しがない一転生者の徒然 作:ふなぐち又兵衛
それは、夏のある日のことやった。
福島支部長の
逆にこっちからも、福島支部やら、宮城支部やら、恐山やら、道南支部やらに、
お中元として、探求ネキ*2はんが品種改良した桃贈ったったとか──ゆーちゃんが、
なんや恥ずかしそうに言うとったわ、
前世での親戚のちびちゃんたちを思い出しはって、
なにがなんでも、何かおいしいもん、食べさせてあげたくなるんやて。
「課題になるのはリンさんが持ってるデビルシフター特有の味覚*5だなあ、
おれもツテ広げて、そういう体質の子にも、対応できるようにならなきゃ」とも言うてたな──。
火山はんが音頭とって、いつものメンバーで集まって、
とある川辺でバーベキューしたとか──ものほしそーにあっちゃんがコーラ呷りながら、
もっしゃもっしゃと串に刺された肉と野菜を食べてはったな。
あっちゃんとおんなじ、お酒飲めん身ぃやっちゅーのに、
ゆーちゃんは終始やさしい目でみんなを見ながら、食事を楽しんどったみたいやったけど──。
ああ、風の噂で、ハワイから霊視ニキ*6はんと命子ちゃんたちが、
その氏子のコたちを連れて帰って来た、と耳にしたくらいの時でもあったんやな。
……ほんでゆーちゃんは小躍りしてはったわ、養豚を司る、豚の神さんの加護がついた肉なら、
デビルシフターのリンちゃんでも、おいしく食べれるんちゃうか?てな。
身内の話に戻すなら、あっちゃんが上層の中盤辺りにさしかかって、
鬼神楽を覚えて、シキガミをお迎えした頃や。
真っ赤な目ぇと、真っ白な髪と、なんやワシみたいなおっきな翼と、
頭から生えた一本のアホ毛が目立つ、控えめで甲斐甲斐しい、ええ子やった。
色白やし、髪も翼も白いから、マシロて名づけられとった。
あっちゃんだけやない、ウチらシキガミにも、よーなついてくれてなあ。
最初は、クソッタレの天使もどきや思たんか、うっすら警戒しとったミナちゃんと飯野くんも、
ちょっとお話するうちに、妹が増えたみたいな対応するようになってはったわ。
ゆーちゃんミナちゃんまーちゃんといっしょに、ナギはんが淹れてくれはった、
バチクソあんまいアイスカフェオレを、おいしそうに飲んではったな。
あと、コボルトに変身したゆーちゃんの頭を、無邪気に撫でとった。
ゆーちゃんもなんやトロンとしてはって、妬けたわ。
まあ、これまでどーり何かと騒がしい日々やってんけど、充実しとったと、思う。
あの夜までは。
まず最初に感じたんは、脂の焦げる臭い。
耳が拾ったんは、湿ったものがバチバチと爆ぜる音。
肌を無遠慮に撫ぜるんは、乾ききった、呪詛にまみれたMAGの交ざった、灼熱の風。
いぶかしんだウチが、目ぇ開けたそこには。
ミナちゃんが無数の銃弾に穿たれて、ハチの巣みたいになって、朱に染まってた。
ナギはんが素っ裸に剥かれて、生傷と、生臭く薄汚い、男の体液まみれになって、
虚ろな目ぇから血の涙を流して、力なくうずくまってた。
リズはんが離れたとこに立つ柱に縛られて、業火に撒かれて、金色の瞳を、
白い頬を額を、肌もあらわになった四肢を胴を、お餅みたいに爆ぜさせて、黒い炭になってくんが見えた。
まーちゃんが屠殺された家畜みたいに、バラッバラに解体されて、血の海に沈んでた。
天は真っ黒、地は一面の火の海の中で、飯野くんが、火山はんが、島宮はんが、
顔も五体もわからんくらい、めっちゃくちゃのグッチャグチャの、ひき肉と血の和え物みたくなってた。
和え物の正体が、その三人やて、ウチがわかった理由?
