ミラ子の娘。   作:宮川 宗介

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第十三話

初めての重賞挑戦、京都ジャンプステークスに向けての調整は順調だった。

京都ジャンプステークスは15ヵ所もの障害をクリアする必要がある、非常にタフなレースである。

 

特に難所とされているのが三ヵ所目に待ち受けている、京都レース場の大障害コースにしかない、特有のバンケットだ。

 

このバンケット障害は別名三段跳びとも言われ、高低差0.8メートル、長さ15.9メートルの台のような障害物を上り下りするという、他のコースには見られない特殊なものである。

 

ウマ娘は坂や段差を登るのは得意なのであるが、実は走りながらそれらを下るのは苦手だったりする。

ウマ娘特有の、あの車にも匹敵するスピードを維持しながら、体のバランスを取り続けるのが難しいからだ。

 

淀の平地のレースでも第三コーナーの坂が勝負どころと言われるのは、その坂の下りでバランスを崩してしまったり、余計なスタミナを浪費してしまったりするウマ娘が多いから、というのも理由の1つ。

 

その”台”のようなバンケットを攻略するために、わたしはトレーナーの指導の下、体育館でちょっと変わったトレーニングを行っていた。

 

「よっ……と」

 

わたしは少し助走をつけ、久しぶりに見た『それ』にジャンプして飛び乗り、そして今度はバランスを崩さないようにフォームを意識して、『それ』の上から飛び降りた。

 

「うむ。慣れてきたのか、なかなか『それ』の乗り降りもうまくなってきたな。今日はあと三回ぐらい練習して、ダートコースへ行こうか」

「了解。でも、こんな練習が本番で役に立つの……?」

 

わたしは今しがた飛び越えた『それ』……体育館の倉庫から引っ張り出してきた跳び箱の頭部(あの白いところだ)をポンポンと叩きながら、トレーナーに疑惑の目を向けた。

 

指示されたからとりあえず従っているものの、こんなトレーニング、見たことも聞いたこともない。

 

ちなみに跳び箱の高さは、たったの5段。

未就学児でもちょっと体を動かすのが得意な子なら、カンタンに飛び越えてしまえるぐらいの高さしかない跳び箱に飛び乗り(普通に跳び箱を飛んでいるわけでなく、ジャンプで箱の上に飛び乗って一旦頭部に立っている)、そしてまたそこから飛び降りる、ということをウマ娘のわたしが繰り返しているのである。

 

正直、単調で退屈を覚えるようなトレーニングだった。

 

「ああ。それの高さはだいたい90センチで、淀のバンケットに近い高さになっている。その跳び箱をうまく乗り降りできるようになれば、本番でもあの”台”を問題なくクリアできるはずだ」

「ふぅん。でも、あんまり見たことのないトレーニング方法だね」

「そうだろうな。お前は5月まで平地を走っていたから、障害の練習なんて見たこともなかっただろうし、そもそもこのトレーニング方法は近年開発されたものだからな」

「そうなんだ」

 

最新のトレーニング手法を何の抵抗もなく受け入れて自分も試してみるあたり、うちのトレーナー兼父親殿は、歳の割に柔軟な考え方をしているらしい。

 

「うむ。このトレーニングが開発されたのは……確か、2年とちょっと前だったかな」

「えっ、そんだけしか経ってないの!? それって効果とかちゃんと実証されてるわけ?」

 

このトレーニングの歴史を聞いて、わたしは思わず顔をしかめてしまった。

新しいものを試してみようという考え方には大いに賛成するけど、手法が確立してからわずか2年って……それって新しいだけで、まだ効果とか怪しいんじゃなかろうか。

 

ひょっとしてわたし、新しいトレーニングの臨床実験に使われてたりする……?

