分の静寂を破ったのはアリスだった。

 

 

「お父さん」

 

 不安げだった。このまま送り出してくれないのか、認められないんじゃないか。

 多分もっと複雑だ。俺は勘が鈍いからね……。

 でも、俺はそういうふうに感じた。

 それはそうだ。私の介護を永遠しなきゃいけないなんて、俺は嫌だね。

 お父さん、俺はその言葉が苦手だ。俺は覚悟した。

 

 

 私は立った。弱って動かすことのできないと言われた足を奮い立たせて、机に手をつきふらふらと。

 

 二人とも立ち上がる。しかしそれは焦りの立ちだ。私の体調を彼も知っていたのだろう。

 急に立ち上がる老人を支えねばという義務感だろう? 

 

 

 俺は負けない。先生だった頃を思い出す。

 机についた腕をなんとか曲げ、頭を伏せる。全身が震えている。

 私は負けない。

 

 

 

「どうか、娘を、……お願いします……」

 

 力の入らない声帯を震わせて言葉を吐き出す。エデン条約の時以来の苦しさだ。

 私の膝は限界を迎える。すかさず婿さんは支えに来てくれる。

 

 皆が皆、私からのもらい泣きをしていた。

 

 アリス。お父さんと言ってくれて、ありがとう。

 

 

 

 

 ──────────ー

 

 

 

 

 アリスの結婚式は素晴らしかった。

 白い天使ような羽衣を纏った娘を見ることは、何よりの至福だった。一度泣いた。

 私の席にはモモイやミドリ、ユズのゲーム部で披露宴を見届けた。

 

 

「いやぁ、アリスが二番目になるとは……」

「てっきりユズが一番最後になると思ってたのにね」

「こら、未婚者。幸せを妬まないの」

「なぬ!? 先生も未婚でしょうに!」

「私はこれでいいの!」

「ちょ、ちょちょ二人とも〜」

「ユズは静かにしてて!」

「お姉ちゃんもね」

 

 

 

 

 

 式は滞りなく進む。意識して一言一句聞き逃さないようにする。時間が過ぎるのはあっという間だからね。

 

 そしてプログラムはスピーチへと進んだ。

 友人スピーチで私の席は空になる。車椅子がポツンと机に向き合っていて恥ずかしかったかもしれない。

 

 アリスは笑い泣きしているかのような笑顔だった。その顔を見て私の緊張は解けた。

 次は私の番だった。

 話した内容は恥ずかしいから書かない。当たり障りのない一般的な祝辞を送った。

 

 

 

 それでもアリスは若干潤んでいた。もらい泣きで2度目。

 

 

 最後に新郎新婦からのメッセージだった。

 私はどうせ泣くだろうと思っていた。こんなに涙腺が弱いのに、泣かないわけがないだろうと。

 それでもなんとかみっともない姿は見せないように努力した。

 

 あんなに一言一句逃さないとは言ったものの、本命のメッセージは大部分聞き逃してしまった。

 

 

 

 

「先生の作るご飯は、最初はすごく不味かったです!」

 

 正直に言ってくれるな。先生時代はカップラーメン一筋だったんだ。

 

「でも先生が頑張ってくれたおかげで、私の好物は肉じゃがになってました。ほろほろで大好きです……」

 

 ……ありがとう。そんなに好きだったんだな。気づかなかった。

 

「……せ、先生はいろんな人から慕われてて」

「養子にして下さいっていうお願いは……す、すごくぎんちょうしました……」

 

 ……泣かないでくれ……

 

「お、おどうざんがいるってこどが、すごく心強かったです……」

 

「だから、ごれからは悲しい顔しないで、じ、幸せに生きてくだざい……!」

 

 

 

 3度目の泣き。体内の水分は残ってないかったのに、どこからともなく溢れ出てくる。

 

 いつのまにかゲーム部時代の話し方が抜けてさ、自分の気持ちに素直になれて……

 大人に……なったんだな。そう思った。

 すまない、泣きすぎてそのあとは覚えてないんだ。

 

 

 

 披露宴は拍手喝采に包まれ、晴れた天気に似合うものとなった。

 

 

 

 

 

 

 ──────────────

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇアロナ」

「……はい」

「俺、これで良かったのかな」

「先生は、充分頑張りました。誰よりも、立派に」

「そっか」

 

 アリスを見送った。玄関のドアからはもう誰も来ないことをまだ実感していない。

 廊下は一層暗くなった。一人の家とはここまで静かなものだっただろうか。

 いや、一(・)人(・)に(・)な(・)っ(・)た(・)家だ。こんなものだろう。

 

 

「また、静かになりましたね」

「アリスちゃんは、幸せそうでしたね」

 

「ああ」

 

 たった10数年かもしれない。時間が過ぎるのが早いのも知っていた。

 だが、今になって思い返せばこの10年。非常に長くて濃密なものだった。

 

 

「ねぇアロナ」

「はい」

「俺の寿命は、あとどれくらい?」

「……ッ」

「アロナは分かるかなと」

「ねぇプラナ? 聞こえてる?」

「……聞こえてはいます……。その質問には答えられません……」

 

 

 血反吐を吐いて貧血で倒れて起きる。その繰り返し。地面には軽くシミができてしまっている。

 もう短いことぐらいは知っていた。

 

 

 

 

「そっか」

「流石に酷だったかな」

「実はもう遺書は書いてあるんだ」

 

 

 

「「…………!?!?」」

 

「そんな驚かないでよ。分かるでしょ?」

「あ、アロナちゃんは! まだ、先生と……!」

 

「アロナ」

「……はい」

「プラナも」

「……はい」

 

「遺書にもあるけど、残ったお金、意外とあるからさ」

「アリス達に半分、あとはキヴォトスの孤児施設に送ってあげて」

 

「「……わかりました」

 

「それじゃあ、時間も遅いし、今日は寝るよ」

 

 

 ゆっくりと車椅子を回し、玄関を去る。

 自室に入り、この日記を書く。今日で最後にしよう。

 車椅子から離れる時、アリスの補助がないことがここまで不安だとは知らなかった。

 充電をさして、1日を終える。

 カーテンは開けたまんまだ。

 

 

 

「月が綺麗だ」

 

 

 

 

 




蛇足は遅くなるかもです。
ここまで読んでいただきありがとうございました
良ければ短編版のアリスを養子にとった。もキヴォトス生活記の方からご覧下さい
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