「いいかセルウィン。アレがマローダーズだ」
「はぁ……」
大広間にて、スネイプ先輩はグリフィンドールの長椅子に腰掛ける四人組を指差した。
「あいつ等はグリフィンドールの中でも厄介な連中だ。僕たちスリザリン生を無差別に攻撃してくる」
「つまり冬休み中の最大の脅威は彼らだと」
「そういうことだ」
当のマローダーズ四名――ジェームズ・ポッター、シリウス・ブラック、リーマス・ルーピン、ピーター・ペティグリューも、こちらを睨みつけている。昼食の最中、彼らとスネイプ先輩は睨み合って目を離さなかった。えらい執念だ。
隣で静かに怒りの炎を燃やしているスネイプ先輩はさておき、周りをよく見渡してみると、スリザリンとその他の寮の違いが実によくわかる。他の寮はスリザリンと比べて圧倒的に残る生徒の数が多い。スリザリン寮の生徒には、死喰い人の子どもが多く、ホグワーツ外で命が脅かされることはほぼない。だがそれ以外の寮の生徒は、闇の陣営とはなんの関係もないことが多いので、ホグワーツから出るといつ死喰い人に殺されるかわからない。だから一番安全なホグワーツに滞在する生徒が多いのだろう。俺の勝手な推測だけど。
昼食が終わり、俺とスネイプ先輩は中庭に移動して闇の魔術について話し合っていた。先輩はかなり闇の魔術について詳しい。純血名家であり、歴史あるセルウィン家の書庫にも記録されていない魔法や、オリジナルの魔法をたくさん教えてもらった。原作ではセブルス・スネイプは半純血だったけど、片方の親が闇の魔術の専門家だったのか? そこら辺はよく覚えていない。
中庭は雪が積もっていて、あまりの寒さに帽子を被らなければ耐えられないほどだった。スネイプ先輩は闇の魔術に特化した魔法使いで、体を温める呪文などは知らないらしい。こっちの方が知ってて有用性あると思うのに。
「それでですね、このジンクスの理論を使うと触手の動きがより素早くなると思うんですけど、先輩はどう思います?」
「僕は、君の方が役に立たない魔法に特化していると思うね」
失礼な、触手は闇の魔術よりもよっぽど日常生活に役立つと思いますが? 戦闘でも使えるし、自律して動くような仕組みを作ることができたら屋敷しもべ妖精に代わる万能家事代行になってくれるだろう。触手って物を掴んだり、細くて狭いところに腕を伸ばしたりできるから割と役に立つと思う。
「……君の言い分はわかった。確かにこの理論を使えばより高性能な動きを発揮することができるけど、個人的にはこっちのほうがおすすめかな」
「なるほど」
スネイプ先輩はなんだかんだ言いながらも触手づくりを手伝ってくれた。
工作クラブにいない間、俺は基本寮の部屋で防衛術の練習をしているか、触手の研究をしているかのどちらかだ。すでに変身術を使用して自律型の触手生物もどきは何体か完成しているが、動きは鈍いし、変身術は永続ではないのであまり長持ちしない。つくづく思うんだけど変身術って若干生命をいじくる神の領域の魔法だよね。マグルから見たら禁忌だな。
そう思った次の瞬間、背中に衝撃が走り、俺の体は宙に浮かび上がった。
「――うおぁっ!?」
空中で体が反転して逆さ吊りになり、帽子が脱げ、ローブから杖が落ちてしまった。なんとか自分の向いている方角を把握して、スネイプ先輩の目線の先を辿ってみると、その先に4つの人影があった。マローダーズだ。
「よぉスニベルズ。そこにいるのは子分か?」
そう呼びかけるシリウス・ブラックの手には杖が握られている。彼らを睨みつけるスネイプ先輩の手にも同じく杖が握られている。どうやら俺を空中に浮かばせた呪文は先輩に向けても放たれたようで、更に先輩はそれを見事に弾いたらしい。
「ただの後輩だよ。それにしても寄って集って背後から奇襲するのがお前たち誇り高きグリフィンドールのやり方か?」
