「良い練習台を見つけた、今から行くぞ」
あれから10年ほどの歳月が経った。
あの時師匠の刀に魅入られ弟子入りして、『ハガネ』という名をもらい、私はあの場で死んでおけばよかったと何度も思えるほどにひどい目に遭った。
路地裏の夜トラウマ克服訓練、兄弟子との組手として殺意百パーセントの地獄の追いかけっこ、一人でとある組織を壊滅させて来いと本拠地に投げ入れられる、遺跡の内部に置いていかれて帰宅デスゲーム、etc……
それらを修行どころか日常感覚で何度もやらかしてくる師匠には、何度もひどい目に遭わされている。
もちろん今回も、そのたぐいの話だ。
「あの、師匠? 今日はどうしたんですか?」
「動物園という場所があるらしい、そこには不死身の化け物がいるとのこと、修行にはもってこいだ」
そういうと師匠は路地裏の奥へと歩いていった。
「ちょっと待ってくださいよ師匠~!!」
そんな師匠の背中を追いかけて路地裏の奥へと向かっていく。
師匠のあとをついていくと、しばらくして凄惨な光景の広がる袋小路へとたどり着きました。
……いや、こんなの師匠と一緒にいたらいつもの光景でもあるんですけど。
「えっと、この地面に書かれてる趣味の悪いものは、師匠が書いたんですか?」
私が指さした先には、明らかに血で書かれたであろう赤黒い円形の模様がありました。見た感じからして、書いてからそこそこの時間がかかってそうだけど……
「そんなわけなかろう」
そういって周囲に落ちているものを顎で指す師匠。
「ひっ!?」
それにつられて示された方向に目を向けると、そこには一刀両断された人が転がっていました。師匠らしい綺麗な切り口で左右に分かれ内側と見せるそれを見て、思わず尻もちをついて座り込んでしまう。
……いえ、いつものことではあるのですが、それでもいまだになれることなんて出来ません。
「まったく、いつまでたっても慣れぬのだな。……まぁいい、そこには期待してないからな」
そういうと師匠は再び歩き始め、先ほどの円形の模様の上に立ちました。……なんというか、意地悪な笑みを浮かべながら。
「面白いものを見せてやる、よく見ておけ」
そういうや否や円形の模様が光り始め、やがて眼が開けられないほど光ったかと思うと、目の前が見えるころには師匠はどこかへ消えてしまっていました。
「……えっ?」
目の前の現象に呆然としていると、ようやく何が起こったのか理解し始める。
それと同時に、師匠がさっき意地悪な笑みを浮かべていたことの理由も気が付いた。
「し、師匠のバカ~!!」
私がこういう特異点関係とか路地裏のイカれた発明品関係のことが苦手なこと知ってて先に一人で行ったんだ!?
酷い! 師匠がこういうことするときはたいてい大丈夫だけど(必ずではない)、それでも怖いものは怖いのに!!
「うぅ~……」
結局私は数分悩んで、勇気をもって円形の模様の上に立つことにした。
……だって、あんまり遅いと師匠に怒られるもん。
「ようやく来たか、それじゃあ行くぞ」
「えっ、師匠説明も無しですか!?」
よくわからない場所、……おそらくはどこかしらの建物の中に入った私に待っていたのは、何の説明も無しに背中を向ける師匠の姿でした。
とりあえず師匠に駆け寄り周囲を見渡す。周囲は、なんというか上品で、落ち着いた感じで、なんか高級そうだった。まぁ、そんなもの見たこともないんだけどね。
周囲の人影はまばら、見ただけでもフィクサーっぽい人やネズミっぽい人、組織の一員っぽい人など、まったく統一感が無くて判断に困る。共通しているのは私よりも弱いってことくらい。
それにしてもいきなり連れてきて何も言わずに何かさせようとしてくるのやめてほしい、いつものことだけど。
「あのぉ、よろしければ私が説明しましょうか?」
そんなことを考えていると、背後から女の子の声がしてきた。思わず後ろを振り向くと、そこには可愛らしい服を着た女の子が立っていました。
身なりとか雰囲気からして巣の人かな? でもなんでこんなところに……
「えっと、貴方は……」
「あっ、すいません、私この『動物園』で働いている月宮 桜です。初めて来た人にこの場所の説明をしています」
『動物園』? それって、たぶんこの場所の名前だよね?
はっ!! 教えてくれるのであればこれはチャンスでは!? せめてどんな場所か知っておかないと心構えが全然違うもん!
「は、は「あぁ、それならワシが聞いておるから不要だ」い…… って、師匠!?」
「それに、これも修行。人から聞くより自らの肌で感じることが重要なのだ」
「ははぁ、そういうものなんですねぇ」
さっきの女の子、桜ちゃん? は師匠の口車に乗せられて感心したようにしきりに頷いていた。
ダメだよ! その人そんなこと考えてない、適当に出まかせ言ってるだけだから!!
「それでは修行、頑張ってくださいね!」
あぁぁぁ~~~~
せっかくの情報源が目の前から遠ざかっていく。
私はがっくりとうなだれながら、師匠に引き摺られて建物の奥へと連れていかれるのでした。