ブチ折られた銃やの、刀やの、砕かれた手甲やの、
いつも着てはったコートだの鎧だの上着やの残骸が、それぞれのかたわらに転がってたからや。
地獄や。ウチにはそうとしか思えんかった。
目ぇ凝らしたら、あっちゃんが、お迎えしたばっかのマシロちゃんと、
ふたり揃ってダルマみたいにされて、散らばった手足や翼に、
ガキの群れがたかって食い散らかしてるさなかで、オニの慰み者になってるのまで、見えてしもたしな。
ダメ押しに、ウチの耳は、こーゆーとこで、一番聞きたくない声まで拾いくさった。
ゆーちゃんの声や、ゆーちゃんの声や、ウチを呼ぶ、ゆーちゃんの声や。
それにつられて、ウチが、視線を向けた先には。
アル公の残骸とおぼしき、黒いカケラが散らばる中で。
おなかの中身を、金の髪の鬼に、ガツガツと食い散らかされて。
空っぽな目で、ウチを見返すゆーちゃんと、一心不乱に、ゆーちゃんを貪る、ウチの姿が、あった。
ああ、なんて、おぞましい。
──っは、なにゆーてんの、こう、したかったんやろ、ずーっと、なあ。
──これで、ゆーちゃんは、ウチのもんや、ウチだけのもんや、せやろ。
──なんせ、もじどーり、ひとつになってしもたんやからなあ!あーっはっはっはっは!!
ゆーちゃんの中身のカケラを口の端からぶら下げて、こっちを見た、
ウチの顔をした鬼は、そううそぶいて、ゲラゲラゲラゲラ嗤いくさった。
その夜から、ウチから、安眠の二文字は、消えた。
「……ひっどいクマやね、ゆーちゃん」
「ナナさんこそ、舞原さん顔負けだよ」
ウチが眠れんようになった頃、ゆーちゃんも、おんなじような夢しか、見られんようになってた。
黒い空と赤い地べた、濁ったMAGと、血の臭いの熱い風、
焼けた地面にバラ撒かれた男たちの残骸、嬲られ陵辱される女たち、
食い荒らされる自分、食い荒らす
身動きするどころか、まともに声も出すことかてできんのに、
ハラワタをむさぼられる痛みと感触と熱だけは、しっかり押しつけられとったそうや。
さて、こーゆー時、ウチらが執るべき手段はなんやろか?
人魚ネキ*7はんに、どーにか子守唄聞かせてもらう?
それやと根本的な解決にはならんわ、
そもそも子守唄歌ってもらうんに、ツテも、差し出せる対価も、あらへんしな。
となるとやっぱり選択肢はひとつしかあらへん、神主*8はんへの相談や。
マトモに眠れんツラさを、技術部謹製、人魚ネキはんの子守唄CDで騙し騙しして、
相談してから一週間ばかり経った頃やったな、ゆーちゃんとウチは神主はんとご対面しとった。
開口一番、神主はんが言いはったんは、こんなんやったわ。
──まず、僕からとれる、即座に解決できるような手段は、ない。
ウチが目ぇ見開いて愕然としとるのに、ゆーちゃんは神妙な顔を崩しとらんかった。
ウチがせっかちやったんやろな、きっと。
神主さんはひと呼吸置いて、以下のように続けはった。
──豆柴ニキの魂の奥から、呪詛がにじみ出ているようにしか視えない。
──まるで、内臓が、主の身体から勝手にはみ出して、主の首を絞めているような状態だ。
──おまけに、主従の、心身のつながりを介して、シキガミにまで呪詛が及んでしまっている。
──ただ、呪詛の根源を断ち切る為の、道筋をつけることなら、できる。
──つまり、キミたちふたりで、夢の中に入って、なんとかしてくるしかない。
──すまない。
「上等だ、つまり、今まで通り、押し込んで殴って殺してくりゃいいんですね」
神主はんの説明聞いて、ナギはんばりのクマを浮かべたゆーちゃんが、
かーいく尖った糸切り歯をむき出しに、好戦的な笑いを浮かべとった。
ウチは、その手を、
あったかくてちんまくてタコがゴツゴツ浮いた手のひらを、そっと握りしめることしかできんかった。
で、早速、神主はん立ち会いのもと、ゆーちゃんとウチは、枕を並べて、夢の中へ旅立つことになった。
せっかくゆーちゃんといっしょに寝られるっちゅーのに、
こんな色気もクソもない添い寝なんてイヤやわ、なんて軽口を叩く余裕もあらへんかった。
そもそも、ゆーちゃんもウチも、いつものハマ付き木刀やら、ナイフやら銃やらの、完全武装やったしな。
ほんで、目を閉じて、神主はんの唱える
頼れるものはお互いだけ。確かなものは、手の中のあったかさだけやった。
程なくして目を開けたら、そこは今までどおりの焦熱地獄やった。
いや、配役がちごとったわ。
毛皮被って片手剣サイズの棍棒で武装した原始人の女の子が、コート姿で猟銃を構えた眼鏡のハンターが、
刀と馬上筒を握りしめた鎧武者が、双眸に呪詛を湛えた黒い男装の麗人が、
小ぶりなメイスを左肩に預けて軽鎧を着込んだ三つ編みの女の子までが、ズラリと並んどった。
「ようこそ、早かったな?」
それらの中央におったんは、サバゲーに参加するんかってナリの、小柄な男の子やった。
せやけど、こんなんゆーちゃんやない、
ゆーちゃんはこんなひとを小馬鹿にしたよーな顔はせんし、嘲るようなものの言い方は絶対にせーへん。
それに、ゆーちゃんはウチの隣に……となりに……となりに?
