死の軍勢が救世を果たすのは間違っているだろうか?   作:大葉さん

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初投稿です。
かなり独自色の強い内容になる予定です。
原作で極東・ゼウスヘラ・黒竜あたりの詳しい話が出たら詰むのでそれまでに終わらせたいです。


#1 異端児の誕生

 

 ここには絶望しかなかった。

 

 果ての見えない洞窟。迷路のように入り組んだ暗がりには、一切の光がない。

 

 たまに現れる光へと近づくと、そこには必ず恐ろしい捕食者たちがいる。

 

 鳥であったり、竜であったり、獣であったり、虫であったり、人であったり。姿形は様々だが、彼らは決まって自分を殺しにやってくる。

 

 何をしたわけでもないのに。ただこの暗がりで生まれ、逃げ隠れするだけの日々。

 

 襲われるから逃げる。逃げられない。殺されるのは嫌だ。嫌だから殺す。殺される前に殺すしか生きる道は残されていない。

 

 鳥であったり、竜であったり、獣であったり、虫であったり、人であったり。襲いくる敵を殺し続けるだけの毎日。

 

 殺して何をするわけでもない。ただ殺されないために殺しただけ。醜く命にしがみつく自分は、果たしてそこまでして生きたいのだろうか? 生きてどうするというのだろうか?

 

 死ぬのは怖い。その本能に従って、無為に命を刈り続ける。生きる意味も、襲われる理由も、そもそもここがどこなのか、それすらも何もわからない。

 

 わかっているのはただ一つ。まだ生まれて間もない頃だった。人間に襲われた時、そいつの持つ武器に反射して見えた己の姿のみ。

 

 襲いくる獣の一種によく似た体躯。返り血に塗れた牙と毛皮。そして殺気に満ちた、しかして意志を感じない瞳を備えたまごうことなき怪物の姿。

 

 怪物の最期は決まっている。英雄に倒されて、それで終わる。多くの同胞を庇うように並び立つ二人の人間。目前に迫る男と女。きっと彼らもまたそんな英雄だったのだ。

 

 異端の怪物は魔石とドロップアイテム、そして経験値を残して灰と化す。その魂は迷宮に返り、再び異端の生を得る。

 

 

 

 

 そのはずだった。

 

 

 

 

 オラリオから遠く離れた極東の地。世界のはずれで国家系ファミリア【アマテラス・ファミリア】のもと「朝廷」による統治下にあると思われているこの地は、その実とうに腐敗していた。

 

 国家=ファミリアは団結せず、各地で絶えず争いが繰り広げられている。果てにはそんな現状に心を痛め主神の親心を無視し【神の恩恵】の更新による貴族間のバランス崩壊を防ぐために主神を幽閉する有様だ。

 

 そんな終末期にある極東において、朝廷中枢で神事を司るサンジョウノ家。その地下にてとある実験が行われていた。

 

 まだ生まれたばかり--より厳密に言えば臍の緒を切ればたちまちに死んでしまうような、命を持たずに生まれてきた赤子に【神の恩恵】を与える実験。

 

 魔石を砕いて描かれた魔法陣の中央で、母胎と繋がったままの赤子に向かう神という異様な光景。

 

 憔悴しきった母親らしき狐人。

 狂気に染まりきった父親らしき狐人。

 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた幼神。

 そして命を宿さぬ赤子。

 

 四者四様の彼らにとって、最善の結果は意外にもたった一つ。この生なき赤子に生命を宿らせる。たったそれだけだった。

 

「......どうやら成功したようじゃの」

 

 新たな眷属の無事への安堵と、この先彼に訪れるであろう苦痛の日々への謝意。その板挟みからなんとも言えない表情を浮かべるアマテラスに対して、眷属であるはずの男は高圧的に告げる。

 

「ひとまず男児が生まれたのは良かったが、サンジョウノ家に迎えるに相応しい価値がなければ意味がない。さっさと【ステイタス】を見せろ」

 

 本来同派閥であっても本人の許可なしに見せられるものではないのだが、男は当然の権利であるかのように要求する。

 

 実際、彼にとってそれは当然の権利なんだろう。所詮妾との間に生まれた子。まだ後継ぎたる男児が居ないから実験がてら産ませただけにすぎない道具だ。

 

 一切の愛情を感じさせないその悪逆にしかしアマテラスは従わざるを得ない。眷属の生命を人質に眷属によって使われる主神。それがアマテラス・ファミリアの実態だった。

 

 

 

 

