闇の魔法使いの卵   作:黒歴史量産機

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章タイトルを変更しました。


17 迷子

「迷った!」

 

 土曜日、課題も終わって暇なので校内の探索をしようと歩き回っていたら帰れなくなった。ホグワーツ城はあまりにも大きく、入学から一ヶ月あまり経っているにも関わらず未だその全貌を理解することはできていない。

 そもそもここは何階なんだろうか。一応窓はあるので外を覗いてみる。

 

「うーん、飛び降りたら死ぬくらいの階」

 

 窓から脱出する作戦は諦めるしかないようだ。流石にこの高さから飛び降りたら死ぬ。魔法使いの耐久力でもこれは死ぬ。

 となると俺が寮に帰るにはひたすらあてもなくさまよい続けるか壁に左手を沿わせて進み続けるしかない。来た道なんて覚えてない。ホグワーツはどこの廊下も部屋も同じような見た目で、俺には見分けがつかない。

 こういうときに忍びの地図があったら便利だったんだろうな。っていうか教師陣も生徒に地図くらい持たせろよ。魔法界の印刷技術は特にマグルより劣っているわけではない。生徒全員分の地図を発行することだって容易くできるはずだ。原作1巻でハリー一人のために何百枚と手紙を出していたのに他の生徒には地図の一枚も渡さないとか、ほんと頭おかしいだろ。

 魔法界に存在する位置情報を調べる魔法は東西南北を調べるものしかなく、そもそもホグワーツ内の方角や今いる地点と寮との位置関係すらわからない今じゃ、北がどっちかわかったところでなんの役にも立ちやしない。

 仕方ないので魔法に頼らず勘だけで帰ることにしよう。

 

 暫く歩くと螺旋階段が見えた。上に行くべきか、下に行くべきか。よし、ここは運に任せよう。表向きで上、裏向きで下だ。

 

「運命の靴よ、運命を示したまえ!」

 

 靴を放り投げると、表向きで着地した。よし、上に行こう。

 

 塔の中には、鉄格子のついた小部屋が沢山並んでいた。鍵はかかっていなかったが、扉も鉄でできていて頑丈そうだった。

 

「これは……牢屋か?」

 

 なんで学校の中に牢屋があるんだって話だが、校舎を建てた創始者たちは千年前の人物。話を聞こうにもとっくの昔に死んでる。

 螺旋階段の先に、光が見えた。どうやら屋上に繋がっているらしい。

 

 屋上には、独房が一つあるだけだった。見覚えがある。

 もしかしてここ、アズカバンの囚人でシリウス・ブラックが簡易的に捕まってたところじゃないか? ハリーとハーマイオニーがタイムスリップしてヒッポグリフに乗ってこの塔に収監されていたブラックを助け出すシーンがあったはずだ。

 

 とりあえず屋上には特に何もなかったので帰ることにしよう。

 振り返って螺旋階段の方に目を向けると――

 

「……ガブリエラ?」

「よ、よぉ」

 

 ガブリエラはぎこちなく片手を上げて挨拶した。

 

「なんでお前がここにいるんだよ」

「いや、あんたが変な所うろついてたから、気になってちょっとついてっただけ」

 

 確かに俺は今、変な所をうろついている。たぶん校内で一番変な所をうろついている。端から見れば怪しさ全開だろう。

 

「俺はただ迷ってただけだよ。でもお前がいてよかった。これでやっと帰れる」

「え? どういう意味だ?」

 

 ガブリエラは目をパチクリとさせて真顔で聞き返してきた。……まさか、

 

「お前、帰り方わかるよな?」

「え……っと」

 

 なるほど。そうかそうか、そういうことなんだな。わかったぞ。

 つまり、迷子が一人から二人に増えただけなんだな。

 

 

* * * * * * *

 

 

「日が暮れてきたな」

「そうだな」

 

 あれから校内を彷徨って数時間。いつの間にか俺達はもといた塔に戻ってきていた。アレだけ長い間歩き続けたのに誰にも会わないとか、このエリアどんだけ人いないんだよ。

 そろそろみんなは夕食を楽しんでいる頃だろう。俺も腹が減ってきた。

 

「よっと」

「……なにそれ」

「パンの耳」

「何本あるのそれ。パッと見五十本はありそうだけど。っていうかなんで持ってるの」

 

