ゴーティス使い俺、呪術の次元は禁止カードが多すぎる【改訂版】 作:月日は花客
この二人は根本が相性良いんだと思います。
転生したらチートスキルを得てたって話はよく聞くけど、転生したら実家がクソドブだったという話はあまり聞かない気がする。
大学生と若くして死んだ俺だけど、それなりにモラルや倫理観は育っていたし、そもそも差別やら男尊女卑なんて古い考えという時代だったし。
だから、こんなふっる〜い価値観とジメジメした空気を纏った家は、俺にとっちゃ掃き溜めみたいなところだ。
家の名前は禪院。古くから伝わる偉いお家だそうで、呪術界でも相当の地位を占めるらしい。
生まれながらに持っている特殊能力……術式を何よりも重んじ、「術師にあらずんば人間にあらず」っていう馬鹿みたいな訓を真面目に考えるとこだ。
そんな家に術式を持って生まれ変わった俺は、一子相伝の術じゃなかったから扱いこそ冷ややかだが、衣食住には困らない生活を送っていた。
術式が遊戯王じゃなかったらとっくに狂って家出していただろう。
まともな感性を持っているなら、女子供を奴隷みたいに扱ったり、程度の低い術師を戯れに痛ぶったりしていい気分になれるわけがない。
しかし、俺があからさまに被害者を助けようとすると、それはそれでつけ込まれる。
中には身体を使って俺の寵愛を得ようとしてきた奴もいたり……うえぇ。
だから、色々と学習した俺は目立って助けはしないが、やんわりと小間使いのミスを俺のせいにしたり、機嫌の悪い男から遠ざけたりと行動していた。
禪院の中では大人しく、野心らしい野心も持たない俺は家では当然浮いており、たびたび陰口も聞こえてくるが……俺がチラリと目線を向ければビビって固まるのだから鼻で笑うしかない。
そんな生活を送っていたが、ある男を見つけた時……そんな虚無の生活を終えることに決めた。
「ハッ、顔もダメ、体もダメな非術師の女になにができ──あだぁ!?!?」
「減点100だ、直哉。今の発言はスリーアウト満塁ワンキルダイレクトアタックだぞ」
使用人の女性に暴言を吐こうとした子どもの頭を、道徳の教科書で思いっきり殴った。
薄い本とはいえ角で殴ったので痛いだろう。頭を抑えて蹲る直哉を無視して、使用人にさっさと逃げるようシッシッと手を振る。
使用人は顔を青くしていたが、一度深くお辞儀をして廊下を去って行った。
「なんやねん、アンタ!? いつもいつも許されると思っとん!?」
「お、減点1000の方が良かったならそうするが」
俺はもう片方の手に持っていた広辞苑をそっと持ち上げた。
流石にヤバいと思ったのか、直哉はブツクサと文句は言うもののギャンギャン叫ぶことを止める。
いくらこの子どもが禪院の御曹司といえど、容赦はしない。
大人はもう修正できないだろうが、この年齢ならまだきっとやり直せるからだ。
「俺はお前に禪院の当主になって貰いたい。だから男尊女卑だの低レベルな雑言に慣れられちゃ困る」
「当主になるのに必要なのは強さで、お行儀の悪さやない。出世コースから外れて頭おかしくなったんか?」
「はい減点10点。当主って立場は人が付いてこないとなれないってこと忘れるなよ。俺はお前に良いトップになってほしいんだ」
さっきよりは優しく、教科書で頬をビンタする。
別に俺だって好きで暴力を振るっているわけじゃないが、言葉では矯正できないくらい歪んでしまっているし、吐く言葉も洒落にならない物ばかりなので、泣く泣く心を思い出せと道徳の教科書に力を込めるのだ。
そう、俺はこの禪院直哉という男を次の当主に推している。
「いったぁ……! っ、そもそもアンタが俺を当主に推薦して何の得があるねん! 俺だってアンタみたいな木偶願い下げやわ」
「……お前、もっと上に行きたいんだろ?」
「は?」
「知ってるぜ。お前が出て行った甚爾の強さに焼かれたって。格上を見た時に心を折ることなく向上心を持てる奴は貴重だ。今の若いのでそういうのはお前しかいない。だから、俺はお前を当主にする」
向上心、心の強さ、根本的な実力。
それらを全て持っていて、かつ思想が正せそうなくらい幼い奴は今コイツしかいない。残念ながら他の子どもは既に心が折れて誰かの傀儡のようになっていたり、そもそも術式を持っていなかったりする。
俺はこの禪院家を根本的に変えたい。
