ミラ子の娘。   作:宮川 宗介

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第三十話

満員のライブ会場は異様な雰囲気に包まれていた。

肌で感じられるほど、空気がピリピリしている。

 

レースパトロールからの事情聴取のせいで、ライブの開始時間が遅れてしまっているということもあるだろうけど……。

 

今日のレース展開の異常さを、ファンたちも感じ取っている。

その原因の容疑者にも、目星をつけている。

 

レース後、レースパトロールがシニア2年目のウマ娘たち全員をアナウンスで呼び出したという事実が、ファンたちの不信感をさらに増大させていた。

 

「シニア2年目の奴ら! お前らよくウイニングライブにノコノコ出てこれたもんだな!」

「ハンナが同期たちにハイペースになるように指示した、なんてうわさが流れてるけど、嘘だよね!?」

「今日不自然に逃げてたヤツと、途中からおかしなダッシュを見せてたヤツがここに出てこれないってことは、やっぱり勝敗を操作しようとしてた話は本当なのかよ!」

 

そんな怒号が、あちこちから飛んでくる。

係員さんが「落ち着いてください! このままでライブを始めることができません!」と観客たちに呼びかけても、まったく効果がない。

 

どうしよう。

 

センターであるわたしが、観客たちに説明したほうがいいのだろうか。

リーチヨハンナさんの方に目を向けると、彼女はマイクを握りしめてじっと前を見据えている。

 

彼女は同期たちの【結託】を知らなかった。

ある意味、リーチヨハンナさんは被害者だったと言っていい。

 

しかし今日のレース展開がリーチヨハンナさんに利するものであった以上、彼女が何を言っても観客たちは受け入れてくれないだろう。

 

うん。

やっぱり、わたしがみんなに今日のことを説明しよう。

勝ったわたしが話をすれば、観客たちも耳を傾けてくれるかもしれない。

 

そう思ってマイクを強く握りしめたときだった。

 

「皆さん、聞いて下さい」

 

バックダンサーのひとりが、悲壮な面持ちで舞台の前までやってきた。

そのウマ娘はやっぱりシニア2年目の人で……今日のレース展開には積極的に関与していなかった娘だった。

 

「今日のレース、シニア2年目の私達がハンナに有利な展開になるようにレースを作ったのは、確かです」

 

説明を切り出した彼女の声は、少し震えている。

 

事情聴取の際、彼女は『自分も協力するよう声をかけられたけど、それはできないと断りました』と答えていた。

それから『同期が八百長じみたことをするって知っていて止めなかったのだから、私も彼女たちと同罪です。私も本当は心のどこかで、ハンナが勝てるように協力したいという気持ちがあったんだと思います』と、力のない声で続けていたのが印象に残っている。

 

「でもそれはハンナに内緒で、私達が勝手にやったことなんです。もちろんレースを冒涜するようなことをした私達の行いは、許されるものじゃない。ハンナの実力を信じることができず、ずるいことをした私達が愚かだった。今日レースを見に来てくださった皆さんには、お詫びのしようもありません……」

 

そう言って彼女は深く頭を下げた。

 

彼女の誠意が伝わっているのだろうか。

観客たちの怒りの声が、少しずつ小さくなっていく。

 

十秒以上そうしたあと、彼女はようやく頭を上げた。

その瞳は舞台のスポットライトのせいか、ひどく潤んで見える。

目に一杯涙をためながら、彼女は決然と観客席を見渡した。

 

「私達は、どんな批判でも甘んじて受けます。でもハンナが今日の展開を指示したわけじゃない。それだけはどうか、信じてください!」

 

そう声を張り上げ、彼女はまた(こうべ)を垂れた。

彼女の悲痛な叫びに、ざわついていた観客席が静まり返る。

 

「リーチヨハンナが指示していないのは、まぁ信じてもいいけど……」

「気持ちはわかるけど、やっていいこととダメなことがあるだろ」

「レースを汚し(けが)たって気持ちがあるなら、正直ライブには出てほしくないよね……」

 

