「ついに……! あの授業が終わった!」
やっとムーディ教授の地獄の授業から開放され、俺とバーティ、カパルディ、そして無口な少年は昼食のために大広間に向かっていた。
「まぁ次の授業のために呪文の練習は続けないといけないんだけどね」
「バーティ、真実は時に人を傷つけるのさ」
優等生のクラウチくんは気にしないだろうが、大半の人は授業外の時間に勉強することが大っ嫌いなんだよ!
もう俺は昼飯のことしか考えないようにしよう。全身金縛り呪文なんて数日で覚えられるものじゃない。諦めも肝心だ。
「次の授業は変身術だっけ?」
「セルウィン、今度は触手なんて作るんじゃねぇぞ」
「俺から人生の唯一の楽しみを奪う気か!?」
「もっと他に生きる理由あるだろ!」
* * * * * * *
「スリザリンから五点減点!」
* * * * * * *
変身術の授業が終わり、四時間目の魔法薬学の時間。原作ではグリフィンドールとスリザリンが合同だったが、俺達の学年はレイブンクローと合同だ。学年ごとに合同になる寮が変わるのだろうか、それとも戦時中で特に緊張関係にある二寮を危険な薬品を扱う授業で一緒にしてはいけないと判断されたのだろうか。
魔法薬学の担当教授はスリザリンの寮監でもあるスラグホーン教授だ。彼はスリザリン出身だが、決して出身寮や血筋で人を差別することはない。彼はその人が優秀かどうかで人を差別する。差別というほどひどいものではないが、生徒に対する関心の差は明らかだ。スラグ・クラブというサロンを立ち上げ、将来大成しそうな生徒と交流を持つのが彼の趣味だ。バーティは親が有力な政治家であり、本人も優秀なためスラグ・クラブに招かれている。
「今日はいつも通り二人一組で調合をする。では君たち、隣りに座っている人と組んで! 今日調合するのは一般解毒薬だ」
俺はカパルディと、バーティは無口な少年と組んだ。余談だがスリザリン寮では座る席について暗黙の了解がある。加点されやすい優等生は目立つ前の方の席に座り、俺みたいに手先が器用ではない奴らは後ろの方に座る。そして寮全体で特に目立って不出来な奴がいないように見せるため下手な奴の隣にはそこそこできるやつが座ることになっている。
カパルディは調合の作業がうまいので、理論だけに強い俺と組んで最終的な出来を少しでも良くしようとしている。スリザリン寮では連帯感が強いぶん減点が多いと寮内の居心地が悪い。
「なぁ、魔法薬を使って触手を生やす方法ってあると思――」
「それ以上考えるな」
思考することすら禁じられてしまった。バーティと違ってカパルディは容赦がない。
そういえばレイブンクローと合同なのだから、ガブリエラもいるんじゃないだろうか。しばらく探すと、青色の混ざったローブを着た集団の中で茶髪でポニーテールの生徒を見つけた。間違いなくガブリエラだ。実に手際よく調合を行っている。
「おや、セルウィン君。よそ見かい?」
「すいません、魔法薬で触手を生やす方法を考えてました」
集中が切れていてスラグホーン教授に見つかってしまった。自業自得とはいえ減点だけは勘弁してほしい。変身術と二教科連続で減点は流石に寮内の反感を買う。
「触手か。まあそういう薬がないわけではないね。うまく調合できたら教えてあげよう」
「ぃよっしゃあカパルディやるぞ!!」
「もっと別の理由でやる気出せよ!」
魔法薬学の専門家スラグホーン教授から直々に触手の作り方が聞けるんだ、これ以上やる気が出ることはないだろう。呆れるカパルディをよそ目に、スネイプ先輩から教わったコツを思い出しながら素材を切っていく。精密に、素早く。
まぁいくらやる気を出して調合してもバーティのほうがよっぽど早く進んでいるのだが。
「……これでどうだ?」
「セルウィンにしてはいい出来じゃないか?」
珍しくカパルディから肯定的なコメントを貰った。もしかしたら初めて?
「それにしてもカパルディは調合上手いな」
「家ではよく料理とかしてたからな。切ったりすり潰したり煮たりかき混ぜたり、大体の作業は料理と同じだろ?」
「確かにそうだな」
クソ、前世で乾麺に頼りすぎたツケがここで回ってきたか。昔から料理は得意ではない。料理酒と酢を間違えてブリの照焼を超酸性にしてしまってからは料理からは極力離れるようにしていた。やっぱ欠点は練習しないと治らないよなぁ。
「おお、前回よりずいぶんうまく出来てるじゃないか」
教室の中を巡回していた教授から見ても悪くない出来らしい。
「それじゃあ約束通り教えてあげよう。この薬とこの薬を混ぜると副作用として――」
その後、スラグホーン教授からは大変参考になる話を聞いた。理論は大体わかったが、それを実現させるために必要になる魔法薬の製作の難易度が高いので、もっと調合がうまくなってから実践するとしよう。
そういえば、調合中に誰かに見られている感覚がしたのだが、あれは気のせいだったのだろうか?