 今日は校内探索が終わったら湖のダイオウイカに餌をやりに行こうと思ってパンの耳をポケットに入れていた。今日は残念ながらフレンチトーストではなくノーマル食パンの耳だ。

 

「その量の耳、どうやって持ち歩いたのさ」

「ローブにちょっと法律的にグレーな拡張呪文かけてんの。内側が外側より大きいのさ(It's bigger on the inside)

 

 俺のローブのポケットはかなり拡張したので、パンの耳の袋をあと三個は運べる。さらに魔法の効果で重さはあまり感じない。拡張呪文はマスターすればかなり便利だ。法律の規制が厳しくて、見つかったら割と危ないけど。

 

「いる?」

「遠慮しとく」

 

 ガブリエラはパンの耳を要らないらしいので、一人で遠慮なく食べるとしよう。やっぱり耳単体だと味気ないな。今度からはこうしたときのために調味料も持ち歩くべきだろうか。っていうかパンの耳に合う調味料ってなんだ。

 ちらりとガブリエラの方を見ると、その目は俺の手元――耳の入った袋を見ていた。なんだ、やっぱり腹が減ってたんじゃないか。

 

「ほれ、毒は盛ってないぞ」

「……ありがと」

 

 ガブリエラは袋から耳を一本取り出して口に入れた。

 

「セルウィンって、やっぱ変だよね」

「変? 変ってなんだよ」

 

 確かに触手の研究したり、架空のタイムマシン作ろうとしたり、ダイオウイカと戯れたり、パンの耳を持ち歩いてるけど、変っていうほどか?

 ……いや、パンの耳を持ち歩くのは流石に変かもしれない。

 

「いや、純血主義者って、もっと他人に冷たい奴等かと思ってたから」

「いやいや俺は純血主義者じゃねぇぞ」

 

 俺はガブリエラに自分が純血一族の出身であることは話したが、自分が純血主義者だとは一切言ってない。その勘違いをするのはわかるが、俺が差別主義者ではないことはちゃんとわかってもらわなければ。

 

「え? セルウィン家って、言い方悪いけど闇の一族だろ?」

「ほんとに言い方悪いな。間違ってはないけど、俺は別に純血主義を受け継いでるわけじゃねぇよ」

 

 両親にはそのことは隠しているが、俺はどうしても純血主義者にはなれない。なりたくもない。人を差別するやつは、最終的に自分が差別の対象になってくたばるのがオチだ。

 だが、家が闇の一族であることは事実だ。俺だって闇の魔術を教わったし、両親は死喰い人だ。

 

「……単刀直入に訊いていいか?」

 

 しばらくして、ガブリエラは深刻そうな顔をして話しかけてきた。

 そして、またしばらく考え込んで、口を開こうとしたその時――

 

「なんじゃ、ここにおったのか」

 

 背後から、声がした。振り返ってみると、そこに一人の老人が立っていた。

 

 

「……ダンブルドア教授?」

 

 

 そこに、アルバス・ダンブルドアが立っていた。

 今世紀最高の魔法使いとも呼ばれる、ホグワーツ魔法魔術学校の校長。そして、闇の帝王と敵対する不死鳥の騎士団のリーダーだ。死喰い人の息子である俺にとって、彼はある程度警戒しないといけない人物だ。

 

「何故、ここにいるのですか?」

「夕食にお主ら二人がおらぬようじゃったから、探しておったのじゃよ。ほれ、まだ時間はある。大広間に戻って儂らとともに夕食を食べよう」

 

 そう言ってダンブルドアは俺とガブリエラに背を向けて歩き始めた。ガブリエラは一瞬俺の方を見ると、すぐにダンブルドアに視線を戻して後を追った。

 

 ……少し疑問に思うことがある。

 生徒が二人夕食に遅れたからといって、校長が自ら探しに行くだろうか? 普通は寮監か、管理人のフィルチが探すんじゃないのか? やっぱり今年は何かがおかしい。俺の知らないところで、なにかが起こっている。

 

 大広間では、まだ生徒たちが夕食を食べていた。

 席に戻って教員席を見てみると、たった今座ろうとしているダンブルドアの近くに、空席があった。

 

 それは、ムーディ教授の席だった。

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