しがない一転生者の徒然 作:ふなぐち又兵衛
2025/08/08追記、マカーブルさんからふたたびFAをいただきました!
後書きの方に掲載させていただきます。
「宗門改めである、神妙にしろ」
扉を開け放ちながら、白い髪を伸ばした、中学生くらいの女の子が、氷像じみた面持ちで、そう告げました。
それはある夏の明け方、なまぬるくよどんだ空気がわだかまる、教会の中でのこと。
居並ぶ派手な格好をした女性たちと、青と白の衣装に身をまとった白人男性の集団。
彼らの周囲に舞うのは、背中の翼をはためかせて宙に浮かぶ、
黒革のベルトで胴体を幾重にも戒めた、金髪の白人女性を思わせる、異形の群れ。
「鳥
「こんばんは……と、おはようございます、の方が適切でしたね。
迷える仔羊の前には、神の家はいつでも開かれていますが、いかがなおつもりですかな?
異教に誑かされたのを悔いたのなら……失礼、改宗の申し込みなら、歓迎いたしますよ」
集団の中から、悪趣…豪奢な身なりをした年嵩の男性が一歩前に出ながら、
慇懃無礼をカタチにしたような声で、そううそぶきました。
先頭の巫女姿の彼女を、ドレスの上から胴鎧を着込んだ私を、
私と似た装いに身を包む私の娘とそのパートナーを、
順繰りに舐め回すような視線が、実に不快でした。
男性の背後からも、似たような視線をいくつも感じます。
こちらには、未亡人と既婚者と、未成年しかいないのですけどね。
彼は、彼らは、それでも聖職者のつもりなのでしょうか。
「お母さん、連中は聖職者なんかじゃないんだよ、
性職者……いや、生殖者なんだよ、ボクもまめ…ゆーとさんも、見境なしの」
などと、娘が以前、口調だけはおどけながら、
イチゴが潰れたような色の目で吐き捨てていたのを思い出して、
私は取り繕った真顔の下で、そっと奥歯を噛み締めました。
「改宗なんぞせんよ、ウチは代々南無阿弥陀仏で済ませてきたんだ。
誑かしたと言えば、オマエたちが誑かした商売女をまとめて返せ、
そうすれば一応は生かしておいてやる」
「誑かした? 真実の信仰に目覚めさせてさしあげたのですがね、」
「
断ち切るようなトーンの低い声に、その場に居合わせた女性たちと、
白人集団のほぼ全員、そして宙に浮かぶ異形たちの半数以上が、
冬のドアノブに触れた時のように、身を竦ませるのがハッキリと見えました。
……私の後ろで、娘のパートナーの子も、同じように縮こまってしまっているのは、
その……ハイ、慣れてください、私も慣れましたから。
「害鳥の力をカサに来て、男を殺して土地を奪って、
女子供を好き勝手にコマすのが、信心の証になるわけがあるか。
そのザマで人間がましくしてるんじゃねえ、
どいつもこいつもシラミみたいな
或いは眉間にシワを寄せ、或いは「未開の地の仔猿が」などと口走る白人集団を尻目に、
ここで言葉を切りつつ視線を上げた、彼女の口から吐き捨てられたのは。
「オマエたちもオマエたちだ、神さんが人間をオマエたちのエサにしていいって言ったのか?
ウチの孫並みにお粗末なモンを好き勝手に突っ込んでいいって言ったのか?
こないだお粗末なモン生やしたウチの孫の、知り合いのシスターが言ってたぞ、
『天使たちは皆、奉仕する霊であって、
救いを受け継ぐことになっている人々に仕えるために、遣わされた*1』ってな?
つまり、オマエたちは人間の使いっ走りでしかなくて、
人間の女を食い物にするなんて、もってのほかってことじゃないのか?
オマエたちの先達が人間の女をヤッて産ませたガキどもは、
バカみたいに大食いではた迷惑だってんで、洪水で一斉処分されたんだったよな?