ぽつぽつと、そんな声が漏れ聞こえてきた。

観客たちがレースを冒涜するようなマネをしたウマ娘たちに対して、ウイニングライブに出演してほしくないと思う気持ちはよく分かる。

 

「シニア2年目の人たちにライブに出るようお願いしたのは、わたしです!」

 

ずっと頭を下げている彼女の隣に来ると、わたしはマイクのスイッチを入れて観客たちに語りかけた。

オーディエンスの視線が、わたしに集中する。

観衆の視線の圧を感じて、呼吸が速くなって脇からじわりと汗が出てきた。

それでもわたしはいつもより少しトーンが高くなった声で、来場者たちに話しかける。

 

「今日の彼女たちの行為に、思うところがないわけじゃありません。いや、ホントはかなりムカついています。でも、リーチヨハンナさんは同期たちの企みを知らなかったわけだし……。それに彼女たちの作戦が、レースに大きな影響があったとわたしは思えません」

 

観客たちは、わたしの言葉に静かに耳を傾けてくれている。

そんなオーディエンスに、わたしは軽く笑いかけた。

 

「ほら、一応今日はわたしが勝ったわけですし。それにですね。わたしは今回、初めて重賞でウイニングライブのセンターを務めるんですよ? その記念すべきライブに準センターはいない、バックダンサーも少ない、なんてのは悲しすぎるじゃないですか。シニア2年目の人たちには、わたしのウイニングライブを盛り上げる責任がある。みなさん、そう思いませんか?」

 

わたしのジョークじみた口調に、観客席からどっと笑いが起こる。

 

「そりゃそうだ!」

「まあ、勝ったエルサがそういうなら……」

「シニア2年目のやつらは、しっかりライブを盛り上げてやれよ!」

 

そんな声が、あちこちから飛んでくる。

どうやら、来場者たちの怒りはかなり和らいだようだ。

 

よかった。

ふと今日の出走者たちを見渡すと、シニア2年目の人たちがみんな観客席に向かって頭を下げていた。

 

「じゃあ時間も押していますし、ライブ始めていきましょうか。みなさんもわたしの初めての重賞ウイニングライブ、盛り上げてくださいね~!」

 

わたしは観客席に大きく手を振って、オーディエンスたちを煽る。

お~っ! という観客席からの返事と同時に、演者たちが自分のポジションに散ってゆく。

その時、隣りにいたリーチヨハンナさんが小さく微笑みながら、「ありがとう」とお礼を言ってくれた。

 

*

 

ウイニングライブは、大盛況のうちに幕を閉じた。

その盛り上がりはライブの係員の人に「ライブであんなに盛り上がったのは、昔新潟でGⅠが行われた時、カルストンライトオさんが優勝したウイニングライブ以来ですよ」とまで言ってもらえるほどだった。

 

初重賞制覇のウイニングライブがプロにそう言ってもらえるほど盛り上がったというのは、ウマ娘冥利に尽きるというものだ。

 

「今日は本当にありがとう。キミの寛大な配慮に、心から礼を言わせてもらうよ」

 

ライブ終了後、ステージの袖口でリーチヨハンナさんはわたしに丁寧に頭を下げ、お礼を言ってくれた。

 

「いえ。こちらこそみなさんの最高のパフォーマンスでウイニングライブを盛り上げてもらって、感謝しかありませんよ」

 

これは嘘偽りのない本音で、シニア二年目の人たちのライブパフォーマンスは本当に素晴らしいものだった。

 

「ボクの同期たちは、トレーニングでもライブの練習でも手を抜くってことを知らなくてね。そのおかげか、歌とダンスはそれなりにできる娘が多いんだ。年季の入った口の悪いレース関係者には、たまに『この世代の歌と踊りだけはGⅠ級だな』なんて言われたりするよ」

 

リーチヨハンナさんはなごやかに笑いながらそんなことを話してくれたが、わたしとしてはどうにも反応に困る話だ。

 

「あはは……そうなんですか」

 

