ナディアと猫の秘密   作:わら

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1. 砂漠

 

 

 

 太陽が高く昇り、サハラ砂漠の熱気が体中を包む。一行は朝早くから飛び続け疲れ果てた体を休めるために陰を求めていた。

 

「ふうっ……」

 

 やがて、見つけた岩場で汗を拭う。ナディアは脳に刺激を与えないように真っ暗な視界の中、目を休めていた。長時間の箒は流石に堪える。左側の頭の側面の痛みを和らげるように撫でながらナディアは変頭痛に顔を歪める。

 

 あの後、他の生徒が思い思いの方法でホグワーツに向かう中、ナディアとジョンは箒で地道に飛んでいくという選択をした。箒の周辺に認識阻害魔法を施していたが、鳥などの飛行物にぶつかったり、眠ってしまったりすると術は解かれる。それにこの魔法は完全に隠れられるわけではない。あくまで気にならない程度しか認識の歪みは起こせないのがこの魔法だ。見つかる時は見つかるのだ。ここまでの順路では、どころか、人っ子一人見当たらなかったことは幸運だったが。

 

「少し休憩したら、先を急ぐわよ」

 

 水分や間食をとり、これからの進路について軽く話していると、ドドドッ! ドドドッ! と突然地鳴りが轟き、大地が揺れ動き始めた。水筒は揺れにより倒れ、わたしたちもあまりの揺れにふらつく。

 

「地震か!?」

 

 驚くジョンをよそに、足元の地面が割れ、私たちは巻き込まれるようにして流砂に飲み込まれた。必死で足を踏み固め、抵抗するものの、流砂はさらに勢いを増し、彼らを下に引きずり込んでいく。

 

 どうしよう。

 

 ナディアの頭にその言葉が埋め尽くされる。足は全くと言っていいほど身動きは取れず、刻一刻と砂に埋もれる時は近づいている。ナディアは、辺りを見回してこの状況を脱するための道具がないか探した。そして、あるものが目に入った。

 

「そうだわ箒!」

「そうか!箒を使えばどうにか……!」

 

 岩の近くに置いてあった鞄と箒を手繰り寄せ、箒を掲げる。これで、出られる。そう安堵したが、それも一瞬の喜びだった。

 

 箒はピクリとも動かなかったのだ。

 

「嘘、魔法が使えない……!」

「もうだめだぁ!」

 

 そうしてナディアたちは流砂に巻き込まれ、その場に残されたのは一本の倒れた水筒だけだった。

 

 

 

 

 

 目の前には、何も見えない暗闇が広がっていた。時間が経つにつれ、不安と緊張が彼らを襲う。やがて、流砂の流れが静まり、足元には黄金に輝く不思議な光が広がっていた。彼らはその謎めいた光に導かれ、地下の謎の遺跡に迷い込んだのである。

 

 キョロキョロと首を回し、壁などに触れる。まさか砂漠の下にこんなものが隠されているなんて……。

 

「ここは魔法禁止区域なのかしら」

 

 いくら指を振ってみたり、手のひらに力を込めても魔法どころか、ガス欠の煙すら出てこなかった。

 

 ーー魔法が使えない

 

 それは変えられない事実だ。魔法が使えない遺跡には何かしらの意味がある。太鼓の昔、魔法が遺跡の内部にある何かを汚染し、守護神や聖地の神々が怒り天災を引き起こすと言い伝えられてきたと本で読んだことがある。まさかそれと何か関係があるの?ナディアは砂まみれなのもお構いなしに考えにふけるが焦るジョンの声で意識を現実に引き戻した。

 

 ナディアが考えている間にジョンが砂などをはたいてくれていたらしい。髪の毛や服についていた砂がなくなっている。ジョンを見るが、彼はそれどころじゃなさそうだった。

 

「俺たちかなりまずいんじゃないか?」

「確かにね、この場所に何があるかわかったものではないし」

 

 

 冷静を装っているが、心臓の音がうるさい。なんだかソワソワする。

 いくら大人びているとはいえ、まだ十三歳。こんな子供の夢が詰まった場所など気になってしかないはずなのだ。

 

 

「とりあえず、散策するか!」

 

 ジョンの楽しそうな顔が見える。彼は本当にどんな環境でも馴染める。これは彼の一種の才能なのかもしれない。まるで、トカゲみたいだな。ナディアは密かにそう思った。

 

