闇の魔法使いの卵   作:黒歴史量産機

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16 湖畔での尋問

「死ぬと思った!」

「そ」

 

 俺の魂からの叫びに、ガブリエラはそっけなく返事をする。

 

「あれから三時間ノンストップで呪文の練習したんだぜ? 更に次回までにあと呪文を三個覚えろときた。決闘クラブなんて行くんじゃなかった〜!」

「じゃあ辞めればいいじゃん」

「でも途中で辞めるとかなんかカッコ悪いというか――」

「あっそ、好きにしたら?」

 

 ガブリエラはどうやら決闘クラブの話には興味がないらしく、一人で黙々とターディスの設計図をいじっている。ターディスづくりは少しずつだが進展してきている。

 

「はい、飛行装置の設計はこれで終わり」

「一ヶ月頑張った!」

「でもまだ拡大呪文の計算と制御装置とかの設計はまだだし、何より自由自在に瞬間移動する仕組みはさっぱりわからない。前途多難だね」

 

 頑張って飛行装置の設計図は書き終わったのだが、それ以外はまだ思いつかない。

 タイムマシンとしての機能はこの際諦めるとして、それでもどうやって瞬間移動するかは全くわからない。決められた二点間を移動するならポートキーか煙突飛行の理論を使えばいいのだが、姿現しのように行き先を自由に決めて瞬間移動させる魔法を物体にかけるのは難しい。理論すらわかっていない。

 

「実際に完成したら論文が書けそう――」

「もちろん書くさ」

 

 ガブリエラはそう言って立ち上がった。

 

「じゃ、私はこれで帰るよ。また来週」

「おう、また来週」

 

 重い扉が閉まり、部屋に残されたのは俺だけとなった。

 変身術で今まで使っていた作業台をソファーに変えて、身体を投げ出す。

 

「結局、お前は誰なんだ……」

 

 ガブリエラと接触する機会は毎週水曜日のこの時間と、レイブンクローとの合同の教科の授業だけ。授業を受けている間は常に他の生徒の目がある。死喰い人の子どもが多く在籍するスリザリン寮の生徒が他寮の生徒に話しかけたら怪しまれるだろう。授業の合間や放課後は、基本どこにいるのかわからない。なので話をすることができるのはターディスをつくっている間だけだ。

 

 本来ならその時間で魔法省との関係や必要の部屋を訪れた理由などを聞き出したかったのだが、ガブリエラはターディス以外の物に興味がないらしく、そういった話にはうまく乗ってくれなかった。下の名前すらまだわかっていない。

 

「やっぱり死喰い人の息子って肩書、厄介だな〜」

 

 死喰い人の関係者であるから、警戒される。死喰い人の関係者であるから、あらぬ疑いをかけられる。そのせいで、俺は周りの人物の動向に注意しなければならない。少しでも俺から何か聞き出そうとしていないか、俺が危害を加えると誤解して先に襲ってくることはないか。

 

 俺の両親が殺した人たちの、親族はいないか。

 

「…こんなの、子どもに背負わせていいものじゃねぇだろ」

 

 ウィザーディング・ワールドは、楽園じゃない。

 いくら夢と希望、そして多くの人々の羨望と注目を浴びているとはいえ、この世界に誤魔化しようのない闇があることは確かだ。

 

 俺はまだいい方だ。まだ、まだ両親が直接死に追いやった者の親族は校内にいない。だが、親である死喰い人が殺した人物の子どもが同じ学年にいることだってあるはずだ。そいつらは、その子どもたちからの報復を恐れて毎日生きている。自分が起こしたわけでもない殺人で、自分もいつ殺されるかわからず怯えて暮らしている。だからやられる前に、やるしかないと考えてしまう。それ以外の選択肢がなくなってしまう。そしてその選択をしないといけないのは、子どもだ。

 