しかもその話は、わたしもどこかで小耳に挟んだことがあったりするから困ったもんだ。

わたしは少々気まずい思いをしながら、曖昧な返事をして苦笑いを返すことしかできなかった。

年配のレース関係者の中にはこんな感じで『今の時代にすごいこと言うなぁ……。時代と空気読めよ』と、思わずツッコみたくなるようなことを言う人がたまにいるのである。

 

「……あれだけボクに有利な展開で負かされたんだ。今日のレースは完敗だったと言わざるを得ない」

 

わずかな沈黙の後。

リーチヨハンナさんは接しやすい先輩の雰囲気を一変させた。

 

「ボクはシニア2年目のロートルだけど、自分ではまだまだ伸びしろがあると思っている。J・GⅠのタイトルも決して諦めたわけじゃない。次はキミに、ボクがセンターを務めるウイニングライブを盛り上げてもらうからそのつもりでいてね」

 

それは彼女からの、確かな宣戦布告だった。

 

「いえ。次もまた、リーチヨハンナさんにはわたしがセンターのウイニングライブを盛り上げてもらいますよ」

 

先輩からの挑戦を受けて、わたしは強気に微笑んで言い返す。

 

以前のわたしならきっとヘラヘラ笑いながら、『そんなこと言わずにお手柔らかにお願いしますよ』みたいな穏当な返事をしていたことだろう。

でも、今は違う。

夏合宿で厳しいトレーニングをこなしてきたこと。

それに今日のような不利なレースを勝ちきった事実が、わたしに確かな自信を与えてくれていた。

 

「うん。それでこそ倒すべきステークスウイナーだ」

 

そう言ってリーチヨハンナさんも面白そうに笑ってくれた。

 

「それじゃ、そろそろ失礼するよ。またキミと同じレースを走れることを楽しみにしている」

 

リーチヨハンナさんは軽く会釈してから、舞台袖から控室への通路に脚を向ける。

廊下に響き渡る彼女の蹄音(ていおん)は、敗者のものとは思えないぐらい力強かった。

 

*

 

「お疲れ。今日は色々と大変だったと思うが……ともあれ、初重賞制覇おめでとう」

 

控室で待機していたトレーナーが、スポドリを差し出しながらお祝いを言ってくれる。

笑顔が控えめなのは、ああいうことがあったからだろう。

 

「うん、ありがとう。本音を言えばもっとこう……スポーツマンガみたいに正々堂々とわたしを迎え撃つ先輩たちに正面からぶつかって劇的な勝利! みたいな感じで勝ちたかったんだけどね」

 

ふぅっ……と大きなため息をついてから、よく冷えたドリンクを一気に体内に流し込む。

 

「気持ちはわからんでもないけどな。現実の人間の感情は、そう単純にできてないってことだ。だが想定外の出来事が起こった不利なレースを勝ちきったことは、これから先、重賞で戦っていくうえでの自信になったんじゃないか?」

「それは、確かにね」

 

トレーナーの質問に、わたしは大きく頷く。

 

レースは生き物だ。

いつも事前に予想した通りの展開になるとは限らない。

ましてや重賞レースともなれば、心理的な駆け引きも高いレベルで熾烈なものになってくる。

その駆け引きの矛先は上位人気を背負っているウマ娘に対して、集中的に向けられることだろう。

 

となれば、必然的に前もって練っていた作戦を変更せざるを得ない、なんてことも増えてくるに違いない。

 

そういった意味では、今日のレースは貴重な経験になった。

 

「今日のレースを見て、お前が重賞戦線でやっていけると確信を得ることができたよ。……秋からはいよいよ挑むぞ。あの絶対王者に」

「!」

 

トレーナーの宣言に、ドリンクを持っていた指先が震えた。

 

「それって……グランアンネリーゼさんに勝つつもりでレースに臨むってことだよね?」

「そうだ」

「……勝てるのかな。わたしみたいなふつーのウマ娘が、あの天才ジャンパーに」

 

不安のせいで固くなっているであろう視線を、トレーナーは真っ直ぐ受け止める。

 

