蛇足ですので、流し読み程度にご覧下さい。
「……」
今まで読んでいたページとは別に、何も無い日の私との会話の記録もある。
先生は私との生活が始まった日から日記をつけていた。
私の好きなアイスを見つけた時の話。初めて一緒にお酒を飲んだ話。
大型犬と戯れてる話。1回だけ、2人で乗った観覧車の話。
ポロッと何かが落ちる、公園で撮った2人の写真だ。
よく笑っている。
写真を戻し、日記を閉じる。
「せん、……いや、お父さんは、こんな気持ちだったんだね」
遺品の整理中だった。この日記を見つけたのは。
私と彼がお父さんに一緒に見送られてから二週間後、先生はベットで動かなくなった状態を見つけられた。
家の中は誰かに漁られた痕跡もなくて、温もりすら感じられた。
すごく不思議なのは、……死んでしまったお父さんの体が一切欠損損傷していなかったこと……と言うと違うかな。腐ってなかったの。
死んだ瞬間から人間は腐り始めるんだって。2週間もすれば、どういう場所であろうと体の一部が壊れ始めると思ってた。
でも、それは違った。
先生の体はまるで今も寝ているだけのように、すやすやとしてた。誰かに守られてるかのように。
私は、やっぱり後悔してる。
お父さんには後悔してないって、花見の時に言ったらしいけど。
もっとお父さんと一緒にいれば良かったって、夜ご飯、一緒に食べてあげてればって。
今でも思う。
私、機械なの。知ってる。
この涙だって、目に付いたゴミを取り除くだけの機能のはずなの。
でも、何故か感情の起伏と一緒に出る。
日記がさらにしわくちゃになっちゃう。それだけは、避けるように。
胸に手帳を抱きしめて、湿らないように。
プログラムなのかな。この気持ち。
私は成長したって書いてあったよ。でも、これが成長して感じることなら、こんなに辛いことないよ……
──────────
先生が死んだ。享年44歳。あまりにも若すぎる死だった。
キヴォトス中のテレビ番組が報道し、死因や環境について調査が行われた。
隠居していた先生の生活はどんどんと明るみに出る。皆が幸せに生活していると思っていた先生は、常日頃から監視され外にすら出られないような圧をかけられていたと。
元生徒に激震が走った。
しかし、何もかもが辻褄が合う。「あの時のふらつきって……」「二次会を断るようになったのも……」「私なんか後先短い奴よりって……」
心残りだった発言や行動の裏には、先生の体調や環境の問題があるのを知った。私たちは苦悩にまみれた。後悔だった。
その環境を作った連邦生徒会には、これまでとは比にならないバッシングが積まれた。謝罪会見や動画を出しても鎮火するどころか勢いを増し、遂には連邦生徒会の解体が決まった。
葬儀はキヴォトス中の生徒が集まり、葬列には数万人が集まった。
元生徒代表らの言葉は必ず詰まり、崩れ落ちる。ありえないと気を失うものもいた。
ホールいっぱいに献花が敷き詰められている。今にも萎れそうだ。寂しい。まるで私たちの心を投影したかのようだった。
遺影の先生だけが、笑っていた。
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この手紙を見ることも出来ないのはわかってます。でも、書かせてください。これは娘であり、生徒であった天童アリスからのお願いです。
神様、どうか、先生を幸せにしてあげてください。私にはもうどうすることもできません。でも神様なら、先生を天国に送って綺麗な景色だったり、美味しい食べ物だったり、健康な体をあげることも出来るはずです。
悪くなっていく体調を私たちに隠して頑張る先生を、どうか、幸せにしてください。
生徒のことも、私のことも大切にしている私のおとうさんを、どうか、幸せにしてください。
私には、もう、願うことしかできません……。
どうか、お願いします……。
少し空いた窓の隙間から、小さな雀がこちらを見つめる。小さな鳴き声と共に私の注意を引く。泣き崩れる私が窓際を見れば、雀は飛び立っていった。月が綺麗な夜にお父さんが見に来てくれたのかもと、私は思って少し、はにかんだ。
最後までご愛読ありがとうございました。また出会う機会があれば、ご一読お願いします。