「……なるほど、つまりディストピアってことですね」
「話が早くて助かります」
どうやらこの世界はかなりろくでもない世界みたいです。
ここは『翼』という26の超巨大企業に支配された『都市』という場所で、『翼』は『特異点』という魔法みたいな超常的技術を持っているとのこと。
それがどういうものか聞いたら、『永久食料の生産』『瞬間移動技術』『異次元からのエネルギー抽出』『時間操作』など、夢のような技術ばかりらしい。確かにそれはすごい……
しかしこの都市では、随分と命が軽いらしい。
『翼』に所属できる人は先ほどから気になってた『巣』という場所で暮らしてるみたいだけど、それ以外の人は『路地裏』というところで暮らしてるみたい。
この『路地裏』というところがかなりヤバそうで、毎日のように殺人が起こっているだけでなく、やばい実験の材料にされたり『組織』に連れていかれたり、場合によっては死よりもひどい目にあうとのこと……
それならこの『都市』から逃げてしまえば良いのでは? とも思うのだけれど、どうもそういうわけにはいかないらしい。
『都市』の外は『外郭』と呼ばれ、化け物たちのはこびる人の生きていけない場所であり、一度出てしまえば『都市』の中に入るのはほぼ不可能とのこと。
正直まだ信じられないところもあるけど、その特異点の片鱗をこの目で見せられたら、信じる方に傾いてしまった。
それが彼が連れてきた怪物、『幻想体』です。
私が見たのは下半身が虫のようになっていて、上半身は牛のような獣、そして顔にはいくつもの目が付いた恐ろしい怪物でした。
ちなみに名前は『美女と野獣』といい、比較的安全な幻想体とのこと。うっそだー。
なぜそんな怪物がいるのかというと、なんでもこの『動物園』は少し前まで存在していた『L社』という翼の一つの遺産を利用しているとのこと。
その『L社』はとっても環境にやさしいクリーンなエネルギーを生産していたとのことだけど、その正体がこの『幻想体』という名の怪物たちをお世話して精製していたそうです。
もちろん怪物なので、中には積極的に人に危害を加えようとしてくる奴もいて、命がけの作業である。
しかも不死身の存在であるためこの世から消し去ることもできず、この園長さんは彼らと人々の共存を目指してこの『動物園』と建てたとか……
……う~ん、情報量が多い。
とりあえず『都市』は中も外も危険、『特異点』というすごい技術がある、この『動物園』も危険、ということらしい。
これ、私生きていけるのだろうか……?
「さて、これからあなたが取れる選択肢は三つあります」
「三つもあるのですか」
園長さんは指を三本立てて説明してくれます。ここで住まわせてもらう以外に選択肢があるのだろうか?
「一つは着の身着のまま都市の裏路地にほっぽり出される選択肢です「却下です」……そう焦らずに」
「とりあえず、最低限の知識と荷物は渡して路地裏に送る選択肢です。もちろんあなたのような平和ボケして非力な方が路地裏に行けば、夜明けには跡形もなく消え失せていることでしょうね。正直お勧めしません」
「だから却下って言ったじゃないですか……」
まぁまぁそう焦らずに、と園長さんは私をあやすように優しく答えてくれます。
なんかこの人結構甘いな。後ろでハラハラしながら見てくれてる二人には悪いけど、どこまでなら許してくれるかチキンレースしたくなる……
「次に二つ目ですが、ここで『動物園』に挑みながら『都市』の常識や生きていくための力を手に入れ、『都市』で生きていく道ですね」
「ほうほう」
ここで生きていく、そういう選択肢もあるのか。
確かに帰る方法がわからない以上、その選択肢も必要か。
「個人的には一番のおすすめです。さすがにこのまま都市に出てしまえば生きていくことはできないでしょうが、ここで都市について知るものから話を聞き、身を守るために戦う力を身に着け都市で生きていくという選択肢は、それほど悪いものではないと思います」
「特にこの『動物園』では戦うための装備や一般的ではない肉体強化を気軽に行うことができますから、良かったらご検討ください」
おぉ、無茶苦茶物騒な発言がちらほら聞こえてくる。
本当に大丈夫かと思うけど、この都市では標準的な思考なんだろうなぁ。
嫌だなぁ、部屋に引きこもって暮らしたい……
「そして最後に、私たちと一緒にこの『動物園』を運営していくという道です」
「私にはとある目的があり、その手伝いをしてくれるのであればあなたの元居た世界に帰る方法を一緒に探しても構いません」
「とはいえ、後回しになる上に、見つかるとも限りませんが……」
なるほど、最後の選択肢は園長さんの仲間になれということか。
それは別にいいけれど、とある目的ってさっき言ってた『幻想体』との共存とは違うのかな……?
「もちろん、この選択肢でも働かないという選択肢はありません」
「幻想体について知り、これから来るであろう荒れくれ者たちの相手をしなければならないし、戦う力を身につける必要もあります」
「また、時には幻想体たちと深くかかわる必要が出てくるかもしれません」
「そして何より、帰る方法が見つからなかった時の絶望は、計り知れないものになるでしょう」
確かにその可能性はある。
正直、いきなりこんなところに放り込まれて、それで人生のターニングポイントにいきなり立たされて、頭が回らないところが多い。
「……まぁ、いきなりこんなことを言われても困るでしょう。とりあえず一週間ほど期間を見て返事をもらいましょうか」
「せっかくなら施設の中を見学してからでも……」
「園長さん」
でも、もしここが本当に異世界なのだとしたら、元の世界に待ってくれている家族がいるのだとしたら。
「大丈夫です、もう決めました」
それなら、答えは一つに決まっている。
「私は……」