「……えっ、新しいエリアの開放ですか?」
「あぁ、どうやら園長はその気のようだ」
この『動物園』の仕事にも段々慣れてきた頃、アントニオさんからそんな話が飛び込んできた。
どういうことかと首をかしげていると、アントニオさんは困ったようにため息をついた。
「私もよくわからないが、どうやらこの『動物園』はどんどんと拡張していかなければならないようだ」
「なるほど…… なるほど?」
「まぁ、話を聞きたかったら直接本人に聞けばいい」
そういってアントニオさんは背を向けたので、私もアントニオさんから借りているベッドから起き上がって彼の背中についていく。
私は予想外の来客だったため、今だ部屋がないのでアントニオさんの部屋に泊めてもらっています。新しいエリアを創るくらいなら私の部屋を先に作ってくれても良いのに……
「それにしても新しいエリアってことは、新しい幻想体が来るってことですかね?」
「あぁ、お出迎えエリアでは出せなかった幻想体もいるとのことだ」
「なるほど……」
そこまで聞いて、ふと今まで出会った幻想体のことを考えてみる。
そういえば今まで出会った幻想体は、そこまで強い相手ではなかった。
「お出迎えエリアにいた幻想体って、たしか……」
「あぁ、『吊るされた一般人』『老婆』『美女と野獣』『教育用ダルマロボ』『お前、ハゲだよ…』そして……」
「マシロちゃん…… ううん、『真っ白な少女』……」
これまで私は『お前、ハゲだよ…』以外のお出迎えエリアすべての幻想体に作業を行っている。だけど、あれ以降『真っ白な少女』に対する作業は行っていない。何故かはわからないけど、あれ以上あの幻想体とかかわるのは危ないと感じたのだ。
「一応一体以外は比較的安全な幻想体ですよね、それじゃあ次はもう少し危険な幻想体が来るんですかね?」
「そうだな、おそらくはそうなるだろうな……」
アントニオさんの後ろをついていきながら廊下を歩いていく。
しばらくすれば、エントランスへの扉が見えてきた。
「園長、サクラを連れてきたぞ」
「やぁやぁ、ありがとうございます」
エントランスに入ると、すでに園長とクロさんが揃っていた。
顔が見えないのに嬉しそう。それほどエリアの拡張が嬉しいのかな?
「お待ちしておりましたサクラさん、立ち話も何なのでそこにかけてください、今お茶を入れるので」
そういうとどこからともなくカップとポットを取り出して紅茶を入れ出した園長さん。言われるがままにソファーに座ると、園長さんがカップを目の前のテーブルにおいてくれた。
「あっ、ありがとうございます」
「いえいえ、他の方もどうぞ。今いれますので」
そういいながら二人分のお茶を入れてテーブルに置く園長さん、クロさんとアントニオさんが椅子に座ると園長さんが口? を開いた。
「それではお茶でも飲みながら聞いてください」
「はい」
園長さんの話に耳を傾けながらお茶を飲む。
あっ、美味しい。
「今回皆様のおかげで、来場者も増えたことでこの『動物園』を拡張させることができました!」
「そのため、新しいエリアである『森林エリア』を開放したいと思います!」
「おー」
とりあえず拍手をしてみる。他の二人はノリが悪かったけど。
私だけの寂しい拍手を受けながら園長さんは嬉しそうに頭を下げています。
すると、クロさんが手を上げて発言の許可を求めました。
「ア…… クロさん、どうしたんですか?」
「貴方の目的についてはある程度知っているつもりですが、なぜこんなに早く拡張を?」
「なるほど、確かにそこは気になるところだな」
えっ、二人ともこの人の目的を知ってるの? 知らないの私だけ……?
そんなことを考えていると、園長さんがハッとしたように私の方を向いた。
「そういえばサクラさんは私の目的について知りませんでしたね」
「私の目的は、人間と幻想体の共存。人間にとっても幻想体にとっても有益な、ウィンウィンの関係を築くことのできる場所を作ることです」
「なるほど、その目的のために作ったのがこの『動物園』なんですね?」
「その通り」
人々は貧困から逃れる術を得られて、幻想体はお世話をしてもらえる。なるほど、共存出来るとも言えなくともないかも……
それにしては、命をベッドする人間側の負担が大きいような……
「それで、なぜ早く拡張するかと言うと、簡単にいうと私の身体が持たないからですね」
「……えっ?」
園長さんの身体が持たないって、いったいどういうこと?