 

なぜだかわからないが、SMの女王様が掛けているようなメガネをしたスタイル抜群の金髪美女が両手に笹針を持って、『レース界の発展には犠牲も必要なのよ!』と主張している絵が脳裏に思い浮かんだ。

 

「ああ、それについては大丈夫だと思うぞ。このトレーニングを開発したのはあのミホノブルボンを担当したトレーナーで、今はグランアンネリーゼを担当している名伯楽だからな。グランアンネリーゼもこのトレーニングのおかげで、初めての淀のバンケットも違和感なく乗り越えることができたって、前に月刊トゥインクルのインタビューで答えていたよ」

「そっか、それなら間違いなさそうだね!!」

 

ミホノブルボンにグランアンネリーゼか。

それだけのビッグネームを出されては、こちらも納得せざるを得ない。

 

「よし。練習の効果に納得したのなら、跳び箱をもう3往復してこい。あの段差を跳んで乗るという感覚、高さが少しあるところから飛び降りるという感覚を、しっかり身につけるんだ」

 

トレーナーの指示に頷くと、もう少し跳び箱から距離を取って、わたしは体育館の床を蹴った。

 

*

 

京都レース場はわたしの母であるヒシミラクルが、人気薄ながら菊花賞・天皇賞(春)というビッグタイトルを射止めた場所である。

 

平地と障害。

競技は違えど母が頂点に立った同じレース場、同じ長距離レースの重賞を走るということに、わたしは感慨のようなものを覚えていた。

 

できることなら、そんな今日のレースとは無心で向き合いたかったんだけど。

 

「わたしは血統的にも長い距離は走れるだろうし、前走を勝っている勢いもあるって言っても、重賞初挑戦のウマ娘を三番人気に推すのは、さすがに買いかぶり過ぎな気がするけど……」

 

体操服に着替え、スマホでURAの公式ページを見ながらわたしは思わず苦笑してしまう。

笑ってごまかそうとしたが、そのことが重賞で上位人気に推されているというプレッシャーを軽減してくれることはなかった。

 

これだけの人気をわたしが集めたのは、『あのヒシミラクルの娘』という理由だけで一番人気に推されたデビュー戦以来である。

 

ちなみにデビュー戦は、お母さんのそれと同じく7着に終わった。

 

「まぁなんだかんだ、お前は障害に転向してから2連勝してるわけだしな。追い切りのタイムも良かったし、ファンがポイントを投じたくなる気持ちはわかる」

 

ノートPCを机に広げてレースの出走メンバーと作戦の最終確認を行っていたトレーナーが、こちらに視線を移して言う。

 

「そういうもんかな……でも今日のメンバー、障害のトップクラスが勢揃いって感じじゃない?」

 

暮れの中山大障害へ向けての最後の前哨戦、J・GⅢ京都ジャンプステークスには錚々たるメンバーが出走してきていた。

 

今日、上位人気に支持されているウマ娘を挙げてみるだけでも……。

 

先月圧倒的な強さでJ・GⅡ東京ハイジャンプを2連覇し、そこから中一週というタイトなローテーションにも関わらずここに出てきた障害界の絶対王者、グランアンネリーゼさん。

 

グランアンネリーゼさんが登場するまで障害界の第一人者だった、J・GⅠ三勝の実績を持つシニア3年めの大ベテラン、クリスタルソナーさん。

 

今年の夏の新潟ジャンプステークスを制し、障害界の新星と期待されているリーチヨハンナさん。

 

他にも重賞優勝経験者や、それに前走最後まで優勝を争ったアクサナデイジーさんもここに出走してきている。

 

メンバー的には、J・GⅠとなんら遜色ない感じだ。

 

しかしなぜ、重賞の中では一番格下のJ・GⅢに、これだけトップジャンパーが集まるのか。

 

それは平地と比べて、障害競走の重賞レースがあまりに少ないからだ。

 

中央では年間100以上もの重賞競走が執り行われているが、そのうち障害の重賞レースはJ・GⅠを含めてわずか10レースしかない。

 

それ故に、強者たちが少ない重賞競走に数多く集まってくる、というわけだ。

 

こういう状況に対して、障害レースはいつも同じようなメンツで戦うから面白くない、というファンもいれば、レベルが高くて濃いメンバーでの対決を何度も見られるのは楽しい、と言ってくれるファンもいる。

 

「手強いメンツが集まっているのは、お前の言う通りだ。だが、見方を変えれば3番人気に推されているとはいえ、この中でお前はまだまだ新参者で、チャレンジャーの立場だ。背負ってる人気のことは考えず、お前は自分の力を出し切ることだけに集中すればいい」

