「はぁ………また来ちゃったなぁ……………」
『ワタシ』はそう独り言ちる。
なぜなら、ここがブラックマーケットと呼ばれる場所であるからだ。
────ブラックマーケットとは、どの学園にも属さず、連邦生徒会すらも干渉することを渋る、いわば社会の吹き溜まりだ。
とはいえ、独自の警察機構や闇銀行を持つなど、吹き溜まりと言うには少々大きすぎるが────
話を戻そう。ならばなぜ、生徒会からの除名が決定され、権限を剥奪され、私物の殆どを焼却し、奉仕活動の強制を受けている「私」がこんな場所にいるのか。
理由は単純、闘争を忘れられないからである。
あの争いの絶えない、殺伐とした世界。
あそこに迷い込んだ時は何も分からず、「早く帰りたい、もう二度と来たくない!」などと思って泣いていたのだが、今では『また行きたい、殺り合いたい!闘争が恋しい!』と四六時中、向こうの事を考えながら過ごしていた。
そんな退屈な日々の中、ブラックマーケットのことを思い出した。
『あそこは治安が悪く、後暗いことが多く行われている』
ならば選択肢は一つしかなかった。
そうして『ワタシ』は素性を隠しながら、レイヴンを名乗り、傭兵として活動するようになった。
─────向こうにいた身としては、レイヴンと名乗るのはどうにも違和感しか無かったが、他にいい名前を思いつかなかったんだし仕方ない─────
だがやはり、あの世界には及ばなかった。
ヘルメット団に雇われた。相手は皆ワタシを見るだけで動けなくなった。
マフィアに雇われた。対立組織はみな殲滅した。
マーケットガードとも戦闘した。呆気なく壊滅した。
………正直に言って、訓練にもならなかった。
一方的な蹂躙ばかり、戦闘から単純作業と化したそれでは、『ワタシ』の渇きを満たすことはできなかった。
そうしているうちに、破壊天使だとか大仰な通り名が付いたりもしたが、私はそう大したものでもない。
ただ、1人の狂った少女なのだから。
また話が逸れた。
まあ、ここに来たからと言って今は特に何かやるということも無いので、適当に歩いていた。
そんな時、聞き覚えのある話し声が聞こえてきた。
少し気になって相手が誰か探れば直ぐにわかった。
便利屋68───ゲヘナの陸八魔アルという生徒が立ち上げた企業らしい───だった。
今ではもう、ゲヘナだからと嫌うようなことも無くなったので、少し世間話でもして暇を潰そう。
そう思っていた。
が、聞き耳を立ててみれば、やれアウトローだのワルになるだのと、少々聞き捨てならないことが聞こえたので、少し忠告することにした。
レイヴン(ミカ)「ねえ、ちょっといいかな」
アル「? 何かしら?」
レイヴン「少し話を聞いていたんだけどさ、キヴォトス一のアウトローになる、とか言ってたよね」
アル「そ、そうだけどなn レイヴン「やめておいた方がいいよ」ッ………!?」
ハルカ「ア、アル様に何をする気ですか!?」
カヨコ「待ってハルカ!…ねえ、もしかしなくてもあなた、レイヴンだよね」
レイヴン「そうだよ、隠すつもりは無いしね。
最も、そちらの社長さんは気付かなかったみたいだけど」「ッ…!」
ムツキ「それで、アルちゃんになんの用?言っておくけど、私たちは誰が相手でも負けるつもりは無いよ」
レイヴン「あー、戦うつもりじゃないからそこは安心して欲しいんだけどさ。
さっきも言った通り、アウトローに憧れるのはやめた方がいいよ、ロクなものじゃないからね」
アル「で、でも」
レイヴン「でももだってもないよ。あなた達は知らないだろうけど…ううん、絶対に知らない。
でもね、私は見てきたから分かるの。
本当のアウトローって言うのはね、手段を選ばない外道なんだよ」
一同(あまりの雰囲気に息を呑む)
レイヴン「偽りの依頼で誘い出すなんて当たり前、そこら辺に死体が転がってることもそう珍しくはなかったし、借金のし過ぎで実験体に連れて行かれたまま帰ってこない、よしんば帰ってきたとしても強化人間…サイボーグみたいなものだね、になって人格まで影響が出てたり……全部あげたらキリがないくらいにはクソみたいな場所だった。」
レイヴン「まぁ、信じるかどうかは別だけど、聞いておいて損は無いと思うよ」
(衝撃的な話で気絶したアル、青ざめた顔で震えているハルカ、その光景を想像してしまい吐きそうになるムツキ)
カヨコ「………ひとつ、聞いていい?」
レイヴン「何かな?」
カヨコ「…どうして、そんな場所にいたのに、平気でいられるの?」
レイヴン「少なくとも私は平気じゃなかったよ?
今のワタシなら別に何も思わないけど、最初の頃は気が狂いそう…というか殆ど狂いかけてたね」
カヨコ「なら、なんで…」
レイヴン「うーん、それに関しては知らない方がいいかなぁ
世の中知り過ぎるとロクな目に遭わないからね、覚えておくといいよ」
カヨコ「ッ………分かった」
レイヴン「それなら良かった、じゃあワタシはこれで失礼するよ」
そう言って、ワタシは歩き出す。
特に目的がある訳では無かったが、彼女らと話して満足したみたいだ。
さて、そろそろ時間だし、トリニティに戻ろっか。