ボクのシャーレでの1日のスタートは、コーヒーを作る事から始まる。
シャーレ。正式名称を連邦捜査部S.C.H.A.L.E。単なる部活に留まらない、一種の超法規的機関。連邦組織ゆえ、キヴォトスに存在する学園の生徒であれば制限なく加入させられる部活。
どんな学園からも加入可能。つまり言ってしまえば、「ぼくの考えたキヴォトス最強のチーム」を作り上げることが出来るのだ。スポーツ漫画だと出禁だね。
その上。キヴォトスとはいえ本来戦闘行為は各自地区の許可が要るのに対し、シャーレだけは制約なしに戦うことが出来るのだ。もうこんなの最強でしょ。
とんでもない権力だが、自治区間の争いを解決するためにはこれくらいあった方が良いだろう。これが無い場合、自分の自治区から逃げ出した悪人を捕らえようとしても、他の自治区に足を踏み入れた瞬間に戦闘行為が出来なくなってしまう、という事なのだから。
ともかく。そんな物凄い組織がシャーレ。とりあえずすごいって事だけ分かっていれば良いのだ。他の学園同士の争いにも上から首を突っ込める、特殊な立場。生徒を諫める「先生」に相応しい立場と言えるだろう。
「…よし」
そろそろお湯になっただろうか。ヤカンのフタを開けて確認しようと覗き込めば、ブワッと広がる蒸気に目をやられた。
「いっ…!」
あまりの痛みにその場にうずくまり、身体を丸めて堪える。これじゃダンゴムシだ。やっぱり青春ダンゴムシというコテハンはボクにお似合いかもしれない。
シャーレでの1日はいつも決まってこうだ。コーヒーを作る過程で、何かしらのアクシデントが起こってうずくまる。そこをよく先生に見られるのが恥ずかしいので、要改善だ。アクシデントの種類は多岐にわたる。さっきみたいに目を襲う蒸気、ヤカンのフタを抑え忘れて上から溢れるお湯、注ぎすぎてお湯が溢れてしまい、動揺した事で落としたヤカンが足の小指に直撃、果ては先生の元に運ぶ際に転んで頭からコーヒー被ってしまうとか、色々だ。
ちなみにコーヒーはインスタントコーヒーである。粉タイプのやつ。先生が淹れてくれた普通のコーヒーは美味しかったけど、あんな複雑な工程はボクには無理。しかも時間かかるし。お湯を沸かして注ぐくらいの工程がちょうど良いのだ。
ちなみにボクはブラックはそこまで好きではない。砂糖やクリームのたくさん入ったコーヒーの方が好みだけど、実は言い出せていない。というのも、最初に先生に淹れてもらったのがブラックなコーヒーだった事もあり、今の今まで言い出せずにいるのだ。
そういう体験は意外と多いんじゃなかろうか?親戚とかに好きなものを誤解されて以降、よく買ってきて貰っているけど実は…みたいなやつ。向こうが親切心で買ってきてくれているから下手に断りにくいし、貰っている期間が長いせいで尚更言い出しにくくなる…というアレに近い感覚だ。
それと見栄という部分もある。だってブラック飲めるのってカッコよくない?苦いのを我慢して飲み干せるとかじゃなく、好きなものとして飲めるカッコよさ。そういう渋い大人に憧れてるのもあって、ボクはブラックを飲み続けている。
その点先生は良いよね…書類に目を通しながらスッとブラックを飲む様はとてもカッコいい。ボクみたいに一気に飲むんじゃなく、少しずつ味わうように飲んでいる。大人だ。
コーヒーを飲み終えたボクと先生が始めるのは、書類仕事。ぶっちゃけ今の所これしかやってない。他の自治区で自由に戦えるのがシャーレの強みなのだが、現状はそういう活動が全くと言っていいほど出来ていない。まぁ理由は簡単だ。まだ他の生徒達の信頼を得られておらず、かつどこかに遠出する事も無いためだ。
前者はブルアカのストーリー的にも特に始まっていないのでまぁ当然。一応ブルアカにおけるプロローグ…ちょっと前のあれこれで先生が指揮した生徒達とは信頼関係を築けているようだけど、皆の立場的に簡単には集まれない。
後者はそのまま。アビドス編はまだ始まっておらず、遠出らしい遠出をした事は今の所無い。なんならボクも先生もここで寝泊まりしているせいで、あれ以来シャーレの部屋から一歩も出ていない。服も完備、シャワーもある、寝泊まりはソファと仮眠室。
男女が一つ屋根の下で暮らす…とはよく言うが、屋根がデカ過ぎてなんの問題も起こっていない。それに先生と生徒だし。トチ狂ったボクが先生を襲いにでも行かない限りは安心だ。先生の方から手を出して来る事は絶対に無い。だって「先生」だから。
さて、少し話が逸れてしまったが続きを話そう。書類仕事と言っても、午前と午後でやる事は別物だ。基本的に午前はハンコを押したり、直接文字を書いたりするタイプの仕事が多い。逆に午後は書類整理ばっかりだ。どこからきた書類か、どういう類の書類か。そういうものを選別して纏めていく。午前中は頭を使う仕事、疲れが出て来るであろう午後は少し楽な仕事を。こうやってきっちり分けていくことが長く仕事をするコツらしい。さすが先生だ。更に理由を言うなら、ハンコやサインやその他記入が必要なタイプの仕事を午前に済ませる事で、より早く相手に届くようにしているという事らしい。すごい。こういった配慮が自然に出来るのもカッコいい大人と言えるだろう。
作業は手分けしてやる事もあるが、偶に先生の膝の上に乗ってやる事もある。シャーレ部員第一号という立場を使った職権濫用だと思われるかもしれないが、これには深い理由があるのだ。
ボクは簡単な書類なら捌くことが出来るけど、難しい書類はまだまだ手がつけられない。そこで、どうやって対処するのかを先生に手取り足取り教えて貰っているのだ。そうなった時、サイズ感もあって先生の膝の上に乗って教えてもらうのが丁度いい。適度な距離感と先生に包まれているかのような安心感、何より先生を独り占めしているような感覚が勉強をする上で大変捗るのだ。