 

トレーナーもトレーナーで、わたしが感じている重圧を少しでも和らげようとしてくれているのだろう。

そんなことを言いながら、トレーナーはノートパソコンをパタッと閉じる。

 

「人気のことを完全に意識しないってことはできないけど、結局それしかないよねぇ。ま、トレーニングでもやれるだけのことはやったし、精一杯走ってくるよ」

「うむ。じゃあ軽く作戦会議をしておくか。今日のレースの展開はグランアンネリーゼ次第だが、上位陣に先行勢が多いし、おそらく少し速いペースで流れると思う。だから……」

 

人間、拠り所があれば、重圧がある中でも意外に力を発揮できるものだ。

その拠り所を作るためにも、トレーナーからの作戦と指示を、わたしは頷きながら真剣に傾聴した。

 

*

 

障害レースの重賞競走は平地と比べると、残念なことにどうしても盛り上がりに欠けることが多かった。

 

観客動員数が平地の重賞に比べて少ないということもあっただろうし、そのレベルはともかくとして、出てくるウマ娘は同じようなメンバーで出走人数も少なかった、ということもある。

 

でも、グランアンネリーゼさんが登場してから、その流れは確実に変わりつつあった。

 

「リゼ! 今日もぶっちぎりのレースを見せてくれよ!」

「きゃ~っ!! アンネ様、こっち向いてくださ~い!!」

 

グランアンネリーゼさんがパドックの舞台に登壇した途端、男性の野太い声援から女子の黄色い声まで、様々な人の応援が乱れ飛ぶ。

 

その盛り上がり方はとても障害競走の、それもJ・GⅢのものとは思えないほどだ。

 

たくさんの声援を受けて、グランアンネリーゼさんがおもむろにメガネを外す。

そしてそれを何処かへ放り投げると(よく見ると彼女の担当トレーナーがキャッチしていた)、パドックの観客席からは更に大きな応援の声と万雷の拍手が湧いた。

 

グランアンネリーゼさんは普段は眼鏡で、レースのときにはコンタクトを装着して臨んでいるということはよく知られている。

 

それなら別にメガネは控室で外してくれば良いものであるが、彼女はそれがパフォーマンスとしてファンに喜んでもらえることを分かっているのだ。

 

ひとしきりのパフォーマンスを終えると、体操服姿のグランアンネリーゼさんは、公称92センチを誇る胸をぐっと張って絶好調をアピールする。

 

今日の彼女の単勝支持率は驚異の88%で、オッズは1・0倍。

 

ファンたちはグランアンネリーゼにポイントを投票しても得にならないと承知しつつも、今日のレースを勝利するのは彼女以外ありえないと思っているのだ。

 

そんな圧倒的な支持を受けているグランアンネリーゼさんは、最後に微笑を浮かべながら観客席へ手を振ると、静かに舞台から降壇した。

 

それから3人のウマ娘が舞台上で調子をアピールし、いよいよわたしの番である。

 

前走のオープン戦とは比較にならないほどのファンたちの熱い視線と熱気の中、わたしはいつもより少しゆっくりと舞台へ登壇する。

 

これが、重賞競走のパドックの空気感なのか……。

 

初めての重賞出走のせいか、少し緊張しているものの、体調は決して悪くない。

第一人者を真似たわけでもないが、わたしも胸を張って笑顔で体調の良さをファンたちにアピールする。

 

「エルサ! 障害に来てから調子いいみたいだな。三連勝での重賞制覇、期待してるぞ!」

「アンネさんは強いけど、長距離ならあなたにもきっとチャンスがあるわ! がんばってね!」

 

わたしのパフォーマンスに、観客席からは拍手とそんな声が飛んでくる。

重賞での三番人気ともなると、そのウマ娘に向けられる声援も結構大きい。

 

期待されることにプレッシャーも感じるけれど、応援の声というものは競技者にとってありがたいものだし、励みになるものだ。

 

今日のところは正直、あの怪物に勝てるとは思っていないけど、少なくとも応援してくれているファンたちがガッカリしないようなレースにはしたい。

 

