AST駐屯地は先日のグリムロックのレーザーファイヤーの攻撃で大きな被害を出していた。死傷者一五名、重傷者二〇三名、軽傷者四〇名、迫撃砲三機大破という天宮市に駐屯地が出来て始まって以来の被害だ。責任者の桐谷は事後処理の為、不在で今は防衛省に戻っており、燎子からしてみれば愚痴を言われずに済むので一向に構わない。しかし、ASTはグリムロックの力を目の当たりにした。
あの時、折紙がやられた時にホッとしていた自分が嫌になる。隊長として恥ずべき思惑だ。そしてその折紙はASTの病院のベッドの上で寝ており、受けた傷の治療に当たっていた。部隊がまともに成り立たない程の被害状態なASTは、補充要員として各地方から隊員を急遽招集していた。そんな中で怪我をした折紙の穴を埋めるかのようにDEM社から腕利きの出向社員が送られて来た。
見舞いに来た燎子はフルーツの盛り合わせを片手に横になる折紙にこの事を伝えた。
「DEMから出向社員?」
「そう、名前は確か……嵩宮真那って言ったかしらね。あなたよりも年下よ」
「……」
折紙はあまり興味が無さそうだ。
「確か精霊を殺した事があるらしいわ」
燎子がその一言を口にするだけで折紙の瞳に興味の色が宿る。精霊を殺す事が目的の折紙にすれば是非とも話を聞いてみたいのだ。
「詳しく聞きたい」
「あたしもまだ合ってないから分からないわ」
「そう」
「リンゴ剥いてあげよっか?」
「いい、自分でやる」
「じゃあ、あたしは行くね。今はゆっくり体を治しなさい。無理は禁物よ、折紙」
「善処する」
折紙の善処するは信用出来ない。燎子もそれは長い付き合いで分かっていた。ASTの病院の病室がパンクしたのは初めてだ。今回の大規模作戦でもグリムロックを仕留める事は出来なかった。燎子もどうすれば良いのか分からない、精霊のようにロストする訳でもなく制限無く暴れる怪物を倒す術がどこにあるのか。病院を後にしてASTの隊舎へ帰る途中、駐屯地の中を見慣れない顔の少女がうろうろとしていた。
泣き黒子が特徴的で顔は凛然としているものの幼さが抜け切れていない容貌だ。背の低さがよりあどけなさを際立てていた。
「ちょっと君、ここは陸上自衛隊基地よ一般人は立ち入り禁止よ」
ASTはあくまで極秘組織、形式的に陸上自衛隊駐屯地となっている。
「あ、すいません。でも私は一般人じゃあいやがりませんよ」
変わった喋り方をする子だ。燎子の第一印象だった。
「申し遅れました。嵩宮真那三尉でいやがります! DEMインダストリーから配属されやがりました!」
「ああ! あなたが嵩宮真那さんね。はいはい、OK。隊舎に案内するわ」
少女が出向社員の嵩宮真那である知った燎子は真那を連れて歩き出す。
「それにしても酷い有り様でいやがりますね」
「まあ、ちょっとね」
「グリムロックはやはり手強いですか?」
燎子は足を止めて勢い良く振り返った。グリムロックの存在など防衛省と天宮市駐屯地しか知らないと燎子は思っていた。
「ハーミットの件の映像はDEM社にも届いてやがります。確かに手強そうですね私もあの迫力にはビビりやがりました」
屈託の無い笑顔で真那は頭をかいて言った。情報提供は重要だ。今、何と戦い何故苦戦を強いられているかを知る必要があるからだ。真那もグリムロックの桁外れの力は映像で見ただろう。
「でもトランスフォーマーにも色々いやがるんですね」
「トランスフォーマー?」
燎子は聞き慣れない単語に首を傾げた。
「知らないんですか?」
「初耳よ」
「もしかしてグリムロックとは喋った事ないんでやがりますか?」
「私は無いわよ。それに言葉を理解する程の知性があるかどうか。会話したのはうちの桐谷中将だけよ」
「会話して何を話したんでやがりますか?」
「名前はグリムロック、それとダイノボットのリーダーこれだけよ」
「ふむふむ」
「それより、トランスフォーマーって?」
「グリムロックの種族の名前でやがりますよ」
「どうして、それを?」
「すいません、これ以上は言えません」
真那にも出向社員という立場がある。気になるが無理に問いただす訳にはいかない。
「ところで、グリムロックと戦ってみてどうでした?」
