マローダーズは即座に行動を取った。まずペティグリューの呪文が俺を襲う。それを避けた先には、ブラックの放った呪文が――
「プロテゴ!」
防護呪文を使ってそれを防ぐ。マローダーズは目を見開いた。プロテゴは普通の一年生に使えるようなレベルの呪文ではない。俺は攻撃系の呪文の練習そっちのけでプロテゴを練習したから、この呪文だけは正確に使える。その代わり、俺がマローダーズに対して反撃に使える呪文は防衛術で学ぶ、威力の弱い初歩的な威嚇呪文だけ。武装解除呪文や全身金縛り呪文などは、猛スピードで授業が進み、覚えなければいけない呪文が多すぎるためあまり練習できず、立ち止まって集中してやっと使えるレベルだ。こんな危機的状況じゃ恐らく失敗するだろう。恨むぞクソジジイ。
「アセンディオ! グレイシアス!」
周囲の雪を浮かび上がらせ、それを魔法で凍らせて簡易的な壁を作る。壁の背後で更に雪を集めて厚みを増す。壁に多くの魔法が直撃するが、今のところ貫通はしてきてない。時々壁の端から杖だけ出して威嚇呪文を放って牽制する。俺にできるのはこうして注目を俺に集めてスネイプ先輩の復帰を待つことくらいだ。先輩はまだ
そう思った次の瞬間、ついに一本の光線が氷の壁を貫いた。地面にあった雪を掴んで、魔法で固めて穴を塞ぐ。だが次から次へと光線が壁を貫いていき、修復が追いつかない。だめだ、持ってあと数秒。このままじゃ確実に攻撃を食らっちま――
「アクシオ、セルウィン!」
突然身が何かに引っ張られたような感触がして、俺は空中をものすごい速度で吹っ飛んだ。ぼろぼろになった氷の壁を押し倒し、中庭の端から端まで俺は飛んでいった。
柔らかい雪に覆われた地面に衝突した直後、背後をもう一つの氷の壁が覆い始めた。
「待たせたな」
やだ、スネイプ先輩かっこいい。
マローダーズに逆さ吊りにされてから約三十秒弱で、先輩は見事に態勢を立て直してみせたのだ。更にさっき俺が作った壁を、より強力に再現している。流石だ。マローダーズの呪文が連続で直撃するが、壁はびくともしない。
スネイプ先輩の反撃が始まる。ボンバーダなどの範囲攻撃を使って、ペティグリューをマローダーズの方に戻している。彼は先程のように気がつくと厄介なところにいたりするから、先輩も反省を活かしているのだろう。
一箇所に集まったマローダーズは、我々と同じく氷の壁を作り、その背後に隠れた。ポッターとブラックが壁の端から攻撃し、先輩の攻撃によって傷ついた壁をルーピンとペティグリューが修復する。この調子じゃ向こうの壁は破れそうにない。一撃で壁を破壊できるような呪文を使わなければ、壁のダメージはルーピンとペティグリューにすぐ防がれてしまう。
だから、先輩はそうした。
「セクタムセンプラ!!」
杖先から白い閃光と共に見えない刃が飛び出し、マローダーズの氷の壁を真っ二つに切り裂いた。幸いにも本人たちには当たらなかったが、あの氷の壁が一発で破壊されたんだ、次当たったら死に至る可能性もある。
マローダーズは防御を失った。先程の呪文を避けたせいですぐに反撃の態勢に移行できず、次の先輩の攻撃に対して全員が完全に無防備な状態だ。
先輩がもう一度同じ呪文を使えば、あの四人の中の誰かが死ぬ。
「セクタム――」
先輩は既に杖を振り上げている。プロテゴを使えばワンチャン防げるかもしれない。だがターゲットは誰だ? 死ぬほど憎んだポッターか? 先程先輩を苦戦させたペティグリューか? それとも純血名家出身でありながら血を裏切る者となったブラックか? 駄目だ。即座に展開できるプロテゴはそれほど大きくない。ターゲットが誰かわからないと防ぎきれない。
無理だ。間に合わ――
「――セブ?」
ふと、背後から声がした。
先輩も、マローダーズも、皆動きを止めた。
そこには、一人の少女が立っていた。赤毛で、緑色の瞳を持ち、グリフィンドールの赤い飾り付きのローブを着た、一人の少女が立っていた。
「リリー……」
思わずと言った感じで、スネイプ先輩は呟いた。
