英雄と呼ばれた軍師のその後   作:アリス=ダルク

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最近滅法寒くなってきましたね……。


今回からオリキャラを登場させます。



第3章 とある騎士

俺は今、とにかく気分が良い。どのくらいか良いかいうと、手の甲にとまった蚊にそのまま血を吸わせてあげる位には良い。え? よくわからないって? うーん、まあそうだな。もっとわかりやすく言うとうざったいバカ夫婦の惚気話しを普通に笑って聞いてあげる位には気分が良い。 本当に気分がいいぜ。

 

 

 

「 ちょっと、1人の世界に入り込まないでくれよ。折角今日は君の昇進祝いに集まったんだからさ」

 

「あ、すいません。リヒト先輩 」

 

「全く…」

 

今、俺はイーリス城下の酒場「 シャーロ 」にいる。

 

おっと、自己紹介がまだだったな。

 

俺の名前はラウド。イーリス騎士団に所属する剣士だ。この前までただの剣士に過ぎなかったのだが…

 

「それにしても君の若さでイーリス騎士団第6隊長に就くなんてね。本当におめでとう」

 

「先越されちゃうなんてね…。悔しいわ。でも、おめでとう」

 

「ありがとう、2人とも」

 

そう、この度俺は栄えあるイーリス騎士団第6隊長に若干22歳の若さで任命されたのだ。( ひゃっほう!!)

そこで俺が普段から割と親しくしている人間がお祝いの飲み会を開こうと提案してくれたのだ。

 

「最近、騎士団内でも実力をつけていたのは知っていたけど、今や騎士団内でも一番強いんじゃないか?」

 

この人はリヒト先輩。俺の4つ上で、かつてはクロム自警団の一員として活動した英雄の1人だ。今は を使用する新しい魔導の研究をしているらしい。

 

「いやいや、褒めすぎですよ。フレデリク騎士団長とかには3戦やっても1勝できるかどうかですから」

 

「ああ、あの人ホントに強いからね。自警団にいた時から相当の実力者だったなあ。今はもう33歳のはずなんだけど……」

 

げ、そうなのか。そういや前に馬は3代目とか言ってたな。

 

「 確かにラウドは真面目に職務に取り組んできたし、上官からの評価も高いのよね。市民からの人気も高いし…。ねえ…知ってる?噂だけど城下には既にファンクラブが出来ているそうよ。しかも女性のね。それに比べて私は……うぅ……、クソッ、マスター! お酒出して!強いやつ!」

 

おいおい、女性にあるまじき発言が垣間見られたぞ?まぁ、俺の偏見かもしれないのだが。

こいつはセント。俺の同期だ。イーリス国軍国防戦略課という所に勤めている。なかなかの苦労人だ。

 

「 それにしても若い世代の成長は目覚ましいね。分野は違えど僕もうかうかしていられないな 」

「はは、それを言うならリヒト先輩もまだまだ若いでしょう」

 

酒を傾けつつ、談笑する。ああ、なんという吉日だろう。こういう瞬間が生きていて一番楽しいと感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫く酒を傾けていると、いきなりとんでもない方向に話題が曲がった。

 

「 君の人生は成功への歩みを続けているね。ところで……恋の方は進展しているのかい?」

 

( !!!!!! )

 

危うく酒を噴出しそうになる。

 

「 といってもお相手があれだからね……中々難しいんじゃないかな? 」

 

「分かっているのならわざわざ言わないでくださいよ…」

 

そう。俺は今、絶賛片想い中であった。

「 ラウドの好きな人って参謀次長のマークさんでしょ?この前話すことがあったんだけど話しやすい人だったわよ。ぐいぐい攻めればいいのに 」

 

「そうはいってもだな…」

 

彼女いない歴22年の俺に攻め方など分かるはずもないのだが。

 

マークさんとはリヒト先輩と同い年にして参謀次長に登り詰めたエリート中のエリートだ。だからといってその地位を気取ることなく職務に全うし、類稀な才能と可憐な容貌を併せ持つ彼女は国民の間でも人気が高い。才色兼備ってやつだな。何を隠そう、俺自身も彼女のファンだ。