いや、これだけの人気を背負っているわたしには、その義務がある。

 

相手が相手だから勝ってみせる、までは言い切れないけど、見せ場は必ず作ってみせるからね。

 

そんな想いを込めて、わたしは観客席に向かって手を振った。

 

*

 

障害レースでの数少ない重賞競走、京都ジャンプステークスに(つど)ったジャンパーは、全部で10人。

 

気性の良いウマ娘が集まる障害のレースらしく、滞りなくゲート入りが進む。

 

全員がゲートに収まった次の瞬間、淀の秋風を切り裂くようにゲートが開いた。

 

出遅れた娘は、一人もいなかった。

 

大外から切り込むように先頭を奪取したのは、グランアンネリーゼさんだった。

 

彼女の脚質は非常に自在性の高い逃げ・先行型だ。

前の方でレースができればどちらも厭わず、展開に応じて自由にポジショニングできる。

 

この自在性が、彼女の安定したレース成績を支えているのは言うまでもないだろう。

 

今日は積極的にハナを奪いに行く娘がいなかったので、自分でレースを作りに行ったようだ。

 

そんなグランアンネリーゼさんに競りかけよう、なんて娘はいない。

彼女の思い通りにレースを作らせるのは、戦略的にまずいことは皆わかりきっている。

だが実力が1枚も2枚も頭抜けているウマ娘に鈴をつけに行くようなマネをすれば、自分が競り潰されるだけだ。

 

わたしも五分のスタートを切ることに成功し、集団の真ん中より少し前につけることができた。

脚質から言えば、ほぼ理想的な位置取りだった。

 

わたしの脚質は差し寄りの先行で、お母さんほどズブいわけではないが、最後の直線勝負に賭けられるほど切れる脚も、残念ながら持っていない。

 

終盤の入口でややロングスパート気味にエンジンを掛けて、最後の直線は残っているスタミナと根性で勝負する、というのがわたしのレーススタイルだ。

 

スタートを切ってすぐ、最初の生け垣障害がわたしたちを歓迎してくれる。

 

先頭を征くグランアンネリーゼさんが、生け垣の手前で軽くターフを踏み込んだ。

 

そしてあざやかに、その障害をジャンプ!

 

「……!」

 

なんて美しい飛越なのだろう。

 

彼女の飛越は動画で何度も見返し、研究させてもらっていたのだが、間近で見る彼女のジャンプはまるで一幅の絵画のようだった。

 

あれがジャンプの天才とまで言われた、母譲りの飛越なのか。

 

レース中、それも対戦相手のものだというのに、わたしは思わずそれに見惚れてしまう。

 

彼女の飛越と比べればわたしのジャンプなんて、短足猫のドジっ子ジャンプのようなものだ。

 

そんな見てるほうが微笑ましく思ってしまうような飛越しかできないとしても、あの生け垣を飛び越えないわけにはいかない。

わたしを含む後続も、転倒者を出すことなく第一の障害物をクリアする。

 

同じ障害物を飛び越えたはずなのに、後続のウマ娘たちは先頭のグランアンネリーゼさんとの距離を保つこともできず、更に差が開いてゆく。

 

出しているスピードは、大して違わないにもかかわらず。

 

これが飛越技術の差なのだ。

 

息つく暇もなく、次の障害物がウマ娘を待ち受けている。

次はわたしが絶対に失敗したくない障害、水濠障害だ。

 

前2走(福島・新潟)には水濠障害は設置されていなかったので、なにげに水濠は初体験である。

 

先頭のグランアンネリーゼさんは先程と同じく完璧なフォームで、まるで小学生が雨上がりの小さな水たまりをジャンプして避けるかの如く、それも楽々クリアした。

 

そしてさらに、わたしたち後続との差を広げにかかる。

いや、わたしたちとは飛越技術のレベルが違いすぎて、勝手に差が広がっていっているだけなのだ。

 

わたしはといえば、水が苦手、という意識がそうさせたのか、必要以上に大きくその水濠を飛び越えてしまった。

そのせいで距離をロスして、後ろを走っていたクリスタルソナーさんに抜かれてしまう。

 