「どうって……ビルは持ち上げるわ、口からメチャクチャなモン吐き出すわ、おまけにカチカチ過ぎてダメージがロクに与えられないし」
真那は興味深そうに聞いている。映像ではグリムロックの戦いを見たが、実際に戦った事のある人間の話も十分に参考になる。
「こっちからも聞いていいかしら?」
「はいです!」
「精霊を殺した事があるって本当?」
「本当です」
燎子の問いに真那は即答した。
「詳しく聞かせてもらっても良い?」
「構いません。ま、まずは隊舎に荷物を置かせて下さい」
「ええ、どうぞどうぞ」
燎子に隊舎のシステムを聞かされて荷物を部屋の中に置いて次に駐屯地内を案内してもらった。
「日下部一尉、そういえば他の隊員はどこにおられるのでいやがりますか?」
「今は殆ど入院中よ。元気な奴は自宅で待機してるわ」
「なるほど」
「基地がこんなんじゃあ歓迎会も開けなくて悪いわね」
「お気になさらず」
本来ならば話をするなら隊長室でしたいのだが、爆発でヘリのプロペラが飛んで来て隊長室の中が悲惨な有り様になったので休憩室で話す事にした。自販機で缶コーヒーを二本買って燎子は一本を真那に手渡した。
「ありがとうございます」
「それで……あなたが倒した精霊ってのは?」
「はい、私が倒した精霊“ナイトメア”コイツは数々の精霊の中でも群を抜いて危険でいやがります。精霊は空間震を巻き起こし、意思と関係なく人を巻き込みますが、ナイトメアは自分の意思で一万人以上の人間を殺して来た最悪の精霊です」
「……よく倒せたわね」
「厳密には倒しきってはいやしません。ナイトメアは死なねーんです。殺しても殺してもまた生き返る。私はまた殺す。このやり取りを何年もやっています」
「ナイトメア……か」
「日下部一尉、ナイトメアが出現したら他に手を出すなと命じて下さい。ナイトメアは私の獲物です」
折紙の突っ走りを良く見ている燎子にこの願いは聞き入れる訳にはいかない。それに燎子はまだ納得していない事が一つある。真那の実力だ。いくつ実績を並べられるよりもその力を目の当たりにした方が早い。
「嵩宮三尉、一つ私と勝負しない?」
「私の腕を見たいんでやがりますか?」
「ええ」
「良いですよ、ただ私は手加減のやり方知りませんからね」
精霊を封印した後の琴里は事後処理で忙しくて二、三日家を空ける事があった。四糸乃の一件からグリムロックがラタトスク側に対して敵意を示さなくなった。その所為でトランスフォーマーの事情を詳しく聞く事が出来た。
――惑星セイバートロンでオートボットとディセプティコンの戦争が勃発、戦火の拡大により惑星に移住が不可能となり、両軍はその星を後にした。そしてオートボットの破壊と戦闘に特化したダイノボット部隊そのリーダー、グリムロックである。
こんな報告書を書いていると琴里はSF小説でも書いているような気分になって来る。キーを叩いて報告書をなんとか完成させると琴里は大きく背伸びをしてパソコンを切った。部屋から出てリビングに降りて来ると士道が何やら紙を十香に渡していた。
「いいか、十香。肉は一キロ、肉屋さんに行ったらそう言うんだぞ」
「うむ!」
「よし、じゃあ一人でおつかい出来るな?」
「心配するな! 私に任せろ!」
「良いぞ、じゃあ行っておいで」
「行って来まーす!」
士道が十香を見送ると後ろに琴里にいた事に気付く。
「おお、琴里いたのか」
「ええいたわよ」
チュッパチャプスの包み紙を剥がして琴里は口に飴を放り込む。
「十香一人におつかい?」
「ああ、ちゃんと見張りをつけているぞ」
「誰?」
「グリムロックだ」
「見張りの見張りが必要ね。士道、二人の面倒を見に行きなさい」
「……やっぱ心配だよな?」
「凄く不安よ凄く!」
心配はエプロンを外すと琴里に渡してすぐに十香の後を追いかけた。十香は見た目は高校生だが、この世界の知識に関してはかなりお粗末な有り様だ。幼稚園児におつかいを行かせるような物だ。士道は十香の後を追いかけるとようやく背中が見え始めた。ただし、見えたのは十香の背中だけではない。グリムロックと一緒に歩く十香の姿が確認出来た。まずい事をしたな、と士道は顔に手を当ててグリムロックを見張りに行かせた事を後悔している。見張り役の筈のグリムロックが仲良く十香と買い物をしているのだ。この際、グリムロックも一緒におつかいに行くのは良い。士道が不安なのはちゃんと買い物が出来るかどうかだ。
