ゴーティス使い俺、呪術の次元は禁止カードが多すぎる【改訂版】 作:月日は花客
闇多めなのでかなり人を選びます。読まなくても本編に支障は無いので、メンヘラ描写ヤダ〜って人は飛ばすの推奨。
ぶっちゃけ作者の趣味が抑えきれなかった産物です。
「ゴホッ、ヒュー、ヒュー」
大きくLPを削られた衝撃で吐血する。
肺から空気も抜けていたようで、必死に本能で酸素を求める喉は、壊れたリコーダーのような音を吐き出している。
LPの残りは250。瀕死と言って相違ない。貫通ダメージを持つ呪霊に遭遇し、肝心の手札は事故り気味。ドローも良くない。
場には守備表示のキーフとペイシスが居るばかりで、つまり、まぁ、死にかけだ。
俺は決闘者。命と呪力をカードに賭ける術式。ライフポイント8000点が消し飛んだら、同時に俺の命も消し飛ぶ。
「オエッ、っふー、ヒュ、ふー」
ビチャビチャと口の中で固まり始めた血を吐き出し、息を整える。呪霊はもう勝った気でいるのか攻撃してこない。
俺としては、今だって勝利への執念を忘れてはいない。ここから右手を光らせ、大逆転するつもりだ。
しかし、心のどこかで「もういいかな」と感じてしまっている自分がいるのも確かだ。
「ゲホッ……はー、はー、あー……」
体こそ変わらないものの、俺はもう30代だ。夏油君や伏黒くんといった決闘者仲間もでき、沢山の決闘に興じてきた。
特殊ルールでのトーナメント戦やネタデッキで戦ったりもした。グラグラと酩酊する頭に駆け巡るのは楽しい決闘の内容ばかり。走馬灯かもしれないな、と空の笑いを飛ばす。
なんだかこの世界ではもう十分生きた気がしてきた。一生分の決闘をして、モンスターと触れ合って、リアルソリッドビジョンなんて夢を楽しめた。
なんかもう、死んでも悔いはないかも?
「馬鹿らし……カヒュ、ゔぇえっ……! 俺は生き残る、生きて生きて生き延びてやる……!!」
吐いた独り言は、どこか自分に言い聞かせるような叱責を含んでいることを自覚する。
生き残らないと友人が悲しんでしまう?
生き残らないとこの呪霊による被害が拡大する?
生き残らないと俺の未来が消えてしまう?
違う違う違う!!
俺が本当に怖いのは、本当に恐れているのは、この世界から遊戯王が無くなることだ!!
今この世界にある何百ものカードは全て俺の術式で、俺の命があるから存在しているものだ。
俺が死んだら、カードも全て消えて無くなる。それは勘ではなくしっかりとした理解で俺の頭に刻まれている。
なら、なら、俺が死んでカードも消えたら?
俺がこの世界にいた記録はどこに残る??
いや、書類やなんかに俺の名前は残るだろう。きっと伏黒くん達は覚えててくれるだろう。俺という存在がいたことを。
しかし、俺が求めているのはそうじゃない。
俺が、この世界で異物として戦ってきた、証拠。
命と結びついたモンスター達の意思を。
残したい、遺ってくれない。ああ、今だけ己の運命を本気で呪いそうだ!!
「クソックソックソッ! なんで俺はいつもいつも……こんな土壇場で……!」
俺は高専のみんなが思っているより強くない。この強さは遊戯王がくれたものだ。俺のカードがくれた、一つの仮面。
場にカードがなくなれば、自分の存在意義に怯えるただの臆病な男が立つばかり。
ああ、キーフ達が不安そうだ。ごめんな、こんな主人で。俺は決闘者失格だ、モンスターを信じきれていない。
なんでってこんな世界に迷い込んでしまったのか。ただ生きてただけじゃないか。ただの大学生だったんだよ、俺は。
「あはっ、はは、はぁ……。なぁ呪霊、お前にはわかんねぇんだろうな、自分がここに居る意味がわからない恐怖が、誰の記憶にも残らず死ぬかもしれない嫌悪が」
カードがいなけりゃ、俺は最初に遭った呪霊に殺されてお陀仏だった。きっと身元不明死体として処理されるか、身体すら残らず潰されるかしただろう。
そんな俺を、カードが生かした。ゴーティスのみんなが、生かしてくれた。
どんな呪霊や呪詛師と戦っても、そばにいてくれた相棒。
彼らは、俺がいないと存在すらできない儚い存在なんだ。
「そんなのをさぁ……こんなところで、みすみす消すわけにゃいかねぇのよ……わからないよな、な!」
でも、自分の弱い部分が「十分戦った」「心中だって一つのハッピーエンドさ」と囁いてくる。
ダメだダメだ、俺はまだカードと生きるんだ。でも、もう疲れてしまった。
ふと考える。俺は何人の命をリソースにしてきた? 破壊した? 除外した? こんな事をただの人である俺がやってて良いのか?