「相手が相手だ。無責任に『頑張れば絶対勝てる』とは言ってやれん。でももし、お前がもう一皮むけることができたなら、可能性はゼロではないと俺は信じている」

 

その言葉に、わたしはぎゅっと拳を握りしめた。

 

もう一皮むけたら、か。

つまり、厳しいトレーニングを積んで限界を突破することができたのなら、ワンチャンあるかもしれない、ということなんだろう。

 

「つまり、ミラクルが起きればグランアンネリーゼさんにも勝てるかもしれない、と?」

 

あまりの目標の大きさにうろたえていたわたしは、冗談めかしてそんなことを口走ってしまう。

でもトレーナーは、真剣な表情を崩さなかった。

 

「俺はウマ娘の勝利にミラクルなんてない、って思っている方でな。そもそもミラクルなんて説明のしようがない現象で決着がついたようなレースは、勝ったウマ娘も負けたウマ娘もそれほど大きな実力差はなかった、ということだ。例えばの話だ。今のお前が全盛期のナリタブライアンに平地でマッチレースを挑んだとして、ミラクルが起きれば勝てると思うか?」

「そんなの無理に決まってるじゃん!」

 

トレーナーの例え話に、わたしは思わず大きな声を返してしまった。

全盛期のナリタブライアンさんって……。

気楽に言ってくれたが、当時のレース関係者たちは口を揃えて『あのウマ娘は、日本史上最強のウマ娘なんじゃないか』って言ってたぐらいのウマ娘なのである。

 

「そういうことだ。お前がもしグランアンネリーゼを破るようなことがあれば、それはお前の努力の結果であり、お前が頑張って開花させた才能であり、お前の実力ってことだ」

「それって逆に、どんなに努力して頑張ってもグランアンネリーゼさんに勝てなかったら、それがわたしの才能の限界で、実力だったってことだよね?」

 

こわばった声で聞くわたしに、トレーナーは重々しく首を縦に振る。

 

「そうだな」

「……厳しいね」

「それがレースを走るってことだからな」

「そうだね」

 

どんなにがんばっても、報われないこともある。

どんなに勝ちたいと願って努力しても、とても敵わない相手もいる。

 

トレーナーの言ったとおり、それがレースの世界なのだ。

 

それでも、わたしは……。

 

「トレーナー。わたし、やれるところまでやってみたい。叶うなら年末の中山大障害で、グランアンネリーゼさんに挑戦して……勝ちたい」

 

出走制限をクリアするための未勝利戦脱出のノルマや、トレーナーが定めた目標じゃない。

わたしはデビューして初めて、自分で決めた目標を口にしたんだと思う。

 

「そうか」

 

わたしの決意に、トレーナーは頷いてくれた。

 

「J・GⅠを目指す以上、トレーニングは今以上にキツくなるぞ。休みも今までと同じようには取ってやれん。それでも、やるんだな?」

 

トレーナーは今、わたしに覚悟を問うている。

 

お前に限界を突破するための、究極の鍛錬に挑む覚悟があるのか、と。

 

トレーナーの問いに、わたしは胸に手を当て、大きく息を吸い込んで――

 

「はい」

 

と、力強く答えた。

 

「よし。そういうことなら明日から早速、厳しく行くぞ。だが……」

「だが?」

 

わたしはちょっと緊張しながら聞き返したが、意外にもトレーナーは小さく笑った。

 

「まぁ今日はエルサが重賞を初めて勝った日だ。明日からの厳しいトレーニングに備えるという意味でも、うまいもの食べるぐらいのご褒美はあってもいいだろう。なにか、食べたいものはないか?」

「おお! 嬉しいこと言ってくれますね~」

 

トレーナーのありがたいお言葉に、ついわたしも口元がほころぶ。

そういうことなら……。

 

「そうだねぇ。前はお寿司連れて行ってもらったし、新潟ってイタリアンが有名みたいだから今回はイタリアンの美味しいお店に行ってみたいかな! それから闇落ちトマトとか枝豆とか、夏が旬の野菜も食べてみたいかも」