不安を隠しきれずに陰から二人の姿を観察していると念のため持っていたインカムがけたたましく鳴った。
「はい?」
『こンのアホ士道ォォー!』
通信開始一発目にこの罵声だ。
『あんたバカでしょ!? やっぱりグリムロックに見張りが出来る訳ないじゃない! 使えても番犬よ!』
「ワリィ、これは完全に俺のミスだ」
『人がいるのにグリムロックを歩き回らせたらダメでしょ! もういいわ、士道と十香がデートした時みたいにラタトスク商店街を作るわ。それなら目撃者も減らせるわ』
「あ、ああ。助かる、悪いな」
『あんたは十香達を上手くラタトスク商店街に誘導しなさい』
「上手くってどうすんだよ」
『それはあんたが考えなさい』
かなり無茶な注文だ。士道は先にラタトスク商店街に先回りして変装道具を借りて付け髭とカツラを装着して服は商店街のはっぴに着替えた。見た目の完成度はかなり低いが騙せるだろうと士道は踏んでいた。
「グリムロックと会うとは奇遇だな」
「俺、グリムロック。買い物してみたい」
「何だ、グリムロックもおつかい初めてなのだな!?」
「俺、グリムロック。おつかいって何だ?」
「おつかいというのは、ここに書いてある紙の物を買って来るのだ」
「簡単だな」
「簡単だとも!」
「ちょっと、お二人さん。お買い物ならこの先の商店街を――」
「何故、ここにいるのだシドー?」
「コイツ、士道の匂いする」
変装も虚しく一瞬でバレてしまった。十香に付け髭とカツラを剥ぎ取られ、素顔まで見られて言い逃れさえ出来ない。
「……」
「シド~……まさか私達がおつかい出来ないと思って付けて来たな?」
言い訳が出来ない。
「うん、ちょっと心配だった。つーかグリムロック! 何でお前も一緒におつかいに行ってるんだよ!」
「俺、グリムロック! 士道が十香見てこいって言った!」
「言ったけど意味が違うんだよ!」
「もう! シドー、私はお前が思う程バカじゃないぞ! 全くぷんぷんだ、なあグリムロック?」
「そうだ、ぷんぷんだ、士道!」
頭のレベルが一緒なのかこの二人は馬が合うようだ。
「わかった、わかったよ。信用して付けないけどこの通りの先のラタトスク商店街で買い物をしろ。グリムロック、お前が目立ち過ぎる」
士道は十香達が向いている方向のずっと先を指差した。グリムロックと十香は顔を見合わせてから士道の頼みを承諾して歩き出した。二人の姿が小さくなって行くとインカムから琴里の声が聞こえて来た。
『結果オーライ』
「だな」
『士道はフラクシナスに戻って、こっち監視するから。変な事になったら直ぐに出動よ』
「変な事ってASTとかの襲撃とかか?」
『一概には言えないわ。十香を含めて四糸乃もそうだけど封印後の精霊は精神的に不安定になると封印した力が逆流するの。覚えておきなさい』
「さらっと超重要な事言ったなお前」
『他にも話したいし、回収するわよ』
通信を切って、もうすっかりお馴染みとなった転送装置の光に包まれて瞬時に士道はフラクシナスに戻された。艦橋にはいつもの見慣れた顔ぶれがある。
「それで琴里、話したい事って?」
「私から説明しよう」と、令音。
「令音さん……」
「君は確か定期的な頭痛に悩まされていたね?」
「はい」
「そして君は頭痛を空間震の予知だと思っていたね?」
「はい」
令音がスクリーンに出したのは士道の脳波の動きを観測した物だ。
「シンが五人に触れた事件は覚えているだろう」
「忘れたくても忘れませんよ」
「あの日から君の頭の様子を観察していた。見たまえ」
令音が脳波の波長を士道に見せ、しばらく平静を保って水平だった波長に波が大きくなり始めた。そして、頭痛が発生した時、波長は激しく上下して乱れている。
「シン、頭痛から五分後に空間震は発生している。前兆の際にシンは頭痛以外にも髪がやや逆立つ、瞳孔が開くという症状が出ている。さて、本題はこれからだよ」
士道は首を傾げた。頭痛の件が本題だとばかり思っていたのだ。
「シンが頭痛を訴えた時、微弱だが君からエネルゴンの反応があるんだ」
面食らったのも無理はない。
「え、エネルゴン?」