「そうね」

 

 遺跡はところどころで砂が降ってきている。開けた場所では宙に浮かぶタイル、天井にある逆さの階段、当時を描いたであろう掠れた壁画。見たことないもので満たされている。

 

 近頃は、魔法省が全ての魔法関連の物事を管理しているため、自然のままの遺跡はほとんど存在しない。だからこそ、このような遺跡を見つけた時には感激する。その場にいたナディの口から悲鳴に近い何かが溢れる。魔法に頼らずに作られた建造物や、自然のままの荒涼とした地形など、魔法省による統制が及ばない場所は、まるで過去の世界にタイムスリップしたかのような感覚を味わえる。

 

 まさか、こんな急いでいる時に貴重な場所を見つけるなんて、急いでいる私たちに対する皮肉かしら。

 

 「出口が見当たらないんだぞ」

 

 長い時間散策したが、出口などは見当たらなかった。ジョンがあからさまに落ち込んでいる。

 

「ジョン、大丈夫よ。一度入れたのだもの。出られないなんてことはないわ」

 

「ナディ……」

 

 お前、こんな状況なのになんて頼もしいんだ……。

 

 そんな声が聞こえてきそうな顔で私に対してジョンはキラキラした眼差しを向ける。ナディアは少し笑い、辺りを見回す。

 

 それにしても、何かが引っかかる。

 

 このような遺跡には外部からの侵入を防ぐため罠があるはずだ。しかし、この遺跡には罠が見当たらない。魔法禁止区域だからといいこんなに無防備なものなのだろうか。

 

 何かがおかしい。

 

 冷や汗が止まらなかった。頬を伝って流れる汗は、ただ熱いから流しているわけではない。

 

「とりあえず、別のフロアにでも行ってみようぜ!何かわかるかも!」

 

 別のフロアへ向かおうと階段を探す。階段は簡単に見つかりほっ、と内心安堵するが、次の瞬間にその安心は消え去る。

 

 ドス、ドス、ドスッ……

 

 小石が微かに動く。はじめは気のせいかと思ったが、その振動は次第に大きくなっていった。

 

 ドス、ドス、ドスッッ……!

 

 この音は、なんだ。ナディアはしゃがみ込み、地面に触れる。

 地面の振動で小石が揺れていた。この新大宇は地震のように地面が動いているわけではなく、まるで何か大きな物が、動いているような……?

 

 

 いや、違う何かがこちらに……!

 

 

 ようやく気がついた二人は急いで振り返った。ミシリと壁が音を立てて、現れたのは巨大な岩の山。ゴーレムだった。

 

 

「シンニュウシャ、ハイジョ」

 

 腕を振り上げられた瞬間、二人は恐怖に震えた。ナディアは恐怖で足がすくんでしまい、隣にいたジョンも動揺を隠せない様子だった。しかし、その狙いは二人には当たらず、その脇を通り過ぎ、壁に直撃した。その一瞬の隙に、ナディアたちは全力で逃げ出した。

 

「うわぁぁぁぁぁあああ!」

 

 生きてきて十三年、こんなにも死を感じたことはなかった。今は全速力で逃げているため、攻撃は当たりはしなかったが、あれは私たち二人を本気で殺しにかかってきている。ここは魔法で撃退しようとゴーレムに対峙するが、ジョンに引っ張られる形で止められた。

 

「ここじゃ魔法は使えない!今立ち止まれば俺たちは死ぬぞ!」

「今は振り返らずに死ぬ気で走れぇ!!!」

 

 二人は足に精一杯力を込めて走り出した。

 

 魔法は万能。そして、とても繊細で壊れやすい。魔法は人間が成しえなかったところまでいけるようにしてくれる。魔法使いも魔法を駆使しより一層発展を遂げてきた。しかし、魔法使いから魔法をとったら一体何が残るのだろう。

 

 そう、何も残らないのだ。

 

 無力、その言葉が頭をよぎる。

 

 

 こんなことありえない。ナディアは冷静になんていられなかった。

 もしかしたら、これは夢?

