ミラ子の娘。   作:宮川 宗介

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第三話

わたしの障害競走デビューは、夏合宿の1週目、7月前期に決まった。

 

障害戦のクラス分けは未勝利とオープンしかないので、わたしは【障害クラシック級以上未勝利(2800M)】というレースに出走することになる。

 

今日のトレーニングはそのデビュー戦を想定し、本番と同じ距離を、本番と同じ障害物を使って走るというものだった。

 

「ふっ……!」

 

わたしは見えてきた土塁の手前でスピードの勢いを落とさないようにして踏み切り、それをできる限りコンパクトに飛び越えることを意識する。

 

よし。

うまく飛越することができた!

 

退屈な基礎訓練を、地道にやってきた成果である。

 

最後の障害物をクリアして、あとは芝の直線だけ!

 

様々な障害を8つ飛び越え、ときおり交差するダートを横切り、それでいてアップダウンの激しいコースをすでに2400M(!)も走ってきたこともあり、脚はほどんど限界を迎えている。

それでもわたしはわずかに残っているスタミナを絞り出して、最後の直線の400Mを駆け抜けた。

 

「ゴールっ!」

 

わたししかいない障害専用のトレーニングコースに、トレーナーの声が響き渡った。

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……たっ、タイムは……?」

 

2800Mを走り切ったわたしの呼吸は、もう文字通り、息も絶え絶えである。

 

「う~ん……まぁ、初めてだったらこんなもんか。よし、少し休め」

「……」

 

おいおい。

がんばって初めての厳しいコースを走り抜いた愛バ兼愛娘に、もうちょっと優しい言葉をかけようという気にならないのかね、うちのトレーナーは。

 

心のなかで愚痴り倒して、わたしは芝コースの上にバタリと倒れ込んだ。

本当は口に出してトレーナーに当たり散らしたかったけど、もうしんどすぎて声も出したくない。

 

障害競走って、こんなにキツいのか……。

 

平地でのレースも決して楽だったわけじゃないが、なんせ障害のレースは基本2800M以上で行われるし、そのコースも高低差の激しい坂を登ったり降りたりする。

 

障害物の数はレース場によるけど、最低でも7つは飛び越えなければならない。

 

あと意外にスタミナを消費したのが、ダートコースを横切るときだった。

 

障害競走は基本芝で行われるが、コースの構造上そうなっているのか、レースを面白くするためにそうしているのかはわからないが、ダート、つまり砂の上を少しだけ走るような場面がある。

 

脚元の様子が急に変化するのでバランスが崩れて転びそうになるときもあるし、当然芝を走るより砂の上を走るほうがパワーが要求されるため、その分スタミナを消費することになってしまう。

 

平地だとこのようなことはほとんどありえないので(フェブラリーSのように、ちょっと芝を走ってダートへ進入、みたいなレースはある)、このことにも少し戸惑いを覚えていた。

 

障害競走に転向すると、毎回こんなレースを走ることになるわけか。

 

やっぱ障害走るの、やめようかなぁ……。

 

わたしはお母さんと同じくスタミナを武器にするタイプのステイヤータイプのウマ娘で、持久力には自信がある方だったけど。

 

そんなわたしでも選んだ道をちょっと後悔してしまうぐらい、今回の一人模擬レースはキツかった。

 

とはいえ、走るコースが辛いぐらいでレースを諦められるくらいなら、未勝利を脱出できなかった時点でさっさと別の高校に転校してしまっている。

 

「おい、エルサ。いつまで寝っ転がっているんだ。そろそろダートコースに移動するぞ。今日はあとダートを1マイル走り込んで終了だ」

 

あ、やっぱまだトレーニング続けるんだ……。

 

正直、わたしはもう逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。

 

でも平地であれ障害競走であれ、レースで勝ちたいと願うならトレーニングをするしかない。

 

しかたない。

今日はあと、ダートを1600M走ればおしまいなのである。

 

もう少しだけ、がんばりますか~。

 

