「あ〜、行きたくねぇよぉ」
雪合戦の日から数日間、同じ寮に住んでいるにも関わらずスネイプ先輩を完全に避けて生活するという奇跡の技に成功した俺は、次なる試練に直面していた。
ガブリエラである。
前回会った時は色々あって気まずくなってしまった。たぶん今回も気まずくなってしまうだろう。俺がこの世で嫌いなものがあるとすればそれは死喰い人とゴーヤと気まずい雰囲気だ。扉を開けた先で気まずい雰囲気になるのが嫌で、俺はかれこれ十分間、必要の部屋の扉の前で突っ立っている。
恐らくガブリエラは先に部屋に入っているだろう。扉を開けたら、そこに彼女はいるはずだ。
嫌だけど、いつまでも逃げ続けるわけにも行かないよな。
俺は扉を開け――
「――え?」
そこは、俺の知っているいつもの部屋ではなかった。
ターコイズ色の壁に様々なデザインの本棚が並べられ、反対側には骨董品のようなものが陳列された棚が一つ、部屋の奥には暖炉があり、天井からはシャンデリアを模した灯りがついていた。
ガブリエラは部屋の隅にあるソファーに腰掛けて、小さなライターのようなものを弄くっていた。扉の開く音で俺の存在に気づいたようで、彼女は顔を上げてこちらを見上げた。
「よっ」
「……よぉ。この部屋は一体何なんだ?」
ガブリエラの前にあるテーブルの上には、前回の工作クラブで必要の部屋に置いてきたターディスの設計図が確かに置いてあった。つまりここは必要の部屋で間違いないはずだ。だがこうも見た目が違うのはなんでだ?
「私の部屋だよ。いつもはあんたが先に部屋に入ってたから、この部屋はあんたの想像する作業部屋に変わってたけど、今日は私が先に入ったから私の想像する作業部屋――つまり自宅にある私の部屋になったってわけさ」
「なるほど」
「本も魔法道具も全部家にあるのと同じ。再現率は100%、完璧なコピーさ」
つまりここはガブリエラの私室を完全に再現した部屋ってことか。本棚を見てみると見たこともない本が沢山並んでいた。タイトルから見るに最新の魔法道具や杖に関する書籍が多いな。『深い闇の秘術』もあるじゃねぇか。確か世界で唯一分霊箱の詳しい作り方が載ってる本だぞ。とっくの昔に禁書になってたと思ってた。俺の持ってるやつだって父がノクターン横丁で恐らく非合法なルートを使って仕入れたものだ。こいつ、こういう本をどうやって手に入れたんだ?
それはそれとして、本が大量にあるのはわかるが、反対側に骨董品――ガブリエラは魔法道具と呼んでいたな――があるのは何故だろうか。こいつが魔法道具を必要としてるのか?
「それで、向こうの棚はなんなんだ?」
「ああ、それは私の作った魔法道具だよ」
……「私の作った」魔法道具?
棚に並べられている物体はざっと数えて二十個はある。これを全部彼女が作ったというのか?
「私、魔法道具を作るのが好きでさ、一番端っこの木でできたカエル、私が五歳の時に作ったんだよ」
ガブリエラの指差す方向を見てみると、確かに木でできたカエルがあった。
「頭を下に押すと動くぞ」
言われたとおりに押してみる。手応えとともにガチャン、と音がなり、カエルの体表が緑色に輝き出した。
これを作ったのか? 五歳の時に? 神童じゃねぇか。俺とは比べ物にならないぞ。
「もしかして、いま手に持ってるそれも自作なのか?」
俺はガブリエラが握っていたライターを指差した。
「ああ、これはこの前知り合いに見せてもらった魔法道具を、見様見真似で作ってみたんだよ。一回しか見てないから、ちゃんと動くかどうかわからないけど」
そう言って、ガブリエラはライターを着火した。
火は出なかった。むしろ真逆のことが起きたと言ってもいい。天井の灯りが、ライターに吸い込まれていったのだ。
ガブリエラがもう一度ライターを着火すると、今度はライターから天井に、灯りが戻っていった。
「うまくいくか心配だったけど、大成功だったな!」
笑みを浮かべるガブリエラとは対照的に、俺は口を開いて唖然としていた。
あれは灯消しライターだ。アルバス・ダンブルドアが作った、この世に一つしかない魔法道具だ。
彼女は「この前知り合いに見せてもらった」と言っていた。つまり、彼女はダンブルドアと会っていたのだ。それも、魔法道具を見せてもらうような親密な仲だ。
更に、ガブリエラは一度しか見ていないとも言った。たった一度、一度見ただけで、灯消しライターを完全に再現しきったというのか。
彼女は本物の天才だ。魔法道具の作成に関しては、バーティ以上だろう。
「よし、こっちは終わったし、ターディスの製作に戻るか。後もうちょっとで瞬間移動装置の理論が思いつきそうなんだよ」
ガブリエラはニカッと笑って、何事もなかったかのように設計図に書き込み始めた。
俺は何も言えず、しばらくそのまま立っていた。