考えても考えても答えは出なくて、結局いつも遊戯王が存在するためのルートを辿って終わる。
なぁ、この手に引っ付いたデュエルディスクが無いと、もう動悸がするほど不安になるんだぜ。
「あーあーあー、こんな事誰にも言えねぇよ。今だって思うさ、ここで今俺が死ねば、全部夢であっちの世界で俺は目を覚まして、日常に戻れるんだ」
友達と口悪くも楽しい決闘をして、ただの紙でできたカードを見せ合って、大学の講義中にデッキ構成を考えて……。
そんないつもの時間に戻れるって心底信じたいさ。
でもそんなに現実甘く無いって今までの経験が嘲笑うのさ。
タチの悪い悪夢だって思いながら死んだ……呪霊に殺された被害者は何人も見てきたからな。
「……あ゙ー、アホみたいだな、俺。何やってんだ? なんで生きてるんだっけ、遊戯王以外に、楽しみってあったっけ」
ただの大学生だった頃は遊戯王以外の趣味もあった気がするが、もう思い出せない。
「うん、うん、まぁ、今考える事じゃなかったな。どっちにしろさ。もうさ、死ねよ、お前。な?」
俺はドローした《白の救済》によって《ゴーティスの陰影スノーピオス》を手札に加え、墓地のモンスターを除外して特殊召喚する。ペイシスとチューニングして《白闘気白鯨》による効果によって相手呪霊を叩きのめした。
残るは俺の残穢ばかりだ。
「はー、ふふっ、俺の愚痴を聞いてくれた礼だけは言っといてやるよ」
これは俺が墓まで持っていく秘密だから。
奇妙な希死念慮とそれを止める理性は、ゆらゆらと歪んだコンパスのように方針をコロコロ変える。
遊戯王のために生きていよう、ああやっぱり絶望しきらないうちに終わってしまおう。カードのみんなを消したくない、俺の手で終わらせたい。
頭の中で決着はつかず、永遠に手詰まりを繰り返す思考。眠らなくても体調に支障が出ない体をこんなにも良く思ったことはない。きっと不眠症になって隈が酷いことになっていただろうから。
「遊海さん!」
「……ああ、七海君」
戻ってこない俺を心配した補助監督が呼んだのか、もう既に呪霊が消えた廃墟に七海君が駆け寄ってくる。
俺の口元についた血の跡に、眉を顰められる。
「呪霊は」
「もう俺が祓ったよ。いやー久しぶりのピンチだったけど、なんとか神ドローで勝利〜☆ イェイ!」
「それは……良かった」
ホッとしたように七海君が息を吐く。彼が来ても戦況は大きく変わらなかっただろうけど、虚勢を張れる相手というのは俺の精神安定に必要だったりする。余計な事を考えなくて済むから。
ので、とても助かるのだ。
「でも流石に痛いわ、隠れてそうな低級呪霊の排除は七海君に任せて良いかな」
「勿論、そのつもりで来ています」
七海君は真面目で助かる。決闘の時の打つ手も実直さが見て取れる。
遊戯王を素直に楽しんでくれている一人で、とても嬉しいことに遊戯王の為に俺に会いに来てくれることもあるくらいだ。
その度に俺は俺の存在意義を強く意識する。
遊戯王、楽しいよな。俺がいなくなったらできなくなるから、俺が死んだら困るよな。
なんでこんな病んでしまったんだろうか?
自分の異常性は理解してるつもりだけど、やっぱり俺を生かしてくれるのは遊戯王だけだ。
補助監督が運転する車のシートに背をもたれながら、俺はそっと青いデッキケースを撫でた。
今日も俺はカードと生きている。