「ちょっと園長さん、さっきの子行かせてもよかったんですか?」
私の非難するような声に、園長さんはどことなくニコニコしたような雰囲気を出しながら答えた。
「えぇ、大丈夫…… とは言い切れませんが、それでも最低限は配慮しています」
そういう園長さんは、どこか自慢げだった。何か秘密でもあるのだろうか?
「この『動物園』は少し調整を加えていましてね、来園者がなるべく相性の良い幻想体と出会えるようにしているんですよ」
「ほぇ~、そんなこと出来るんですね?」
「まぁ、相性がいいことと安全であることはイコールではないのですけどね」
最後にぼそりと聞こえた言葉が無ければ、素直に関心出来たのに……
ほんと、なんでここの人は物騒なことしか言えないんでしょうか?
「それじゃああの子も大丈夫じゃないかもしれないじゃないですか!?」
「まぁ、まだそこまで危険な幻想体も出てきていませんし、大丈夫でしょう…… 多分」
「たぶんって言ったぁ!? やっぱり自信ないじゃん!!」
私のツッコミに楽しそうに笑う園長さん。どうしようこの人、話しているうちにどんどん胡散臭くなっていく……
「まぁまぁ、貴女はあの子を無力な子どもと思っているかもしれませんが、都市ではあれくらいの子でもそれ相応の覚悟と生きる術をもって生きています」
「えっ?」
「都市の子ども、特に路地裏の子どもは早熟です。そうでなければ生き残れませんからね」
そ、そっか…… 確かに、話を聞く限りとんでもないディストピアである都市、その中でも治安最悪の路地裏は子どもが生きるには過酷すぎるんだ。
そして、生き残るには早く大人にならなければ…… ううん、早く大人になった子だけが生き残れるんだね。
「だから、心配しても過保護になってはいけませんよ。私たちの故郷とは違うのですから」
「……はい」
理屈は分かるけど、それでもやっぱりあの歳の子どもが命をかけなきゃいけないだなんて、おかしいと思ってしまう。
本当なら、私の住んでいた日本なら大人たちに守られているような年の子だ。それをこうして見送ることしかできないのはなんだか歯痒いなぁ……
「あぁ、そういえば大切な話があるのです」
私があの子のことを考えていると、ふと思い出したかのように園長さんが話題を変えた。
「後で詳しく説明しようと思うのですが、どうやらそろそろこの『動物園』も次の段階へと移行することになりそうです」
「次の段階?」
次の段階ってどういうことだろう? もしかして、もっと大きくなるとか?
そんな疑問を素直にぶつけてみると、彼は嬉しそうに笑って答えた。
「えぇ、概ねその認識で構いません」
「そしてもう一つ……」
「どうやら、この『動物園』は『都市怪談』に昇格しそうです」