「説明していなかったかい? エネルゴンはグリムロック等トランスフォーマーの命の源だよ」
令音から次から次へと飛んで来る単語を頭の中で処理しながら一つ一つを解釈して行った。
「理解出来たかい?」
「一応は」
「理解出来たのなら、さっき私が言った意味が分かるだろう?」
「俺は……トランスフォーマー何ですか……?」
「いや……違う。シンの体に流れているのは温かい血だ。エネルゴンではない。とにかく、現段階で解明したのはここまでだ。それでも大きな進歩だ」
「確かにそうですね。とりあえずあいつの事は少しわかった」
ここで琴里が口を挟んだ。
「士道もグリムロックの映像を見たでしょ? トランスフォーマーって種族は戦争で故郷を失ったのよ。グリムロックが何者でどこから来て、あいつの存在目的は何なのかあんたも聞いた筈よ」
戦い、それが存在目的だとグリムロックは言っていた。たまたま士道は四糸乃を救ってグリムロックからの警戒を解いて話せるまでになったが、根本的な思考に変動は無い。グリムロックは敵が来れば戦う、何度でもだ。怒りを覚えれば抑えられない壮絶な暴力が堰を切って暴れ出すのだ。 それが特殊能力というのなら話は別だ。しかしそうではない、トランスフォーマーという種が武器と力の塊なのだ。封印によって力を抑える行為は出来ないとすれば、力をコントロールするように調教するしかない。
「グリムロックは力を制御しないとな」
「そうよ、一応あたし達の家の地下に巨大な訓練所も作ってるけどね」
グリムロック専用の訓練所となればどれだけの敷地が必要だろうか。
己の体からエネルゴンの反応が出たと聞いたらやはり変な気分だ。このエネルゴンの反応が精霊の封印と何か関わりでもあると言うのだろうか。士道は、自然と自分の両手を見てみた。折紙に撃たれた時に大量に流れ出た血液は士道が人間である証明、同時に生還を果たしたのは士道が人あらざる存在である証明にもなる。ボーっと自分の事について考えていると、琴里が強めに士道の名を呼んだ。
「士道!」
「っ!?」
「ボーっとしてんじゃないわよ。今は十香達のおつかいを見るんでしょ?」
「ああ、そうだった。ってかちゃんとあいつ等おつかい出来てんのか?」
琴里が無言でスクリーンの映像を指差した――。
十香は士道から渡されたメモ用紙を見ながら最初の食材を確認していた。
『十香、最初、何買う』
『肉だな。挽き肉一キロ』
これは十香が大食らいで普通の人の量では十香はすぐに腹を空かしてつまみ食いを始めるので多めに買って十香だけ多めに作る事にした。
ラタトスク商店街の肉屋を探して二人はキョロキョロしている。
「A班、肉の焼ける匂いを出しなさい!」
通信機を使って素早く神無月は指示を出した。
「十香の食費をラタトスク機関が出すって知ってからずいぶんと思い切りの良い買い物するのね」
「あいつの腹を満たすような献立考えてたら俺等の朝昼晩の飯はお茶漬けとたくわんだったぞ」
「あたし、たくわん嫌い」
商店街の一角に店を構える肉屋は十香等が気付くように肉を焼き始めて匂いを送り続けた。最初に匂いに気付いたのはグリムロックの方だ。
『俺、グリムロック。肉の匂いする!』
『おぉ、本当か!? では早速行くぞ!』
匂いを頼りにグリムロックの後を追って二人が動き出した。
「目標が肉屋を目指して動き出しました!」
川越が状況を報告する。
「グリムロック、食欲で興奮して家屋が二件破損!」と、椎崎。
見ればグリムロックが喜びでふりふりと尻尾を振った所為で魚屋の二階と米屋の二階の窓に尻尾の傷跡が残っている。
「店と店の間隔をもっと広く取りなさい!」
「店と店の間隔を変更します」
琴里の指令に椎崎が復唱してキーを叩いた。ラタトスク商店街は瞬時に動きを見せる。通りを広くなるように店は数メートル後退し、おかげでグリムロックの尻尾は当たらなくなった。
『むぅ……? グリムロック、さっきから道が広くなってないか?』
『俺、グリムロック。そんな変な事起こる筈ない』
『ま、良いか……』
若干怪しまれながらもひとまずはクリアした。十香とグリムロックが肉屋に到着すると十香は店の店主に挽き肉一キロを注文した。
『肉一キロかぁ~シドーはどんな物を作ってくれるのだ』
既に十香は今日の晩飯に胸を踊らせている。