商売女を騙くらかして腰振ってる暇があったら、
御大層な羽を手羽先にして親を亡くした子供に食わせてやれ、
手羽先ついでにウチの孫並みの逸物ももぎ取って、鶏の餌にでもくれてやれ」
立て板に水とはこのことでしょうか。
彼女による異形たちへの糾弾に、その場の空気に亀裂が入ったような錯覚を覚える一方で、
「お労しや 豆上」や「おばあちゃん、下品です」と、
娘とそのパートナーが、弱々しくぼやくのが私の耳に届きました。
その、黒井くんは、真面目で人当たりもやわらかい、好感が持てる子だとは思うのですが、
いささか粗相をしがちといいますか、ナナコさんに対する甘さが過ぎるのが、たまにきずだと思います。
「私は野良犬を産んだ覚えも、産んだ子のお嫁さんに迎えた覚えもないんだけど?」
「いくら
人間まではやめないでちょうだい、ナナコさんも」
と、とある粗相の一件のせいで、息子さん夫婦を正座させた
無表情でふたりを見つめて淡々と言い聞かせていたのは、その場に居合わせた全員が忘れられないと思いました。
……娘や、黒井くんの同類だという若い人たちが、
「有希ママ……」「有希しゃまぁ」「踏んでください」「パパン裏山」
「パパンもああしてもらったんだろうか」「
なんてうっとりしていたのなんて、私は見てません、見ていないんです……
「人の子よ、口上はもういいでしょう、頑なな幼子を、正しき教えに導く時間です」
宙を舞う異形の群れを割って、赤い甲冑が目につく、槍と盾で武装した個体が、ぬるりと姿を現しました。
耳に快い声のハズなのですが、怒りに震えているせいか、おごそかな雰囲気を台無しにしています。
何故でしょうか、むしょうに夫に逢いたくなりました。
きっと、目の前の赤ダルマが、私より
だというのに。
「そうだな、ワタシもペラを回すのはもう飽きた」
私とは対照的に、平静を保ったままの調子で、先頭の巫女姿がポツリとつぶやくが早いか、
「「座標指定」」
「マリンカリン」「トラポート」
娘とそのパートナーの声が重なって、その場に居合わせた派手な身なりの女性が、
ひとり残らず姿を消しました。
「貴様ら、何をした!?」
「洗脳の上書き」
「人質の回収です」
突然のことに狼狽した年配の男性の叫びに、ふたりが端的に応えるのを尻目に、
コキコキと首が左右にかしげられたのにあわせて、長い白髪が流れるようになびき。
「ふたりとも、あんがとない。 んだば、」
そろそろ逝げえ!!
いつも通りの
雄叫びに怯む白と青の集団、そして動揺する天使 エンジェルの群れ、
弾かれたように剣を構える天使 アークエンジェルが10体ほど、
十字架を戴いた杖を槍のように構える天使 プリンシパリティが2体。
そして。
「同胞たちに人の子らよ、狼狽えることなかれ」
天使たちのリーダーなのでしょう、赤い甲冑姿の天使 パワーが、
右手の槍を、ヒノエさんの胴体めがけて繰り出しました。
「剣が重い……!?」
「ただの瓦礫でこんなキズができるものか!?」
「あの異端め、悪魔でもないのにタルンダとラクンダを同時に使えるのか!
天使様が言われた通りに狼狽えるな! タルカジャとラクカジャを重ね掛けしろ!! スクカジャもだ!」
「あのオジサン早口ぃ」
「させると思いますか?」
並ぶ長椅子を蹴散らし、破片を周囲に飛ばしながら刃と穂先を交えるひとりと1体を挟んで、
私たちの対岸で怒鳴り合うメシアンたちに向けて、娘のパートナー…マシロさんが、
引き絞った小ぶりな弓から、ひと筋の矢を射掛けました。
軽口を叩きながら、私の娘である明日子も、それにあわせるように、
手のひらに収束した魔力を、力ある言葉とともに解放します。
「アローレイン」
「百麻痺針!」
重なる高い声と、耳障りな着弾音を伴って、時折閃く尖った光の群れを孕んだ、
宙を奔るうちに無数に分裂した矢の雨が、青と白の集団を呑み込みました。
だというのに。
「え゙、あんまり効いてない!?」
「莫迦め、我らの母国は銃社会だ!」
「御使いもどきの
「未開人の猿真似弾幕なんぞ効くか!!」
「動けなくなった者は内側に引き込んで守ってやれ!」
──うわあ、
額や四肢を薄赤く染めながらも元気いっぱいな白い野蛮人の群れに明日子がぼやき、
マシロさんが目尻に涙を浮かべ、私は黙ってタルカジャを発動します。
「エンジェルたちよ、人の子らを癒やしなさい。
アークエンジェルたちよ、タルカジャを人の子らに、しかる後にアギラオで弾幕を張りなさい。
異端の娘たちは、最悪
「ざっけんなこのザリガニ野郎!! ボクにサカるなら従順な美ショタになってからにしろ!!」
「そうです! ますたあの赤ちゃん部屋はわたしが予約済みなんですから!!」