「ナナさんを離せ」
「離させてみろ」
……なんでウチだけ、ポツンと離れたとこにある柱に縛られとんのや。
でも、声は、出せるな?
「ゆーちゃん!火山はんだけおらん!」
「知ってる!ニオイさえしねえ!」
「今日という今日こそ消し炭にしてやらぁ!クソ狗!!」
「イヌなのはテメエもだろうが!洗ってねえ臭いがキッツいんだよ!!」
ゆーちゃんの罵声を号砲に、一対多の乱戦が始まりよった。
デスバウンドと怪力乱神が飛び交い、反撃に出ようにも、
シキガミ込みでの三丁の銃による精密射撃がそれを許さず、焦れたところにデカジャが飛んでくる。
せめてもの救いは、耐性装備のおかげで、マハムドとマリンカリンは、不発になるとこやろか。
せやから、ナギはんとあっちゃんは、
それぞれ後方からのバフ剥がしや銃撃と、前衛での不意討ちに徹しとった。
それでも、そのふたりだけなら、どうということはあらへん。
ゆーちゃんからすれば、うざったいだけの豆鉄砲に、じゃれつく仔犬や。
ウチの目には、背後に回ったあっちゃんの脚狙いの薙ぎ払いを避けながら、
跳ねたゆーちゃんの左足が、伸びたあっちゃんの右肘を、踏み潰すんが見えた。
ああ、耳が痛い。
苦悶の声も、眼鏡ごと右目から頭部を串刺しにされ、
その勢いで首をへし折られた断末魔も、修行場異界で聞いたまんまやもん。
「んどくせな……」
「なら、はよ死ねや、ラクになるぞ?」
「
男女混声の雄叫びと発砲音にまぎれて、変声期前の声が、
粗雑な罵り合いを投げ合うのが、なんや虚しく響いとった。
木刀が振られて、それからすっぽ抜けた軽鎧姿の死体が、
即席の砲弾となって、毛皮に包まれた凶弾を迎え撃つ。
湿った重い音がして、即席の砲弾が叩き落とされた思たら、
次の瞬間には、木刀で繰り出された貫通撃が、
ふくよかな双丘を掻き分けるように、奥の心臓を穿っとった。
すかさず散弾銃が、あどけない顔をミンチに変えた。
銃声に掻き消されるはずの舌打ちが、ウチの耳には、妙にハッキリ聞こえとった。
「
亡骸に突き刺さったままの木刀やと間に合わん思たんやろか、
ゆーちゃんは片手剣サイズの細い棍棒を拾い上げて、どうにか渾身唐竹割りを受け流した。
雄叫びが男声一色になって、剛剣が執拗に首めがけて振るわれてるのに、
ゆーちゃんはなんとなくやけど、嬉しそうにしてはったんが感じられた。
「
亡骸から木刀を引き抜くと、即席の二刀流が、真っ向受太刀となって、剛剣を食い止めた。
頬に生々しいキズがついとるんは、顔をそむけてヘッドショットを受け流したからやった……顔?