 

「あ、そうか、私は寝ているんだ。じゃなければこんな状況説明がつかない。これは夢、これは夢……」

「気を確かにしろ!ナディ!お前は今現実にいるんだぞ!」

 

 しかし、今はそんなネガティブなことを考え浸れるほどの余裕はない。頭を振り、切り替える。

 

 

「あんなのがいるなんて聞いていないわ!」

「振り返るな!とにかくにげろぉ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナディアたちはあのゴーレムから逃げ切れた。小道の先に通じる小さな部屋の入り口で私たちは立ち止まり、肩で息をしながら周りを見回した。この建物が何なのか、どうやって出口を見つけるのか、全く分からなかった。

 

「あ、ありがと……」

「気にすんな!」

 

 

「絶対に、ワガドゥーに帰ったら走り込みする……」

 げっそりとした顔でそういうと、ジョンが反応した。

「そん時は付きやってやるぜ!」

 

 ジョンは逃げる時に私を引っ張って先導をきってくれたから、逃げきれた。私以上に疲れているはずなのに、すでに息は通常に戻っていた。さすがは現役のクディッチ選手というべきか。たとえ、決闘が得意であっても、基礎体力が有り余るほどあるというわけじゃないのだ。センスと体力は別問題なのである。

 

「追ってこないようだな」

 

 あの怪物から逃げ切れたことがわかった瞬間今までの恐怖がどっと襲ってきた。ジョンはしゃがみ込んだ私の背中を何も言わずにさすってくれた。あの怪物は怖い。魔法さえ戻ればあんな石の塊、一撃なのに。きっとジョンも怖かったはずだ。私がこんなだからきっとジョンは弱音を吐けない。

 

 バシンっと両頬を思いっきり叩き、切り替える。急に叩いたことによりジョンは目を点にしていたが、これは私なりのケジメだ。もう後悔はしたくない。

 

 

「でも、わかったことは一つある」

「あの先には必ず何かある」

 

 ゴーレムは別の場所では一度も遭遇しなかった。でも,あの階段の前に来た時に現れたってことはあの階段を登ってほしくないと捉えても問題はなさそう。

 

「そのためにあのゴーレムをどうにかする必要がある」

 

 あのゴーレムは階段に近づいた。そして私たちがこの部屋に向かおうとした時階段の方向へ戻っていった。これは何かしらを守っている可能性が高い。宝か、あるいはなにかの帰りか、わかりはしない。

 

「そういえば走って気が付かなかったけど、ここはどこなんだ」

 

 ナディアたちは、落ち着きを取り戻しながら手当たりを見回すと、巻物が散らばり、壁には謎めいた文字や図形がぎっしりと書かれていた。壁には簡単な地図らしきものもあった。部屋には机がひとつだけ置かれ、上にも巻物が散乱していた。誰かの部屋、というよりは作業部屋と言った方が正しいかも知れない。

 

 一部の壁には何も描かれておらず、代わりに壁には槍や剣、弓矢などの武器がかけてあった。それらは、遺跡に侵入する者たちを撃退するためのものだと思われた。私たちはその武器たちを手に取り、重さを感じながらも備えることにした。

 

 この部屋には何か秘密が隠されている気がする。ジョンと私は息を潜め、探索を始めた。壁にはこの遺跡にある魔物の分布図や遺跡の設計図、罠の種類などが書かれている。そして、やはりあの階段の上に何かある。文字は決して読めないがイラストで何を伝えたいのかを読み取る。巻物もなるべく絵が載っているものを探す。

 

 巻物や壁画を読み漁っていると、手がピクリと止まる。

 

 

 

「これは……?」

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 壁に寄りかかりながら、ナディアたちは階段の下で鎮座するゴーレムを見つめた。その巨体はピラミッドの壁がそのまま抜け出したかのような砂漠色の大きな煉瓦でできていた。大きさはおおよそ三メートルほど。見上げてもなお見余る背が高く、遠く離れていても鳥肌が止まらないほどに圧倒的な迫力とプレッシャーが迸っていた。

 魔法を使うことができない今、私たちの持つ武器だけが頼りだ。

 

「本当に行くのか?」ジョンが尋ねる。

 

「行くしかないわ。ここで死ぬなんて私はまっぴらごめんよ。」ナディアは決然と頷いた。

 

 決意を胸に一歩踏み出すと、足元から何かが壊れる軽い音が響く。足を退けると、粉砕された白い粉があたりに散らばっていた。ジョンはしゃがみ込んで白い粉に鼻を近づける。

「うーん、何も匂わないけど多分人の骨だ」

 ジョンの何気ない発言にナディアはギョッと驚く。

「なんで嗅いだけでわかるのよ」

「いや、勘だな」

 ジョンの発言はさておき人骨が落ちているということは、ここが決して安全な場所ではないということを示している。私たちは投石機を握りしめ、その場から離れる。

 

