長らく障害レース界をリードしてきた、J・GⅠ3勝の実績を持つ古豪・クリスタルソナーさんが引退を発表した。
引退の理由は、体力の限界とのことらしい。
前走の中山大障害で障害デビュー以来、初めて二桁順位負けを喫したことで彼女は引退を決意した、と月刊トゥインクルの記事は伝えている。
次走の、小倉ジャンプステークスがラストランになるそうだ。
わたしは直接クリスタルソナーさんとお話させてもらったことはないんだけど、彼女は長らくトップジャンパーの地位にいたウマ娘である。
クリスタルソナーさんへのインタビューや彼女に関するレース関係の記事は何度も目にしたし、彼女がどんなウマ娘なのか、周りからの評判も耳に入ってきたりはしていた。
そんな伝聞から想像するに、彼女はあまり目立つことを好まないタイプのウマ娘だったようだ。
いくつか見た、クリスタルソナーさんが勝ったあとのインタビューでの、インタビュアーに対する返事はいつも同じようなものだった。
インタビュアーが『レース勝利、おめでとうございます! 今日の勝因をお聞かせください!』と興奮気味に質問しても、クリスタルソナーさんは『展開に恵まれました』『調子が良かったので』とただ簡潔に答えるだけ。
インタビューに限らず、彼女が何かを得意げに語っているシーンというのを見たことがない。
テンプレみたいな回答しか引き出せなかった困り顔のインタビュアーから『では最後に、ファンの皆さんへひとことお願いします』とマイクを差し出されても、『いつも応援ありがとうございます。次走も応援よろしくお願いします』と言って、ウィナーズサークルからあっさり立ち去っていくのが常だった。
クリスタルソナーさんのトレーナーも、彼女を担当したことで初めて重賞を勝利した壮年の物静かな男性で、担当のことやトレーニング技法のことを聞かれても『ソナーはいつも頑張ってくれています』『特別なことはしていません。ソナーが結果を残しているのは、彼女が強いというだけです』と謙虚に答えるような人である。
こんな感じのウマ娘とトレーナーだったから、レース関係のマスコミの間では『あのコンビから言葉を引き出すのは本当に骨が折れる』と言われていたそうだ。
彼女はファンサービスも、あまり積極的に行うタイプではなかった。
さすがにウイニングライブを欠席するようなことはなかったみたいだけど、サインやファンとの写真撮影などには基本応じていない。
その理由をクリスタルソナーさんはなにかのインタビューで問われていたけど、『私のサインが欲しい、私と一緒に写真を撮りたいと言ってくださるファンがいるのは本当に嬉しい。でも、私がサインできなかった人、一緒に写真を撮れなかった人のことを考えると、どうしても申し訳なく思えてしまう』と答えていた。
ただ、彼女のファンサービスには例外もあるようで、小学生くらいまでの小さい子供にサインや写真をお願いされたときだけは、気前よくできるだけ応えてあげているそうだ。
そういう硬派な彼女であるから、SNSなんてやっているわけもない。
いや、厳密に言えばウマッターとウマスタに彼女の公式アカウントはある。
だがウマッターは『広報に言われて今日から始めました。よろしくお願いします』とJ・GⅠを初めて勝利した数年前に一度つぶやいているだけで、それ以降は一つも投稿がない。
ウマスタの方にも写真は一枚もアップされてないし、なにかコメントしているわけでもない。
プロフィール欄のアイコンも初期設定のままだし(あの灰色の鍵穴みたいな絵だ)、自己紹介文も【クリスタルソナー・投稿0・3万フォロワー・2フォロー中】となっているだけだ。
ちなみにクリスタルソナーさんがフォローしている2つのアカウントは、トレセン学園公式アカウントと彼女のトレーナーである。
これは想像にしか過ぎないけど、たぶん両方とも周りから言われてアカウントを作っただけで、それ以来一度もアプリすら開いてないんじゃないだろうか。
他にも『ひと時代を築いたトップジャンパーの、様々なショットをぜひ一冊の写真集にしたい』という話もあったようだけど、『柄じゃないので』の一言で断った、なんて噂も聞いたことがある。