 

「 ラウドの一向に進展しない片想いはどうでもいいわ。私の仕事の方が問題よ。この前天馬騎士団の兵質検査があったんだけれど、うちの上司ったらまた仕事サボって私に全部押し付けたの!!」

 

決してどうでもよくはない。

 

セントの言う上司とはルフレという、事実上聖王からイーリス国軍の管理を任されている人のことだ。

俺はルフレさんのことが好きではない。いや、寧ろ嫌いだ。なぜなら、高い地位を与えられているにも関わらず本人はそれに見合う仕事をしていないからだ。

10年ほど前のペレジア、ヴァルムとの戦争で少ない兵力で敵の大軍を打ち破ったという数々の英雄譚は知っている。戦争終結後2、3年の間各地で起きた紛争の収束の功績もその多くが奴によるものが大きい。ただ、だからといって今の職務を怠けていいのかというと断じてそんなはずはない。

「 またルフレさんはサボっているのか…、全く言語道断だぜ…」

 

(( 君(あんた)のは8割方嫉妬だろう(でしょう)に… )

 

奴はマークさんと従兄弟という関係らしく同居している。全く憎たら…ゲフンゲフン、奴の怠け癖がマークさんに移ってしまったらどうするつもりだ。

 

 

( 本当は親子なんだけどね…。まさか未来から来ましたなんて言えないから従兄弟という事にしてるけど)

 

心の中ではそう思うリヒトであった。

 

 

「 ははセント、君も災難だね。というかルフレさんの下に就いた2年前からそんな事言ってたね」

 

「 どうしたらあの人仕事してくれるんでしょうか………

……、そういえばリヒト先輩。ルフレさんって自警団にいた頃はどんな感じだったんですか?イーリスの英雄の話は耳にするんですけど今の姿見てるとどうも想像できなくて…」

 

それは俺も興味があるな。

 

「うん、その頃は僕も後方支援とかのサポートが主だったな。ルフレさんは優秀な軍師だったんだけど前線にも結構飛び出しててね…。ハラハラさせてくれる場面が割とあったのを記憶してるよ」

 

前線に出てたってことは強かったのか。

 

「 魔道書と剣を使っていたんだけど自警団の中でも相当の実力者だったね。団内の模擬戦ではフレデリクさんでも苦戦していたからね…」

 

 

あの騎士団長が苦戦?当時は団長も若かっただろうに。

 

「 もっとも今となっては実戦からは遠ざかってるしもう30歳になるから衰えてるとは思うよ」

 

へぇ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 なんかルフレさんと闘ってみたくなりました」

 

俺の突然の発言に2人は驚いたような顔をする。俺、そんなに変な事言ったか?

 

「 何言ってるの! 相手はあのルフレさんよ! 勝てるわけ……ってあの人普段はゴロゴロしてるだけか…」

 

「 うん、十分に勝てる可能性はあると思うよ。それにしても面白いことを言い出すなあ」

 

「 とは言ったものの、何の接点もないからまず実現しませんよね。まあ言ってみただけです」

 

「いや、そうでもないかな」

 

俺とセントはリヒト先輩の方を向く。なんかすごく悪い笑みを浮かべている。

 

「今の国のお偉方はルフレさんの事を快く思っていないんだよね。最近は目立った活躍はしていないし聖王のお気に入りだから」

 

「はあ、それがどうしたんですか?」

「つまりだよ、君とルフレさんの模擬戦という形でルフレさんが負けるとこを見れるんだったら嬉々として闘いの場を提供してくれるだろうね」

 

発想が黒いです、リヒト先輩。

 

「 ねえ、ルフレさんと闘いたくなった理由ってマークさんと仲睦まじそうに暮らしていることに対する私怨?」

 

