蝙蝠とは、鳥と同様に翼を持ち、飛行可能な動物である。蝙蝠は鈎爪を持ち、その爪で木にぶら下がったり、引っ掻いたりする。蝙蝠は西洋では吸血鬼が連想され、その牙で血を吸うイメージがある。蝙蝠は夜行性であり夜目が効き、暗闇での活動も可能である。蝙蝠は超音波を発し、その反響を検知することで障害物を避けたり、獲物を捉えたりする。
では、それらの蝙蝠の要素と180cmを超える巨躯、カマソッソとしての経験が合わさればどうなるのか?
「クハ、キャハハハハハハハ!!!」
「クソ野郎が!!」
拳を振りかぶり目の前の怪人に振りかぶる──当たらない。寧ろゴロウ、個性「
「ッてえ!!!俺の攻撃がかすりさえしねぇ!?」
「猿、どこまでも能無しの殴るしかない
蝙蝠とは思えない程の速さで飛び回るカマソッソ、単純な強化系個性故に速さで翻弄されると目に追えない、今までそのパワーのみで逃れ、打ち勝ってきたゴロウ。どちらが優勢で、どちらが雄大で、どちらが強大かなど、既に決まりきっていた事かのように明白だった。
「悲劇!どこまでも悲劇!オレが出てきたばっかりに、犯罪を妨害され、あまつさえどこまでも劣勢!即ち無駄死にだ!!オレは死を嗤うもの、死に恐怖しながら死を嗤うもの!・・・・・・今ならば、見逃してやらんこともないが?」
「チィ・・・・・・!!」
ゴロウという男を表すならそれこそ悲劇である。単純な強化個性故、嘗てのクラスメートからは「パッとしない」といじられ、女子からは身体がデカい、いつも気持ち悪い笑みを浮かべているという理由から「襲われる」とあらぬ罪を着せられ。社会の闇に飲まれ、絶望し、犯罪に手を染め、あまつさえカマソッソと敵対してしまった。これを悲劇と呼ばずして何と表すのか?
だが、それは、過去は罪を犯していい理由にはならない。いつかの反逆者のように、真っ向から否定し、反逆するのならまだいい。だが、非行に手を染め、あまつさえ拉致・強姦・人身売買などをしていい理由にはならないのだ。
だが、ゴロウという男はいつからかどこまでも
「あっ!?」
「何が見逃すだバーカ。見逃してやる?見逃させて下さいの間違いだろ?」
「ほう?女を人質に取って何を言い出すかと思えば──なんだそれは」
「お前、実は怖いんだろ?必死に偽善者ぶってるけどよ、俺には分かる。いざ何かを守ろうとしても、口ばっかりで何も出来ないんだろ?だってそうじゃねぇか、そんなに早く動き回れるのにまだお前は俺を倒せてない。そうだ!お前本当は俺を倒すつもりなんかないんだろ?な!?恐怖してんだろ!?俺に!!!」
「・・・・・・・・・・・・」
無論、ゴロウが言ったことは中身も根拠も何も無い、ただ時間稼ぎ、延命のためのホラである。ゴロウはカマソッソに恐怖を覚えたのだ、いきなり現れ、壮大なことを口走ったと思えば、それに見合う動きをする、自分より小さいが怪人のように見えるカマソッソに怯えたのだ。ゴロウは今まで自分より弱いものしか殴らず、嬲らず、犯してこなかった。自分より強大な存在を目の前にし、あまつさえ打ち勝つなんてことはゴロウには出来るわけなかったのだ。
「オレは・・・・・・確かに恐怖した」
「ほら!?な!?」
「黙れ猿。確かにオレだって、強大なるカマソッソだって恐怖はする」
蘇るのはあの記憶。嘗て忘却した、忘却しては行けなかった記憶。カマソッソを強化するべく”炉”に身を投げ込む親子、市民、戦士、臣下達。文字通り全国民、更には精霊達の力も王たるカマソッソに集約し、最期の人類として、不死身となり勇者王たるカマソッソとして星喰のORTに挑んだ記憶。あの時、確かにオレは恐怖していたのだ。全てを飲み込まんとするORTに、不死身となっても襲いくる痛みに。全てを失い、独りとなった現実に。