こう聞くとなんだかとっつきにくくてファンをあまり大事にしないウマ娘、というイメージが先行しそうだけど、不思議と彼女のことを悪く言うレース関係者やファンはほとんどいなかった。
クリスタルソナーさんの言動が単に不器用でシャイな人柄から来ている、ということをレース関係者もファンも分かっていたのだろうし、彼女がどれほど真摯に障害レースに向き合っているかということを、みんな知っていたからだ。
特にプロ筋(トレーナーたち)からの評価は高く、『レースにおいてもトレーニングにおいても、考えうる最善を行っている理想のウマ娘』『彼女のレースやトレーニングに対する真剣な態度は、うちの担当にもぜひ見習わせたい』というトレーナーは数多い。
つまり、クリスタルソナーというウマ娘は、プロ好みの職人肌なウマ娘なのだ。
そんな彼女の血統は、決して華々しいものじゃなかった。
お母さんの主な実績はダート1200Mの未勝利戦を1つ勝っているというものだったし、親族に重賞で大活躍したウマ娘がいる、という話も聞いたことがない。
そしてクリスタルソナーさんもわたしと同じく、平地で勝てなくなって仕方なく障害へやってきた、いわば無念の転向組だった。
わたしも障害競走独特の長い距離にアジャストするのに大変な思いをしたものだけど、短距離血統に生まれた彼女の苦労は、わたしの比ではなかったと思う。
それでもクリスタルソナーさんは努力を積み重ね、少しずつ走れる距離と実力を伸ばし、ついにJ・GⅠウイナーになった。
全盛期のクリスタルソナーさんは、本当に強かった。
グランアンネリーゼさんが、クラシック期だった頃の話。
当時彼女は未勝利戦を勝ち上がったあと、オープン競走を2連勝していたことで『障害レース界の新星』として大いに注目を集めており、満を持して初めての重賞競走へと乗り込んだ。
その日の出の勢いと、母がジャンパーで唯一の顕彰ウマ娘という血統的な背景もあり、重賞初挑戦ながらグランアンネリーゼさんは現王者のクリスタルソナーさんを差し置いて一番人気に推される。
クリスタルソナーさんはめったに人前で感情を表に出すタイプではなかったようだけど、このときばかりは第一人者のプライドを刺激されたらしい。
『一番人気のウマ娘が、一番強いわけじゃない』
レース前、取材陣の『今回は二番人気になってしまいましたね』というちょっと失礼な質問に、強い口調でそう答えたという。
そしてその言葉通り、クリスタルソナーさんは新進気鋭の若駒を相手に3バ身の差をつけて勝ち切り、見事王者の貫禄を見せつけた。
だが、そのレース後の勝利者インタビューで、彼女はこんな言葉を残している。
『次はもう、勝てないでしょうね』
将棋や囲碁の世界には『名人、次の名人を知る』という言葉がある。
一つの時代を作るような超一流のプレイヤーは、自分の次の覇者を直感で見抜いてしまうものらしい。
実際、その後グランアンネリーゼさんは、クリスタルソナーさんに一度も先着を許していない。
クリスタルソナーさんが不運だったのは、自分の全盛期が30年に一度の天才ジャンパーのそれと重なってしまったことだ。
勝負の世界にもし、という言葉が禁句なのは分かっているけど、もしグランアンネリーゼさんの登場があと3年遅かったら、クリスタルソナーさんはあのオジュウチョウサンさんと並び称される名ジャンパーとして名を残していたと思う。
それほどの名ウマ娘であるからして、当然引退式の開催のお声がURAからかかったが、『老兵は死なず、ただ消え去るのみ、です』と彼女らしく断ったとのこと。
そんな一時代を築いた強豪のラストランに、わたしも出走することができる。
そのことはわたしにとって、中山グランドジャンプや中山大障害といったJ・GⅠに出走することと同じぐらい、名誉なことのように思えた。
*
トレーニングの強度を上げる、といったトレーナーの言葉に嘘偽りはなかったらしく、年明けからの練習は本当にかなりハードなものになった。
「はぁっ……はあぁっ……さすがに、一日坂路3本はきつすぎる……」
