イギリス人にフットボール――サッカーがあるように、魔法族にはクィディッチがある。
クィディッチは箒を使用したスポーツで、ホグワーツ内外で熱狂的な人気を誇る。ホグワーツ魔法魔術学校のクィディッチチームはそれぞれの寮ごとに別れていて、校内での試合の結果が寮杯に大きく左右する。そのためクィディッチに興味のない生徒も、寮杯の結果がかかっているのでクィディッチに本気になる。
第一戦は因縁の対決、グリフィンドール対スリザリンだ。そのため全ての寮の生徒がこの試合を見に来る。他寮の生徒は皆スリザリンが打ち負かされるところが見たいのだ。
「セルウィン、セルウィン、もうすぐ始まるぞ!」
「わかってる、わかってるって」
スポーツは人を狂わせるらしく、普段は冷静なバーティも今日ばかりは大はしゃぎしている。元々俺とカパルディは試合を見に来る予定はなかったんだが、バーティに無理矢理連れ出されて観戦席に座っている。無口な少年は声をかけられる前に何処かに消えていた。
「そもそも、クィディッチってどんなスポーツなんだ?」
「え、知らないの?」
カパルディはどうやらクィディッチのルールを知らないようだ。俺も実際に試合を見たことがあるわけじゃないが、ルールだけは知っている。なぜならセルウィン家の書庫に大量にクィディッチに関する本が置いてあったからだ。発行年から予想するに、家の先祖の誰か一人がクィディッチの熱狂的なファンだったのだろう。因みにうちの父も時々こっそりその本を読んでいた。
「クィディッチはポイント制のゲームだ。各チームに三人いるチェイサーって呼ばれる奴らがクァッフルっていうボールを敵チームのゴールに入れれば点が入る。それをキーパーが防いで、ビーターって奴ら二人がブラッジャーっていう暴れまくるボールをバットで打って味方を守ったり敵を妨害したりする」
「……随分とアグレッシブなスポーツなんだな」
それに関しては俺も同意見だ。クィディッチはブラッジャーというボールが猛スピードで飛んでくるため、当たれば即骨折だ。更にクィディッチは箒を使って空中で行われるため、落下の危険も高い。危険と隣り合わせの競技だ。もっとフットボール――サッカーみたいに安全な競技はないんだろうか。
「それで、この前発表されたシーカーっていうのはなんなんだ?」
「ああ、スニッチっていう金色の小さいボールがあって、それをシーカーが捕ると150点獲得して試合が終了するんだ」
「……それって、シーカーがスニッチを捕るまで永遠に試合が続くってことか?」
「最長記録は六ヶ月らしいぜ」
六ヶ月もどうやってプレイし続けたのかは知らないが、とにかく俺としては早く試合が終わってほしいのでブラック先輩に頑張ってほしいものだ。
さて、ここらでそれぞれのチームの話もしておこう。
各チームにチェイサーが三人、ビーターが二人、そしてキーパーとシーカーが一人ずつ。グリフィンドールのチェイサーはなんとジェームズ・ポッターだ。原作の描写では彼は相当腕の良いプレイヤーなので要注意だ。
選手とは少し関係ない話だが、スリザリンチームの大きな利点として、箒の性能が高いことが挙げられる。スリザリンには既得権益層や純血名家が多く、性能の高い最新型の箒を買うことができる。グリフィンドールチームの多くが旧式の箒を使う中、スリザリンチームは全員がニンバス製のいい箒を使用している。ただ、箒の性能が選手の実力に見合わない場合は速すぎる箒を持つことは逆効果になるし、グリフィンドールの中でも金を持っているジェームズ・ポッターなどはニンバス製の箒を持っている。油断はできない。
審判のマダム・フーチがピッチに出てきた。そろそろ試合が始まる。双方のチームの選手はすでに箒に跨ってスタンバイしている。
そして、クァッフルが投げられた。試合開始の合図だ。チェイサーたちは一斉にクァッフル目掛けて飛んでいき、壮絶なボールの奪い合いが始まった。
グリフィンドールのチェイサーがクァッフルを捕るも、スリザリンのビーターに思いっきりブラッジャーを打ち付けられ手放してしまった。その隙を逃さず、下を旋回していたスリザリンのチェイサーがクァッフルを受け止め、味方にパスを回した。その後もビーターの活躍と見事なパス回しによって、スリザリンチームは先制点10点を獲得した。
スリザリン席から歓声が上がり、それ以外の席からは落胆の声が上がった。スリザリンはあからさまにハッフルパフやレイブンクローにも嫌われている。