「だが、それは──もう乗り越えた」
「何が乗り越えられ「黙れと言ったはずだ」」
「猿、では聞こう。お前は恐怖したことがあるか?」
「それは・・・・・・」
「答えろ、お前は恐怖したことがあるのか?全てを飲み込む生物を目の前にしたことは?波のように到来する暴虐的な痛みを経験したことは?忘却しないと自分が消えると予感したことは?それらに恐怖したことは?」
「何、言ってんだよ、お前。」
「答えろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「答えない、ということは無いのだな。恐怖したことが。恐怖したことがないのにも関わらず、オレに、カマソッソに「恐怖したことがあるのか?」と問うたのだな」
「愚弄。愚弄を超えてそれはもう嘲笑だ。オレを、カマソッソを構成する一部への嘲笑だ。その問いはオレへの侮辱だ、ひいてはカーンそのものを侮辱する暴言だ」
「なっ、ちが・・・・・・俺は」
「然るに」
「暴言には、暴力で返答する。その覚悟、カマソッソを嘲笑する覚悟があっての発言に相違はない」
「違う、違うんだ。待ってくれよ!違う!」
「何が違う」
「俺は・・・・・・俺は!自分が怖かったから嘘ついただけだ!あんたが強くっておっかなくって怖くって!!どうしようもないからあんたに勢い任せに何か言うしか無かったんだ!じゃないと俺は恐怖でどうにかなりそうだったんだ!」
カツ、カツと一歩ずつ、男に向け進めていたカマソッソの歩みが止まる。カマソッソは一瞬、何かを考えるようにして空を仰ぐと、先程と変わらない毅然とした態度で言った。
「つまり、こう言いたいのだな?お前は、カマソッソに向けて、故意に嘘を吐いたのだと。自分の行動を棚に上げて、「オレが恐怖させたのが悪い」と、そう言ったのだな?」
「な───」
「それこそ愚弄だ!悪辣極まりない嘲笑だ!!カマソッソを目の前にして、良くも故意に嘘なぞ吐いたな?カマソッソは強大だ、寛大だ。だが!オレに適当な質問をした挙げ句、自分を棚に上げ嘘を吐いた!!それはオレへの挑戦だ、カーンそのものへの挑戦だ!!」
結局の所、カマソッソは、最初に対峙した時に逃げ出さなかった時点で、「ゴロウ」という人物を許す気は無かったのだ。カマソッソは強大にして雄大で、勢い任せで勇者王なカーンの王である。カマソッソ自体の自分勝手とも言えるその性格も多少影響したのだろう、良くわからないまま汎人類史の地球に連れてこられ、だが依代を間借りしているからと依代の「助けたい」「ヒーローになりたい」という思いに応え、ゴロウの前に立った時点でカマソッソは結構なストレスを感じていた。何故なら自分もよく分かっていないのに面倒事に巻き込まれたからである。それに追い打ちをかけるかのようにゴロウのカマソッソへの舐め腐った言葉、ほぼ八つ当たりに近い状況であるが、カマソッソは全ての怒りをゴロウという一人の人物へぶつけることにしたのだ。
「先程、オレに恐怖したと言ったな」
「ひっ」
「言ったな?だが、こんなものではない、オレが体験した恐怖は。お前が、真に恐怖を知らないのならば、その身を以て教えるのも、挑戦された以上カマソッソの役目だろうよ」
「や、やめ」
「恐怖は、戦いにとっては不要なものだ。恐怖を感じずに戦えたのなら、オレはもしかしたら何人か市民達を守ることが出来たのかもしれない」
「やめてくれ!こっちには人質がいるんだぞ!?」
「だが!恐怖を感じないと言うならば、それはもう人に非ず!!オレは、カマソッソは、人だ!カーンの王国の王として生きた、人の王だ!!」