なんとか今日のノルマを達成したわたしは、坂路の頂上で白い息を激しく吐きながら『トレーナー! もうわたしを休ませろ!』と心のなかで喚き散らした。
2月のからっ風に吹きさらされているにも関わらず、顔中からおびただしい量の汗が滴り落ちて、坂路に敷き詰められたウッドチップに染み込んでゆく。
ウマ娘の坂路トレーニングは、一日に1本、一杯(全力疾走のことだ)に走るのが普通だ。
余力があれば、ダートを走ったり、ウッドチップを走ったりすることもある。
坂路を2本走るのは、レース前に大きな負荷をかけて完璧に仕上げたいときなど、かなり限られたケースだ。
そのことを踏まえると、日常のトレーニングで一日に3本走るというメニューはかなりのハードワークになる。
昔ミホノブルボンさんが一日に5本の坂路を走っていた、なんて逸話が残っているが、まず時代が違うし、その量のトレーニングをこなせる頑丈な体も彼女の才能の一つだったのだろう。
普通のウマ娘がそんな真似をすれば、間違いなくブッ壊れる。
「よし、エルサ。お疲れだったな。まずはこれを飲め」
わたしの到着を待っていたトレーナーが、500ml入りのスポーツドリンクを手渡してくれた。
それはとてもありがたいんだけど……。
「トレーナー、坂路3本はホントキツいって。坂路は2本にして、あとはダート1000Mとかに変えられない?」
このメニューでも、かなりのハードトレーニングであるはずだ。
しかし、わたしの提案にトレーナーは首を横に振る。
「お前の脚の丈夫さと持ってるスタミナからして、それぐらいの負荷には耐えられるはずだ。現に3本坂路を走ったあとでも、そうしてしゃべれるぐらいにはなってきたじゃないか」
あ……。
言われてみればこのトレーニングを始めたての頃は、あまりにしんどすぎて走り終わってすぐ、地面にうずくまっていたものなのに。
なんてこったい。
「慣れって怖いもんだね……」
「それは慣れたというだけじゃない。お前にしっかりスタミナがついて、心肺機能が上がってきている証拠だ」
「それはそうかもしれないけど……」
いくら脚元が丈夫だからといって毎日こんなトレーニングをさせられていたのでは、メンタルのほうが先に参ってしまいそうである。
「よし。この調子ならトレーニングの締めにプールを追加しても大丈夫そうだな」
いやいやいや!
なにが、よし、だ!
「なんも良くない! 全然大丈夫くない! さすがに無理だって!」
「なにも空き缶で追い立てて、無理に全力で泳がせようってわけじゃないぞ」
わたしの全力の抗議に、トレーナーは苦笑を浮かべた。
いや、そういう問題じゃなくてですね……。
ちなみにこの空き缶ネタは業界では有名らしく、プールトレーニングを渋る自分の担当ウマ娘に、冗談めかして『そんなに嫌がるなら、カンカン鳴らすぞ』と言ってトレーニングを促しているトレーナーをたまに見かける。
でも実際やってた本人に言われると、なんの冗談にもなっていない。
そんなお母さんみたいなことをされてたまるもんか。
絶対に嫌である。
そんなわたしの強い想いが伝わったのか(顔に出ていただけだと思うが)、トレーナーはわたしを納得させるべく、滔々と泳ぐメリットを説明し始めた。
「さっきも言ったが、本気で泳ぐ必要はないんだ。ストレッチ代わりにクロールでもバタ足でも、軽く泳げばそれでいい。それに、泳ぐということ自体が実はメンタルのケアにもなる」
「うえぇ……マジすか」
「マジだ。泳いでいる最中はフォームや息継ぎに意識を集中させる必要があるし、水中では余計な音が遮断されてるだろう? そうしてマインドフルネスな状態になることが、メンタルの回復につながるんだ」
「そうかなぁ……」
まあそういう一面も、確かにあるかもしれない。
「特に今の時期は温水プールになっているからな。寒い中でのトレーニング後に体を温められる、と思えばそう悪いもんでもないだろう?」
「そうかも……」
う~ん。
寒いのに汗だくになってしまった体をシャワーで洗い流して、温水プールで優雅に泳ぐというのは確かに悪くないかもしれない。
……あれ?
