「殿、お逃げください!
斯様に突然の謀反では、
「だから、何度も言っているだろう。
その油断こそが、惟任の謀略だと。
今までどんな時でも、金ケ崎の時でさえも脱出した父上が、あっさりと亡くなられたのだ。
避けようとしても、必ずや、無惨で不名誉この上ない最期を迎えるだろう」
20代くらいの若武者が、1人、また1人と槍で敵を薙ぎ払いながら、炎に巻かれようとする廊下を歩いていた。
そのすぐ後ろを、敵と炎を器用に避けながら、家臣らしき男がついている。家臣とはいえど、白い小袖にある家紋は
1582年、京の二条御所で、
ちなみに家臣の男の名は、
「しかし……、殿が亡き後に、一体どなたが織田を、いや天下を守るのですか!」
長益の声は、悲痛に満ちていた。しかし信忠は、冷静に言葉を受けた上で返す。
「さぁ、知らん」
冷静な口調でこんなことを言うのだから、思わず長益も黙って、信忠の顔を見つめた。
「もう既に、俺らは黄泉へ片足を突っ込んでいる。
今更、今生に関わることもそうはないだろうよ」
信忠はそこまで言うと、足をとある場所で止めた。そこは、廊下ではない。広々とした空間で、多くの家臣たちが必死になって戦っていた。
その様子を見た信忠は、不意にフッ、と笑った。程なく、父親にも負けない大音声で、こう叫んだのだ。
「そなたらの働き、誠に大義なり!
今生でその働きを称賛することは叶わないが、来世でこそ褒美を与えよう」
その言葉を聞いた家臣は、一人、二人とまた笑い、自ら敵の方へと駆け出して行った。
「……そろそろか」
いつの間にか、敵も長益ら家臣も、信忠の前からいなくなっていた。炎はより激しく燃え、息をするのも段々と苦しくなり、両目から自然と涙が溢れた。滲む視界の中、信忠は腹を切った。
その瞬間。
信忠は、奇妙な空間にいた。
◯ ◯ ◯
その空間は、永遠に続くかのようなほど長い廊下だった。白い壁には所狭しと扉が並び、その扉の種類は無限だった。
信忠から10mほど先には、横長い机があり、どうやら1人の男が座っていた。男はチェック柄のシャツとネクタイ、ベストを着ており、眼鏡をかけていた。さながら、一昔前の役所勤めの人のようだった。信忠から見て机の右端にある整理券を取る機械が、その雰囲気を更に醸し出していた。
とはいっても、信忠は戦国時代の武将である。
場違いな、いや時代違いな光景に意識が釘付けられて、涙も枯れ、腹から血がどくどくと出続けることに気づかないまま、信忠は無数の扉のうちの1つに吸い込まれていった。
試しに書いてみました。続きを書くか少し迷っていますが、不定期更新の予定です。