その為にはまずまともな思想を持ったトップが立つのが手っ取り早いだろう。直哉にはその為に健全で正当な強さを持ってもらわねば。
本人も当主には拘ってるようだし、俺だけ得するわけでもない。
「アンタ二級やん。その程度の術師に推されてもなんも嬉しくないわ」
「ああ、二級だな。止められてなくちゃ特級なんだけどなぁ」
「……なんの妄言や」
「俺は嫌われ者だからなぁ、等級すら正当じゃねんだ。高専の基準ならとっくに特級だ。……信じるかはお前次第だがな」
実際、俺の術式によって国家転覆は可能である。
適当に次元の裂け目で国のお偉いさんがいるところに飛んで、領域展開してから《最果てのゴーティス》で丸ごと除外すれば良い。多少ブレはあるが、コンディションが良ければ領域の大きさは東京全域を余裕で覆える。
日本の一大都市を消し飛ばした後は適当にふらつきながら除外し続ければ、日本程度の広さなら制圧可能だ。
除外すればするほどゴーティスも力を上げていくから、最終的にはとんでもない数値を持ったモンスターが出来上がるだろう。
そんなわけで、正式に判定し推奨が通れば俺はとっくに特級だ。
それが何故二級で止まっているのかというと、上の人間に邪魔されている。それだけだ。
家に貢献することなくのらりくらりと任務をこなしている俺は、呪術界の重鎮にも遜ることはない。媚びない俺が目障りなのか、俺の等級は二級から上に上がる許可が降りないのだ。
誰かが呪術師の爺さん達を腐ったミカンと呼んでいたが、全くその通りだと思う。
「嘘やな。アンタより甚爾くんのが強い」
「でもお前はその俺より弱いしなぁ」
「こんのっ……!」
直哉が術式を使って殴りかかってきたが、即座に拳の前に《魔法の筒》が出現し、直哉の殴打は直哉に返っていく。
このやりとりも最早何度目だ。
俺とて半端な実力で禪院家を変えられるとは思っていないので、自分の術式を向き合ったり反応速度を上げたりと鍛えているのだ。
まだ術式が強いだけでそれに引っ張られているガキに負ける道理がない。
顎だか良いところに入ったのか動かなくなった直哉を引き摺って、俺は自室に戻る。
コイツが殴りかかって俺に負けたので、罰ゲームを受けてもらおうというわけだ。
「《ゴーティスの双角アスカーン》を除外から特殊召喚。そのまま《白闘気白鯨》をシンクロ召喚。効果で破壊」
「……チェーンは無し」
「そのままダイレクトアタック」
「はぁ……」
自室の机にプレイマットを広げ、俺と直哉は遊戯王をしていた。
俺の部屋には大量のデッキケースがあり、ストレージ用のカードケースも大量に積まれている。
全て俺が呪霊を倒したことで得たカード達だ。
さて、今回の決闘も俺が直哉の《ギミックパペット》のワンキルを躱し勝利したわけだ。
呆れた目線で直哉に見られているが、特に気にせずフィールドを片付ける。
「飽きもせず、おんなじ事して楽しいんか、か、これ?」
「少なくとも俺は楽しい」
「俺を付き合わせるくらいなら使用人にやらせろや」
「わかってないなー、これもまた、お前の力を上げるための修行でもあるんだぜ」
と、ウィンクすれば、直哉からは「アホらし」というつれない返事が返ってきた。
「まぁまぁ、ほら、これやるよ」
そう言って差し出したのは一目で高級とわかる和紙に梱包された四角。
ほのかに香る小豆は、和紙越しでも食欲を刺激するだろう。
「決闘して頭使っただろ。賞味期限近いから食べちゃってくれ」
「なんやこれ」
「羊羹。あ、懐紙と黒文字はこれな」
そう渡せば、黙って包装を開いて上品に食べ始めるのだから、変なところで行儀が良いと思う。
礼儀作法より他人への尊重を先に教えるべきではないのか。
しかしまぁ、こうして決闘して菓子も食ってくれるんだから進展した方だ。昔は術式を使ってでも逃げようとしたし、遊戯王なんかもってのほかだった。
その度捕まえてルールを教えたのは俺だが。
現状この家で唯一の決闘相手なのだから仕方ない。こうして罰ゲームとして決闘する以外は虚しい一人回しで終わるのだから。
「アンタにしてはええもん渡すやん。どっかからの貢ぎ物かなんか?」
「貢ぎ物な訳ないだろ。自分で買ったんだよ」
「はぁ? 誰か懐に入りたい相手でもおったん」
「お前は発想がいちいち嫌らしいんだよ。あるだろ、たまに高いお菓子独り占めしたくなる時」
「無いわ」
「まぁお前はそうか……」