わたしひょっとして、なんかトレーナーのいいように誘導されてない?
「そうだろう。じゃあ早速プールに行って25M泳ぐぞ。それで今日は終わりだ」
おお。
それで、終わり。
なんと甘美に響く言葉なのだろう。
それを聞いて、トレーナーへの小さな疑念なんてどこかへ飛んでいってしまった。
好きでやっていることとはいえ、トレーニングは辛いものなのである。
辛いことは早く終わってくれるに越したことはない。
トレーニングが終わったら坂路とプールを頑張った自分へのご褒美に、カフェテリアでホットチョコレートでも飲もう。
それぐらいのカロリー摂取は、許されていいはずだ。
わたしはホットチョコ~、ホットチョコよぉ~、汝はどうしてそんなに甘く美味しいのか~と心のなかでテイエムオペラオーさんになりきって壮大なオペラを唄いながら、トレーナーのあとをついて行った。
*
小倉ジャンプステークスは3390Mの距離に11の障害が設置された、ローカルで唯一障害専門の周回コースがあるレースだ。
年明け最初のジャンプ重賞ということもあり、今年も豪華な顔ぶれが九州・小倉に揃った。
今や障害レースファンだけでなく、平地レースファンからも熱狂的な支持を集めつつある、去年の最優秀ジャンプウマ娘にして障害界の絶対王者、グランアンネリーゼさん。
わたしの同期で暮れの中山大障害ではグランアンネリーゼさんの2着に入り、新たな障害レースのホープとして注目を集めるアクサナデイジーさん。
昨年夏の新潟ジャンプステークスでの勝利以降、J・GⅠでこそグランアンネリーゼさんの後塵を拝しているものの、オープンレースを2勝、重賞競走でも堅実なレース運びで必ず掲示板に名を連ねているリーチヨハンナさん。
そしてこのレースを最後にターフを去る古豪、クリスタルソナーさん。
この豪華メンバーの中でも、一番人気に推されたのはやはりグランアンネリーゼさんで、その単勝支持率は86%を集めている。
この支持率は驚異的で、レーヴレゾールさんがチューリップ賞で記録した、重賞での最高単勝支持率81%を上回る文字通り記録的な数字だ。
ちなみにグランアンネリーゼさんは去年の中山大障害でも、単勝支持率80%という圧倒的な支持を集めている。
この支持率はディープインパクトさんが菊花賞で記録したGⅠでの単勝支持率79%を超える、偉大な記録更新だった。
その後にアクサナデイジーさん、リーチヨハンナさんと続き、四番人気にクリスタルソナーさんが推されている。
今日のメンバーの手厚さと前走の惨敗のことを考えれば、いくらJ・GⅠ3勝ウマ娘とはいえ、もう少し人気を落としてもおかしくない。
それでもこれだけの投票を集めたのは、ファンたちからのクリスタルソナーさんに対するリスペクトがあったのだろうし、去りゆく英雄への応援バ券という意味合いで投票した人たちもたくさんいるからだと思う。
レースファンというのは時に勝ち負けを度外視して、ただただ応援したいウマ娘へ投票したりもするのだ。
で、わたしはと言えば……今日は14人のフルエントリーがあり、その中でも10番人気まで評判を落としていた。
前走の京都ジャンプステークスでは3番人気に推されながらシンガリ負けに終わったのだから、この低評価も仕方ない。
「だが、そう悪いことばかりじゃないぞ」
控室の、人気が表示されたモニターを見て苦笑いしていたわたしを見て、トレーナーが声をかけてきた。
「今回は前のレースほどマークされることはないから、いい位置を取るのもそれほど難しくないだろうし、道中はお前のペースで走れるはずだ。重賞特有のペースの激しさについていければ、入賞ぐらいまでなら十分に狙えると俺は思うぞ」
