英雄と呼ばれた軍師のその後   作:アリス=ダルク

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国名を少し補足。


イーリス王国 : 神竜ナーガを信奉している。聖王が国を治めている。

フェリア連合国: 東西に1人ずつ王がおり、4年に一度の闘技大会で勝った方の王が4年間国を治める。( オリ○ピックではない) なお、イーリス王国と同盟関係にある。

ペレジア : イーリスと仲が悪い。豊かだが、治安はあまり良くない。

ソンシン : ヴァルム帝国の属国であったがクロム達の介入により独立に成功。日本みないな国。


第2章 マーク

ルフレがイーリス王国へ復帰してから10年が経過し、イーリス王国やその同盟国であるフェリア連合国には短いスパンで起きたペレジア、ヴァルムとの戦争の傷跡はもはや見られない。これはペレジアからの多額の賠償金、帝政ヴァルムから独立したソンシン国の現女王サイリの支援に寄るところが大きいだろう。

 

 

 

 

現在ルフレは何をしているのかというと、イーリス国でも十指に入るような位に就いていた。ちなみにその役職名は「イーリス王国軍国防戦略一等軍師 」という大層な名称である。

 

…ただこの地位は「有事の際に国軍の最高司令官として軍を使役する」というもので平和を求める声の強いこの時期においては不要の地位かもしれない。

 

そうは言っても全くやる事がない訳ではなく、兵質の抜き打ち調査や事務関係の仕事もあるのだが………、ルフレはそれらを全て部下に丸投げして人手が足りない時以外は自宅でダラダラしていた。なんたら軍師という名の自宅警備員である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうか。 いや、違うか……。

 

ならここをこうして…、

 

 

ルフレは今、自宅のソファで寝転がりながら何かで遊んでいた。

 

「ただいま、父さん」

 

そう言って現れたのは黒髪をロングにしたあどけなさの残る女性だった。彼女こそ未来から来たというルフレの娘であるマークである。

 

「お帰り、マーク」

 

ソファの上に寝そべっている実の父親を目にしてマークは思わず深い溜息が出てしまった。

 

「父さん、また仕事もしないでゴロゴロして………ってこれ何?」

 

ルフレが弄んでいるものをひったくるとそれは木製の箱だった。

 

「ああ、これはサイリから送ってもらった物で秘密箱というからくり仕掛けの箱でね、ちょっと貸して。」

そう言ってルフレはマークの手から秘密箱を取り、木の板を次々とスライドさせていき、最終的に中が覗けるようになった。

「な、面白いだろう? 決まった順序で動かさないと開かない仕組みなんだ。ソンシンの工芸品らしいよ」

 

マークは再び深い溜息をついてしまう。

 

「…ってことはまた父さんは仕事もせずに怠惰な生活を送っていたのね? 私の記憶が正しければ今日は父さんの所は天馬騎士団の兵のチェックがあったと思うんだけど」

 

ルフレはまた秘密箱をいじくり始めながら答えた。

 

「聞かなくてもわかるだろう? 今日の仕事はセントに任せたんだ。」

「今日も、でしょう」

 

セントとはルフレの直属の部下にあたる女でルフレが殆ど仕事をしないためほぼ毎回のようにこういった役回りをする羽目になっていた。

 

「ねえ、前々から言ってるんだけどどうして働かないのよ…。 セントさんが可哀想よ」

そんなことはない、とルフレは否定する。

 

「いいかい、マーク。適材適所という言葉がある」

 

「 ? 」

「要するに人の能力次第でそれに相応しい仕事をさせるべきということさ。悔しいけど事務関係の仕事に関しては僕よりもセントの方が手際がいいからね…。」

 

「本当に悔しいと思ってるの…? どう考えても仕事したくないだk」

「更に言うと、」

 

ルフレがマークの駄目出しを遮って続ける。

 

「僕は働いていない分の給料まで取ったりはしないからね。セントは仕事した分だけ給料をもらっている訳だし。それに忙しいときは僕も顔を出すから」

 