「……は~い」

 

いかにも気が乗らないふうの返事をしながら、この地獄が終わったらシャワー浴びてカフェテリアに直行して、チョコレートシフォンケーキを2つ食べようと心に誓う。

 

今日の練習量なら、それぐらいのカロリー摂取は許されるだろう。

 

チョコシフォン、チョコシフォンと頭の中で呪文のように唱えながら、わたしはなんとか立ち上がった。

 

*

 

午後のトレーニングあとのカフェテリアは、昼食時に比べると客足がいささか落ち着いていることが多い。

 

お昼ごはんはここで食べる娘も多いけど、寮生活の娘は基本的に夕食は食堂で食べるし、自宅から通っている娘はもちろん自宅で食べるからだ。

 

夕食をここで食べるのは軽い洋食が食べたい娘か、わたしのように甘いものも夕ご飯のときに一緒にいただきたいというウマ娘だけである。

 

「へっへー、いただきます!」

 

わたしはテーブルに並んだナポリタンとたまごスープ、それにチキンのサラダボウルと食後のデザートにするつもりのチョコシフォンケーキを眺めながら、フォークを手に取った。

 

いや~、トレセン学園に入学して何が一番良かったかって、食事のメニューがとにかく豊富で美味しいことだ。

 

一応わたしは現役のウマ娘で、しかも食べ盛りのお年頃なのである。

食事の質は競技に取り組むモチベーションを維持するためにも、非常に重要だと思う。

 

ウマチューブで聞いた話なんだけど、メシのまずい軍隊は兵士の士気が下がってしまうものらしい。

 

それでアメリカ軍、とくに海上での生活が長く続く海軍では、腕の良いコックが専属で軍艦に乗り込んでいるんだそうな。

 

平和の上に成り立っている興行のレースを走るウマ娘の環境と、軍人さんのそれを比べては失礼だとは思うが、彼らのその気持ちはよく分かる。

 

もしトレセン学園のカフェテリアや寮の食事がまずかったら、多分私はちょっと無理してでも自宅からの通学を選んだことだろう。

 

ちなみにうちのお母さんはお好み焼きしか作れない、ということはなく、作ってくれるご飯は普通にうまい。

 

そんなことを思い出していたら、なんだかお母さんのお好み焼きが食べたくなってきたなぁ。

 

「食事中にすみません。すこし、いいですか?」

 

今度帰った時に作ってもらうか、なんてスパゲティをすすりながら思っていると物腰が柔らかそうなウマ娘に声を掛けられた。

 

「んぐっ。はい、大丈夫ですよ」

 

わたしはあわててパスタを飲み込み、その人に向き直る。

どこかで見たことがあるウマ娘だな、と思ったら確か彼女は生徒会で書記を務めている生徒会役員だったはずだ。

 

名前は……え~っと……。

なんとか思い出そうと努力してみたが、わたしは彼女の名前を想起することに失敗してしまった。

さすがに生徒会長の名前は覚えていたが(シンボリルドルフさんの娘さんの、シンボリライザ会長だ)、縁もゆかりもない、もっと言うなら興味もない生徒会役員の名前までは覚えていなかった。

 

「間違っていたらごめんなさい。この5月から平地から障害へ転向された、エルサミラクルさんですよね?」

「はぁ。そうですけど」

 

わたしはうろんげに返事して、書記をやっている(……であろう)ウマ娘を見上げた。

にしても、生徒会の人がわたしなんかに一体何の用事だろう?