 ゴーレムが守る階段を上がるためには、その巨体を退ける必要がある。そもそも、ゴーレムとは巨大でどんな攻撃でも傷一つつかないほど高い硬度を誇る。この話はワガドゥーの授業中に聞いたことがあった。

 砂漠出身のダイン先生は砂漠の危険について度々触れていた。その中の一つが、生ける伝説、強力無比なる魔法使いの従順なる守護者 ゴーレムである。

 

 ナディアは緊張で力が入る。

 

 もしも、これがうまくいかなかったら……。

 

 ジョンが肩を叩く。まるで大丈夫と言わんばかりの顔だった。

 

 そうだ、ここで待っていたって助けは来ない。なら、私達がやらなければならない。

 

 二人は足を踏み出した。

 

 ギギギッ……

 

 ゴーレムの前に躍り出ると、顔と思しきパーツに嵌め込まれた無機質なガラス玉がこちらを向いた。空虚なそれに反射して決意に満ちた姿が見える。無感動な石造りの番人は明確な敵意をもって腕を振り上げた。

 

「いくぞ!」

 

 ジョンの声で弾かれるように廊下の角から飛び出す。ゴーレムの動きは重いものの、その巨体を直接攻撃することは不可能だ。だからこその戦略。なればこその作戦。ジョンとアイコンタクトをとりながら、全力で駆けていく。

 

 ナディアは前方に落ちた影へ潜り込み、前方へと転がった。背後で轟音が響く。ちら、と振り返ると振り下ろされた拳が岩の床を僅かに陥没させ、細かい粒子が舞い上がっていた。そのままの体勢で握りしめていた投石器を構え、ゴム越しにゴーレムを捉える。全力で投石機を引き絞り、そして放った。

 

「やっぱり、全然効かないわね」

 

 ナディアは冷や汗を誤魔化さんとばかりに笑みを浮かべる。

 

 一方、ジョンは彼女の動きを見計らい、ゴーレムの背後に回り込んでいた。大ぶりの剣を固く握りしめたジョンは、アニメーガス特有の身体能力を生かし、高く飛び上がった。狙うは脆弱な関節部分。ジョンはゴーレムの肩めがけて剣を振り下ろした。

 

「硬てェッ!」

 

 ジョンの渾身の一太刀は、ゴーレムの表面を削るどころか、剣が少しかけてしまうのではないかというキィィィィインという高い音が響く。想像よりも遥かに硬いゴーレムに驚愕を隠せないジョンだったが、これも作戦通り。注意は私からジョンに向けられた。

 

 私は隙をついて、ゴーレムの足元めがけて横から短剣で切り付ける。ゴーレムは激しく揺れ動き、地響きが響き渡る中、激しく攻撃を受けた。しかし、それでもゴーレムは倒れず、再び攻撃を仕掛けてくる。私たちは息を切らしながら、再び戦いの準備をする。

 

「っ……!」

 

 ゴーレムの体は鉄のように硬く、体全体から熱気が放たれているようだった。ダメージはほぼなく、変わらず攻撃を仕掛けてくる。

 

 攻撃に巻き込まれ私は地面に転がり、ゴーレム対決に必須である攻撃手段を失った。剣は遠くに転がり、投石器は巨大な足で踏みつけられる。

 状況は絶望的だった。ナディアはずるずると後ずさるが、無慈悲にもゴーレムは変わらず彼女に向かって歩き出す。

 

 

「もうだめッ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なーんて」

 

 

 

 私はあくまでおとり、本命は……

 

「そこだ!」

 

 彼は天を仰ぎながら弓の弦を思い切り引いた。弦が弾ける音と共にヒューと風を切る音が辺りに響く。

 鏃が赤く輝き、天井に勢いよく突き刺さる。

 

 一瞬の閃光。

 

 轟音を立てて突き刺さった矢の周辺が爆破した。天井の装飾品が崩れ、瓦礫の雨がゴーレムが襲う。ゴーレムは相変わらず無傷であるが瓦礫の重みに耐えきれず床に亀裂が走る。

 

 一瞬だった。亀裂が大きく広がった床は重力に従い、かけらになって落ちていく。

 