「それって結構当たり前のことよね…」

 

マークはまたもや溜息をついてしまう。

 

 

( あぁ、軍師として皆に的確な指示を出して軍を勝利を導いていたあの頃の父さんが懐かしいな…)

 

マーク自身もルフレに助けてもらったことが何度もある。

 

(そういえばこの時間軸に流れ着いた時も助けてもらったんだっけ…)

 

10年前のことを回想する。

 

ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー

 

 

 

クロム達が西方より侵攻してくるヴァルム帝国と戦うための諸準備をしていた頃のことだった。

 

クロム自警団の一行は聖龍ナーガの残したと言い伝えられる秘宝を求めて時の神殿という遺跡に立ち寄っていた。

「聖竜ナーガの残した秘宝があるというのはここか」

「ああ、だが屍兵の気配がするな」

 

屍兵とは邪竜ギムレーの使役する魔物のことである。体格は人間によく似ているのだが、不気味な容貌と完全に体が動かなくなるまでしつこく襲ってくるその姿は正に化け物と呼ぶに相応しいだろう。

 

「結構な数がいる。クロム、気を引き締めていこう」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

またクロムやルフレ達とは少し離れた所にセミロングの黒髪の少女マークがいた。

 

「うう……ここ、何処なの?」

 

気付けば全く見知らぬ場所にいた上にそれまでの記憶は殆ど残っていなかった。更に悪いことに、遠方にはどう考えても敵としか思えない物が複数体いる。

 

周囲には自分以外に誰も居ない。あるとすれば鞄に入っている魔道書と腰に差してある青銅の剣くらいか。

 

「弱気になっちゃダメよね。父さんのような立派な軍師になるため頑張らなきゃ!」

マークは怯えながらもなんとか自分を奮起させようとしていた。

 

すると突然柄の悪い男が柱の陰から出てきた。

 

「 ひゃう!」 「 うお! 」

 

両人とも見事に驚きを表す声を上げ、互いを凝視する。

 

( なんだ女か…。驚かせやがって…)

( このおじさん何なの!? いきなり出てきてびっくりした…)

 

男はマークが自分の脅威ではないと判断すると物色し始めた。 その視線にマークは身を竦めてしまう。

 

( ちっ……、大して金になりそうなモンもってねえな…。まあ盗れるモンは盗っとくか )

 

放浪していたら大層立派な遺跡があったので侵入してみたはいいものの、金目のものは見つからずオマケに気味の悪い生き物がうろうろしていたため、盗賊は大分腹が立っていた。

 

「なあ、嬢ちゃん。 悪いこたぁ言わねえから持ってるものを俺によこしな。 …その剣とかな。痛い目には会いたくねえだろ? 」

そう言って刃物を向けてきた。

 

マークはすぐに魔導師を取り出し、魔力を発射しようとしたがしなかった。 否、する必要がなくなった。

 

いきなり盗賊の頭が弾け飛んだからだ。

 

( え……? この赤いのって血…? )

 

返り血を浴び、突然の事態に思考が停止したがいつまでもそうしている余裕はなかった。

盗賊を無惨に殺した屍兵が今にもマークに襲いかかろうとしていた。

 

 

( ! ! ! ! ! )

 

 

 

 

 

 

 

「 魔導師が19体……、グリフォンナイト、ドラゴンナイトが6体ずつ、剣士が12体……あと盗賊が数人紛れこんでいるね。 大方神竜ナーガの秘宝を狙いに来たんだろう」

 

ルフレは敵の職種や持っている武器、間合いなどを把握する才能を持っていた。無能が持っていても宝の持ち腐れだが、ルフレはそれを上手く使える実力を持っていた。

 

「空中部隊と地上部隊に二分しよう。地上部隊で敵のグリフォンナイト、ドラゴンナイトをおびき出しつつ、空中部隊は迂回して残りを叩いてくれ。弓兵がいないから苦もなく倒せるはずだけど用心はしておいてくように」

 