生徒会が独自で障害に転向したウマ娘の人口調査でもしているのだろうか。

今食事中なのだから、聞き取り調査とかだったらあとにしてもらいたいんだけどなぁ。

 

「よかった! はじめまして。私は生徒会で書記をさせてもらっている、グランアンネリーゼといいます」

「え……。グランアンネリーゼさん!?」

 

その名前を聞いて、わたしは思わず立ち上がってしまった。

一部界隈でその名前を知らないものなど、いるはずもない。

 

「失礼しました。いや、その。……レースで走っていらっしゃるときと全然雰囲気が違うというか……」

 

しまった。

これもまた、いらないことを言ってしまったかもしれない。

 

「あ、それよく言われるんですよね。多分レースのときはコンタクトにしてるからだと思うんですけれども」

 

グランアンネリーゼさんはわたしの失言に怒るでもなく、そう言って上品に微笑む。

 

今の彼女は起伏に富んだ女性らしいボディにヨレ一つない制服を身につけていて、なんの特徴もない黒縁メガネを掛けており、その奥ではツリ目気味の瞳が理知的な光を静かに発している。

 

髪型は俗に言う姫カットというやつで、烏の濡れ羽色をした青毛を、腰のあたりまで伸ばしていた。

 

そして制服のフラワーホールには、書記と刻印された生徒会章が光っていた。

 

口に手を当てて小さく笑っている彼女を見ていると、どこかのお嬢様がお忍びでこのカフェテリアに来たと言われても信じてしまいそうだったが……。

 

彼女こそが去年の最優秀ジャンプウマ娘であり、今からわたしが挑まんとする障害界に君臨する絶対女王、グランアンネリーゼその人だった。

 

「グランアンネリーゼさんほどのお方が、わたしにどのようなご用件で……?」

 

つい最近障害入りしたわたしからすると、彼女の存在は雲の上どころか、大気圏を突破した先にいるようなウマ娘である。

なんのために自分のところへわざわざやってきたのか、わたしには見当もつかなかった。

 

「そんなに畏まらないでください。私だってひとりのトレセン学園の生徒に過ぎないのですから」

 

彼女は困ったような笑みを浮かべるが、それは無理な相談だった。

今のわたしの状況は、野球少年の前にいきなりメジャーリーガーが現れたり、プロを目指すチビっ子棋士の目の前に名人が登場したようなものなのだから。

 

「声をかけさせてもらったのは、未来のライバルへの挨拶と視察を兼ねてのことですよ。同じ道を志す者同士、どうぞよろしくお願いしますね」

「み、未来のライバルだなんてとんでもない! こちらこそどうぞよろしくお願いいたします……」

 

そう言って頭を下げること以外、わたしに何ができたというのだろう。

 

「お食事中なのに、時間を取らせてしまってごめんなさい。障害競走って目指す娘がそんなに多くないですから、仲間が増えたのが嬉しくて、つい声をかけてしまいました」

「いえ……」

 

確かにトレセン学園全体で見ても、障害を走っている娘の割合はそんなに高くない。

ひとクラスに一人二人、いるかいないかという感じである。

ちなみにわたしのクラスには一人もいなかったはずだ。

 

「障害競走は平地に比べていろいろと厳しいところもあると思いますが、お互いに頑張っていきましょうね」

 

それでは失礼します、おやすみなさい。と彼女は最後までその柔らかい姿勢を崩すことなく、小さく手を振って去っていった。

 

「……ふぅっ……」

 

彼女が去って少ししてから、わたしはようやく緊張を解いて椅子に座り直した。

真の強者は常に謙虚で腰が低い、なんてよく聞くけど、彼女はまさにそれを体現している競技者のようだった。

 

でも、あのような人格者が自分が所属する競技のトップにいるということは、プレイヤーとして安心感があるし、なんとなく誇らしい気持ちになる。

 

人間はやっぱり、自慢しいとかイバりんぼより、謙虚な人に好感を抱くものだ。

 

わたしが引退するまでに一度でもそんな彼女と同じレースに出れたらいいなあ、なんて夢みたいなことを考えながら、再びフォークを手にとってパスタをくるくると巻き付けた。

 

*

 

グランアンネリーゼさんのことを障害レース界のトップに君臨しているウマ娘、ということ以外ほとんどなにも知らなかったわたしは、もう少し彼女のことを調べてみることにした。

 