 その時にその亀裂の上にいたゴーレムは勢い良く下の階へと落ちていった。

 

 重みに耐えられず出来た穴から下を覗く。瓦礫に埋もれたゴーレムはぴくりとも動いていなかった。これは当分動くことはないだろう。

 

「おーい!うまくいったか?」

 

 手を振り、こちらに走ってくる彼の手には今にも壊れそうな弓矢が握られている。作戦の要、トドメの一発を果たした功労者である弓だ。

 ジョンが私と合流すると弓は役目を終えたかのように静かに崩れていった。若干の寂寥感を抱きながらジョンと目を合わせる。

 

「俺たちの作戦勝ちだな」

「とりあえずはね」

 

 私たちの勝ちだ。

 

 手を強く握りしめ、コツンと拳を合わせる。

 

 

 

 

 ◆◇

 

 作戦の要となった武器の数々をどこで手に入れたのか。

 話は数時間前に遡るーー

 

 ◆◇

 

 

 ナディアたちはゴーレムから逃げ込んだ部屋でとある巻物を見つけた。

 

「これは……?」

 

 巻物には、ゴーレムの絵とその背中にある宝石のようなものについて書かれていた。それを取り除くとゴーレムの目に光がなくなっている。これはもしやゴーレムについて書かれているのではないか?

 

「ジョン、これを見て」

 

 汚い机の上の物を一掃し、巻物をコロコロと広げた。文字はちんぷんかんぷん、確証もない。しかし私たちはこれしか手がない。この巻物に書かれている背中の宝石、その破壊をするべく計画を練った。ただ単に武器でコアを傷つ蹴ようとしても成長途中の子どもの腕力ではどうすることもできない。そこで高いところから落とすなりの強い衝撃を与えれば、コアは破壊できなくともしばらくは動かないだろう。

 

「これ、使えないか?」

 

 ジョンが持ってきたのは埃を被った箱。中にはいくつか矢が入っていた。

 

「もしやこれは、魔鉱石?」

「魔鉱石!?」

 

 一見見ると普通の矢だが微かに輝いていた。箱の中に手をいれ矢をとり確認すると鏃に炎のようなあたたかな力を薄ら感じる。魔鉱石とは、炎や氷、風などの力を込めた鉱石のことで大変珍しい。今では、私たちでは手も届かないほどの値段で取引されてる。魔鉱石は様々な形に加工され、使われてきた。壊すことによりその真価を発揮する。一回限りの消耗品だが、その威力は数え知れない。

 

「どうしてこんな場所に魔鉱石の矢が…?」

 

 自然で採取されるものは炎や水などのその採掘の環境によって変化する。しかし、ごく稀に何も宿していない魔鉱石があり、魔法を付与できるという噂を聞いたことがある。

 

「どうやら、爆発するらしいぞ」

 

 ジョンはしげしげと見つめていた巻き物をそっと手渡した。矢が入っていた箱の中のそこで横たわっていたらしい。

 松明の火がパチパチと燃える。目を細め、巻物を覗き込む。そこには炎の形とは明らかに違う模様と説明書きが書かれていた。どうやらこれを用いて外部からの敵と戦っていたのだろう。他のページは経年劣化が激しく読めたものではなかった。

 しかし、爆発の力が込められた魔鉱石など聞いたことがない。もしや噂の無属性の魔鉱石に爆発の魔法を……?

 だが今は藁にも縋りたい気持ち。使えるものは使っていく。

 爆発が込められた魔鉱石の他にも違う種類があるが、どんな力が込められているかがわからない。無理に使うのはかえって危険になるかもしれない。この魔鉱石の解析のためいくつか持ち帰るとをきめトランクの中にポイっと矢を投げ入れる。

 

「これは使えるわ……あ!」

「ど、どうした」

 

 

 

「これがあればゴーレムを止められるかも!」

 

 

 ゴーレム相手にこんな子供が叶うはずがない。ならどうするか。頭を使って戦えばいいのだ。

 

 倒さなくていい。一瞬でも怯ませることができれば……。

 

 

 ナディアたちはゴーレム襲撃の前、この弓をうまく活用するために階段まえの地形を確認していたのだ。

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「って喜んでる場合じゃない!」

「ゴーレムが起きる前に上へ!」

「おう!」

 

 

 階段へ向かい、足をひたすらに動かす。未知だらけのこの場所に長居するのは良くない。他のゴーレムがいない確信はない。またゴーレムなどの怪物と戦うのはまっぴらごめんだ。