「そうなればいいけどね……」
トレーナーの励ましに、わたしは複雑な思いを抱いた。
年が明けてから今日まで、厳しいトレーニングに耐えて自分なりに鍛え直してきたつもりだし、タイムもそれなりに良くなってはきている。
だが、前走を最下位で負けているという現実は、わたしの心に絡みついて『今回もそうなるかも……』という囁きをなかなかやめてくれなかった。
「まぁ、前走より結果が悪くなるということはない。重賞出走も2回めだし、経験値稼ぎのつもりで行ってこい」
まったく、気楽に言ってくれるものだ。
でも経験値稼ぎという考え方は、悪くないかもしれない。
RPGじゃあるまいし、実際はそんな簡単には割り切れないけど、それぐらいの気持ちで臨むのがちょうどいいのだろう。
「経験値稼ぎの狩り場にしちゃ、出現するモンスターが強すぎる気がするけどね。ま、強い娘たちの胸を借りるつもりでがんばってくるよ」
そろそろ、パドックでファンたちに挨拶する時間が近づいている。
わたしはちょっと気持ちを軽くしてくれたトレーナーに手をひらひら振りながら、控室をあとにした。
*
小倉レース場のある、今日の北九州市の気温はわずか7度。
身を切るような寒さの中であるにも関わらず、パドックには立錐の余地もないほどのレースファンが押しかけていた。
わたしが出走した京都ジャンプステークスのときより明らかに観衆の数は増えていて、障害レース競走の人気に火がつきつつあるのを感じる。
その黒山の人だかりにも驚いたが、パドックに足を踏みいれてまず目についたのは、柵に掲げられた応援幕の多さだ。
応援幕はファンが推しているウマ娘のために自分たちでお金を出し、時間をかけて作り上げる。
ファンの愛の結晶とも言うべきそれには、ウマ娘の名前とともに短い応援メッセージや、ファンたちの考えた二つ名が書かれていることが多い。
一番人気であるグランアンネリーゼさんのものが多いのは当然だったが、今日一番多くの応援幕が張られていたのは、クリスタルソナーさんのものだった。
【お疲れ様、ソナー!】
【<職人>クリスタルソナー 今までありがとう!】
【クリスタルソナー 俺達は絶対にお前の飛翔を忘れない】
そんな応援幕が、パドックの柵を埋め尽くしていた。
それを見た当のクリスタルソナーさんは、どう思ったのだろう。
ちょうど舞台に登壇してファンたちに顔見世している彼女の様子は、いつもと何も変わらないように見えた。
ウマ娘らしい均整の取れた肉体に、ひと目で分かる肌や髪のツヤの良さは、クリスタルソナーさんの努力と自制心のたまものだ。
トレーニングに身が入らず、私生活が乱れているウマ娘は、まず毛艶からダメになっていくものだから。
大観衆の前でイレ込むこともなく落ち着いており、それでいて気合十分の威風堂々たる歩様。
その凛とした姿からは、ラストランという感傷もプレッシャーも感じられない。
彼女はぐっと背筋を伸ばして自分の調子をアピールすると、特になにかのパフォーマンスを披露するわけでもなく、いつもと同じように静かに舞台から降壇した。
……すごいなぁ。
なにがすごいのか、具体的な言葉にすることは難しかったけど、レースを走る一人のウマ娘として、わたしは素直にクリスタルソナーさんのことをそう思ったのだ。
鍛錬を積み、レースという修羅場の経験を重ねれば、わたしもいつか彼女のようになれるのだろうか。
今日を最後にターフを去る大先輩にそんな畏敬の念を抱きながら、わたしは静かに自分が登壇する番を待った。