今日だって難しい部分を教えて貰った。こういう書類が来た時は…えっと…むむ…。ダメだ。分からない。このレベルの書類はボクには早かったかもしれない。まだまだ教えてもらう必要がありそうだ。
ここまで散々褒めているので分かると思うが、ボクは先生が好きだ。LoveではなくLikeの意味だが。大人としてのカッコよさもさることながら、確かに「先生」だと感じる部分が好きだ。なんというかこう…ツボを分かっている、とでも言えば良いのか。
例えばだ。ボクと先生が会話したとする。そうした時、大体の場合ボクが欲しい答えをくれるのが先生だ。例えるなら…そうだなぁ。プレイしたことがないのであまり詳しくは無いけれど、ギャルゲで言うところの好感度上昇が最大の選択肢だ。あんな感じで、欲しい答えをちゃんとくれる。しかも、ただ優しい言葉をかけてくれるだけじゃない。ボクがよくない事をしかけた時、ちゃんと止めて諭してくれる。厳しさの中に相手を思いやる心が込められた、温かいお説教。
正直これで堕ちない方がどうかしているまである。でもまぁ、ボクはまだLikeだ。断じてLoveではない。だって、寝起きの先生は普段と違ってちょっとかわいい…とか、シャワーを浴びた後の男前でセクシーな感じがクるとか、偶にバレないように布団に潜り込んで朝には抜け出すとか、その程度だ。ワカモとかみたいにずっとストーカーしたり、先生の言葉全てが愛おしいとかって感じにはなっていないので、まだLikeだ。
それにしても…時系列的に考えれば次はアビドスか。脳内掲示板は一応開いたままにしているが、スレを見ていた感じアビドス生は居なさそうだ。まぁいいか。出来れば転生者の中にアビドスの人が居れば良かったけど、ないものをねだっても仕方がない。
散々皆からも注意を受けているが、原作におけるアビドス編の最初で先生は遭難する。原因は準備不足。アビドスという土地に対しての知識が足らず、事前準備が致命的に足りていなかったのだ。間一髪の所でシロコに助けられるというのが原作ブルアカの流れだ。だが正直に言おう。今のボクに先生を飢えさせる勇気はない。確かに原作通りにするのが良いのは分かっているが、それを加味してもあの優しい先生が苦しむのを分かっていて送り出すというのは出来そうにない。
せっかく原作というアドバンテージがあるのだ。これくらい上手く立ち回っても良いだろう。流れを壊さず、かつアビドスとの協力関係を築く。難しいかもしれないが、なんとかやってみせよう。
それがボクという弱者を認め、育ててくれている先生への感謝であり。いちプレイヤーとして、先達としてサポートできる部分なんじゃないだろうか。早速スレの皆に相談してみようか。
そう考えて脳内掲示板を開く。そこには…この間助けてくれた鬼の人、79さんが誰だったのか。あと戦車にロケット付けたり、遠隔で操作した人がどうやっていたのかといった話が始まっていた。
後者はともかく、前者は思っていたよりヤバかった。確かに気配も只者じゃ無かったし、角が片方折れてるのも気になってはいた。ボクだって不鎖の暴鬼の二つ名、通り名くらいは知っている。けど、聞いていた噂話と全然違った。そもそも身長が低い。噂だと数mもある巨体だとか、全身筋肉の怪物だとか。そんなことは全然無かった。
行動の動機なんかもそうだ。無口で無感情、それでいて暴れ出したら手がつけられない化け物。どこからそんな噂が立ったのかは分からないが、まぁ脳内掲示板抜きで彼女を見たらそう思う人が居てもおかしくないのかもしれない。
ふと気になった。先生はどう思っているんだろうか。よっぽど偏見の目を持ちはしないと思うけど、実際彼女が悪い事をしているのも事実。大人な先生なら。ボクに対してクリティカルヒットを叩き出した先生なら。彼女に対して一体どんな反応を示すのだろう。
「先生、ちょっと良いですか?」
「“なんだい、アオハ”」
「不鎖の暴鬼について、先生はどう思ってます?」
「“うーん”」
「"そうだなぁ…“」
「"悪い事はしているみたいだけど“」
「"何か深い理由があるかもしれないかなって“」
「"まぁ予想でしかないけどね“」
「なんで…」
「“?”」
「なんでそう思ったんです?」
「“勘もあるけど”」
「“わざわざアオハがそういう話を振るってことは”」
「“『そういう事』なんじゃないかなって”」
…さすが、先生。
先生のそういう所が、ボクは好きです。
まぁ、それはそれとして。
「“アオハ?”」
「はい」
「“なんで顔を隠してそっぽを向いてるの?”」
「い…いえ…なんでも…なんでもないんです…!」
「“また丸まってる…”」
それはそれとして、あんな風に言うのはズルです…!
章の間に幕間を挟むべきか悩み中…
これからの出番や掘り下げについて!改訂版!(一個前のアンケート分も含めます)
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不鎖の暴鬼/79
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マッドなロマン派博士/39
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胃痛の矯正局員/86
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新キャラ(新コテ勢)が見たい!