ゴーティス使い俺、呪術の次元は禁止カードが多すぎる【改訂版】 作:月日は花客
ごめんなさい……。
朝起きたら指になっていた。
なんて、フランツカフカもびっくりの変身を遂げました。21歳大学生遊海宙。元人間現指でございます。
まって、頭おかしいとか言って逃げないで。俺は今、確かに指になってるんだ。
しかも誰かの体に繋がってるんじゃない。本当に、指だけなんだ。たぶん中指か薬指なんじゃなかろうか。いや、どうでもいいけども。
意識すれば、自分の人間だった頃の体が指の中に収まる。俺の意識をそっちに移して、俺は指の形をした空間にポツンと居座ることになった。
「……なんで??」
ほんまなんで??
事故や病で死んだわけでも、なにか不幸があったわけでも、予兆があったわけでもなく唐突に指になった。なんだこれ。
しかも見た目が妙に禍々しいんだ。内側からだけど、ミイラみたいな感じだ。嫌な雰囲気である。
そして、身体……指は動かせない。何かを巻き付けられている感覚がある。なんだろ? と思い引っ掻いてみようとしたら、弾かれた。この巻かれた何かが俺の動きを制限しているらしい。
どっちにしろ、俺はこのどうしようもない状況に直面して、ただ呆けた。
「暇だ……」
転生なり憑依なりするとして、なぜ指だけなんだ。神は頭おかしいのか?
こんな場所じゃ遊戯王も……いや待てよ。
「さっき自分の身体を内部に作れたんだから、カードくらい作れんじゃねぇ?」
そう思って、試しに手の中にカードをイメージしてみると、ぱらりと《ゴーティスの灯ペイシス》が落ちてきた。成功だ。
「よし! 取り敢えずしばらくは時間を潰せる!」
カードを作り続けると、たまにフッと意識が無くなる。気力的なものを使っているのだろうか? 知らんが。
まぁ指に睡眠なんてないだろうが、俺はとにかくカードを作り続けた。
それは、やがて40枚と15枚のデッキとなった。サブで入替用のカードも用意した。立派なデッキである。
テーマは大好きなゴーティスだ。
だけど…………。
「対戦相手がいねぇ」
なんだって一人回しだけで遊ばなならんのか。対戦相手が欲しいぞ対戦相手が。
しかし意識のある相手は流石に作れないらしい。
俺は孤独だ。
このグロい指の中で、頼れるのはカードのみ。しかし対戦相手も話し相手もいない。
「…………狂うな」
これはおそらく精神がもたないぞ。と俺は直感した。
人は孤独や無音、社会への不参加を続けると短時間で狂えてしまうのだ。ネットで見た。
ここは俺以外誰もいない、音もない空間。いくら叫んでも反響しないし、返事だって返ってこない。
「なんでこんなことに……」
あーあ、せめてここにもう一人誰か居てくれたら対戦相手にできたものを、なぜ孤独にカードを弄ってなくちゃいけないんだ。
デッキの調整は終わったし、出来を試したいというのに。
指の形の部屋は変わることなく動くこともない。
「最悪だ……」
寝ようにも素直に睡眠という行為もできない。俺は縋るようにカードを作り続け、ふと訪れる意識の途切れを救いとしていた。
*
ある時、自分の身体を包んでいたものが取れるのを感じた。
おや?
これは……もしや解放された!?
目が無いので外部の様子などわからないが、俺は自由を得た。しかし状況も何もわからないから、適当にウニョウニョと指を動かすしかできない。
尺取り虫的なサムシングでなんとか移動できないか。
っていうかさー。
暇な時に考えてたことなんだけど、もしかしてじゃなく俺って誰かの指の一パーツなわけじゃん? 切り落とされた指なわけじゃん?
つまり、他パーツと合体させられたら俺の自我は消えるのでは????
それはつまり、死では??