サンジョウノ・真宵 Lv.1

 

力:I0

耐久:I0

器用:I0

敏捷:I0

魔力:I0

 

《魔法》

【ヒトミゴクウ】

・治癒魔法

・対象の経験値を代償にあらゆる病毒・欠損を治癒する

・後天的に得た全ての経験値を代償とする

・代償不足の場合完治不可

・使用者、被用者双方の同意が必要

・前回被用時の位階を超過するまで同一対象への再使用不可

・詠唱式【紡がれた過去、掴んだ現在。あらゆる糧を代償に未来の時間を希う。弱者も強者も等しく身一つで生まれ直しなさい。代償を鍵に、今、盛者必衰の理を破らん】

 

《スキル》

 

 

 

「なんだこの【ステイタス】は! 狐人でありながら魔法スロット1つだけだと? それになんだこの魔法は......」

 

 暗部の調査によって、政敵シジョウノやイチジョウノには魔法スロット3つにスキル持ちの子供が生まれたと伝えられた。

 

 今回このような実験を行ったのも、一刻でも早く彼らに対抗できる後継ぎを用意するためだ。

 

 このままでは近い将来サンジョウノは凋落する。使えないのなら構っている暇はない。

 

 期待に満たない我が子を使えないと判断したのか、男は激昂したままその場を立ち去る。

 

 「あらゆる病毒を治す」と言えば聞こえはいいものの、そもそもこの世界において代償を支払えるほどの階位に達する人間が一体どれだけいるというのだ。

 

 そんな数少ない英雄が都合よく病毒に侵され、この力を頼るだろうか?

 

 階位を上げるにはそれこそ人生を冒険に捧げる必要がある。共に成長した仲間に置いていかれて、再びレベル1からやり直す。それに釣り合うような病毒を受けて、治癒を受けるまで生存できるわけがない。

 

 男の去った方から聞こえる恨み言にもにた怒号を聞き流しつつ、アマテラスは目前の母子を見つめる。

 

 臍の緒を通じて流れ来る二つ目の恩恵に耐えられずすでに死を免れない様子の母親、そしてそれを救う術を持ちながら詠唱などできるはずもない幼い赤子。

 

 男の「不要であった場合は、捨ておけ」という言伝に従い、アマテラスは約束された不幸につながる臍の緒を断ち切る。

 

 せめて最期は親子二人で、刹那の一瞬であっても幸せを得てほしい。不甲斐ない主神にできる最大限の親心からアマテラスは静かにその場を立ち去った。

 

 

 

 二つの命が尽きる直前、赤子の体に魔力が迸る。

 

 我が子に生き永らえて欲しい。そんな母の親心が掴んだ奇跡。一瞬とはいえ確かに赤子と繋がった母の【神の恩恵】は二つの奇跡を宿していた。

 

 死にゆく身体で最後の力を振り絞る。詠唱を口ずさむ。掠れた声、絶え絶えの息で紡がれる、最初で最後の読み聞かせ。声にならない声でも確かに紡がれた詠唱。

 

 【紡がれた過去、掴んだ現在。あらゆる糧を代償に未来の時間を希う。弱者も強者も等しく身一つで生まれ直しなさい。代償を鍵に、今、盛者必衰の理を破らん】

 

 我が子の持つ唯一の魔法。この土壇場で、生命を一にしていたからこそ芽吹いたスキルで、起死回生の詠唱を完成させる。

 

 レベル2である自身に使えば、生命を永らえさせられるかもしれない。しかし母は、その力を決して自らのためには使わない。

 

 強い意志はスキルを発現させる。我が子を生きながらえさせるために芽生えさせたスキルだ。目的を違えるほど薄弱な意志ではない。

 

 代理詠唱と口寄せ。芽生えた二つの奇跡をたぐり、治癒を餌に空っぽの我が子に生命を呼び寄せる。

 

 誰でもいい。神でも、精霊でも、人でも、魔物でも。誰でもいいからあの子を......。

 

 

 

 

 英雄に、魔女に討たれ消えゆく意識。迷宮へと帰るべく魂と化したその魔物は穏やかで暖かな光を見つける。

 

 どうせもう助からない。それならばもう的に怯えて光を避ける必要もない。

 

 ずっと手に入れたかったもの。この暗がりにはなかったものの気配を感じ、魔物は迷宮に抗う。

 

 奇跡は果たされ、されど母はそれを見ることなく力尽きた。

 

 彼の生存を知るのは恩恵の繋がりを感じられるアマテラスだけだった。

 

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