ゴーティス使い俺、呪術の次元は禁止カードが多すぎる【改訂版】 作:月日は花客
「……って言ってもよぉ」
それぞれのデッキの回し方を説明し終わった頃、ふと、真希ちゃんが目を伏せた。
悩ましげに組まれた腕からは、俺への疑問を感じる。
「私は天与呪縛で術式が無い。これで拡張術式のあれこれを学んでも、戦闘には活かせないと思うんだが」
憂太も、そうホイホイ使える物じゃねぇしな。
と、尖らせた口から飛び出た不満。それは俺も、正直思っていたことだった。
真希ちゃんの天与呪縛については、こちらにも知らされている。とても、とてもざっくりだが。
しかし、それでも俺がデッキを選ばせたのは、ある一つの思想があったから。
俺は真希ちゃんのデッキをシャッフルしながら、口を開く。
「じゃあここで問題だ。敵呪霊によって味方が殺される直前、真希ちゃんの手の届く範囲にはA、B、Cの味方がいる。殺されそうになっているのはCだが、戦力的優先度は下からB、C、Aの順番で高い。また、他の味方もギリギリで体勢が崩れそうだ。この時、君は何をすべきか?」
「……はぁ!? なんて??」
「時間切れだ。ちょっと意地悪な質問だが、これが実戦だったらどうする」
「っ……!」
そう言えば、真希ちゃんは唇を噛んで黙り込んだ。
そう、今この瞬間、俺や一年生たち、はたまた真希ちゃん自身が呪霊に襲われたっておかしく無い。五条の存在はパスするとして。
その時、何が一番重要となるか。
それは「判断力」だ。
自分の力がなんであれ、傷の深さがどうあれ、その時の状況、行動を判断できる力は、どれだけあっても腐らない。
今の真希ちゃんには、それが欠けていた。…‥俺もちょっとそれは理不尽だろと思うけどさ、こう言う世界なんだもの。
「……Cを守りに行く」
「それによってA、Bが死んでも? あるいは、君が致命傷を負うことになっても?」
「じゃあどうすりゃ良いんだよ! それしか無いだろ」
「そう、その『それしかない』が今の君の限界なんだよ」
「……はぁ?」
真希ちゃんは意味がわからないと言ったように首を傾げた。他の一年生も、よくわからないと言ったように黙っている。
五条だけは、何か察しているようだけど。
「『他にもどんなことができるか』を考えるのも、判断力のひとつだ。見捨てる、見捨てない。庇う、庇わないの判断しかできないなら、正直言って判断力は低い」
「…………」
「もちろん、庇ったり見捨てることも時には重要だ。しかし他にも手はあるだろう。攻撃対象を移動させるか? C自身に防御させるか? Aに向けられた攻撃を誘導するか? そして、それらのどれを選ぶか。それをできる限り早く、現実にできる範囲で考え決を下すのが『判断力』だ」
「…………!」
冷静に、ゆっくりと、わかりやすく。
シャッフルの音だけが、BGMとして響くように。俺は少し声を低くして、諭す。
「戦術的優先度を考えるなら、俺はBに庇わせる。あるいは、Aを襲う呪霊と相打ちさせるかな。Bは戦力的な優先度が低いし、逆にAは高い。保持すべき戦力を考えると、個々の能力にもよるがな」
「……命に優先順位をつけろと?」
「命の話はしてないんだよ、今は。戦術的優先度は命と違う。“その状況をどれだけ犠牲を抑えて対処できるか”だ。その時々で優先度は変わり、逆転する」
「……つまり?」
「よくわかってなさそうだな。お前は多対一でタイマンが得意なやつを優先して守るか? 逆も然りだ。コストの大きいやつに消耗戦をやらせるか?」
「ああ……なるほど!」
乙骨君がポンと手を叩く。
効果破壊中心のやつに、戦闘破壊耐性を建ててもしょうがない。除外のやつに墓地メタをしてもしょうがない。
どれだけ強かろうが、オールマイティだろうが、コストが重けりゃ動きにくい。
軽く動けても、打点が低けりゃ棒立ちになる。
そういう話なのだ、戦術的優先度というものは。
命は、理想論的には同列だけれど、判断によってはその理想も切り捨てねばなるまい。
そういう、世界なんだもの。
「それを考える力を伸ばすのも、今回の目的だ。今は優しく教えているが、慣れてきたら対戦時間には制限を設けるし、一手を考える秒数も計る。戦場ではコンマ1秒も惜しいことはみんな分かるよな」
「おお〜、遊海がしっかり教師してる」
「お前はもっと教師然としろ駄教師」
「酷っ」
な〜にが「教師してる〜」だ。お前の生徒だろうが。判断力の話なんて基本だぞオイ。
まぁまぁまぁ、まだ一年生ということで抜けていた部分もあるだろう、先輩決闘者として導いてやろうじゃないか。
「戦場では常に考え続けろ。脳を休めるな。命を守りたきゃ、その場で出来ることを判断し続けること。なにより、生き延びるためにな」
「……肝に、銘じます」
真希ちゃんは俺に頭を下げた。いや、教師だし当然のことを教えたまでだから、頭を下げられても困ってしまう。
むしろこんな事を教えることになってしまったのが、大人の立場として悲しい。
彼女も、平和な世界であれば街でスイーツを食べたり、友達と寄り道して笑い合うようなことができたのに。
子供を巻き込むような事をしてしまっているのは、大人の世界では失格だろう。
偉そうなこと言ってるけど、俺自身も何か改革しようとして動いてないあたり、判断力なんてご高説、説得力無いのかもしれない。
「いや……良いんだ、それで。君たちはまだ若い、でも当時の俺より余程ものを考えてる。厳しい事を言ったが、俺も偉そうに言えた事じゃ無いんだ」
「……? 遊海さんってそんなに歳離れてるんですか?」
「高菜?」
「遊海は僕より年上だよ」
「嘘ぉ!?!?」
嘘じゃないんだなこれが。俺は確実にアラフォーであり、もう決して20代ではないのだ。
見た目変わってないけど。
「生命の神秘ってやつ?」
「悟より若く見えるよな」
「あれで目隠せば年相応だもんな……」
「お〜い聞こえてるぞ☆」
いや、俺の若々しさのことはいいから早く決闘しようぜ。
真面目に話して疲れたよ俺は。