 殺されたくないから、外敵が怖いから、俺達はかたまって集団を作る。自分が安心して過ごせる集団を作る。そして、自分を攻撃してくるかもしれない集団が怖いから、先に相手を潰そうとする。親同士の戦争は、無慈悲に子どもにも受け継がれる。違う場所で、違う形で、戦争は続いているのだ。

 俺だってガブリエラのプライベートをあれこれ詮索したいわけじゃない。だけど、誰が俺に恨みを抱いているのかわからないんだ。もしかしたらガブリエラは俺の両親の被害者の関係者で、俺から両親の情報を聞き出して闇祓いに密告したいのかもしれない。その疑いが晴れない限り、俺はガブリエラを信用することはできない。

 

「面倒だな」

 

 

* * * * * * *

 

 

 今日は飛行装置の設計が完了したところで終わったから、夕食までしばらく時間がある。図書館で触手生物に関する本でも借りてこようかな。それとも湖でダイオウイカの観察をしようか。そうだな、ダイオウイカの観察をしよう。

 

 ホグワーツの敷地内にある大きな湖には、何故かダイオウイカが住んでいる。どんな魔法を使ってダイオウイカを淡水に適応させたのかは知らないが、とりあえずそこに住んでいるのだ。しかも結構人懐っこくて、パンの耳をやると喜んで食べる。自由に触らせてくれるから、触手の研究が非常にしやすい。一つ問題点があるとするのならば、ホグワーツの存在するスコットランドは非常に涼しい国で、10月にもなると水辺は寒くて仕方がないということだ。

 

「ダイオウイカ〜、おいで〜。パンの耳持ってきたよ〜。今日はちょっと豪華で、フレンチトーストの耳だよ〜」

 

 湖面から一本の触手が伸びてきて、俺の手からパンの耳を奪っていく。やっぱりダイオウイカの吸盤はでかいな。これだけの数の吸盤を、自由自在に操るんだから、やっぱりダイオウイカは素晴らしい。ファンタスティックだ。

 

「楽しそうだな」

 

 二本目の耳を取り出したところで、後ろから声がしたので振り返ってみると、ムーディ教授が立っていた。

 

「セルウィン、お前はこんなところで遊んでいるよりも決闘クラブの課題をこなしたほうがいいのではないかね?」

 

 教授は非常に威圧的な表情でこちらを覗き込んでいる。教授の言うことは最もなのだが、俺にも心の癒やしが必要なのだ。アニマルセラピーしたっていいじゃないか。ダイオウイカでアニマルセラピーって聞いたことないけど。

 

「……最近色々あって疲れたので、癒やしが欲しくて」

「本当にそうかね? ダイオウイカを操って暴動でも起こそうとしているのではないだろうな」

 

 なんちゅう言いがかりをつけるんだこの爺さん。俺のことバカにしてるのか? 流石にそんなこと企てるはずがないだろう。っていうか暴動を起こすならダイオウイカよりも禁じられた森のアクロマンチュラと交渉しに行くね。

 

「そんなおかしいことするわけないじゃないですか」

「儂としては、癒やしがほしいという理由でダイオウイカに近づくという説明のほうがおかしいと思うのだがね」

 

 ……それは、正論かもしれない。

 

「本当は死喰い人の親から何か指令を受けているんだろう? 言い訳せずさっさと吐いたらどうだ! ここに来た本当の目的はなんだ!」

「だから、ただ癒やしが欲しかっただけですって」

 

 ムーディ教授の糾弾は止まらない。次から次へとわけのわからない理由で俺を責め立てる。ついに俺は我慢できなくなって言い返してしまった。

 

「じゃあ! 逆に聞きますけどムーディ教授はなんでここに来たんですか!?」

 

 教授は俺の言葉を聞くと一瞬黙り込み、すぐにさっきよりも怒った声で叫び返した。

 

「人の私生活を詮索するな!! スリザリンから10点減点!!」

 

 ムーディ教授は憤慨して校舎に戻っていった。

 自分が最初に俺のことを疑って色々と訊いてきたのに、理不尽な人だ。

 

 だが、一つわかった。あの先生は何かを隠している。

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