ゴーティス使い俺、呪術の次元は禁止カードが多すぎる【改訂版】 作:月日は花客
あちらも完結してるので読んでない方は是非。
フッと、雨の重さが無くなった。
「え?」
俺はいつも通り、任務によって呪霊討伐に外に出ていた。途中からはあいにくの雨で、傘を買うのも煩わしくそのまま雨ざらしに歩いていたのだが……急に視界が街中から室内へと変わる。
ボタボタと足元に水が垂れ、木製の床を濡らす。
薄暗いそこは、本に囲まれた森だった。
「どこだここ」
呪霊の生得領域か? と思ったが、今回の呪霊はそんな強い個体だと聞いていないし、呪力も何も感じないから違うんだろう。
本棚には絵本から文庫本、はたまた大型本やらが種類ごとにきれいに整頓されて、まるで図書館のように静謐としていた。
そのぶん、さっきから髪を伝う雨水が滴る音が嫌に耳に張り付く。
「うわ、これはまたびしょ濡れだな」
本棚の木々の中から、ひょっこりと女性が姿を現した。いかにも日本人の平均女性ですと言った風貌の、眼鏡のお姉さんである。
おそらくここの家主だろうが、突然現れた──不法侵入を疑われてもしょうがない俺の姿──に動じず、ただ「その濡れた手で本を触るなよ」と言って木々の中に消えていった。ドアを開ける音が聞こえたから、部屋を出ていったのだろう。
さて、どう言い訳をしたものか。
「すいません、説得力無いんですけど、自分怪しいものじゃないんですよ」
「あー、こっちもこういう現象には慣れてるから気にしないで。たまにこうやって人が迷い込むんだ、私の書斎」
「へぇ、不思議〜」
別に術式でもなんでもないようだが、まぁ世の中そういうこともあらぁな。不思議現象に勝手に納得しつつ、お姉さんが持ってきてくれたタオルで体を拭く。かろうじて服は水を吸い切っておらず、びたびたになった髪さえ拭けば水音は消えた。
「この部屋すげーね、図書館みたい」
「実際、ここによく来る連中にはそういう扱いをされてる」
「どんな人がよく来んの?」
「えーっと、白髪で青目のガキとか、黒髪の前髪垂れてるガキとか」
「やだそれ知り合いかも……」
呪術師専用図書館かな?
なんとなく覚えがありすぎる特徴に突っ込みつつ、俺はお姉さんの動じなさにも突っ込みたかった。
普通家にいるずぶ濡れの不審者にタオルを渡すか? 俺だったら外に叩き出してるぞ。
と思い窓から外を見ると、天気は快晴で春らしい陽気を振りまいた庭が見えた。
「あ、俺は遊海! 決闘者してる」
「決闘者……って、遊戯王の?」
「えっ!? 遊戯王知ってるの!?」
俺は大層驚いた。なんせ俺の世界には遊戯王が存在せず、俺の術式でのみ生み出せたからだ。某KONAMIも某東映もあるのに、遊戯王が存在しないとかいうトンチキな世界だったのである。
それがここでは違うらしい。
「え、まぁ原作を電子で読んだくらいかな……。カードゲームの方はやってない」
「おお、原作履修済み……え、どうしよう会えてめっちゃ嬉しい」
「そんな大袈裟な……。五条くんと知り合いならそっちで話せるでしょ」
「えっ遊戯王原作履修済み五条とかいう特級術師いるの……? この世界」
「うん?」
お姉さんも俺とのすれ違いに気づき始めたようだ。
どうやら俺はまた……次元を越えたな? これは。俺はトントンとデッキケースを叩けば、申し訳なさそうなペイシスがふわりと顕現した。
「うわ、メンダコ?」
「俺の特殊能力。ペイシス〜お前達また俺の次元をずらしたな?」
ジトっとした目で見れば、面目ねぇと言うようにペイシスが触手で自分を撫でた。ゴーティスたちの仕業というのは間違いなさそうだ。