「もしかして封印が解かれたのも融合させられるからでは……?」
某アークファイブ主人公的なサムシングで合体しないか、精神が。それはちょっと嫌だ。かなり嫌だ。だってそれもう俺じゃないもん。個としての確立を保てて無いじゃん。俺主人公みたいに包容力とか無いんで無理です融合地雷です。
それじゃあどーすんのって話だけどさー。
「──」
「ん?」
「──ぁ──ど」
「んんん?」
なんだか外から声が聞こえる……。耳が無いのに聴覚を得たのか? というより、音に込められた力をたどっている感じ?
「この指は食いたくないって、どういうことだよ宿儺」
「それは最早俺ではない。別の何かが外部的に宿り、定着してしまっている。不純物だ」
その言葉に、俺はピピーンときた。この宿儺ってやつが俺の指の持ち主なんだ。
食うって、自分の指を食うの? どういう文化の方??
いやでも、消化して同化するって可能性はあるな……やっぱり自我消滅の危機じゃねーか!!
いやだ! いやだ! せめてこん中に対戦相手作れるようにして、何戦か遊戯王させてから食ってくれ!! もう俺のメンタルも限界なんだ。
死にたいけど死ねない、遊戯王があるのにできない、ずっと意識を保ち続ける無音の空間。そこではもう、俺の弱い神経なんて簡単に捩じ切れてしまえる。
でも、自我を失いたくない、精神的な面で尊厳を失って死にたくはない。
そんな自己矛盾がずっと頭の中……指の中で起きてるんだよ。どうにかしてくれ!!
「これを食ったら、小僧の中にさらに人格が増えるかもしれんぞ」
「はぁ!? お前ですら手一杯なのに!?」
「別の呪物へと転化してしまった……という事か。どうしようね?」
うん? いやちょっと待て、自我が消えるのが嫌なら、相手の自我を乗っ取って仕舞えばいいじゃない。
もうしのごの言ってられない。ここから脱却できるなら人の一人や二人殺せるぞ。
食え! 食え! そしたら俺がお前になって、好きなだけ遊戯王をやるんだ!!
自由に身体を動かして、美味しいもの食べて、ぐっすり寝るんだ!!
な? な? 食えよ。
俺はなるべく飲みやすそうに指をまっすぐにして動きを止めた。丸まったほうがいいか?
「ははっこやつは食べられたがっているようだぞ」
「……五条先生、中身が危険なやつの可能性は?」
「あるね。悠仁を乗っ取ろうとしてる気配を感じる」
げぇっバレた! でももう嫌なんだよ、無音の空間でデッキを眺めるだけの時間は!!
俺をここから出してくれ! なぁ! 出してくれよぉ!!
「……別の方法を試そう」
「別の方法?」
「これを呪霊に食わせる」
「はぁ!? 正気か先生!!」
「どうやらこの指は身体を欲しがってるみたいだ。与えてみて、可能ならこちらで管理するなりすればいい。かなり知能はありそうだ」
お、おお? なんかいい方向に勝手に転がってってないか?
身体を得られるなら俺はもうなんでもいい! いやなんでもいいは嘘だな、カードを持てる姿が良い。
「早速適当な呪霊に与えてみようか。ちょうど高専が捕縛した実験用の呪霊がいたはず」
「えー……良いのかな……」
移動する揺れを感じる。そのジュレーってやつがなんなのか知らないが、絶対に乗っ取って身体を得てやるからな。なんなら自分の姿にカスタムしてやる。
今の俺ならそのくらいの力があると確信できた。
そして、何かに飲み込まれる感覚があった。同化はしない。むしろ俺が侵食する。変異させ、好きに作り直し、組み直す。デッキを弄るみたいに、体のパーツを減らして増やして色を変える。
なんだかゲームのアバターを作っている気分だ。普通に前世? の俺の姿にするけど。
出来上がったのは人間の男。そこそこ背が高い、青の瞳を持った21歳大学生。お気に入りの青のパーカーに、腰には指の中で作ったデッキを下げて。
「……ほんとに……受肉した……」
「これは……宿儺でもなんでもない、全く別の呪力と術式……!?」
俺は瞳を開ける。
「……こんにちは、俺は遊海宙! 21歳大学生の一般決闘者だ!」
おはよう、
これからの自由に最果てからの祝福あれ!