Legacy of Reverie   作:名無しの権兵衛

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もしかしたらここの話は変更するかもしれません。少々お時間をいただきます。

次回更新までしばらくお待ちください。


動物園:語られる物語

「……なんだいこいつは?」

 

 収容室の中に入ってみると、中には変な椅子に座っているおばあさんがいた。

 

 白い肌にひどくくぼんだ目、何処からどう見てもただのおばあさんだ。

 

 そいつはゆらゆらと揺れる椅子に座りながらぼそぼそと何かを呟いている。

 

「まったく、どんな化け物が出てくるかと思ったらこんなばあさんかい」

 

 入口の女がとにかく危険だというからどんな奴が来るかと身構えていたけど、蓋を開けてみればこんなもん。

 

 これで金が稼げるっていうんなら、それに越したもんじゃないね。

 

「それにしても、このばあさんは何をぶつぶつと話してるんだい?」

 

 そこであたしは、調子に乗ってばあさんが何をぶつぶつと言っているのかを聞いてしまった。

 

 聞くべきじゃ、なかったのに。

 

「ぼうや、ぼうや、古い物語を聞きたいかい?」

 

「いや、私は坊やじゃねぇし……」

 

「それなら聞かせてあげようねぇ、あれは……」

 

 ボケているのか耳が聞こえていないのか、アタシの話なんて無視して話を始めやがる。

 

 ……いったい、どんな話が待っているのかねぇ?

 

「あれはもう、30年くらい昔の話かねぇ? ある男が【検閲済み】によってこの世界で二度目の生を受けたのさ。そいつはこの都市で人は殺さずに頑張って生きようとしたのさ、それ以外には何でもやってね。どうせ罪は罪だというのに、どうしてか人殺しだけは毛嫌いしていたのさ。それからそいつは何とか大人になって、どうしてもこのままだと生きていけないようになってしまったのさ。人を殺さないってことは、一度でも恨まれたらいつまでも禍根が残るってことだからね。そこで八方ふさがりになったある時、彼には【検閲済み】からの採用通知が届いたのさ。普通の人間ならそこで喜んで飛びついただろうさ、なんせ翼からの採用通知さ、自分がそこに応募したかなんて疑問はすぐに吹き飛ぶさ。でも彼は生意気にも悩んだのさ、何故かって? そりゃあ【検閲済み】で知ってたからさ、それが額面通りに受け取れるものじゃないってことをね。そいつは悩んだ、いや悩んだふりをした。だって心の奥底では行きたくてしょうがなかったからね。夢にまで見た【検閲済み】に会えるんだから、たとえ命の危険があるって知ってたって行ってしまうのさ。それからというもの、彼の人生は一変した。【検閲済み】で大好きだった【検閲済み】に直に出会えるんだからさ。【検閲済み】から作られた【検閲済み】も子どもみたいにはしゃいで着ちゃってさ、そりゃあ楽しそうに作業をしに来るのさ。私のところにも足繁く通ってきてくれたものだよ、私が寂しくないようにって…… まぁ、チーフになって忙しくなるとそうもいかなくなって、気が付いたら誰も来てくれなくなったんだけどね。そいつはいっつも誰かのために【検閲済み】と戦って、【検閲済み】のために作業をする変な奴だったのさ、自分自身では気づいていなかったみたいだけどね。あるときは【検閲済み】の恋人として溶かされ、ある時は【検閲済み】の皮にされて、ある時は【検閲済み】に吸い込まれて、ある時は【検閲済み】の一部にされて、「ちょ、ちょっと待ってばあさん」あるときは【検閲済み】に【規制済み】されて、ある時は【検閲済み】に敬意を表し、ある時は【検閲済み】の爆発に巻き込まれ、ある時は【検閲済み】と共に演奏し、「本当に待ってくれ、頭が割れそうだ」あるときは【検閲済み】を間違えて殴り罰せられ、ある時は【検閲済み】の救済を受け、ある時は【検閲済み】の裁きを受け、ある時は……」

 

 痛い、頭が痛い、頭の内側から張り裂けてしまいそうだ。

 

 このばあさんは話だけじゃない、それ以外の恐ろしい情報まで頭の中に詰め込んできやがる。

 

 こ、このままだとやばい、何とかこの場所から逃げなくては……

 

「……もう行ってしまうのかい?」

 

「あ、あぁ…… ちょっと用事を思い出しちゃってさ」

 

「ならまた来ておくれ、次もお話をしてあげるからねぇ」

 

「そうかい、まっ、また機会があればねぇ」

 

 覚束ない足で何とか収容室の出口まで歩いて脱出する。

 

 ガンガンと痛みの響く頭を抑えながら、収容室の外にある装置からエンケファリンを取り出し、この場所から離れていく。

 

 できることなら、もうこれ以上は来たくないねぇ……

 

 

 

 

 

「……えぇ!? そんな値段で売れるのかい!?」

 

「まぁね、エンケファリンって元から需要あるし、その供給元だったL社が折れてしまったからね……」

 

 何とかエントランスまで戻って、買取カウンターにいた明らかにあたしより上位の実力を持った女に金額を査定してもらったら、アタシが命がけで手に入れたエンケファリンは思った以上の値段になった。

 

 いくら手数料が引かれているからって、この値段はびっくりだよ。今まで一度の依頼でこんな大金を手に入れたことなんてない、アタシら底辺フィクサー事務所なら複数合同の依頼の合計金額くらいはある。

 

 それを、あんな短時間で……?