「この『動物園』の幻想体たちは、外部から連れてきていることもありますが、基本的には私の中で順番待ちをしているんですよ」
「だから早く『動物園』に開放してあげなくては、私の中で暴れまわられた瞬間体が爆散して都市に不死身の怪物が解き放たれてしまうというわけです」
おぉ、予想以上の大惨事。と言うかそんなにギリギリなんですかここ? ちょっと心配になってきた……
「とはいえ、このまま順調に拡張を続けていけば大丈夫ですので、心配には及びませんよ」
そういって園長さんは紅茶を一口。……その頭でどうやって飲んでるんですか?
そんなことを考えていると、園長さんが再びこちらに向き直る。
「さて、それではさっそくサクラさんには『森林エリア』の調査をお願いします」
「は、はい……!」
そうか、新しいエリアが解放されたのならば、次は私が頑張る番だ。
現状私がする仕事と言えば、幻想体への作業と来場者への説明くらい。新エリアが解放されたのならばそれがどんなところか説明する義務が私にはある。
そして説明するのであれば、私がちゃんとその場所を体験しておかないといけない。
「大丈夫ですよ、ちゃんと付き添いとしてアントニオさんにもついていってもらいますから」
「そうだな、さすがに一人で未知のエリアを探索させるには危なっかしい」
「あ、ありがとうございます……」
そうですよね、さすがに『お出迎えエリア』での作業は慣れてきましたが、新しいエリアを一人でと言うのは、まだ怖いです……
「とりあえず、新エリアに行く前にお伝えしておくことがあります」
「まず初めに、『お出迎えエリア』では比較的おとなしい、脱走しない幻想体ばかりを集めていましたが、『森林エリア』ではそうもいきません」
ついにきた……!! 話には聞いていた脱走する幻想体!!
注意をしっかり聞いていないと、きっとろくでもない目に合う。気をつけないと……
「よくわかっているみたいですね。そう、『森林エリア』では脱走する幻想体が出現します」
「彼らは好き勝手エリア内を動き回り、獲物を見つけ次第襲い掛かってくるでしょう」
「……とはいえ、『戦ってくれる』分には、まだましな方ですがね」
おおう、久しぶりに恐ろしい言葉が聞こえた。
確かに、『お出迎えエリア』の時点で強制的にこちらを殺しにかかってくる能力を持つ幻想体がいるのだ。
戦えるということは、抵抗できるということ。何なら逃げることだってできるのだ。だったら生き残れる可能性がある分マシなのかもしれない……
「この『森林エリア』ではそこまで強い幻想体はいませんが、幻想体によっては、資格無き者では目の前に立つことすら許されないものもいます」
「そうでなくとも、現状のサクラさんでは抵抗すらできないでしょうし、戦闘は避けてくださいね」
えぇ…… 幻想体の中には出会っただけでアウトな存在もいるの……?
『森林エリア』にはいないみたいだけど、これからのことを考えると憂鬱だよ……
「とはいえ、装備さえ整っていたら一撃くらいは大丈夫でしょう。ちゃんとE.G.O.は作成していますか?」
「は、はい! ちゃんと“角”*1の防具を作ってます!」
「よろしい、その防具ならとりあえずは大丈夫そうですね」
そういって園長が手を叩くと、空になったカップが一瞬で目の前から消えた。
どうやらお話はここまでのようだ。
「それでは皆さん、お仕事に向かってください!」
園長さんの言葉にみんなすぐに動き出す。
私も慌てて立ち上がったところで、園長さんが再びこちらを向いた。
「あぁ、それともう一つ忠告を」
「『森林エリア』からは、『禁忌侵食領域』という隔離エリアが存在しております」
「非常に危険ですので、絶対に立ち入らないでくださいね?」
なんでそんな危険な場所を作っているんですか……!?
とりあえず銃関連は調べた結果大丈夫そうなのでそのままで行きます。
もしだめだと判明したらその時は、まぁ哀れな路地裏のフィクサーが一人消えるだけなので大丈夫です。