「もう勝ったつもりで皮算用してんでねえ!! オラあまだピンピンしてっつぉ!!」
パワーが淡々とつむぐ戯言に、明日子が右手の中指を立て、マシロさんが喚き散らし、
ヒノエさんが槍を振るうパワーと大振りなナイフ…剣鉈で斬り結びながら怒鳴るのが、
魔力をせっせとあるべきカタチに練っている私の頭には、非っ常に不快に響きます。
とりあえずこのふたりにはお説教ですね、生き延びられたらですが。
「ふたりとも、真面目になさい」
「「アッハイ」」
自分でもげんなりするような低い声に弾かれるように、ふたりがそそくさと私の前に立ちました。
ほとばしる業火が私たち3人に襲いかかり、私の栗色の髪を、明日子の黒髪を、マシロさんの白髪を、
それぞれの五体ごと、マシロさんの鷲を思わせる純白の両翼をも炭化させる……。
そう思っていたのでしょう、彼らは。
炎が消えたあとには、私たちが3人揃って、無傷で立ち並んでいました。
「持っててよかった火炎無効マント!」
「バーナーニキさんありがとうございます!」
「はしゃがないの。
……では、お返しさせていただきますね、熨斗をつけて」
「────」
「構うな、総員、撃て」とでも、先ほどの年配の男性が、英語で命令しようとしたのだとは思いますが。
先程の光景とは逆回しになるかのように、うっすら蛍火めいたライトグリーンを帯びた横殴りの雷が、
メシアンの集団とエンジェルの群れの一部を薙ぎ払い、後者をMAGの残光に帰しました。
前者も装いを青と白から黒の濃淡にお色直しを済ませ、感電して倒れ込み、時折痙攣するばかりです。
ああ、スッキリしました。
「「…………」」
「明日子、マシロさん、征きなさい、お掃除開始」
「「イエス、マム」」
そんなドン引きしてますって顔でボーッとしていられる暇はないのよふたりとも、
今回は壁になってくれる
「わたしの知ってる雷龍撃じゃないです」
「ボクの知ってるマハジオじゃねえ……ゼクスカリバーだよあんなの」
「ゼクス、カリバー?」
「どっかのゲームに出てくるワイバーンの使う豪華な雷龍撃もどきかな? 痛いし遠くまで届くヤツ」
「はえ……」
「
そもそもカリバるのはジャンヌじゃなくてアルトリアだろうに……*2」
「明日子?」
「ハイただいま!」
作業用のジャンプスーツ姿で目つきと八重歯がやけに鋭い、それでいてとても人懐こい背の高い男性と、
彼に匹敵する上背があり、男性用の喪服じみた身なりで、目の下にドス黒いクマを湛えた穏やかな女性から、
それぞれ受け取った、耐火性の外套と、帯電性の籠手。
もとい、火炎無効の防具と、私のMAGや外部の電撃魔法を吸って任意に電撃を放出できる、攻防一体の武器。
実に便利で、ありがたいと思います。
ふたりともかなり威圧感の強い容姿ですが、一般のデビルバスターや、
一部の黒札の人とは違って、私の夫や、黒井さん夫妻にも、やわらかく接してくださいますし。
そういえば、そういう一部の黒札の人は、九州出身らしき色黒な若い男の人に、
訓練所に引っ張られていってからは、別人のようにおとなしくなっていましたっけ。
「……っと、私も真面目にやらないと、ですね」
娘の、娘の先輩たちの威を借る狐なんかにはなりたくないですし。
──んー、お母さんはキツネ耳も似合いそうだけど、やっぱりイヌ耳はもっと似合うかな! ルーラー顔だし!!
先日、何を血迷ったのか、漫画片手に娘が口走ったうわ言を頭から追い出して、私は足を踏み出しました。
紫電に灼かれて、異臭と余熱を帯びた室内の空気に、鼻腔を突かれながら。
先程の悪趣味な男性が生きていればいいのですが、できれば抵抗できない程度の、虫の息で。
自然とこう考えてしまう辺り、我ながら、遠くに来てしまったものだと思います。
あらためて、夫に逢いたくなりました。
続きは近いうちに。
前後編とか生まれて初めてなんじゃが。
イヤでも豆柴ニキの里帰りの話と豆嫁さんの義実家初訪問の話は前後編だったか……。
なんにしても、荒事を書こうとすると、コレジャナイになるのが恥ずかしいです。
こちら、マカーブルさんよりいただいた挿絵となります、
マカーブルさん、重ね重ね、ほんとうにありがとうございました。
戦場後の教会でこちらを振り返るクロアネキのママン
【挿絵表示】
過激派をマジでカリバる5秒前
【挿絵表示】
争い終わって日が昇り
【挿絵表示】
ひと仕事終えた後のよう
【挿絵表示】
……あなたのような高校生の娘がいるアラフォー既婚者がいますか!!(膝をついて両手を組みながら)
そして相棒は巫女装束姿で白髪を伸ばしたロリババーサーカーだったり、
両性具有な娘と、そのパートナーがついてきていたりする、と。
なんという属性の過積載パーティーであることか。