先輩の言葉に、四人の表情が曇った。恐らくスネイプ先輩とまともに戦うためには、こうした手段を取らないといけないんだろう。それだけ、彼ら個人とスネイプ先輩の実力が離れているのだ。セブルス・スネイプは原作でもかなり上位の実力者。ダンブルドア、ヴォルデモート、グリンデルバルドなどの最強格の次くらいに強いメンツの中の一人だ。それに比べて現在のマローダーズはせいぜい学校内の秀才レベル。闇の魔法の専門家セブルス・スネイプには単独じゃ敵わない。更に今回は俺というスリザリンの仲間がそばにいたため、用心してまず俺を確実に盤面から排除しようとして背後から奇襲したのだろう。そしてそれを当の四名はあまり誇りに思っていないようだ。
「僕とやりたいならかかってこい。――全員、返り討ちにしてやるよ」
その言葉を引き金に、マローダーズが一斉に動いた。全員同時にいろいろな角度から呪文を放ち、先輩はそれを杖の一振りで全て弾いた。続いてポッターが攻撃呪文を放ち、ブラックもあとに続く。先輩はそれらを避けると、反撃の呪文を打ち返した。
一方で俺はというと、杖がないので地面に降りることができず、時々「がんばれー」と声をかけることしかできない。戦闘面でのサポートは不要みたいだし、とりあえずじっくり観察することにしよう。
戦闘のレベルは、この前の俺達とグリフィンドール生の喧嘩とは別格だった。マローダーズ四人が見事な連携を見せ、それをスネイプ先輩が一人で防いでいる。呪文の種類、量、質、共にあの時とは比べ物にならないほど圧倒的だ。見たところジェームズ・ポッターとシリウス・ブラックが攻撃し、リーマス・ルーピンが防御しつつサポート。厄介なのはピーター・ペティグリューだ。彼は一見するとリーマス・ルーピンと同じようにサポートをしているように見えるが、一人だけ徐々に先輩の背後に移動し、攻撃を防ぎにくくしている。そして俺のことも警戒しているのか、時々目線を一瞬だけこちらに移す。
次第に先輩は四人の攻勢に押されていった。ポッターら三人と完全に先輩の背後に回ったペティグリューに両側から攻撃され、防御が追いつかなくなってきたのだ。
そして、マローダーズが一斉に攻撃を放った。ペティグリューの呪文を防げば、ポッター側の攻撃を食らう。ポッター側の攻撃を防げば、ペティグリューの攻撃を受けてしまう。左右はそれぞれブラックとルーピンがカバーしていて避けることができない。完全な詰みだ。
そんな中、先輩は防御をするのではなく、マローダーズの予想していなかった方向に杖を向けた。
「リベラコーパス!」
呪文は俺に直撃し、俺は空中から解き放たれ地面に落下した。同時に、マローダーズの呪文がスネイプ先輩を襲い、先輩は先程までの俺と同じように空中に浮かび上がった。
ポッターたちはこれを予測できなかったのか、未だ反応できていない。だが、ずっと俺を警戒していたペティグリューは、既に俺に杖を向けている。
自分の杖は、あと一歩のところで届かない。俺は地面に積もった雪を掴み、ペティグリューの顔に向かって投げつけた。雪はペティグリューの目に直撃し、姿勢を崩したため、俺を襲うはずだった呪文は見当違いの方向に飛んでいった。
俺はやっとのことで杖を掴み、立ち上がった。ポッターたちは既に杖を俺に向けている。ペティグリューも態勢を立て直しつつある。
――あれ? 俺詰んでない?
組分けの時、スリザリンかグリフィンドールかで帽子が迷ったピーター・ペティグリュー。恐らく並のグリフィンドール生より狡猾さはある。なので四人組の中の策士かなと。
純粋な戦闘能力がどれくらいだったのかはわかりませんが、マグル12名を一瞬で吹き飛ばしたり、直接戦闘以外の部分で成果を納めてるんで、個人的にかなり優秀だと思ってます。