「ちなみに今日の予定は?」
「五河流デラックスキッズプレートだ」
士道の答えに琴里はわなわなと落ち着きが無くなった。横目で琴里の反応を確認すると少しだけ表情が緩んでいるのが分かった。
「へぇ~。し、士道にして珍しい物作るじゃない」
「琴里はお子様ランチとか大好きだからな。たまにはな」
琴里がお子様ランチが好きと聞いて神無月は黙って艦橋を後にした。誰もその事を気にも止めなかったが、しばらくしてから艦橋のドアが開いて神無月が戻って来た。しかも全裸で。
「さあ、司令! 私自身がお子様ランチになりました! 食べて下さい!」
テーブルに仰向けになった神無月のエビフライやコロッケなどが並んでいる。女体盛りならぬ男体盛りだ。
「神無月」
「はい!」
「名誉の仕事よ、穴を掘り続けなさい、穴が出来たらまた別の穴を掘りなさい」
「へ?」
琴里がパチンと指を鳴らすとガタイの良い黒服を着た男達が神無月を持ち上げると連れて行ってしまう。
「司令~! お慈悲をお慈悲を~!」
騒がしい声と共に神無月はどこかへと消えて行った。
「琴里、兄として神無月さんにガツンと言おうか?」
「心配してくれるのだ。ありがとう士道」
「大事な妹だし」
神無月の邪魔が入っている間に映像の中では次のステップに移っていた。肉を無事に買った十香は次に魚屋で海老を買うようにメモ用紙に書いてあった。
『次は魚屋だな。一体何を買うのかな~……。うむぅ、かいろう……何て読むのだ』
十香は「海老」を「えび」と読めないのだ。
『なあなあ、この漢字読めるか?』
十香がメモ用紙に書いてある漢字をグリムロックに見せている。
『俺、グリムロック。こんな文字簡単、かいろうって読む』
『おぉ! やはりかいろうだな! そもそもかいろうって何なのだ?』
『魚の餌だと俺、思う』
『あり得る……かいろう何て魚聞いた事がない』
『海が、老いる、海を干上がらせる怪物に、違いない』
『何だその化け物は!? そんな物を食べられるのか!』
『士道が食えるって言うなら食える』
『ふむ……それもそうだな』
次に目指すべき場所は魚屋だ。魚が大好物のグリムロックにとって魚屋を見つけるのは造作もない。敏感な鼻を使って数ある店の中から魚屋を探し出した。また美味そうな匂いに興奮して被害が出ないように道の間隔を広く取るように命令しておいた。
「グリムロックは魚が大好きだったのね」
「あいつはエネルゴンを摂取しなくて良いのか?」
「さあ? わかんない」
おつかいは順調に進んでいた。その後もジャガイモとその他野菜を問題を起こさずに買っていた。
『ふぅ、おつかいは簡単だな! これはシドーに頭をなでなでしてもらえるぞ』
十香はニコニコと機嫌良く笑っておつかいが上手く行った事を喜び家路を急いだ。
『グリムロック、お前の鼻は凄いな! 良い魚と良い野菜をしっかり嗅ぎ分けるとは羨ましいぞ』
海老や野菜を選んだのは全てグリムロックだ。自慢の鼻は人捜しにも良い物を選ぶ時にも活用されている。
『どうした元気ないぞさっきから黙ってどうしたんだ。グリムロック? グリムロック?』
名前を呼んでも返事が無い。
『グリムロック?』
艦橋でも少し困惑した調子だ。グリムロックは直立不動でその場から一歩も動かないのだ。
『グリムロックどうしたのだ?』
直立不動のグリムロックの目には光が無い。普段ならば燃えるように赤々と光っていた筈だ。体を走るラインも光を鈍らせておりグリムロックは、ゆっくりと横に倒れた。衝撃で地震のような揺れを辺りに与え、アスファルトは大きくへこみ土埃が舞い上がる。横たわったグリムロックはもはや生命体というよりも一つの金属の塊のようだ。
『グリムロック!?』
「グリムロック、エネルゴン反応消失しました!」
箕輪が焦った口調で報告した。
「どうしたと言うんだ……!」
「やっぱエネルゴンを食ってないからか?」
「……ひとまずフラクシナスで回収するわ。士道は十香を迎えに行ってあげて」
「ああ」
動かなくなったグリムロックをフラクシナスの転送装置で拾って艦の屋上に寝かせた。原因不明の活動停止を発症したグリムロックはまるで良く出来た模型だ。
ちょうどその夜の空、天宮市の空に五つの流れ星が走って行った。