甘やかされて(あるいは媚を売られて)高い菓子だの飯を食わされてるんだから、わざわざ独り占めしたいなんて発想出てこないか。
ボンボンはこれだから……とため息を吐く。
俺は家から期待されていないので、扱いも直哉より下だ。媚を売る代わりに喧嘩を売られることは多々あるが、ほどほどにいなしている。
ああいう手合いに付き合う方が馬鹿らしい。
「お前が当主になったのを足掛かりに、呪術界をクリーニングしていく予定だからな。羊羹は登山なんかでもよく食べられてるし、良いスタミナ回復アイテムだ。カロリーも、お前の運動量なら大丈夫だろ」
「……そのクリーニング、つっうの、ほんまにやる気なんか? 俺からしても滑稽な夢やで」
「決闘者に二言は無いぜ。なにより、こんな世界じゃ俺も俺のモンスターも息がし辛い。居心地が良くなるついでに人手不足や若い術師の殉職が少なくなれば最高だろ?」
俺は上層部に目をつけられているので、術式を使うのもなかなか窮屈だ。
任務では何かと理由につけて暗部を同行させようとするし、下手に情を見せた相手を人質に取られることもある。
呪霊よりも人間の方が余程厄介な敵となってしまっているのだ。
ならば、水槽の水どころか海藻や砂利ごとまっさらに掃除しなければ意味がない。
「マ、俺の野望のためにも頑張って当主になってくれ、直哉クン」
「言われんくてもなるわ、そんくらい。術式も顔もブサイクなカス共なんかに負け」
「減点100」
「いっだぁ!?」
*
「直哉くんはうっかりさんだなぁ」
見下ろした直哉は血だらけだった。返り血ではない、正真正銘彼の血だろう。
出血量から見て深傷だが死にはしない。引くほど痛いだろうけど。
俺の揶揄うような言葉に、直哉は目線だけで苛立ちを訴えた。喋る気力は無いらしい。
荒い息は血流が巡る速度の速さを表しているようだ。
「その傷、呪霊じゃないな。ナイフ……短刀か。その程度の傷の深さで済んだのは幸運だぜ?」
「……」
特に傷の大きい脇腹を押さえながらも、体に巡る呪力の乱れや時折チカチカとどこでも無い場所を視線がうろつくあたり、相当限界そうだ。
やれやれ、と俺は《ギフトカード》を発動する。ついでに《成金ゴブリン》も使えば、直哉は咳と共に口の中に溜まった血を吐き出し、ゆっくりと立ち上がった。
「……アンタ、反転術式」
「ん? まぁ条件付きだがな。さて、誰にやられたか覚えてる? 今の俺は気分が良いから、お礼参りくらいはしてやるけど」
「補助監督の……」
「ああ、金髪の方の木村か。やっぱアイツ怪しいと思ってたんだよな〜。直哉、お前は一人で帰れるだろ?」
「俺も連れてけ……。やられっぱなしは性に合わんわ」
「はは、駄☆目」
笑顔でそういえば、普段から悪い直哉の目つきがより凶悪になった。
「常日頃から実力のある術師は狙われやすいって言ってたのに、引っかかった事を反省してろ。殺しはしないから、あとでお前の方で好きにすればいい。今日はもう帰れ」
「チッ……」
「舌打ちすんなー」
直哉はもう15歳。その時点でもうすでに大人顔負けの実力を身につけている。等級としては二級だが、この成長ペースなら二十歳になる前に一級術師に昇格するだろう。確実に。
それ故に相続問題や他の御三家から警戒され、こうして任務による死を偽装して殺しにくる暗部が動き始めてしまった。
予想できた問題だろう。
俺は呪術界の上層部から狙われているので、より巧妙な手口で狙われがちなのだが、今回は子どもと侮ったのか随分雑だ。
刺した短刀こそ回収されているが、血を踏んでできた足跡や殺意の痕跡を残したままにしている。
物騒な問題だが、暗殺者が近くにいるのが日常になると殺意には随分敏感になる。もともと決闘者は敵意や殺意には敏感な方だし。
血の足跡が途中で途切れていても、漂う殺意の残り香で十分に居場所を追えた。
現在地らしい場所に当たりがついたら、一気に《次元の裂け目》で飛ぶ。
「な、なんだお前は!? どこから入った!」
予想通り、似合ってない金髪にイヤーカフを着けた木村がいた。隠れ家にしては簡素なコンクリ打ちっぱなしの部屋は、鍵付きの一つの扉しか出入り口がない密室だ。床には血が拭かれた短刀がある。
我ながら良い特定能力をしている。禪院と関わる補助監督は全員把握しているからな。禪院だけに。
