しがない一転生者の徒然 作:ふなぐち又兵衛
本編完結済みですが、初投稿です。
「父さん、実はおれ、超能力者、みたいなもん、なんだ」
首のまわりに赤い刺青を覗かせた息子は、私の目を見ながら、搾り出すように、そう言った。
「おとさん、ウチは、ゆー、とさんの、使い魔、なんです」
息子のものと同じ刺青を入れた息子の妻は、金髪の姿で、たどたどしく、そう言った。
「
ナナコさんが、
母は、髪の色以外は、
私が子供の頃と変わらない顔で、そう言った。
「あなた、どうしましょうね?」
母とは違った意味で、学生時代から変わらない顔の妻は、困ったように、それでも笑った。
「なあ
「「「
妻にこぼした私に、毅然とした母と、妻そっくりの表情で苦く笑う息子夫婦が、声をそろえて応えやがった。
私は、ため息をつくことしかできなかった。
「マジで保護眼鏡ニキに似てるな、豆柴ニキの親父さん」
「なんでも実際遠い親戚らしいぞ?豆柴ニキと保護眼鏡ニキは。
調べてみたら、お互いのひいじいちゃんが、従兄弟だったって」
「それ知った豆柴ニキのばーちゃんが、
保護眼鏡ニキと顔合わせした時に、大喜びしてたって掲示板で話してたな。
早死にしちまったじーさんの、若い頃そっくりだって」
「牡丹ネキにも、お互いの子を許嫁にしないか?って掻き口説いてたらしい。
少し前までは、なんと応えればいいかわからん話だったんだが……」
「これからはシキガミも子を産んだり孕ませたりできるぞ、って爆弾がキター!!からな……あ゙ー、腰が痛い。
でも、シキガミちゃんにねだられたら、その、なあ」
「もげろ」
「
「シキガミちゃんだいじにしろ、死んでも」
受付席に着いた私の耳に、聞くともなく聞こえてくるのは、
つい先日ここを訪れた、眼鏡をかけた長身の青年と、小柄だがふくよかな少女……じゃなくて、
若い女性のカップルと、私の母が引き起こした、ちょっとしたイザコザに関わる、噂話なのだろう。
豆柴ニキが私の息子、保護眼鏡ニキと、牡丹ネキ、というのが、
おそらくは、件のカップルを指すものだろうか。
『あの状態の』息子を指して、豆のように小さい柴犬とは、言い得て妙だ。
……しかし、飯野青年には、親近感しか湧かんなあ、
伴侶が、夜の繁華街を歩いていたら、補導されかねない容姿なところと、
伴侶と夜歩いていたら、すわ事案かと声をかけられかねないところが、特に。
私も飯野青年も、小児性愛者のつもりはないのだが。
話を戻そう、あの夏の夜から、数カ月経った。
私は、妻と母、そして、
職を辞した上で、故郷のいわき市から、福島市*1へと引っ越すことになった。
すべては、近年業績を伸ばしてきた大企業の複合体・ガイアグループの影、
ガイア連合なる秘密結社(いつの時代の子供向け番組の話だ!?)の、庇護下へと入るためだ。
超能力……じゃなかった、魔法と呼称される、不思議な力に目覚めてしまった、
私の母と、東方氏の奥方の、身の安全の為だ、と言われた。
全員に支給された金色のポイントカードが、ひたすらに、重く感じた。
──いや、なんだよ、魔法って。
そうつぶやいた私に対して、東方氏の娘が、手のひらから炎を産み、
息子の妻が、両手に電光を帯びさせ、無数の氷柱を生じ。
息子にいたっては、オオカミ男ならぬ仔犬男に変身したかと思うと、
花火めいた爆音とともに宙を駆け、口から紅蓮の炎を吐いてみせた。
手品?トリック?