「なっ!! そんなことは………全くないと言えば嘘にはなるが…ただ、英雄とまで呼ばれる人と一兵士に過ぎぬ俺が渡り合えるのかもしれないと思うとな」

 

「ふーん」とセントは一応信じてくれたらしい。

 

「 で、どうするんだい?」

 

「 ルフレさんと闘えるのなら……ってそもそも出来るんですか?」

 

勿論とリヒトは答える。思い付きで発した言葉ではあったが実現するのなら大歓迎だ。

 

「 これでも僕は割と顔が利くんだ。上層部に掛け合ってみるよ」

 

ただ、とリヒト先輩は制す。

 

「 君が負けちゃったら君だけじゃなく、僕の肩身まで狭くなるからそこんとこよろしく」

 

にっこりと微笑むリヒト先輩の笑顔は途轍もなく怖かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 闘技大会だって?」

 

マークが持ち帰ってきたというチラシを見る。

 

ーー ○の月✖️日に王都にて開催 ーー

 

 

「 うん、国中の腕に覚えのある人が参加するそうよ。城下は相当盛り上がってるわ 」

 

そんなことよりもっと重要なことが書かれていた。

 

「 この主要参加者の欄、なんで僕の名前が入っているるだ? 」

 

「 ん〜、折角だから伝説の軍師にも参加してもらおうって企画だって 」

 

( まだ伝説になった覚えはないんだけどな )

 

ルフレはつい苦笑してしまう。

 

「 どうしても出なきゃいけないのかい?正直身体が鈍っているんだがーー」

 

さあね、とマークは買い物に出掛けに行ってしまう。

 

「 セントが何か知ってるかもしれないな 」

セントを仕事用の連絡方法で呼び出すルフレであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 …で、私が呼ばれたと 」

 

微笑みながら目の前の上司は頷いている。

 

「 別にわざわざ呼び出さなくても私からルフレさんに伝えることになってたんですけどね …というか仕事の回線使ってきたから仕事に関する何かを期待していたんですが」

 

「 仕事にも全く関係ない訳じゃないさ。この前の兵質調査の報告書、持ってきているんだろう?」

 

あーはいはい。そう言うと思って持ってきましたよっ。

 

「 はい。どうぞ 」

 

「 ありがとう。セントは優秀で助かるよ」

 

何故だろう。褒められているのにあまり嬉しくない。

ちなみに報告書は形上、ルフレが提出しなければならないことになっている。

 

「 それで僕はどうしても闘技大会に出場しなければいけないのかい」

 

「はい。神官様直々の御指名だとか。断わる訳にはいきませんね 」

 

「 そうか… 」

心底残念、いや面倒くさいという表情だ。少し気味がいい。

 

「一つだけ忠告をしておきます」

 

キョトンとしたルフレに向かって続ける。

 

「 此度の闘技大会ではラウドという若いですがイーリス騎士団でも指折りの実力者が参加してきます。彼の目的はルフレさんと闘うことらしいので無様に倒されないよう、準備しておいてくださいね 」

 

少し辛辣な言葉だが、この人にはこれ位で丁度良い。

 

「 その口ぶりだと知り合いかい? 」

 

「 はい 同期です。腕は確かだと思います。……私はどちらを応援するという訳でもなく純粋に楽しみにしているので頑張ってください 」

 

そう言ってルフレの家を出る。

 

ルフレの家は王都にあるので頻繁に来る機会がある。仕事の報告書の提出に。 自分で作れよ、畜生。

 

 

 

( というかあの人、ラウドと闘う所まで勝ち上がれるのかな? ……ま、いっか )

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 イーリス騎士団第6隊長ラウドーー騎士団内では3位の実力を持つソードマスターか…。やれやれ、大変な勝負になりそうだ 」

 

そう言うルフレの表情は存外楽しそうだった。

 




新登場人物

セント オリキャラ。ルフレに振り回される可哀想な人。

ラウド オリキャラ。マークに片思い中。

リヒト 原作キャラ。成長したら黒くなりました。


次回から闘技大会編です。

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