「ぁ・・・・・・ぐ」
「───オレの名を語るがいい。カーンの勇者、蜘蛛殺しの蝙蝠、王冠を捨てし王。」
「臣民すべてを生贄にしなければ、世界を救えなかった弱きもの」
「試すがいい、嘗てのカーンの王、カマソッソの鮮血を!」
「カーンの民が希望を託して身を投げた、
「が・・・・・・」
嘗てカマソッソが人類最後のマスターへ『忘却の人類悪』カマソッソとして放ったセリフ。だが、今のカマソッソは嘗てのカーンの王と勇者王であれど人類悪ではなく。
故にカマソッソは翼竜と蝙蝠が合わさった異形の怪獣へと変貌することはなく、仮称個性「蝙蝠」のまま限界の速度で肉薄し、ゴロウに超速の鉤爪をお見舞いするまでに留めたのだ。
「あちゃー、派手にやらかしてくれたねー」
明け方とは言え朝の五時に起きた一連の出来事、端から見たらカマソッソと少女は巻き込まれた被害者であるため、少女は警察へと通報したのだ。だが「塚内」と呼ばれる警官が到着した時、顔の形が変形したゴロウを見て「君達が加害者か?」となったのは言うまでもない。
「・・・・・・!?コイツ、「人攫いのゴロウ」じゃないか!!重要指名手配犯だ、君達がコイツを捕まえたのか!?」
二人は知らなかったが、ゴロウは自分が界隈じゃそれなりに知られていると言った通り、警察にもその悪行はバッチリと知られていたのだ。
「こっちのオニーサンがやっつけてくれたの」
「君が・・・・・・」
塚内は自分よりも背丈が十センチ程大きい青年を見やる。ゴロウはこれでも今まで何件も重大犯罪を起こしてきた凶悪
「”個性”を使用したんですよね。普段なら厳重注意と指導が入る所なんだけど、今回は捕まえた人物が人物だからなぁ。・・・・・・今回の個性使用の件については不問とします。ですが、以後気をつけるようにお願いします。原則、個性は『プロヒーロー免許』を持ってる人のみが使えるので」
「はーい」
「はい」
「あ、あと最後に名前だけ教えて貰ってもいいですか?今回の件で、色々呼び出されたりすると思いますので」
カマソッソはここで少し焦る。今の自分は「
「私は「
「オレは───「森鎌 想太」。」
「はい、涼原さんに森鎌さんね。・・・・・・あれ、森鎌さん『仮免許』持ってるじゃん!なんだ、それならそう早く言ってほしかったな。仮免許持ってるなら緊急時の個性使用は認められるから、今回のことも特例扱いになったりはしないですよ。安心してください」
仮免許ぉ?そんなもの・・・・・・あ、二年前に合格してる。いや知らん、知らんぞそんなことカマソッソは。というかこの依代、まだ二十三なのか。若いな、少なくともオレと比べたら何十、何百倍も若い。というかあの塚内とかいう男が手に持っている小さい機械、テーブルの上にあったオレがいらないと判断したものだよな?意外と使えるものだったのか
「はい、じゃあご協力ありがとうございました。やっぱり、後でお二人にはヴィラン確保の感謝状等を送るために警察署まで来てもらうことになると思うので、よろしくお願いします」
その時は僕が対応しますのであまり時間はかけさせないと思います、とだけ言うと、塚内は一礼だけし、ゴロウをパトカーに投げ込み、運転手に行くのかと思いきや───
「森鎌さん、最後に一つだけ、公然わいせつになる可能性があるので、服は着てくださいね?」
それだけ言うと塚内は素早くパトカーを運転して去っていった。190cm程の上裸の男と150cm程の少女の二人だけを残して。
「ぶふっ」
「笑うな、女」
カマソッソは涼原なる少女に笑われながらも、上裸の何が悪いのだ?と思うのだった。