長らく第一人者の地位にあったクリスタルソナーさんの飛越も素晴らしいものだったが、それでもグランアンネリーゼさんとの差を縮めるのは難しいようだった。

 

彼女は無理にグランアンネリーゼさん率いる先行集団に追いつこうとはせず、わたしの前に位置して様子をうかがっている。

 

そして隣には、この夏新潟ジャンプステークスを制したリーチヨハンナさんがぴったりつけてきた。

 

う~ん……ツイてない。

どうやら、強い人達に囲まれてしまう流れになってしまったようだ。

 

こうなったら、どこかでこの包囲網が破れることを祈るしかない。

 

3つめの生け垣も、みんな綺麗にジャンプ。

わたしも結構、いい感じで飛ぶことができた。

 

4つめの生け垣障害までには、結構距離がある。

 

本当はここで脚を使ってもう少し前につけたかったが、前を走っているクリスタルソナーさんもわたしの外側を走っているリーチヨハンナさんも、まったく位置を変える様子がない。

 

わたしはできる限り距離のロスを防ぐために内ラチいっぱいを走っているので、クリスタルソナーさんの内側を突いて抜け出すのも難しい。

 

できるだけ内側を走って距離のロスをなくしたい、と考えるのはどのウマ娘も一緒か。

良いように考えるなら、わたしも強いウマ娘と同じような走りができている、とも言えた。

 

淡々としたペースでレースは流れ、先頭のグランアンネリーゼさんが第四障害の生け垣を軽くクリアした。

 

あとに続くわたしたちも、無難にそれを飛び越える。

 

だが、次の障害は少し厄介だ。

 

大生け垣と呼ばれる、通常の生け垣障害より背の高い障害物がウマ娘たちを待ち受ける。

 

先頭のグランアンネリーゼさんが、その大生け垣に差し掛かった。

 

かなりの跳躍力が要求されるはずの大生け垣も、彼女は通常の生け垣となにも変わらない、と言わんばかりにきれいに飛び越えた。

 

ん……なんだ。

見てる感じ、意外と簡単にクリアできるんだな。

大生け垣、なんて聞いていたものだから、ちょっとビビりすぎてしまっていたようだ。

 

しかし、わたしの慎重さはどうやら的を射ていたらしい。

 

眼の前にやってきた、初めて見る大生け垣は想像以上に高く、まるで巨大な障壁のようにわたしの前に立ちはだかっている。

 

「……っ!」

 

怖がるな、エルサ。

ぶつかったって、死ぬわけじゃない!

 

わたしは自分に檄を入れ、思い切り踏み切って、ジャンプ!

 

水濠に続いて初経験の大生け垣だったけど、わたしはなんとかこれをクリアすることができた。

 

だがその高さのせいで、脚先が生け垣の頭を蹴飛ばしてしまう。

さいわいバランスを崩したり転んだりすることはなかったけど、余計なものに触ってしまった分、減速を余儀なくされてしまった。

 

しかし前をゆくクリスタルソナーさんや、隣を走っているリーチヨハンナさんも、わたしと同じように大生け垣に脚を少し取られたようだ。

 

そのおかげで(というと語弊があるかもしれないけど)二人から置いていかれてしまう、ということにならずにすんだ。

 

あの大生け垣はJ・GⅠ優勝者や伸び盛りの重賞優勝者でも、楽に超えることを許さないらしい。

 

それにしたって。

 

グランアンネリーゼさんは大生け垣を超える時、わたしたちのようにあの障害物の頭を蹴り飛ばすなんてマネはしなかった。

 

通常の生け垣よりかなり背が高いはずの大生け垣にまったく触れることなく、いつもと同じように無駄のないジャンプで越えていった。

 

彼女とわたしたちでは、飛越技術だけではなく、持っている跳躍力が違うのだ。

 

これが天賦の才というやつなのか。

 

いや、天賦の才を極限まで鍛えることによって生み出された、奇跡のような跳躍力なのだろう。

 

あんな超天才にどこまで迫れるんだろう……などと考えているうちに、グランアンネリーゼさんは京都ジャンプステークス名物、バンケットに脚を掛けようとしていた。

 

<続>

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