刃物語   作:全智一皆

2 / 3
根から育ち
枝から実り
いつかは花へ

配点(完了)


第一話『同年の学生達』

 

■  ■

 錆に課せられた制限は二つ。彼はそれを受け入れ、そして―――さらにもう一つの制限を自ら課せた。

 一つ、全刀流の奥義の使用禁止。

 二つ、全刀流の攻撃技使用禁止。

 そして三つ―――向井・鈴を自らで運ぶ事である。

 

「じゃあ、俺は向井を運ぶよ。ペルソナ、良いか?」

「……」

「ありがと。向井もそれでいいか?」

「え、あ、う、うん。でも、な、なんで…?」

 

 鈴に限らず、それはオリオトライも含めた全員も抱いた疑問だった。

 奥義も攻撃技も使えはしないけれども、それでも戦う事は出来る。彼の『剣術』が扱えないというだけの話で、別に彼自身が『剣技』を振るう事に関しては何ら問題はないのだ。

 

 ―――全刀流。全ての刀の流れと書いて、全刀流。それは彼だけに扱える、()()()()()()()()()()()()()()

 或いは、()()()()()()()()()()()()()()()()と言うべきなのだろうか。

 万物一切を刀として振るう事が出来る剣術。それは正しく文字通りの意味であり、決して比喩などでは断じてない。

 全刀流とは、本当の意味であらゆる全てを刀として振るう剣術。より分かり易く言うのであれば―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 それを扱う彼であれば、例えそこらに落ちている石ころだろうが、折れた木の枝であろうが、はたまた髪の毛一本であろうが、その手に握ればそれだけで一切の例外なく『刀』としてそれを振るう事が出来る。

 にも関わらず―――彼は、自ら戦闘する事を放棄した提案を出した。

 

「いやぁ、もうそこまで禁止されたら攻撃する必要もないかなって。前みたいに色々壊すの御免だし。そもそも俺、あんまそういう得意じゃないし……」

()()の癖してマジ何言ってんだろうなぁ、この人)

 

 “副長・錆灰燼”と書かれた腕章の事など知らんとばかりに、錆は苦笑した。

 剣士らしからぬ発言だが、生徒達(特に戦闘を主とする者達)は『お前は何を言ってるんだ?』と言わんばかりの表情で錆を見る。

 この世界、と言うよりはこの世界の教導院には、『総長連合』という仕組みがある。

 そもそもとしてこの世界における『教導院』とは、生徒達が通う学校という意味を持つ単語一つという訳ではなく、その国における軍隊を指している。

 『総長連合』はその教導院の一部署にして、その国における『軍』に相当する組織であり、戦争関係や諜報などの情報や権限を持っている。

 長を『総長』、つまりは『総長連合』において一番の発言力と決定権を有した、事実上の軍の総司令官となる地位。

 それに次ぐのが『副長』―――その国における最高戦力が就く地位であり、現状、錆が就いている役職の名前でもある。

 

「副長の癖して何言ってるのよ。戦闘のスペシャリストじゃない」

(言っちゃうんだ!? 皆敢えて言わなかったのに!)

 

 オリオトライは堂々と言う。お前武蔵の最高戦力だろ? なんでそんなに弱気なんだよ巫山戯てんのか? と。

 オリオトライから見ても、錆は強い。それはもう凄まじく強い。

 ぶっちゃけて言えば、錆灰燼VS武蔵で真正面から戦術もクソもなく正々堂々と戦う事を想定した場合、七割で錆が勝つと言っても過言ではないくらいには強い。

 全刀流という特殊な剣術は勿論の事、彼の剣技は武蔵以外の国と比べても圧倒的だ。他国にしっかりとそれが認識されていない事が、今でも不思議ではない程に。

 

「いや、それ皆が推薦したからじゃないっすか。俺が望んで就いた訳じゃないし」

「でも拒否もしてなかったでしょ?」

「そりゃ圧倒的多数決の暴力と総長の所為で無理通されましたからねぇ!?」

「いやいや、カイ殿が最強なのは事実に御座るよ。自分、ぶっちゃけどれだけ策を弄しても勝てる気しないで御座る」

「よっ、『完刀剣聖(コンプリートセイバー)』!」

「やめろその字名(ルビ付き)で呼ぶな! クソ恥ずかしいんだぞ!?」

 

 手で顔を覆う錆を、よしよしとフォローする鈴。友人からの慰めに涙が出そうである。

 完刀剣聖―――コンプリートセイバー。錆灰燼という人間に与えられた字名―――異名の様なもの―――であり、『全刀流』によって彼が全てを刀として扱え、その剣技の腕も高い事から名付けられた名前だ。

