ゴーティス使い俺、呪術の次元は禁止カードが多すぎる【改訂版】   作:月日は花客

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☆36:宝玉獣の鰐之空泪

 

「シンクロ召喚──鰐之空泪(なきまねのさめ)

 

 そこに現れたのは、巨大な(ワニ)だった。その体色は迷彩色に染められ、牙だけが白く光っている。額には玉犬と蝦蟇のものを合わせたような紋様が浮かび上がっていた。目からは絶えず黒い涙を流している。

 新手の登場に、特級呪霊は慌てずにその拳を鰐之空泪に振り上げた。相当な呪力が込められたそれは、受ければ相応のダメージが式神に叩き込まれる。

 

 はずだった。

 

「──!?」

 

 そのダメージは、何故か呪霊側が受けることとなる。

 バキン、と人間でいう骨の部分が折れる音がした。鰐之空泪はなんともないようにただ構えている。

 

「……鰐之空泪は攻撃力、守備力共にゼロ……ただし、特殊効果がある」

 

 ゆらりと伏黒は立ち上がった。

 式神のデータ開示。それはより強く式神の力を引き出す力となる。

 

「戦闘で受けるダメージを全て……相手にそっくりそのまま返すんだよ!!」

 

 形はできていた。京都校と交流戦を終えた頃に。

 あの、《魔法の筒》。伏黒自身何度も引っ掛かった、忘れた時に出てくるあのトラップカード。

 それを参考に、練り上げた。

 影絵は鰐の形に。体躯は大きく、さも優先的に攻撃しないといけないような迫力ある見た目に。

 まさかこの見た目で攻撃力が皆無とは思うまい。伏黒の切り札の一つと見て優先的に襲いかかるはず。

 それを利用する。

 今まで実行に移していなかったのは、融合ではない……チューナーを必要とするシンクロ召喚という方式に慣れなかったからだ。

 蝦蟇をチューナーと定義し、そこから全く別の生き物である鰐を生み出すというのはなかなかに難航した。

 遊海にも、五条にも見せていない己の新技。

 それが今、この土壇場で花咲いたのだ。

 

「鰐之空泪! 呪霊に攻撃を仕掛けろ!」

 

 満象と同じく、この鰐之空泪は伏黒の今の力ではフィールドにいる限り他の式神を召喚できない。この式神だけで今は戦っていかねばならないが、呪霊は自身の攻撃がどうしてカウンターされたのか聞いても理解が追いついていないらしい。

 

 噛みついて来る鰐之空泪の力は弱い。だというのに己はしっかりとその体にダメージを受けている。不思議な感覚で慣れないこと請け合いだ。

 鰐本体の噛む力は甘噛み程度なのに、何故か身体の芯がとんでもなく痛むという現象に、呪霊は混乱を隠せない。

 

 ダメ押しとばかりに、伏黒はまた手を組んだ。まるで祈るような、がっちりと両手を組み合わせて発動させる、呪術師の局地。

 

「領域展開──嵌合暗翳庭」

 

 ボタボタと脂汗と血を垂れ流しながら、不完全で不恰好な領域を創り出す。

 影のように、泥のように、広げろ。解釈を、拡張しろ!!

 

「ははっ!!」

 

 完全に頭がハイになっている。それでいい、そのまま続けろと脳が叫ぶ。

 

「伏黒ってさ、あんまり声あげて笑わないじゃん」

「え……まぁ、そういう性格じゃないんで」

「小さい頃からさー、むすっとした顔してたから、遊戯王を楽しいって言ってくれた時の笑顔、すっげぇ嬉しかったんだぜ」

 

 遊海の声がどこからかこだまする。

 遊海さん、今俺、心から笑ってますよ。楽しくてしょうがない。可能性に、手札に、自分の回りに回ったデッキ(術式)が楽しくてしょうがない!!

 あなたにも見せたい、この式神を、不細工な領域展開を。自分の笑顔を!

 

「鰐之空泪は相手の戦闘では破壊されない……この領域の中では、何体もの鰐之空泪が襲って来るぞ? あは、お前にこの盤面が崩せるか?」

 

 崩れたとしても、シンクロしていた玉犬たちを戻しまた展開し直せばいい。

 鰐之空泪は奥の手ではない。咄嗟に完成した、新たなエースモンスターの一体だ。

 まだまだ鰐の攻撃は続く。その鋭そうで柔い歯が、突き立てられるたびに呪霊の力が弱くなっていく。

 

「終わりだ──噛み殺せ、鰐之空泪!!」

 

 影と同化した一際大きな鰐之空泪が、がぱりとその顎を大きく開き呪霊を一口に飲み込んだ。じゅわ、と呪霊が祓われる独特の音がして、生得領域も消えていく。

 

「はーっ! はーっ! はーっ!」

 

 残されたのは、宿儺の指を持った伏黒のみ。鰐之空泪は伏黒の呪力が限界を迎えて消えてしまった。

 

「……あいつらどこ行ったんだよ……」

 

 その言葉は誰にも聞かれることはなく、伏黒は意識を手放した。

 

 *

 

「我慢比べしよっか♡」

 

 その頃、釘崎と虎杖は未知の呪霊に襲われていた。

 壊相と血塗の術式により、体内に術式……毒が回っている。

 しかしそれは釘崎の芻霊呪法の抜群の的であった。

 釘崎の体に釘が打ち込まれるたび、敵二体の体にも特大の痛みが走る。術式の証である薔薇の紋様はまるで彼女のために飾り立てられたレースのように、立場を逆転させた。

 

「あはっ、痛いのは嫌だろ? さっさと泣きながら術式を解けよ」

 

 溢れるアドレナリンに目をかっぴらいて笑いながら、釘崎は次弾の釘を用意する。

 壊相は油断していた。まだそれだけならこの女の方が早く死ぬとでも思っているのだろう。

 そこに、ダメ押しのカードを一枚。腰の下げたデッキケースの中に眠るそれに呪力を流す。

 

「咲いて、《ブラック・ローズ・ドラゴン》!!」

 

 それは今の彼女を象徴するかのような棘の痛みの象徴だった。

 突如現れた大型の謎のドラゴンに、壊相たちの動きが数秒、止まる。

 

 それを見逃す虎杖ではなかった。

 

 痛みはある。辛い、きつい。そんな感情を丸ごと置き去りにして、虎杖悠仁は止まらない!

 

 ドラゴンは大きく咆哮する。

 まるで今から瀕死の血塗にトドメを誘うとでも言うように、その大口を開けて触手のような棘をもたげた。

 ああ、殺されてしまう。血塗が、血塗(おとうと)が!

 

 釘崎の金槌が、虎杖の拳が、呪力を帯び二体に迫る。

 釘崎は嗤っていた。うまく引っ掛かってくれた。ブラックローズに攻撃する能力は無い。近くに遊海は居ないし、居たとしても釘崎の呪力ではどうにもならない。ただの立体映像。

 それに、まんまと、引っ掛かってくれた。

 

 腕は痛い。釘が貫通して抉られる痛みは消えない。それでも……釘崎野薔薇は止まらない!

 バチバチと脳汁が弾けて炭酸のように泡立つ感覚がする。神経が研ぎ澄まされ、今まさに棘を打ち付けようとするブラックローズに共鳴する。

 

 呪力が、黒く光った。








遊海は一年生ズがガンガンに戦闘にカードを使っていることを知らない。
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