これから自分が挑もうとする世界のトップウマ娘のことを詳しく知りたい、という気持ちもあったし、グランアンネリーゼさんの人柄の一端に触れ、純粋に彼女の経歴に興味を持った、ということもある。

 

いろいろ調査していくと、グランアンネリーゼというウマ娘は、トレセン学園に通う生徒の中でもかなり異色の経歴の持ち主であることがわかった。

 

まず驚いたのは、彼女は一度も平地のレースに出走していない、ということだった。

つまりグランアンネリーゼさんは障害競走を走るためだけに、トレセン学園へやってきたのだ。

 

普通ウマ娘が障害競走を走るようになる理由としては、わたしのように平地での成績が頭打ちになって【仕方なく】そちらへ転向した、というケースが圧倒的に多い。

 

なのにグランアンネリーゼさんがデビュー当初から障害競走しか走っていないのには、きっとその血統が関係しているのだと思う。

 

彼女のお母さんは中山グランドジャンプと中山大障害を2連覇し、【飛越の天才】とまで言われて顕彰ウマ娘に選ばれている障害界のレジェンドであり、そのまたお母さん(つまり、グランアンネリーゼさんのお祖母(ばあ)さん)も中山大障害を制した、これまた名ジャンパーだった。

 

グランアンネリーゼさんはその名血統に導かれるがままに、あるいは自分に流れる血の優秀さを証明するために、平地という王道には見向きもせず、日本のレース界ではマイナーといっていい障害の世界に身を投じたのである。

 

彼女のように世間の評価や人の評判などはまったく気にせず、自分でこれと決めた道をまっすぐ突き進める人というのは、なんというか気概と根性が違う。

 

グランアンネリーゼさんはトレセン学園に入学してすぐに、担当に厳しいトレーニングをさせることで有名な、あのミホノブルボンさんを鍛え上げたトレーナーに弟子入りを志願する。

 

かのトレーナーは素質があって、なおかつ自分の課すハードトレーニングに耐えられる頑丈さがあると見込んだウマ娘しか担当しない、ということで有名だったが、グランアンネリーゼさんは彼のお眼鏡に適い、入門を許可されている。

 

そして出走制限がかかっているジュニア級のあいだ(レースの激しさを考慮して、障害のレースに出られるのはクラシック級からだ)、グランアンネリーゼさんはスパルタ流とまで称されるトレーナーが指示する厳しいトレーニングに耐え抜いた。

 

そうしてクラシック級になった彼女は三冠やトリプルティアラには目もくれず、満を持して障害競走にデビューする。

 

デビュー後はハードトレーニングで鍛え抜いた肉体と、母と祖母から受け継いだ天才的な飛越を武器に連戦連勝。

 

現在シニア2年めの彼女はここまでJ・GⅠ4勝含むジャンプ重賞を8勝、通算成績12戦10勝という素晴らしい成績を残し、すでに祖母や母にも負けない歴史的な名ジャンパーになっていた。

 

その実力や人柄からグランアンネリーゼさんに惹かれる人はたくさんいるようで、生徒会長のシンボリライザさんもその一人だったらしい。

 

グランアンネリーゼさんはこの生徒会長から三顧の礼で生徒会へ迎え入れられ、障害競走を主戦場とするウマ娘としては史上初、生徒会役員を務めることになったようだ。

 

*

 

彼女から丁寧な挨拶をいただいた翌日。

 

「グランアンネリーゼさんって謙虚ですっごくいい人でさ。人柄も実力も、グランアンネリーゼさんの域に達するのは無理にせよ、引退するまでに一度ぐらいは、そんな人と同じレースに出てみたいな、って思ったよ」

 

わたしは坂路のふもとでトレーナーとそんな雑談を交わしていた。

 

「そうか。でも彼女はすでに、不動のトップジャンパーだからなぁ。そんなグランアンネリーゼと一緒のレースに出てみたい、っていう大目標を掲げるのも大切なことだが、とりあえず今は障害未勝利脱出を目指して頑張らないとな」

 