聞かされたのは、種も仕掛けも、おまけに救いも無い話だった。
息子と東方氏の娘は、悪魔……それこそ、神話や漫画、
或いは近年盛んになったアニメや、テレビゲームとやらで描かれているような、
超常の力を操る、人喰いの怪物の生まれ変わり──息子夫婦の首に、
いかがわしい刺青を押しつけて来たのもその怪物の1匹だという、ふざけるな──。
母と東方氏の妻は、そういう怪物の末裔の、さらに傍流の子孫。
私の妻さえも、血をさかのぼれば、行き着く先は、
ドイツくんだりの、犬の頭に人の身体を持った妖怪であり、
息子が先程まで二足歩行の仔犬の姿をしていたのは、その影響、先祖返りと来たもんだ。
ダメ押しに、母の生家を本家ごと焼き払ったのは、
近年、海外で紛争とテロを繰り返すカルト団体である、メシア教、だという。
人を嬲り殺して喰らう妖怪変化を滅ぼす、或いは未来永劫閉じ込める、ここまではいいとしても、だ。
その為には手段を選ばず、同業他社ともいえる、母の生家のような、古くから続く一族を踏み躙り、
男は殺すか洗脳して奴隷として死ぬまで
女は性奴隷として、翼の生えた人型の怪物の慰みものとして捧げるなど、
こいつら、なんで滅ぼされていないんだ?という、淫祠邪教を地で行く有り様であった。
救いが無いことの上塗りとして、その淫祠邪教こそが、
裏の世界において、最強にして最悪の、害獣駆除業者だった、という話だった。
息子と、東方氏の娘、そして、廣井と名乗った三つ編みの女性──余談だが、三つ編みの女性が多い夜だった、
廣井女史と、東方母子とで、3人だ──の語る、極彩色のおぞましい与太話に、
憮然とした顔をしていた私の背中を小突いた母が、白髪だけは変わらず、若返った母が言った。
「北斗、
「オレも、オメも、有斗も、西国の、天狗の、
「有斗が
オレはそう思う、オレのおっ
オレのジッチ*3のジッチは、天狗だと」
「天狗の末裔が、クサレメシアンに、焼かっちぇ、滅ぼさっちゃんだ」
「こうなっだのは、滅ぼさっちゃオラゲ*4の
正直、信じたくはない、が、疑う理由も、また、ない、としか言えなかった。
何故母が若返った?何故息子が仔犬の頭と、人の顔を切り替えられる?
あまつさえ息子は、仕掛けも何も無いところで、爆音とともに宙を駆けることができているのに?
ああ、信じたくはない、信じたくはないが、納得は、せざるをえない。
……それにしても。
「オレも、有斗……孫みでに、跳んだり、火ぃ噴いたり、でぎるようになっか?」じゃないんだよ、母さん。
その妄言に、「んー、火を噴く方だったら、素質と鍛錬次第では、どうにか、ですかね?」と応えた、
この施設の責任者だという、廣井女史の返答は、頭が痛かった。
それにしても、エラく尖った歯並びだな、このお嬢さんは……。
息子が牧畜犬の生まれ変わりなら、彼女はサメやワニの生まれ変わりなのか*5?
ふと視線をずらせば、脇の方で「あ、なんか出ました」と、
東方氏の奥方が、手のひらを光らせていたのを見てしまったせいで、余計に頭痛がひどくなった。
東方氏の娘が騒いでいた、ハマとはなんなんだ。
「お母さん!これ洗濯の代わりに使えるやつ!」じゃないんだよ、眼鏡のお嬢さん。
息子はといえば、東方氏の娘の恋人(!?)だという、
髪も肌も白い、瞳だけは鮮血のように赤い少女にせがまれて、
ふたたび仔犬男に変身して、頭を撫でさせてやっているところだし。
いずれにせよ、口許を抑える妻と、目を見張る東方氏だけが、味方のように感じた夜だった。
……息子の妻?
母の質問責めから解放された途端、仔犬男と化して、白い少女に撫でられている息子を、
背後から抱きしめて、への字口になるばかりだったんだぞ?