彼女こそが、セブルス・スネイプとジェームズ・ポッターの愛するたった一人の女性であり、ハリー・ポッターの母親、リリー・エバンズだった。
全員が、いつの間にか杖腕を下げていた。恐らく両者共に彼女の前では喧嘩している姿を見せたくないのだろう。
「……お知り合い、ですか?」
俺は本来彼女らの関係性を全く知らないはずの人間だ。一応何が起こっているのか把握できていないふりをしておいたほうがいいだろう。
「あら、あなたセブのお友達?」
「はじめまして。一年のセルウィンといいます」
俺は杖をローブの中に仕舞ってリリー・エバンズに手を差し出した。マローダーズは一瞬身構えたが、リリー・エバンズが笑顔で握手を交わしたのを見て、睨みつけるのを続けながらも手から杖を離した。
「セブったら寮での話を全然しないから、あの嫌な感じの友達しかいないと思ってたわ! でもちゃんとした後輩にも慕われてるのね。よかった」
彼女の言う嫌な友達とは、恐らくマルシベールのことだろう。彼女は俺を「まともな」後輩だと思い込んだらしい。一応純血主義に染まっているか否かの判断基準で言えば俺はまともな部類だと思うが、それ以外の判断基準だと周りの評判から考えるに俺はまともじゃないらしい。俺がまともな後輩枠でいいのだろうか。
「……それで? ジェームズたちはここで何してるの?」
リリー・エバンズからの突然の質問に、マローダーズは狼狽えた。人の目の前で「喧嘩してました」なんて堂々と言う奴なんていないだろう。
彼女は今度はスネイプ先輩に目を向けた。先輩も正直に事を話すつもりはなさそうだ。
そうなると、必然的に回答権は俺に回ってくるわけで、リリー・エバンズが次に目を向けたのは俺だった。とりあえずこのままスネイプ先輩とマローダーズを同じ空間にいさせておきたくはないので、なんとなく丸く納めて解散を目指そう。
「……雪が降ってたので、雪合戦を」
リリー・エバンズは目をパチクリとさせた。スネイプ先輩からもマローダーズからも「何言ってんだお前」という視線が向けられている。俺はこの場が丸く収まれば何でもいいので適当に嘘をつかせてもらう。
一応この中庭にはたっぷりの雪があり、さっきまで散々暴れまわっていたため、俺たち全員の体には雪が大量に付着している。スネイプ先輩とマローダーズが仲が悪いという情報を前もって知っていないと、俺達はただ雪合戦をしていた人たちにしか見えないはずだ。
「なーんだ。いっつも喧嘩してたと思ってたら、いつの間にか仲直りしてたのね。ほんと男子ってよくわからないわ」
……無理だと思ったがなんとかごまかせたみたいだ。
「あ、そうそう。ジェームズたち、マクゴナガル教授に呼ばれてたわよ? 今度は何しでかしたの?」
「げ」
マローダーズたちは一瞬で固まった。そういえばマローダーズの別名は悪戯仕掛け人だったっけ? たぶん何かしら校内に悪戯を仕掛けたのがバレて職員室に呼ばれたんだろう。
彼らは職員室に向かったのか、それとも教授から隠れるためか、中庭を出て校舎内に戻っていった。
とにかくスネイプ先輩とマローダーズを引き離すという目的は果たせたので俺は退散するとしよう。
「じゃ、俺は部屋に帰って暇をつぶすという予定があるので寮に戻りますね。それじゃ!」
「あ、おい!」
スネイプ先輩に呼び止められたが、聞こえなかったふりをして逃げよう。恐らく捕まったら嘘でもマローダーズと仲良くしていたという情報をばらまいた罪で私刑を加えられるに違いない。
先輩は俺を追いかけるか、リリー・エバンズと時間を過ごすかで一瞬迷い、後者を選んだらしく俺の後をつけてくることはなかった。
それにしても、戦闘中、スネイプ先輩は本気でマローダーズのことを殺そうとしていた。
今までずっとマルシベールのことばかり警戒していたが、先輩にも目を向けていないと危険かもしれない。あの様子じゃ、しっかり監視しておかないと在学中に人を殺しかねない。できるだけマローダーズとの干渉を防がねば。
ちくしょう、せっかくの冬休みだっていうのに、早速胃が痛いぜ。