「皆、こうして無事に新学期を迎えることができて、とても嬉しく思う」
ホグワーツの二学期が始まり、新たな学期の始まりを祝う晩餐会での、校長ダンブルドアの演説を生徒たちは深く聞き入っていた。
現在ホグワーツの外で大規模な魔法戦争が起こっている中、こうして在学生が全員生きて新学期を迎えられたことは、とても喜ばしいことだ――と、少なくともティアゴ・カパルディは思っていた。
カパルディ家は半純血で、この戦争では魔法省の側についている。死喰い人の子どもの多いスリザリン寮で無事にやって行けているのは、スリザリン生の寮の仲間を大事にする気質と、セルウィン家とクラウチ家という聖28族の跡取り二名と親交を持っているおかげだ。
最も、クラウチは聖28族の中でも魔法省側の家であるためスリザリン生の大多数からは距離を置かれており、セルウィンはその趣味と性格が原因で他のクラスメイトから好かれているとは言い難い状況にある。寮内でのカパルディの立場は割と危ない。
もし、休暇中に自分が死喰い人に襲われていたら、二人はどう思うだろう――と、カパルディは口には出さなかった。
「しっかしここの飯はうまいよな。ほれ、カパルディもこれ食うか?」
「……なんだそれ」
「イナゴの佃煮」
「いらねぇよ」
ツクダニなるものがなにかはさておき、なぜ虫がホグワーツのメニューに載っているのだろう。ゴキブリのおやつなんてものも存在するし、魔法界は昆虫食が浸透しているのだろうか。
そんな事を考えるカパルディをよそに、セルウィンはイナゴの佃煮を白米無しでバクバクと食べていった。
クラウチの方はというと、黙々とポテトサラダを食べていた。皿の上には他にフレンチフライ、ハッシュドポテト、シェパーズパイ、ジャーマンポテト、コロッケなどがのっている。芋好きなんだろうか。
「――それで、二人はどんな冬休みを過ごしたんだ? ロンドンで宇宙人と遭遇したり、サンタのソリでロンドン上空を飛んだり、クリスマスデコレーションと戦ったりしたか?」
「してねーよ、するわけねーよ。」
セルウィンはいつも通りわけのわからないことを言った。
そもそもカパルディはスコットランドに住んでいて、ロンドンにはホグワーツ特急に乗るときしか行っていない。ホグワーツはスコットランドにあるので、ホグワーツ特急を使うと大きな遠回りだ。ホグワーツの生徒は全員ホグワーツ特急を使わなければいけないという法律があるせいで、カパルディはこれから毎回遠回りをしなくてはいけない。
因みにこの法律が存在するのには、マグルの技術である蒸気機関車の使用を嫌がった純血主義の一族の生徒が、一年間の学校生活に必要な荷物をすべて持った状態で箒に乗って登校したり、姿現しができないように魔法で守られたホグワーツの敷地内に無理やり姿現ししようとして悲惨な結果になるといった事態が多発したから、という歴史的背景がある。
「僕は、ずっとスコットランドの家でゆっくりしてたよ。時々庭で天体観測したりしたけど、寒かったからそんなにはやってないな」
「俺はずっと勉強ばっかだったよ。特に父上が家にいる間はね。まぁ、そんなに長い間いたわけではなかったけど。セルウィンはどうだった?」
「俺? 寒くて池には近づけなかったから、大体は研究とかして過ごしたかな。あ、そういえば中庭でスネイプ先輩と雪合戦した」
「え、なにそれ」
カパルディの目から見て、セブルス・スネイプという少年は、至って真面目な生徒という印象だ。寮の仲間と仲良く話すところは見たことがあるが、雪合戦に興じるとは到底思えなかった。
「っていうか研究ってなんだよ」
「あー、ご想像におまかせします」
セルウィンのことだ、どうせ触手関係だろう。池に行けなくて残念がってたのもおそらくダイオウイカに会えないからだろう、とカパルディは考えた。
「……今カパルディがなにか失礼なことを考えた気がする」
「なんで分かるんだよ」
「は!? まじで考えてたの!? カパルディに裏切られるとかまじで残念だわー。今、触手ってG◯◯gle 検索してエロ画像しか出てこなかったときの次くらいに残念な気持ちになってる」
「G◯◯gleってなんだよ」
「んー、将来の投資先?」
相変わらずセルウィンは意味不明なことを語り続け、カパルディはそれに突っ込み、クラウチがそれを見て笑う。
いつも通りの、平和な会話だった。
* * * * * * *
あの日のことについて、仮説を立てた。
まず、ガブリエラがムーディ教授のことを「爺ちゃん」と呼んでいたから、教授はガブリエラの祖父であると考えるのが妥当だ。そうすればガブリエラが俺が死喰い人の息子だと知っていたことにも納得がいく。ムーディ教授は元闇祓いだ。現役時代に築いた魔法省のつてを使って死喰い人についての最新情報を仕入れて、孫娘であるガブリエラに流していたのだろう。
更に、教授がちょくちょく俺にキツくあたっていたのは、俺が必要の部屋でガブリエラとふたりきりで会っていたから。俺は死喰い人の息子だ。そんな奴が孫娘と目の届かないところで会っていると知ったら、どんな奴だって警戒して当然だ。
次に、二人があんな表情をしていた理由について。考えられるのは、知人――反応からして近しい親族、恐らくガブリエラの親であり、教授の子どもに当たる人物――が死喰い人に殺害されたということだ。闇祓いを代々排出してきたムーディ家の人物なら、死喰い人に優先して狙われてもおかしくはない。
もともと死喰い人につけ狙われていたのだろう。だから教授は「何らかの形で一年の間に教職を続けられなくなってしまう」という恐ろしいジンクスのある闇の魔術に対する防衛術の教授に就任したんだ。恐らく、校内にいる敵――死喰い人の子息達――からガブリエラを守るために。
知人を殺された今、二人の死喰い人への好感度は最悪。そして、俺は死喰い人の息子。
「本当に、嫌なとばっちりだぜ」