「マーシーローちゃーん?ゆーちゃんはなー、ウチのやでー?」などと、
砕けた口調でのたまって、白い少女を、笑顔で威嚇しているだけだったのだから。
彼女がなんのアテにできるものか、冬場に煮魚を作ってくれる時はともかく、と、私は思った。
……私は
私が受付の席で回想に耽っていると、
息子とそう歳の変わらない若者たちが、依頼を果たしに出発するところだった。
そう、依頼だ。
端的に言えば、人間並みの知能を持つ、透明な空飛ぶ人食いトラの、駆除業者。
それが、私の息子夫婦の、そして、私の母の、現在の職業だった。
我が母の推薦のみならず、私の息子と、実の娘と、廣井女史、
そして、
奥方が同じ仕事に就かされることになった東方氏には、同情することしかできない。
彼に差し入れするべきは、胃薬か、酒か。
「……酒、だ、な」
酒だよなあ……なにせ、なあ。
私も、東方氏も、覚醒、とやらを、成し遂げなければ、ならなかったのだから。
がぢゃり、と、音が鳴った。
その時、私は、肩に食い込む、重い痛みに顔をしかめながら、隣を見た。
顔色を悪くした、大河ドラマに出演する足軽のような甲冑姿の、東方氏と目が合った。
どちらからともなく苦い愛想笑いを交わすと、足軽姿で妙に温かい槍*7を杖ついた私たちは、背後を見た。
後に続く私の妻と、東方氏の奥方が、初詣の巫女のような、和風の装束に、揃って身を包んでいた。
革ベルトで肩にかけた、どこかオモチャめいた小銃を度外視すれば、違和感が行方不明だった。
巫女装束ではなく、しかるべき制服を着せたら、高校生で通る。
通らないはずがない、なにせどちらも顔立ちが若過ぎる。
私の妻にいたっては、中学生で通るだろう。
妄念を追い払うために、私は眼鏡を外して、目頭を揉んだ。
ぼやけた視界の端で、東方氏も首を左右に振っているようだった。
背後からの含み笑いの二重奏が、耳朶をこそばゆくくすぐってくるのが、気恥ずかしい。
「はあ……北斗ぉ、有希さん、
あんずさんも、いづも通り、シャンとしでけさい」
先頭からは、薄い苛立ちを噛み潰したような、母の声。
はて、いつの間に、東方夫妻を名前で呼ぶようになったんだ、このひとは。
「わりけど、『ヒガシカタ』は、ちっと言いづれ。
あんずさんには、許しは得た」
いや、許しは得た、じゃないんだが……「構いませんよー」じゃないんですよ、奥さん。
若返ってからこっち、母の大雑把かつ強引な面が、以前より色濃く出ているように感じる。
「
(すみません、馴れ馴れしい母で)
(いや、お気になさらず)
「聞こえてっつぉ、北斗……笑わねでけろ、有希さん」
あと2年もしないうちに古希だろうに、この地獄耳め。
「すみません、ふたりとも、唸り声が、そっくりで」じゃないんだよ有希。
ああ、馬鹿馬鹿しくなってきた。
白髪頭の巫女娘に連れられて、足軽おじさんふたりと、
かたやアラフィフ、かたやアラフォーだったかの、既婚者子持ちな巫女さんふたりが、
凶器片手に、薄暗い洞窟をピクニックだなんて、何の仮装行列なんだ、これは。
と、私がいい加減うんざりしてきたところで、母がぴたりと足を止め、
「
あんずさんは、下がってけさい、オレ
有無を言わせぬ圧を込めて、短く指示を出した。
東方氏がそれに応えるように訊ねる声が耳に届く。
「構えろ、とは?」
「右の手足を後ろさ引げ、
右手は強めに握っちぇ、右脇から槍を突き出せるようにしろお。
タマか。タマなのか。
そう笑う余裕もなく、私たちは言われた通りに槍を構えた……今でも思い出せるくらい、へっぴり腰だったが。
「おら逝げ!!」
母が高らかに叫ぶと、巫女装束の懐から取り出した白い何か──後で訊ねたら、
清めの塩だったらしい──を、目の前の空間に撒き散らす。
すると、形状しがたい耳障りな鳴き声とともに、
白く染まった空間を塗り潰すように、ぼやけた緑色の塊が、唐突に現れた。
「スライム!」
「どうすればいい!?」
「毒や……煙幕?を撒きながら突っ込んできます!
とにかく突いて!突き刺してください!!」
東方夫妻の怒鳴り合いが暗がりに響くも、それを押しのけるくらいに心臓がうるさかった。
「
飛び退いて緑の塊から距離をとった母の声につられるように、私は槍を突き出した。
穂先が埋まり、緑の塊が震え、再び聞くに耐えない声が響く。
東方氏も槍を繰り出し、緑の塊の、赤みがかった部分に、
深々と穂先が埋まり、ひと際甲高い悲鳴が、頭蓋を揺さぶった。
「ええど鋼一さん!北斗!オメも目ぇ突け!