ペガサスやドラゴンといった空中を動く生物を使役する職種は総じて一般的に普通の歩兵のスペックを大きく上回る。ただ一つの弱点が飛来する弓矢であった。

 

起動力と突破力を兼ね備える空中戦力ではあるがだからといって前衛に出し過ぎると弓兵に蹂躙されていまう。戦力的にもその運用には他の兵量よりも断然慎重をきたす必要があり、そこは軍師の技量であろう。

2年前の聖王エメリナ奪還時の作戦では敵の竜騎士を倒し制空権を確保した段階で天馬騎士団を投入させたは良かったものの、突如として出現した弓矢を持った屍兵に為す術もなく撃墜されてしまった。誰も予想出来なかったこととはいえ、自分の作戦で兵を無駄死にさせてしまった事は大いに悔やまれた。

それ以来、空中部隊は必要以上に慎重に運用してきた。

 

空中部隊がゆっくりと離れていくのを見送りながらクロム、ルフレを含む地上部隊は足場の決して良いとはいえない道を進んでいた。

 

「 む。」

 

少し進むと道は二手に分かれていた。

 

「よし、ここで二手に分かれよう。クロムの部隊は右に、僕の部隊は左だ。 障害物が多いから突然の襲撃には気を付けてくれ 」

 

「 分かった。そっちも気を付けろよ 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 はあ、はあ…… 」

立て続けに襲ってき2、3体の屍兵をなんとか撃退しマークは柱にもたれかかって休んでいた。

 

( これ以上来たら流石に凌げそうにないわ… )

 

雷系の中級呪文であるエルサンダーを使っていたのだが、もともと残量エネルギーが残っていなかったのかすぐに使えなくなってしまった。

まだ青銅の剣が残っていたが、力の劣るマークが使ったところで時間稼ぎになるかも怪しいところだ。

 

 

自分の方向へ近づいてくる足音を察知した。

 

「 まだ来るの? 隠れなきゃ…… 」

 

気付かれないよう祈るが…

 

 

「こっちには屍兵があまりいないな…、ルフレには貧乏くじを引かせてしまったのかもしれん 」

 

 

それは人間の声だった。だがそれ以上にマークを驚かせたのは自分のよく知る人間の名前が耳に入ったからだ。

 

( 父さんの名前!? )

 

咄嗟に柱から飛び出るとそこには剣を持った青髪の青年がいた。

 

 

「 ん? 誰だ? 」

 

青年は不思議そうな表情でこちらを見つめる。どうやら敵ではなさそうだ。

 

「 あの」

「 お下がりください、クロム様 」

 

突然茶髪の騎士が自分と青年の間に割り込んできた。険しい表情でこちらを睨んでくる。先ほどの盗賊よりも迫力があり、身が竦んでしまう。

 

「こら、フレデリク。初対面の人をそんなに威圧するんじゃない 」

 

「はっ…、しかしクロム様は得体の知れぬ人間に対して緊張感が足りません。貴方は今やイーリス王国の王なのですからもう少し立場をわきまえていただかないと………」

 

「 その言葉は聞き飽きたからもういい。あと俺は一瞬でやられるほど弱くはないから大丈夫だ。それにこの少女は見るからに腕っ節が弱そうだし、碌に使える武器がないじゃないか 」

「そうは仰っても…」と渋るフレデリクという騎士を諌めクロムという青年はこちらを向く。

 

「それで、お前は何者なんだ? 」

 

 

「私はマークという者です。えっと…………、すいません、他の事は何も思い出せないんです……気が付いたらここにいて…」

 

「ん? 記憶喪失なのか。ルフレと同じだな」

 

「 あの…! ルフレと言いましたよね?」

 

「 ああ、そうだが」

 

やはり聞き間違いではなかった。もしかしたらこの青年は父さんの事を知っているのかもしれない。

 

「ルフレって私の父さんの名前と同じなんです…。父さんの名前だけは覚えていて…………あれ?なんでだろう?」

 

今更になってそんな事を考える。

 