 どちらかと言えば名誉なのだが、錆本人としては非常に恥ずかしいらしい。

 

「とにかく、そこまで縛られるなら戦う必要ないだろ? だったら、もういっその事戦うの諦めて鈴の車にでもなろうかなと」

「あらやだ灰燼ったら! 結構前からムッツリだとは思っていたけれど鈴に向かって言外に『さぁ、俺に乗れ!』って意思表示するなんて! とんでもないド変態ねアンタ!」

「あーマジ本っ当にやだお前! なんで姉弟揃ってそうも人の発言を全部エロい方向に持っていくんだよ!? 煩悩も大概にしろやマジ! 滝じゃなくて鐘に打たれて来い!」

「それもう死刑宣告も同じだろ!?」

 

 うんざりとした様に錆が吠えるのは、毛量凄まじい長髪と北半球を大胆に晒した格好の女―――武蔵の総長にして生徒会長、葵・トーリの血の繋がった姉である葵・喜美である。

 姉弟揃って煩悩まみれのヤベー奴、しかして誰よりも乙女にして一人の女だ。

 

「バカな事言ってんじゃないわよ! この賢姉が、エロ系とダンス系の契約を幾つしていると思っているのかしら! 人間はエロスに飢えているのよ、特にこのクラスは!」

「勝手に巻き込むんじゃねぇよ煩悩野郎が! 何度も何度もそういうの興味無ぇって言ってるだろうがッ!」

「喜美! カイくんが困っているでしょ! それに鈴さんにも失礼ですよ!」

 

 ヒートアップする二人を止めたのは、紺色の髪に桃色の眼と翡翠の義眼のオッドアイを持った学生服姿の巫女―――浅間・智だった。

 浅間神社の巫女を務めており、それでいてこの武蔵において一番最初に()()()()()()少女でもある。

 

「わた、わたし、は、だい、じょうぶ……だよ」

「ですが……」

「いつ、でも……うぇる、かむ、だよ…!!!」

「鈴さん!?」

「こんの腐れ野郎がテメェの所為で向井が要らん言葉憶えちまったじゃねぇかぶち殺すぞ■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「ストップ、ストップストップ!!!! 灰燼くんストップだ、それ以上はいけない!」

「カイチョーって、鈴ちゃんが絡むとやっぱり熱くなるよねー」

「喜美にあそこまで強気に出られるのカイくらいよね。こっちとしては、カイと鈴が絡んでても何らネタ上がらないんだけど……もういっその事、カイでNTR本でも作ってみようかしら」

 

 錆は鈴が関わると熱くなると指摘した金髪微笑少女はマルゴット・ナイト、その隣で錆を主役としたNTR本でも書くかと恐ろしい発言をした黒髪ぺったん少女はマルガ・ナルゼ。

 互いに同性愛者の恋人同士であり、ナルゼは同人作家でもある。

 が、錆はそれを許さないらしい。

 先程までの感情の荒れようは何処へやら。完全に感情を殺し、無表情かつ冷たい目付きで懐から取り出した木の棒を構えてナルゼへと向けていた。

 NTR許さない慈悲はない。そもそも鈴を対象にするのも断固として許せない男であった。

 

「文字通り刀の『錆』にしてやろうか?」

「あらやだマルゴット、コイツ本気だわ。木の棒握り締めて今にも本気で斬り掛かって来そうだわ助けてちょうだい私の翼アレで斬り捨てられちゃう」

「ハイハイ、お喋りはそこまで! 時間も迫ってるし、さっさと始めるよ!

 

それじゃ、錆は鈴の運び役宜しくね! しっかり追い付いて来なさいよ!」

 

「Jud.、じゃあ鈴、しっかり捕まってろよ」

「う、うん。よろ、しく」

「おう」

 

 腰を落とし、前に出した右足で地面を蹴った次の瞬間―――地面は抉れ、爆発が発生した。

 

 全刀流、七の構え『空木』。それから繰り出されるのは、改竄された歴史において日本最強の称号を持った剣聖が使ったとされる、最速を超える爆速の足運び――その名前を、『爆縮地』と言う。




改竄された歴史
前地球時代の歴史を表示する歴史書である『聖譜』にも表示される事のない、文字通り『本来ならば存在しない歴史』。
極東の古い書物にのみ記述がされているが、あまりにも古い代物な為か所々の文字が抜けており、全貌は分からない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。