 

「一応言っておくけど、伝手がないならおとなしくここで買い取ってもらった方がいいわよ? 変なのに目をつけられたら大変だもの」

 

「そりゃあ分かってるさ、正直手数料抜きにしてもかなりの儲けだもの」

 

「まぁ、ここでお金にせずにこのエンケファリンを装備にするって手もあるけど…… やっぱりお金にする?」

 

「装備……?」

 

 装備か…… 今の獲物は剣だけど、そろそろ新調したいと思ってたところだしねぇ。

 

 どんな装備か聞くだけ聞いてみるかね? それでこの金額に見合わなければ、売ればいい。

 

「装備って、どんなのが作れるんだい?」

 

「そうね、E.G.O.っていう、貴方が作業した幻想体から抽出されるものなんだけど、まずそれが武器か防具で作ることができるみたい。貴方の持ってきた量だと、どっちか片方をギリギリ作れる量って感じね」

 

「へぇ、面白いね。武器はどんなもんが作れるんだい?」

 

「中には何が作れるかわからないものもあるみたいだけど、貴方が作業した『O-01-12』…… 通称『老婆』だけれど、武器はピストルが作れるみたい」

 

「ピストルっていうと…… 銃のことかい!? そりゃあ無理だよ、アタシじゃ銃弾なんて買えっこないよ!!」

 

 この都市じゃ銃弾に意味が分からないほどの重税が課せられているんだ、中には銃本体よりもマガジン一つの方が高いなんて話も聞いたことがある。

 

 しかも脱税しようものならどうなるか…… そんなの、いくら強くたって宝の持ち腐れじゃないかい。

 

「そうよね、そういう反応になるわよね…… でも、このE.G.O.に関しては、銃弾については気にしなくてもいいみたいよ?」

 

「えっ? そりゃあどうして……」

 

「なんでも、弾が自動で生成されるみたいなの。だから弾代も弾切れも心配ないそうよ」

 

 私も現役時代に使いたかったなぁ…… なんて呑気に言っている女の言葉を聞いて、驚いた。

 

 銃は非常に優秀な武器だが、代わりに高価である。特にあたしたちみたいな底辺フィクサーにとっては脅威そのものさ。

 

 もちろん上位の化け物になると目で見てよけたり、中にはそもそも銃弾自体が効かないような怪物までいるみたいだけど…… そんな上を見上げても意味がない。

 

 重要なのは、この話が本当ならあたしはより高みを目指せるってことさ。

 

「あっ、でも注意事項として、このE.G.O.だと相手の肉体にダメージを与えられないんだって」

 

「はぁ!? それじゃあ何のためにあるのさ!?」

 

「代わりに、相手の精神を蝕む銃弾を放つ、と……」

 

「精神を……?」

 

 肉体の代わりに精神にダメージを与える武器?

 

 それってつまり、機械みたいな無機物には効果がないけど、人間相手にはかなりの効果を発揮できるってことかい?

 

 確かどっかでは精神汚染を防ぐ特異点があるって聞いたことがあるけど、それはかなり高価なものだったはず。

 

 つまり、人間相手にはほとんど防ぎようのない攻撃ができる銃ってことか……

 

「なら、その銃を作ってもらえるかい?」

 

「あら、防具の方は聞かなくてもいいの? 防具があると今後の『動物園』での作業も楽になると思うのだけど……」

 

「今後かぁ……」

 

 できることなら、もう挑戦したくない。

 

 あのままだとアタシは狂い死にしてただろうしね。

 

 でも、これほどおいしい稼ぎ場を放っておくのも、それはそれで美味しくない。

 

 可能なら何度でも挑戦したいところだし、その場合は防具を優先してもいいかもしれないけど……

 

「……いや、せっかくだし武器にしてみるよ」

 

 けど、せっかくならもう少しフィクサーとして頑張りたいところだね。

 

 せっかく上を目指すチャンスが転がり込んできたんだ、命の天秤に関しても、そっちの方がまだよさそうだしね。

 

「……そう、わかったわ。じゃあもう少しだけ待って頂戴ね」

 

 そういうと女は奥に引っ込んでいった。

 

 彼女が戻ってくるまでは、この辛気臭いピアノのメロディーにでも耳を傾けておこうかね。

 

 

 

 

 

【マーサ Is Alived:O-01-12のお話を聞いた(愛着作業をする)】

 

 




O-01-12『老婆』

危険度クラス:TETH

 それは古今東西、現在、過去、未来、ありとあらゆる物語を紡ぐ語り手。

 老婆の姿をしたそれは、無害、有害に関わらずありとあらゆる物語を聞かせてくる。

 もし運悪く有害な物語を聞かされそうになったら、話し始める前にその場から離れることを推奨する。

 生半可な心では、その物語の魅力から逃れられないのだから……
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