 

 階段を一気に駆け登り、上の階を目指す。階段には手すりなどはない。階段は途中で崩れており、その後はそれらしき岩が宙に浮いている。

 

「この階段、よく見たら浮いているぞ!」

 

 二人が勢いよく駆け上がってもびくともしないが、かなり怖い。階段の先は暗く長い道。脇目を振らずに走り続けた。

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

 謎に包まれた次の階に無事到着、だが出口はこっちにあるのだろう。

 

 

「これは、祭壇?」

 

 ここでは、外敵らしきものは見られない。あるのは、巨大な祭壇のみ。祭壇の周りには四つの大きな柱。

 

「やっとか!」

 

 誰かが祭壇の上にいる。でもどこかで聞き覚えのあるような声だった。

 

「いつまで待たせるつもりだよ!!」

 

 あの姿は……!

 

「どうしてここにいるのよ!」

 

「クロ!」

 

 彼の名前はクロ。ナディアの魔法の師範でもあり、相棒でもある。ちなみに猫だ。艶やかな黒い毛並みが光に反射して輝いている。ナディアが物心がつく前から一緒にいた。今は実家に帰省中で留学には来ないと思っていたのだが……。

 

「オメェさんが留学に行くと聞いて心細いと思ってな!ここまできてやったんだ!」

 

 神聖な祭壇の上で寝返りを打ちまくるクロ。行動と言動があっていない。

 

「あれ、お前んとこの猫なのか?」

「一応……」

 

 こそこそっとジョンは耳打ちをしてきた。

 

「お前のこと心配してついてきたんだな」

「どうかしら」

 

 ジョンはクロの言葉はなんとなくわかったようなそぶりをしているが完璧には、何を言っているかはわかっていなかった。翻訳魔法なるものが存在するがあまり役に立たない。雑な翻訳になってしまう。言いたいことがうまく伝わらず、逆に相手の怒りを買ってしまうという話は度々耳にする。

 

 動物と話せる能力は、遺伝的で、他の人からみるとニャーニャー言っているように見えているらしい。ジョンは私が猫と話せることを知っている。初めは何やってるんだと怪奇な目で見られていたが、この三年で本当になんとなくならわかるようになっていた。今も、猫は心配していると言葉から捉えてナディアに言葉を返していた。

 

 彼女のように動物と話ができるものは他にもいるそう。ダイン先生曰く、『話すのは難しいが、練習次第では話を聞いて理解することはできる』という話をナディアはいまだに覚えている。その場ではさらっと流されてしまったが、かなり興味深いものだと思った。もしかしたらジョンもそうなるのかもしれない。ちなみにジョンは実家にいる犬と話したいと言っていたが、私が話せるのは猫だけ。期待には添えない。というととてつもなく落ち込み、それを慰めたのは記憶に残っている。

 

 

 

「それはいいんだけど、どうしてここがわかったの?」

「そんなのお見通しだ!でもどうしてこんな場所に迷い込むのかが不思議でたまらないけどな!」

「ここは過去に人々が放棄した神殿。バステト様が祀られている我ら猫族とは切っても切れない場所なんだぞ!」

 

「バステト様?」

 

 ジョンは首を傾げる。

 

「そうにゃ、バステト様。めちゃ簡単にいうと猫の神様のことだ!」

「神様!?」

 

 まさか、この遺跡が神殿だったなんて。開いた口が閉まらない。

 

 

「でも、出口が一番上にあるとよくわかったな!そこは褒めてやってもいいぞ!」

「俺たち、あってたんだな」

 カタコトにクロの言葉を聞き取ったジョンはそう呟いた。

 

 出口がわかったのは朗報だが、どうしてクロはわかるのだろうか。もしかして、全てを知っていたり……この話はよそう。今は出口が確実に近づいてることに喜ぼう。

 

 

「話は戻すが、おめぇたちが漏れ鍋に向かっているという情報をキャッチして、途中で合流しようとしたら急にいなくなったとネコネコネットワークで教えてもらっだという訳だ!そして転移魔法を駆使してオメェたちに追いついたわけよ!」

「クロ、もしかしてあなた魔法使えるの?」

「猫に不可能はない!」

 

 ドヤ顔でふんぞり返っているが、まさかここがバステト神の神殿となにか関係があるのだろうか。

 