じゃあ俺は上に行くから、それまでしっかりアップをしておくように、といってトレーナーは坂路の頂上へ向かう。

 

今日もたくさんのウマ娘が、坂路でトレーニングに励んでいる。

坂路は数あるトレーニングメニューの中でも一番多用されるポピュラーなものであり、多い時には一日1000人以上のウマ娘が、坂道を駆け上がって汗を流す。

 

傾斜の大きい坂道を駆け上がることで、効率よく心肺機能と足腰が鍛えられることが、坂路トレーニングの人気の秘密だ。

 

ついでに言うと、わたしのように障害競走をメインにしているウマ娘も、毎日長時間、障害物を飛ぶ練習だけしているわけではない。

ある程度跳べるようになれば飛越の感覚を鈍らせないよう、日々のトレーニングの前にいくつか軽く障害物を飛んでから、あとは平地を走るウマ娘と同じようなメニューをこなすことが多い。

 

トレーナーが上に着くまでの間、わたしは指示されたウォーミングアップの運動をしながら、周りでトレーニングしている娘達をなにげなく見回してみた。

 

そうすると数多のウマ娘が坂路を駆け上がっている中で、ひときわ素晴らしい動きを見せているウマ娘が目に入る。

 

近くにいた、先にトレーニングを始めていた娘に話を聞いてみると、そのウマ娘はすでに3本のトレーニングを消化しており、4本目を走っているという。

 

平均的なウマ娘の坂路の練習量が一日2本であることを考えると、かなりのハードトレーニングだ。

 

「リゼ!ペースが落ちてるぞ!もっと気合い入れて走れ!」

「はいっ!」

 

トレーナーの激に応えて、彼女は脚に力を入れ直す。

トレーナーが『ペースが落ちている』と叱責したスピードでも、並のウマ娘には到底出すことができない抜群のものであったが、彼女が根性を見せてギアを上げると、素晴らしい加速力を得てスピードがさらにあがった。

 

胸に4つの星の略章(リボルバー)を誇らしげに身につけ、懸命に坂路を走り込んでいたのは、グランアンネリーゼさんだった。

 

星の略章は、URAからGⅠを勝ったウマ娘だけに贈られる勲章のようなもの。

彼女の胸元で輝く4つの星は、彼女が射止めたGⅠの数を表している。

 

GⅠウマ娘だけが身につけることが許されるその勲章を、あるウマ娘はGⅠを勝利した誇りをトレーニング中も忘れないように、またあるウマ娘はGⅠを勝利している自分はみんなから注目される存在なのだから、気が抜けたようなトレーニングを周囲に晒すようなことはできない、と自らを戒めるために、その星を胸に抱くのだという。

 

グランアンネリーゼさんはその勲章に恥じない、一片の妥協も見受けられない走りで、坂路の頂上を目指して駆け上がってゆく。

 

すごいなぁ。

GⅠを4つも勝っているようなウマ娘でも、いや、GⅠを4つも勝っているウマ娘だからこそ、さらに上を目指して厳しいトレーニングを続けられるのだろう。

 

それから……チャンピオンである自分に挑戦してくるチャレンジャーを、完膚なきまでに返り討ちにするために。

 

やっぱりトップに君臨しているウマ娘というのは、持って生まれた才能だけでなく、普段の努力と不断の努力でその地位と実力を維持しているのだ。

 

彼女の背中を見ていると、『私はGⅠウマ娘という称号に恥じないように、どんな挑戦者が相手でも絶対負けないように、本気でトレーニングに取り組んでいる。あなたは、どうなの?』と問いかけられているような気がした。

 

「わたしも、がんばらなきゃ」

 

グランアンネリーゼさんに追いつけるかは別にして、自分の能力を限界まで引き出すトレーニングをすることは、わたしにだってできるはずだ。

 

タイムの測定地点にたどり着いたトレーナーが、挙げた右手をさっと振り下ろす。

 

それを見たわたしは、頂上を目指して思い切り坂路の地面を蹴り上げた。

 

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