……やめよう、直哉からの目線がさらに冷たくなる気配がした。
「あ、心配しなくていいよ。俺は殺しにきたわけじゃないから」
「っ、お前、禪院のはみ出し者か!」
「ヒデーな、人をテーマ内でも使い道が無いカテゴリカードみたいに」
木村と繋がっている奴は短刀の柄と胸ポケットに入ったお守りで特定できた。なんてことない、ただの家督争いに加わっている身内の一人だ。
この浅さの人間を刺客として放つ程度なら怖くないな。と思いつつ、俺はカードを発動させた。
その後、直哉に引き渡した刺客がどうなったかは知らないが、家督争いのライバルが一人消えていた。
相変わらず直哉は口が悪いので、道徳の教科書で殴って決闘してたらそんな事もすぐ忘れてしまったが。
*
「どもども、禪院宙っていいます。訳あって二級だけど足手纏いになるつもりはないから、よろしく〜」
「……禪院のとこからにしては、軽い奴が来たな」
「んで、こっちがおんなじ家の禪院直哉くん。こっちも強いよ〜なんせ一級だからね!」
「なんでアンタが自慢げなんや。あとその作った声やめーや、鳥肌立つ」
禪院家と(一応の)協力関係にある高専とは、たまに任務が一緒になる。
特に厄介な報告が上がっている呪霊は複数人で赴くのが基本なので、高専の中で人手が足りないとフリーや何処かの家の術師が呼ばれるのだ。
今回は俺と直哉が指名されたが、嫌な予感しかしない。既に同行する補助監督が上層部の息がかかった邪神アバターくらい真っ暗の人物だったので、おそらくメインターゲットは俺だろう。
直哉共々潰れてくれれば、と言った計画だろうか。巻き込まれる高専の術師には同情する。
「ふーん、別に帰っていいよ。俺と傑でどうとでもなるし」
「こら、悟。一級は良いとして、二級が紛れ込んでるからってそんな事は言わないほうがいい」
「……随分なご挨拶やな、ほんま」
直哉がイラついて眉間に皺を寄せたが、その程度の言葉で止まったのは本当に偉い。あとで好きなお菓子を買ってあげよう。それとも呪霊のBOX開封権の方が良いかな?
確かにここにいるのは俺を除いて全員一級。特に高専の二人は特級間近と聞いた。そんな中に二級がひょっこり紛れ込んでいるのは不安に思うだろう。
特に今回の任務は最低でも一級、最悪の場合特級案件だ。二級の術師を送り込むなんて普通なら「死んでこい」と言っているようなものだろう。
まぁ俺は実際命を狙われているんだけど。
「はは、そっちの邪魔をするつもりはないから大丈夫。なんならこき使ってよ。別に俺が危なくても助けなくていいし」
「あっそ、じゃあさっさと終わらせようぜ」
「……せっかちな奴やなぁ」
「早く祓ったほうが被害も少なくなるし、ワンチャンBOXゲットのチャンスなんだから、そんな不機嫌になるなよ〜」
直哉は俺の数年単位の矯正と決闘により、禪院の中ではかなりメンタルが「まとも」になっていた。
煽るような態度や上を目指す野心こそ残っているものの、傲慢な男尊女卑や他人を見下す発言はほぼ無くなっている。売られた喧嘩は買うので穏やかになったわけではないが。
いやぁ努力の甲斐がありました。
道徳の教科書はすっかり角が潰れたし、当主候補筆頭の直哉側の人間として俺に向けられる殺意の数も多くなったけど、自分から決闘に誘ってくれるようになった直哉がいる時点で大黒字ですわよ。
「……宙」
「わかってる、警戒は怠らないぜ」
明らかに俺を殺す意図がある任務に直哉がダルそうに声を顰めるが、俺とてこんな所で終わるつもりは毛頭無い。
呪霊の気配とは別に、人間の殺意も見分けていかないといけない。面倒だが、俺の存在を上が脅威に感じている証だ。
それにしても……六眼に無下限という超ハイスペックで実力も確かな五条には、直哉も甚爾と同じくらいの憧れていた筈だが……。あの態度で夢が壊れたのだろうか? 少し残念そうな顔をしている。
数年前の直哉はアレよりひどかった癖に、今更常識人ぶっているのはなかなか面白い。
「下手打つなよ」
「そっちこそ」
俺と直哉による呪術界クリーニング計画は、数年後実現することになる。
やっぱり、自分が生きる水槽は自分で綺麗にしなくちゃな。
ま、その後当然俺は特級に認定されて仕事も大量に増えたわけだが……その隣で直哉が見せつけるようにデッキをチラつかせるので、古くなった道徳の教科書を取り出すことになったのは、また別の話だ。