母が喚くのに従って、私は槍を引き抜こうとした。
だが、緑の塊に半ばまで埋まった穂先は、容易に抜けるものではなかった。
「抜けない!?抜けない!!」
「なら槍捨てろお!刀抜けえ!!刺せえ!!」
と、怒鳴り合う私と母を引き離すかのように、破裂音が鼓膜を貫いた。
さらにもう一度、二度、三度。
しばしの静寂が訪れて、母がポツリとつぶやいた。
「…………見事」
人間大の緑の塊……赤いふたつの目玉──なお、左目に当たる部分は、
東方氏の槍に突き潰されていた──と、半開きの大きなへの字口を備えた、
醜悪にデフォルメされた人面もどきが、赤い燐光に姿を変えて、虚空に溶けていく。
槍を引き抜こうとしていた私は、みっともなく尻もちをついてしまった。
「大丈夫ですか、あなた?」
振り向いた私の眼鏡越しの視界には、巫女装束姿の妻が、
小銃を抱くようにして、頬を上気させて、はにかんでいた。
「あ、ああ……」
それから、私は母に叱咤され、腰が抜けたことに気づくまで、妻に見惚れてしまったのだった。
──まったく、よく生きてたもんだ。
近くに人目がないのをいいことに、私はため息をついた。
妻がスライムを射殺した後、追加で数体のコダマなる悪魔を討伐して、
私たちは無事全員が覚醒し、生還することができた。
視力がだいぶマシになり、体力が自覚できるほど漲っているのはありがたいのだが、その、なあ……。
問題は母である。
髪の色以外は、私が小学生かそこらくらいの頃の外見にまで若返った母である。
福島支部から支給された、むやみに頑丈な巫女装束を身にまとい、
近頃は紺色のドレスの上から、銀色の鎧を着込むことが増えた、東方氏の妻とともに、
息子の使い魔だという、人語を話し地を駆け空を舞う、
犬を模したサラブレッドサイズの黒いハニワにまたがり、
福島県に発生した異界に突撃しては、ふたりと1体で、血にまみれて帰ってくる*8母である。
「ゴスノ父ホクトヨ、オマエノ母ヒノエハ、オマエノ息子ト同ジク、
キズヲ負ウコトニ対スル、タメライトイウモノヲ、知ラナイノダナ」と、
低いがよく通るバリトンでのたまう、アルトと名づけられた、
アガシオン──私も、妻と、東方氏の協力のもと、調べてみたのだが、
彼のような大型のアガシオンは、かなりの変わり種のようだ──が、呆れたように言う、母である。
しかし、その問題児な母と同列に並べられて、使い魔にまで呆れられるとは、
私の息子は、山梨県や、北海道や、新潟県で、何をしているのだろうか。
ひとまず元気であるとは思いたい。
妻の携帯端末に届く、息子夫婦が笑顔で寄り添う写真データと、
福島支部の私たち宛てに送られてくる白い恋人だの、
魚沼市にあるという、菓子店の贈答品だのから考えて。
・豆父(47)
ツッコミで苦労人の語り部おじさん
覚醒して視力がだいぶ、体力がかなり回復したことに戸惑っている
もう切った張ったせにゃならん異界には絶対に行かないぞ、絶対にだ、と決心しているが……
殺しても死にそうな気がしなくなった母と、見え隠れする妻や母のファンたちが怖い
・豆母(47)
福島支部若作り金札トリオの幻の3号
初期スキルは精密射撃
一部の黒札からは姿を見かけたら幸運が訪れる妖精のような扱いをされている
夫と同じ職場で働けることを楽しみつつ、姑と新しくできた友人の身を案じる日々を送る
・豆婆(68)
福島支部若作り金札トリオの力の1号、本名
初期スキルは吸血と突撃
息子と同僚の夫に桶側胴着せたり、同僚と息子の嫁に巫女装束着せたりした人
近い将来、ガイア連合沖縄支部の量産型工業妖刀にドハマりする
・黒父(40)
このあと目茶苦茶若返って困惑した
鏡を見てみたら瞳が娘とその
なお妻からは大絶賛を受けて今日も受付仕事に勤しんでいる……が、前線要員になれないことを気にしている
福島支部を訪れる女性のデビルハンターからは好評だが妻一筋
・黒母(41)
福島支部若作り金札トリオの技の2号
初期スキルはハマとディア、ほどなくしてタルカジャを覚えた
一部の黒札から華美な装備を贈られ、夫に浮気と受け取られてしまわないかと困っている
露出が少なく頑丈な装備は、福島支部の精査と夫の了承のもと、ありがたく着用している
・一部の黒札たち
脱毛ネキが遠回しに率い、チェストニキが睨みを利かせているためか、
かーなーりーお行儀の良い*9アイドルオタクじみた俺たち
もう豆柴ニキとそのお母さんとおばあちゃん、クロアネキとそのシキガミちゃんとお母さんと、
6人でユニット組んでアイドルデビューしてくれね*10?と願う日々
荒事書くのマジしんどい……。
だから後書きで悪ノリしてもいいよね?と思って、やらかしました、ご了承ください。