「 父親? 確かに珍しい名前だがいくら何でもそれはないと思うぞ。 ……まあ、こんな所にいるのもなんだから一緒に来るか? 」

 

「いいんですか?」

 

マークにとってはありがたい言葉だった。命が助かる上に父親の手掛かりを得られるかもしれないからだ。

 

「ああ、この自警団は困った者を助ける組織だからな」

 

「ですからもう少し警戒心を…」と小言を言うフレデリクを無視しマークはクロムについていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 爪が甘いな。はあっ!! 」

 

グリフォンナイトに乗った屍兵将に大きな隙ができたところを見逃さず致命的な一撃となる呪文をぶつけた。

 

「 ふう、これで粗方片付けられたな… 」

 

「 ルフレ、こっちも片付けたわ。」

 

そう言って近づいてきたのは空中部隊を率いていたティアモという赤髪の女性天馬騎士だった。

 

「 ああ、お疲れ。 クロム達がきたみたいだ……、ん?クロムの側にいる黒髪の女性は誰だろう? 」

 

 

なんとなく見ていたが、黒髪の女性はいきなり顔を輝かせてこちらに走ってきた。

 

「 父さん!! 」

 

( ん? 父さんって……明らかに僕に向かって言っているのか…)

 

「父さんって僕のことでいいのかな? おそらく勘違いだと思うんだけど……なぜなら悪いけど僕には子供はおろか妻もいないからね 」

 

途端にその女性は狼狽え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

( ええ?父さんじゃないってそんなはずは……。嘘でしょ? ………あれ、よく見ると私の知る父さんより大分若いような………なんで?)

 

するとルフレが何か思いついたような顔をして尋ねてきた。

 

 

「 もしかして君もルキナと同じように未来から来たのかい?それなら納得がいく」

 

聞き覚えがない。

 

「 ルキナさんという人は知らない………っていうかここに辿り着くまでのことを覚えていないからわかないの…。でも父さんの顔だけは見間違えるはずないわ 」

 

これは断言出来るだろう。

 

「そうか、参ったな…。僕はまだ結婚していないんだよ 」

 

軽く衝撃の事実である。といってもマークも母親のことは思い出せないのだが。

 

 

2人して悩んでいると、クロムが割って入ってきた。

 

「おい、2人とも。悩んでいても仕方がないだろう。 マークといったな。取り敢えず俺達について来い。そのうち記憶を取り戻すかもしれん 」

 

 

確かにうだうだ悩んでいるよりも良いかもしれない。

 

「それなら」とマークはついていくことにした。

 

 

 

 

ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルフレがマークを直接助けた訳ではないのだがマークはルフレのおかげだと思っている。

 

 

 

その後、未来から来た子供達が次々と自警団に加わりマークを知る者がいたため未来から来たのだという説は正しかったことになった。

 

ギムレーとの戦いが終わった後、クロム自警団に所属していた未来から来た子供たちはマーク以外本来いるべき時間軸へと帰っていった。そして何故マークだけがこの時間軸に留まっているのかというとマークはこの時間軸にタイムスリップしてくるまでの記憶を一切喪失していたからである。

…自分の父親がルフレであるという事を除いて。

 

 

 

そのため記憶が戻るまでマークはこの時間軸に残ることにしていた。そんなマークをルフレやクロムは受け入れ、彼女は現在イーリス国軍参謀次長という若干26歳にしては高い位の職に就いていた。ルフレとは違って実務をこなしている。

しかし未だに記憶は戻っていない。

自警団にいた頃からマークはルフレから戦術に関するあれこれを指導してもらっていた。そのおかげもあってかマークの軍師としての能力は非常に優秀なものといえる。

 

現在はルフレと同居し、楽しい日々を送っていた。

 

ただ、マークには1つだけ重大な悩みがあった。

 

それは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルフレが未だに結婚していないことだった。

 

 

 

 

 

 





ティアモ 「 一言しか出番なかった…」

マーク 「 運命を変えましょう! それっ! 」

筆者 「 がふっ 」



2話でした。次の投稿は少し先になるかもしれないです。
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