「ふむ、イタリアンか。悪くないな。その闇落ちトマトってのはよくわからんが……イタリアンの店なら、旬の野菜を置いているところもあるだろう。冷酒と枝豆の組み合わせはこの暑い中最高だろうな」

 

わたしの提案に、トレーナーも賛同してくれる。

今日の重賞初優勝祝勝会は満場一致でイタリアンのお店で決定だ。

でも。

 

「新潟って全国的に見ても酒どころで有名らしいけど、イタリアンのお店に日本酒ってあるの?」

「ああ。フルーティーな日本酒やすっきりとした辛口の冷酒は、イタリアンと相性が良いからな。置いてる店も結構あるぞ」

「へぇ、そうなんだ」

 

ワインなら分かるんだけど、日本酒がイタリア料理に合うというのは少し意外な感じがする。

 

「ところでさ。そんなにイタリアンと相性抜群の飲み物だったら、わたしもちょっと、飲んでみたいな~と思ったり……」

 

わたしの上目遣いのおねだりに、トレーナーは思い切り顔をしかめた。

 

「バ鹿をいうな。トレーナーが現役の、それも未成年ウマ娘の飲酒を容認できるわけないだろ。お前がさっき見せた覚悟は、酒を飲みたいって程度のものだったのか?」

「そうだよね……。ごめんなさい」

 

さすがに怒られてしまった。

当たり前といえば、当たり前である。

でもなぜかトレーナーは渋い顔から表情を一転させると、ふっ、と妙に感傷じみた笑みを浮かべた。

 

「まぁでも……いつかお前が引退して大人になったら、ミラ子も交えて酒を飲み交わすのも悪くないな。その時まで、酒の味は楽しみにとっておけ」

「引退してオトナになったらって、そんなの結構未来の話じゃん」

 

そういうわたしに、トレーナーは苦笑する。

 

「と思うだろ? でもな、実際大人になって学生時代と時の流れを振り返るとな……」

「振り返ると?」

「ま、それはお前が大人になってから実感してみろ。きっと、俺の言いたかったことが嫌と言うほどわかるはずだ」

「なぁに、それ」

 

お父さんの無駄に意味深な言い回しに、わたしは少し頬を膨らませた。

なんだか結局、子供扱いされただけのような気がする。

 

「とりあえず、今日の勝利の乾杯は新潟名物の雪下人参ジュースにしておけ。ミラ子を始め、担当と新潟で食事をする度に勧めているが、みんな美味しいって飲んでくれてたぞ」

「え!? 新潟にそんなジュースがあったの? 前来た時はなにも教えてくれなかったじゃん!」

 

なんでその美味しそうな飲み物の存在を、今の今まで実の娘に黙っていたんだ!

ひょっとしてわたしは、お父さんから深刻な嫌がらせを受けてるんじゃないだろうか?

 

「いや、さすがに寿司に甘いジュースは合わないと思ってな」

「……。それもそうだね」

 

それは確かに一理あるか。

お寿司には、熱い緑茶のほうが合うに決まってる。

前に来た時は、ちょっと肌寒い時期だったしね。

 

それはともかく。

 

今日のところは現役のウマ娘らしく、栄養満点のにんじんジュースを勝利の美酒の代わりにいただくとしましょう。

 

「ところで、どこか美味しいイタリアンのお店知ってるの?」

「いや。新潟のイタリアンの店はあまり詳しくないからな。AIにオススメの店を聞こうと思っていたところだ」

「そこはAI任せなんだね」

「食いログのレビューや星の数を見て決めるよりかは、よっぽどいいだろう?」

「いや、どうかな……」

 

そのあたりは人間の心理が絡む、実に難しい問題である。

 

父の微妙な問題発言に首をひねるわたしを尻目に、お父さんはスマホに向かって「新潟レース場から車で30分以内の場所で、美味い夏野菜と日本酒を出してくれるオススメのイタリアンの店を教えてくれ」と聞いていた。

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