 いや、それよりも、二人は顔を見合わせた。

 

「魔法が使えるならここから出られる!」

 

 ここから出られることに喜びを噛みしめる。まさか、ロンドンに行くはずが、こんなとんでも神殿に閉じ込められるなんてワガドゥーを出る私は思いもしなかっただろう。

 すると、クロが真剣な顔でナディア達に対峙してきた。

 

「ちょいと待て」

「オメェたちに見せたいものがある。ここに来られたのも何かのお導きかもしれない。この神殿で何が起きたかをお前たちは知る権利がある。課外授業だ。知っておいて損はないはずだ」

 

 

アパレ・ヴェスティジウム(足跡、現れろ)

 

 クロは高く飛び上がり、前足を思いっきり地面に押し付ける。すると、砂が舞い、形を形成していく。

 

「ここはバステト様を祀る神殿の中でも一番大きな神殿だった。当時それはそれは栄えていた」

 

 クロはスタスタと歩き出す。私達はその後に続くように歩き始めた。

 

 砂は当時の人々を形成し映し出した。祈り、崇めて、そして、生きる。ここにいる人はみんなが笑顔だった。

 

「バステト様を祀っている神殿のため、猫も何不自由なく生活していた。猫と人は共存しながら、ここで生活してた」

「しかし、そんな素晴らしい生活は長く続かなかった」

 

 雄叫びが聞こえる。別の砂が現れる。敵が侵入してきたのだ。彼らは魔道具を使い、この神殿に侵入してきた。

 

「この神殿には、あるものが保管されていた。それがにゃにかはオレも知らにゃいがそれがこの神殿を最悪の結果に導いたってこった」

 

 ゴーレム、武器を持つ敵、そして神官に兵士、それぞれが武器を持ち、戦いはじめた。ここから逃げ出すものはいなかった。

 戦いは互角。ここでは魔法が禁止され使えない。そんな状況の中、うまく人々は戦った。ゴーレムが敵を薙ぎ倒し、敵はエジプトなどで主に使われていたケペシュと呼ばれる鎌形の剣を使い、舞うように斬る。ゴーレムは急所の背中の核を破壊され再起不能になるなど戦いは激化していった。

 

「神殿は必死に外部からの敵と戦った。一部の民は逃げ延びることができたらしいが、その時の犠牲は決して少なくなかった」

 

 敵は全滅。戦いに勝ったものの、犠牲をが多すぎた。たくさんの人が倒れているのを形作っている。背中に剣が刺さっているものもいる者。涙を流す者もいる。

 

 

 辛いがこれは現実だ。やり直すことはできない。

 

「そして、生き残った人たちでこの神殿をこの地に埋め、この神殿には誰も帰ってこなかった」

 

「これが、我々猫には伝わった真実。だが、これが本当に真実なのかは今となっては誰にもわからない」

 

 形成していた砂はバラバラと崩れ、風によって舞う。

 

「辛い過去は変えることができない。だがオメェたちには未来がある。こういう辛気臭いことは胸にしまって前を向け!さぁついたぞ!」

 

 気がつくと、小さな階段の前に着いていた。六段ほどの階段、そして、奥には大きな扉が堂々とした有様でそこにある。

 

「ここって?」

 

「ここはこの神殿の最後部、宝の間と呼ばれる部屋だ。」

「え、宝ってあるの!?」

「そんなことは知らん!俺が知っているのは今話したことだけだ!でも当時はゴミでも、数百年経てばお宝なはずだ!それに、もしかしたらここで守っていたものも残っているかも知れにゃい!」

 

「それを拾い、お金に換え、オレに美味いご飯を献上するがいい!」

 

 ふんすと胸を張っている黒猫が1匹。この性格は誰に似たのやら。ナディアはその言葉を聞いて肩を落とす。

 

「とりあえず、中に入りましょう」

「そうだな」

 

 クロのいう宝の間は目の前にある階段の上の部屋。一段一段ゆっくりと踏み締める。どんなものがあるのか気になるのはそういう年頃なのだ。中がどうなっているかはわからない、だが不思議と恐怖はない。

 

 

「いくぞ」

「ええ!」

 

 

「「せぇーの!」」

 

 

 力いっぱいに寂れた扉を押す。扉から溢れる光に思わず目を瞑る。

 

 この高揚感は絶対に嘘ではない。

 

 

 

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