「よくわからんけど、その子が君をここに連れてきたってこと?」
「そうっぽい。たぶんそっちの知ってる五条とうちの五条は別人だな。そっちの五条遊戯王してないっしょ」
「してるとは聞いたことないな。こっちの五条くんの趣味は読書だから」
「はえーそんなインテリの五条存在するんだ……」
賢そうだなぁ、小並感。
俺も五条からこういう不思議な場所に行ったなんて話全く聞いてないし、遊戯王原作がちゃんと存在してるあたり別次元で確定だろう。
ペイシスに俺のいた呪術次元に帰れるのか聞くと、どうやら数時間で戻れるようだった。
「よかった〜……流石にこのままずっとここにいるわけにはいかないし」
「戻れるんなら良かった。っていうか、なんであんなずぶ濡れだったわけ?」
「いやー、元の世界では天気が悪くて……でも傘を買うのもなーってぶらついてたんだよ」
「なんだそれ、傘買えよ」
正論でございます。
体は冷えるし、服や髪が濡れて不快だし、もうさっさとコンビニでビニール傘でも買えば良かった。
お姉さんがついでに持ってきてくれた使い捨てカイロで身体を温めつつ、俺は少し前の話に戻る。
「こっちの世界には遊戯王原作知ってる人居なくて……」
「へぇ、そういう部分がずれてるんだ」
「いや〜だから読んでる人に会えてめっちゃ嬉しい、ほんと。好きなキャラとかいました?」
「読んだの結構昔だから細かい部分は覚えてないけど……杏子ちゃんは好きだったかな」
「良いですね〜」
王道ヒロインで、ちょっと強気ながらも繊細な部分を持っている。当時のジャンプではまさに正ヒロインって感じのキャラだ。ダンサーという夢があるのも良い、実際映画ではその夢を叶えに行くためにアメリカに飛ぶ予定の描写が入れられていた。
純粋に作画がかわいいんだよな〜、まだカードゲーム一本でやってくことが決まってない辺りはちょっとお色気なシーンもあって、そこがまたなんというか懐かしいジャンプの香りがする。
「いいなー、俺も遊戯王原作読んでる五条とか夏油君に会いたい……語り合いたい……」
「今日はどうかな、一昨日きたから流石に来ないかも」
「まー、羨ましいけど俺もあと数時間で帰んないとだしなぁ。任務ほっぽったまんま」
「そっちの五条くんってどんなのなの?」
「えー? 生意気で軽薄、クソガキって感じ。ウザさ強め」
「ほとんど悪口でウケる。まぁ確かにあいつは会った時はほんとクソガキだったなー」
会った時は……って事は、ここの五条は今はクソガキじゃないのか……!? なんだそれ、遊戯王原作知ってるのも良いしウザさがないのも良い。こっちの五条と交換してくれ。
遊戯王させたらデッキ何にするのかなー、やっぱ青眼握るのかなー。
「もーこっちは振り回されっぱなしで。ほんとテキトーさに殺意沸く感じ」
「うわー、こっちの五条くんは育成成功例かな」
「ほんとほんと、うわーマジで交換して欲しいな……」
「そっちの五条くんが泣くよ」
まぁ嘘泣きはするだろうな。
最強と最強を会わせてみたらどんな化学反応が起きるか気になるけど、下手に悪ノリに走られたら止められないから画策しないでおこう。
ペイシスたちが連れてこれるって事は、まぁ二度と来られないって場所じゃなさそうなんだよな。
「こっちは遊戯王教えても全然強くならないし……投げ出さないところは褒めてやるけどさ」
「苦労してそう。こっちのに会ったらギャップで心臓止まるかもね」
「泣いて『交換して!』って叫ぶ自信がある……。どうやって育成成功したんです?」
そう聞くと、お姉さんは笑った。
「本の力かな」