かーええお口が、人間を一呑みできる大きさの炎を吐いて、
褐色の鎧武者がそれに包まれたんは、まばたき一つのあとのこと。
変声期前の雄叫びが、貫通撃を何度も何度も繰り出して、
焼かれながらも刀を振りかざす鎧武者と、その腰に帯びていた馬上筒を、滅多刺しにして打ち砕いとった。
「は、食いしばり持ちは全滅だ、ワガが
「それがどうした」
癪に触る嗤いに続いたのは、視界を埋め尽くすアローレイン。
矢が止んだあと、半弓を構えた有翼の白い女の子が、血がこごったような色の目ぇで、爆心地を見つめとった。
せやけど、その目も、飛んできた棍棒によって弾け飛んだ。
「
片ひざをついたゆーちゃんは、打ち倒した焼死体を傘に、生き延びとったようやった。
そして、身を起こした途端、ゆーちゃんが弾かれたように跳んだ。
「
……ああ、実際に弾かれて跳んだんやな、
木刀の一撃で、眼鏡をかけた頭部が爆散したのを確かめもせず、
ウチは、ザンマでグシャグシャになった脚が、着地までに、
ディアラマで復元されるんを、ただ見てるしかなかったんや。
ウチらの身内に、ザンマを使えるのも、
ザンマを
着地と同時に振るわれた木刀が、真正面からふたつめの心臓をブチ抜いて、
くずおれる黒衣に包まれた胴から引き抜かれ、晴眼に構えられた。
これで、一対一や。
それは、そう思てしもたウチに当てられた、バチだったんやろか。
「まーだだよ、じゃねえや、もーいいよ、だな」
手甲に包まれた拳の火龍撃が、背後から胴を穿ち、
雷龍撃の紫電を帯びた、サーベルの一閃が、貫通された胴から、首を斬り離しとった。
時代がかった、膝まで届く革の長靴を穿いて、マフラーをなびかせた火山はんと、
軍服めいた衣装の上からコートを羽織った、リズはんの仕業やった。
アギダインが頭部を失った小柄な胴を瞬く間に荼毘に付し、
残心を終えたサーベルが納刀されるのを見て、ウチの喉を絶叫が引き裂いた。
「あー、牝犬がうるせえ、でもま、これでおしまい、ってな」
せせら笑う甲高い声とともに、ウチの視界がぼやけてく。
乾いた熱風吹き荒れる焦熱地獄に、いつまでもそれが続くと、ウチもそいつも、そう思てた。
花火が炸裂した、思た。
色のついた火の玉の花弁の代わりに、ヒトガタのパーツがふたり分、バラバラに吹っ飛んで。
それにまぎれて、男の子の生首が、宙を舞って、
自分の鏡像の喉首めがけて飛んでいくうちに、毛皮を生やして。
防弾ベストの襟ごと、喉笛喰い破る時には、愛くるしいのに禍々しい、犬の首になっとった。
ゆーちゃん、首だけしかあらへんのに、ザンマで飛びよったんやな。
「おれが
──まめだけど、きばはあらあな、ごっつぉおさん。
噛みちぎられた首を失のうた胴がくずおれて、逆に豆柴の首は、巻き戻すように胴を生やしてく。
涙をたたえたウチの目には、世界が黒と赤から、
白と翠に塗り替えられてくんが、よく見えた。
「で、それからどうなったの?犯人は誰?」
アイスカフェラテを飲み終えたミナちゃんが、そう促して来はったから、ウチは端的に答えたげた。
「オルトロス」
ゆーちゃんの、前々世やて。
ウチがそう続けると、ミナちゃん筆頭に、みんなビックリしたんと、
妙な納得をまぜこぜにしたような色の母音を吐いとった。
ギリシャ神話に出てくる、ふたつ頭の、牛飼い犬。
ゲリュオンたらいう巨人が、飼っとった牛を強盗に来くさったヘラクレスに、
棍棒でぶたれたんだか、毒矢で射られたかして殺された、ワンコ。
せや、ワンコや、ゆーちゃんや。
せやから、ウチも、身内のみんなも、妙な納得が胸にあるんやと思う。
「しかし、なぜオルトロスが火の海にいたんだ」
「火ぃ噴きやがるからな*9」
「ああ、せやった、ゆーちゃんがオル公をいてこましてからは、
火の海やのーて、日当たりのええ牧場になってはったんよ」
飯野くんの疑問に応える火山はんに相槌を打って、ウチはしばし思い出す。
ホンマにのどかな牧場やった、
草をはむおっきな真っ黒い牛が、あちこちにのーんびりしてはるような、な。
あんなん見せられてしもたら、オルトロスはキライやけど、ヘラクレスも好きにはなれんわ。
俺らにも前々世がヘラクレスやった人がおるて?スマンな、無理なもんは無理やで。
こーゆー時は、お互いできるだけ関わらんように生きてく方がええと思うんよ、ウチ。
「オルトロスに、残酷な夢を視せる権能ってあったかな……?」
「そこは、ゆーちゃんとのつながりから、ゆーちゃんが見たないもんを、
無理やり引きずり出しとった、て言うてたわ……悪趣味やね」
旦那はんの得物でなぶり殺しにされた嫁はんやの、
助けが間に合わんかったifの姿やの、そら見たいはずないわ。
疑問が解消したゆーのに、飯野くんは、なんやしっぶいもの口に入れた時みたいな顔してはった。
「言うてたわ、ね。
ねえナナコさん、あなたたち、オルトロスと話をしたの?」
「せやで……ぷくく」
短くナギはんの質問に応えて、思い出し笑いを始めたウチに、みんな怪訝そうな顔してはった。
や、だってしゃーないやろ、なんせな、オル公の顔なあ。
「右の首は、コボルトに変身したゆーちゃんそっくりやってん。
本犬がまー、それをえっらい気にしとってなあ」
──テメエのせいだ!テメエのせいだ!!テメエの母親のせいだ!!