俺の個人的主観では、スリザリンチームはパス回しが特に上手い。元々仲間意識の強いスリザリンではチームプレイが得意な生徒が多い。あと、ブラッジャーを利用した悪質なプレイも多い。こういったゲームにも寮それぞれの性質が出るもんなんだな。
再びクァッフルがピッチに放たれ、ゲームは再開する。チェイサー達が激しいボールの奪い合いを繰り広げ、ビーター達がそれぞれの敵チームを妨害しようとブラッジャーを打ち合う中、両チームのシーカーは未だピッチを旋回するばかりで動きを見せない。シーカーたちの探し求めるスニッチは日光を反射する素材でできているものの、他のボールに比べて遥かに小さく、素早く動き回るので、見つけるのは困難だ。こりゃ六ヶ月かかってもおかしくねぇな。
その後、ジェームス・ポッターの活躍でグリフィンドールが20点を獲得し逆転する。だが、スリザリンもさらに10点を獲得し、点数は同点。クァッフルの取り合いは白熱し、長い間両者共に得点に至らない泥仕合になった。
「……これ、六ヶ月もかからねぇよな」
「……流石にない、と言いたいところだが……」
正直に言って、こういうハラハラするのは嫌いだ。というかスポーツ全般が嫌いだ。箒をあまり上手く乗れない俺にとって、クィディッチはあまり親しみを覚えられるスポーツじゃない。見ていて誰か死にはしないだろうかとドキドキするし、落ち着いて観戦できない。バーティに見つからないように帰るべきだろうか。
そう思った瞬間、レギュラス・ブラックが動きを見せた。とある一方向に向かって猛スピードで移動を始めたのだ。まさか、スニッチを見つけたのか?
グリフィンドールのシーカーはレギュラス・ブラックに気づいたのか、レギュラス・ブラックの向かう方向目掛けて飛んでいった。だが、スニッチを視認できているわけではないらしく、レギュラス・ブラックとその進行方向をチラチラと見比べている。
そして、笛が鳴った。レギュラス・ブラックの手には、黄金に輝くスニッチが握られていた。170対20で、スリザリンの勝ちだ。
「案外あっさり終わったな」
「ここまで速い決着は珍しいしあっさりだったけど、それでも勝ったんだぜ!」
バーティはかなり上機嫌なようだ。見知らぬ先輩と手を叩きあって飛び跳ねて喜んでいる。周りを見渡してみると、スリザリン以外はまるでお通夜のような雰囲気だった。どれだけスリザリンが嫌いなんだ。その一方で俺たちスリザリン寮は全員で喜びを分かち合っている。最初は興味がなさそうだったカパルディまで少し空気に飲み込まれて笑みを浮かべている。スネイプ先輩はジェームズ・ポッターが惨敗したのが嬉しいのか、嫌な笑みを、大変邪悪な笑みを浮かべていた。
レギュラス・ブラックは爽やかな笑顔で、スリザリンの席に向かってスニッチを掲げていた。他のスリザリンチームのメンバーもスニッチを獲ったブラック先輩に抱きついて喜んでいる。
一方で教師陣は、皆拍手をしているものの、スリザリンの寮監であるスラグホーン教授以外は嫌々、という感じだった。
――あれ?
* * * * * * *
「見たか? あのレギュラス・ブラックの飛びっぷり!」
「かっこよかったよな!」
寮への帰り道、スリザリン生たちはひっきりなしにレギュラス・ブラックの話をしていた。こりゃしばらく寮内でスター扱いされるだろうな。
そんな中、スリザリンとは離れて校内をうろつく人影が目に入った。
「――ムーディ教授」
名前を呼ばれた教授はこちらへ振り向き、俺の顔を見るとあからさまに嫌な顔をした。
「今日、クィディッチの観戦に来てませんでしたよね?」
「……全員が観戦しに行くと、城の守りが手薄になるからな」
城の守り? ムーディ教授は誰かの襲撃を警戒しているのだろうか?
「教授はホグワーツが誰かに襲われるかもしれないと思っていらっしゃるのですか?」
「ええい! 人の仕事にいちいち首を挟むな! それ以上しつこく質問するなら、減点するぞ!」
どうやらこれ以上は教えてくれないらしい。仕方がないので減点される前に寮に戻った。
だが、収穫はあった。今までの情報と照らし合わせてみると、ムーディ教授はホグワーツ、またはその中に隠してある何かが、誰かに襲撃されると考えているのだろう。おそらく、死喰い人に関係のある誰かに。だから俺みたいなスリザリン生を警戒しているのか。つまりムーディ教授はホグワーツの敵ではない。しかし味方であるかは不確かだ。もしホグワーツに何かを隠しているのなら、それをダンブルドアに秘密にしている可能性もある。
原作ではホグワーツが第一次魔法戦争の間に襲撃を受けた、なんて描写はなかったが、描写がないだけで確実に襲撃が起こらないとは言えない。
さて、今年はどうなることやら。