ゴーティス使い俺、呪術の次元は禁止カードが多すぎる【改訂版】 作:月日は花客
「あ、遊海だ」
「ああ……この前の」
「げ、五条」
冥冥さんの任務がひと段落ついたある日。
次の任務の場所に向かうと、なんと五条と高専で見た黒髪君がいた。
合同任務? そんな指示書いてなかったけどな。
冥冥さんとのやり取りは、基本手紙を持ったカラスで行われる。よく訓練されてるのか、冥冥さんの術式なのか、人に慣れてるし手紙を書き終わるまで待っててくれる。
いつどこに居ても、カラスは俺の元にやってくる。戦闘中なら、近くを旋回している。
そんなわけで、次の任務予定地でカラス待ちをしていたのだけれど……まさかこの二人に会うとは。
冥冥さんから、この二人は最強、やばい、インチキと吹き込まれている。つまり禁止カードなわけだ。
超高火力と、手数の多さが自慢な奴らしい。《No.86 H-C ロンゴミアント》と《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》みたいな?
カードの奴らにも会いたくないが、普通に現実としての五条にも会いたくなかった。
「この前はうちの馬鹿がごめんね。まぁ悪気はないんだ」
「それで許されると思ってんならすげぇな」
「俺の眼で見ても完全には理解できない術式って、キモイだろ。俺は感想を言っただけです〜」
「よろしいならば決闘だ」
「待て待て待て、悟は煽るな、遊海さんも喧嘩を買わない」
呪術師同士の戦いは訓練以外御法度、だろう?
そう言われても、コイツが馬鹿にしてきたことには変わりないもん!
売られたケンカは高値で買ってカドショに売ってパック買えって偉い人も言ってたもん!!!
まぁ冷静さを取り戻すとして、高専二人もこの近くの村に任務があるらしい。五条は勝手についてきたみたいだが。
「だから私だけで良いと言っているのに」
「灰原が『夏油先輩の様子がおかしい、落ち込んでる』って俺に頼ってきたから仕方なく着いてきてあげたんです〜」
「何積まれた?」
「駅前ケーキ20個」
「自分で買えよ」
俺、知ってる。この二人がやべぇ「特級」で滅茶苦茶金を貰っていることを。羨ましい、ボックスなんて買い放題とか言うんだろ。まことに羨ましい。
二人のワチャワチャを眺めていると、待っていたカラスが来た。脚に手紙が入ったケースを括り付けている。間違いなく冥冥さんのカラスだ。
「お、来た来た」
「あ、冥さんのカラスじゃん」
「ああ、彼女雇いの呪術師になったって本当だったのか」
カラス曰く「この近くの呪霊倒してちょ☆」らしいのでさっさと行くぞ〜。なんでもすぐそばに村があるとかで、そこの人たちに気をつけて云々……。帳っていう便利なものを卸しちゃえば良いらしいので、ちゃっちゃかやりますわよ。
*
パーンと祓って終☆了!
近くでどうやら最強二人が任務にあたっているらしいから、見物ついでに手伝いでも行きますかね。
「────だろ!!」
「──ったって……」
……なにやら言い争いの気配を感じる。
二人って高校生なんでしょ? 未成年の喧嘩とは……一応成人である俺が仲裁しないといけない奴? これ。
「これ以上はもう私一人で対処できる! 悟は別の任務に行ってくれって言っているだろう!?」
「だーかーらー! なんかお前の様子が変なんだって! いつもはそんな術式の操作だってガタガタになってないだろ!!」
揉めている。
村の住民らしき人たちを放置して、夏油君と五条が揉めている。
内容は……いつもと呪力操作? や術式の精度が違うと言い張る五条と、ここからは一人でこなせると言い張る夏油君の言い争いみたいだ。
うーん、俺だとほとんど何も知らないからなんとも言えないな。
取り敢えず……村人の対応を俺が引き継ごう。あの状態だとしばらく帰って来れなさそうだし。
「すいませんあの二人若いもんで……。手伝いに来ました、遊海と言います」
「は、はぁ……誰でも良いですが、早く殺してください」
そうして連れられて来たのは、薄汚い座敷牢。
暗く寒いそこに、双子は傷だらけで閉じ込められていた。
「……これは?」
「コイツらが事件を起こしていたんでしょう?」
「私の孫もコイツらに殺されそうになりました。コイツらをはやく“処分”してください!」
そこに居たのは、ただの幼い子どもたち。力もない、後ろ盾もない、保護もない……ただの、無辜な子ども。
ああなるほど、夏油君はこれを見たのか。
俺は一度煩いから二人を止めてくる、と言ってそこから離れた。双子は、未だ座敷牢で二人抱き合っていた。
「夏油君」
「悟、いつも思うがお前は自分勝手すぎる! 普段から子どものようにうだうだと……!」
「はぁ? 俺は真っ当な意見を言ってるだけだし、正論とかオトナのイケンってやつやめてくんない?」
「夏油君、キミ、村の人たちを殺そうと思ったんだろう」
「…………!!」
「…………!?」
そう言えば、夏油君は「何故バレた」と叫びそうなほど驚愕の表情を浮かべていた。
逆に五条は、「夏油がそんなこと」と否定するような驚愕に歪ませている。
「あのさぁ、遊海、傑は──」
「──そうですよ、遊海さん」
「……は?」
黙って見つめていれば、案外簡単に意図を吐いた。
夏油君は頭が良い。今の一瞬で見透かされたことを察して、逃げられないこともわかったのだ。
肯定した夏油君を、五条は目を見開いたまま見る。サングラス越しでもその大きな虹彩が見えた。
「俺が言おう。あの村人たちはクソだ。村社会の悪いところにガンガン毒されてる。夏油君はそれに我慢できなくなったのか?」
「それも……ありますが……」
夏油君は、五条をチラリと見る。
なるほど。
「五条、ちょっと夏油の声が聞こえないところまではけろ。聞いたら夏油との絆はなくなると思え」
「は!? なんで…………わかった、わかったよ!!」
うむ、ああ言う手合いは真剣すぎる眼差しに弱いのだ。余裕を見せるほど乗っかってくるからな。
さて、ここは少しお兄さんとして話を聞こうじゃないか。
「嫉妬かい、夏油君」
「遊海さんって、察しがいいですね。まぁ……それも理由の一つではあります。アイツは一人で“最強”になってしまった」
ピクリ、と自分の眉が動くのを感じた。
“最強”と言う言葉には一家言ある。決闘者だからだ。
「最強?」
「前は、私と悟がコンビで最強だった。でも、いつしか悟は悟だけでなんでもできるようになってしまった。……置いてかれた」
「なんでも? 本当に?」
「本当に。回復から戦闘、移動も何もかも」
そうして、夏油君は遠くを見た。その瞳は、高校生のそれではない。疲れ切った、もうなにも煩わしいことを考えたくない、澱んだ大人の瞳だった。
だからこそ、俺はその狭まった視界を広げてやりたい。
だって、今の夏油君は……決闘者として致命的だからだ。