──テメエのお袋の先祖が!
──こんな気ィ抜けたマヌケ
「ワガのおっかあと乳繰り合った犬ッコロにお袋うんぬんを言わっちゃぐね!!!!
ワガに威厳なんかあっが!!このクサレ
って怒鳴り返したんですよね、おれ」
あらま、ゆーちゃんがコールタールが焦げたような色の目で、頬杖ついて吐き捨ててもた。
ウチは頬をつり上げて、やさしくゆーちゃんの頭撫でたげた。
そのおかげやろか、ゆーちゃんは鼻息をひとつ鳴らして、
「すんません、女の人がいるとこで、言っていい言葉じゃありませんでした」って頭下げとったわ。
呆れと苦笑いに弛緩した空気の中で、あくまで生真面目な表情を変えんリズはんが、
そっと手ぇ上げて訊いてきはった。
「ところで、ナナコに豆柴ニキ。その、首は、どうした?」
「……結魂首輪♪
ウチ死んでもゆーちゃんといっしょのままやて、オルトロスの左の首が言うてたわ」
「もうおれもナナさんも薄着できないよなって」
苦く片頬を吊り上げるウチと、への字口になったゆーちゃんの首元には、
炎ともたてがみともつかん、お揃いのアザが、うっすら浮かび上がってしもとった。
これは、オルトロスの最期っ屁というか、祝福、なんやろな。
目ぇ覚めて、居合わせとった霊視ニキはんに
ゆーちゃんにもウチにも、火炎無効が生えとったんよ。
ゆーちゃんにいたっては、衝撃耐性まで生えとった。
──これで、ザンマを踏み台にしても、脚折らなくて済むか?
そー皮算用しとったゆーちゃんが、神主はんのとこから帰る途中で寄った訓練所で、
ボンガボンガボンガボンガと、ザンマを踏み台にして宙空を跳ね回って、
「やった!跳べる!思ったより痛くねえ!跳べる!!跳べてるよおれ!!!!」
って大喜びしとったんは、かーえかったなあ。
……まー、そのあとすぐ、ザンマがザンダインに変化しはって、
「跳べるけど痛え!!怪我しねえけど痛え!!」って喚くよーになるまでの、短い栄華やったけどな。
アイスカフェオレの最後のひと口を流し込んだウチに、
とっくに自分の分を飲み終えとったまーちゃんが、ポツリと声をかけてきはった。
「いいなあ、一心同体になるのが、決まってるの」
「せやろ?」
「でも、そうなると、もう、ナナコと豆柴ニキ、その、仲良し、できなくなるよね?
それでよかったの?本当に?」
「……あ゙」
そらうっかりしとったわ、どないしょう。
・豆柴ニキ
のちに修行場異界の下層に至った辺りで、貫通撃が地獄突きに変化した
あと、ファイアブレスが、威力、射程距離ともに、マハラギダイン並みにまで跳ね上がった
子どもには、おいしいものをお腹いっぱい食べさせてあげたいよな、と常々思っている
悪い意味で感情がたかぶるというか、キレると、ところどころお国訛りが出てくる
・豆嫁
生きとるうちに満足いくまでしはったらええんや!との結論に至る(なお
死後豆柴ニキとの一体化チケットを得られたことは心から嬉しく思っている模様
・オルトロス
今作のラスボスにして生贄
本来の姿でバトらせられなくてすまない……
もう少しだけ、続くんじゃ、たぶん。