私はどう生きればよいのか
三つ並んだ顔岩は、終ぞ私に答えはくれなかった
芽吹き
私には前世の記憶がある。
といっても、以前の私が何者であるかは朧げにしか思い出せない。
唯一はっきり残るのは、この世界を娯楽として鑑賞していた記憶のみだ。
前世の前世の記憶とは不便なもので、五つの頃に記憶を思い出して以来、同世代の周囲との差で些細な軋轢を生み続けた。
さらに、今生きる
そのせいか、チャクラがうまく使えなくなった。
チャクラが使えず周りと連携のとれぬ忍びなど、どこへ行ってもお荷物だ。
私は生きる方向が分からなくなってしまった。
せめて指標を定めるために、こうして一人、三人の影たちの顔を眺めながら、記憶の中に本来の自分の姿を探す。
しかし、長き歴史の奔流の中で、己を見つけることは終ぞかなわなかった。
ただ流れに潰されたのか、そもそも存在しなかったのかはわからない。
だが、そもそも私は世界の流れについていけるだろうか。
うねりに流され溺れるだけならば、いっそのこと…
「直樹」
後ろから聞こえる父の声で、はっと我に返る。
「また、さぼりか。よくないぞ。」
ごめんよ父さん 今から行く
「今週二回目だぞ、まったく。
お前もそろそろ卒業なんだから、もう少し危機感をだな。」
わかってるよ ごめんね
「わかったならいいんだ、頑張れよ。」
父はいい人だ。
母が私を生むときに亡くなってから、親戚の手伝いがあるとはいえど、ほとんど男手一つで俺を育ててくれた。
父はいい忍びだ。
人手不足のなか、上忍として二部隊を育て上げて今率いてるのは三部隊目だ。
あの人に余計な心配はかけたくない
それだけが私の生きる意味だった。
しかし、世界の流れは準備など待ってくれない
忍者学校卒業試験の日、
父は三日前に、名残惜しそうに長期任務に出掛け、一か月ほど不在のはずだった。
しかし、父の部隊は帰ってきた。
父の額あてだけを持って
「雲隠れにやられたそうだ」
「君のお父さんは、班員たちをかばって勇敢に散ったよ」
やけに遠く感じるその声を聴きながら、涙すら流れぬ己の寂しさに打ちひしがれていた。
葬儀は速やかだったのは、親戚のおかげだろう。
私は、茫然自失のまま、父を見送った。
葬儀も終わり、日も明けて広くなった家を見渡しながら、ふと、父の部屋をのぞいてみた。
優しかった父が唯一入るどころか覗くことすら嫌がっていた部屋は、なんとも普通で、しかし、窓の前の机には、見慣れない封筒がぽつりと置いてあった。
宛名は、『直樹へ』
中を見てみれば感謝を声にするのが恥ずかしいからと、読んでるこっちが照れるほどに感謝や、母とののろけ、悩みがあるなら相談してほしい、など、口で言ったほうが早いようなことが何枚も綴られていた。
なんてことない手紙だった。
だが、涙が止まらなかった。
もっと話せばよかった
わがままも行ってみればよかった
悩みだって相談すればよかった
後悔の言葉はとめどなく溢れてきた。
泣いて泣いて、握りしめた父の額あてがふやけるほどに泣き続けた。
日も暮れるころに泣きつかれ、封筒の内側にもう一枚紙を見つけた。
そこには
現実を生きろ
ただ一言が書かれていた。
見透かされていた自分も、その殻を一筆で変えてしまう父の偉大さがなんだか面白くて、ひとしきり笑った後には、もう迷いはなかった。
生きる意味などわからないままで、方向は手探りで、それでも前に進む。
その決意が私、否
『この俺、千手直樹の原点だ』
答えの出ぬ問いの先を見るために
五里霧中を踏み出す