闇の魔法使いの卵   作:黒歴史量産機

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26 憧れ

「イモービラス!」

 

 二学期初の授業があった日の放課後、決闘クラブではバーテミウス・クラウチ、そしてオードリー・オズワルドの二人のスリザリン生が連戦連勝していた。

 

 一学期の決闘クラブでは、パグナックス・ムーディ教授の厳しい指導の下、部員たちはひたすら呪文の詰め込みを行ったが、二学期からは一学期に学んだ呪文をフル活用して実践の練習を行うことになっている。今はムーディ教授の監督の下、各自が自由にペアを組んで戦うことになっている。

 初回に比べて決闘クラブの部員はぐんと減っている。最初の会合の後、決闘クラブの存在を知ったスリザリン生が何人かその次の集会に参加したのだが、ムーディ教授に特別ひどくしごかれ、ほとんどが辞めてしまった。スリザリン以外の三寮の生徒もついていけずに多くが退部届を出した。

 なんとセルウィンも、二学期になってから決闘クラブへの参加を拒否し始めた。

 

「ま、たぶん休暇中に教授と何かあったんだろうけど」

 

 クラウチは馬鹿ではない。決闘クラブの地獄を一学期間まるまる耐えたセルウィンが、ここで投げ出すはずがないことはわかっている。セルウィンは良くも悪くも一度熱中すると最後までやり切る気質の男だ。その方向性が異質で将来的に全く無意味な方向に向いているだけで。

 そんなセルウィンが辞めるとなると、考えられるのは人間関係の問題だ。セルウィンとムーディ教授は冬季休暇中同じ校舎で生活していた。何かあってもおかしくはない。

 ――特に、このご時世では。

 

「よ、勝ったっていうのに元気ないね」

 

 考え込むクラウチに、オズワルドが背後から声を掛ける。

 オズワルドもクラウチやセルウィン同様、ムーディ教授の指導を耐えてここまでやってきた優秀な部員だ。闇の魔術に対する防衛術や呪文学ではクラウチについで学年二位の成績を誇っており、決闘クラブの実践練習でも向かうところ敵なしだ。

 

「ちょっと気になることがあってね。今度は俺達で試合するかい?」

「連勝記録は途切れちゃうけど、やるわ」

 

 オズワルドはクラウチの正面に立ち、両者が同時にお辞儀をする。そして、互いに杖を構える。

 この決闘クラブでは、殺傷能力のある呪文さえ使わなければルールは存在しない。「実際の戦闘では敵がどんな攻撃を使ってくるかわからない」ということでムーディ教授がルール無用を宣言したときのフリットウィック教授の渋い顔は全員の脳裏に染み付いている。

 

 先手を打ったのはクラウチだった。

 

「イモービラス!」

 

 素早い拘束呪文を、オズワルドはしゃがんで躱す。その動作を行っている間も、オズワルドは詠唱を止めない。

 

「タラントアレグロ!」

 

 足元をめがけて放たれた呪文は、クラウチの杖の一振りで弾かれた――無言呪文だ。

 

 呪文を弾かれたことを確認しながら、オズワルドは二発目を放つ。

 

「バーディリアス!」

 

 緑色の閃光がオズワルドの杖から放たれるも、またしても無言呪文によって弾かれる。

 今度はクラウチが反撃した。

 

「ヴェンタス!」

 

 強力な風がオズワルドを襲う。周りの生徒を巻き込まないように非常に精密に操作された風はオズワルドだけに向けられ、凄まじい威力で彼女を壁に叩きつけた。杖は手から弾かれ、

 

「降参! 参った!」

 

 オズワルドは床に座り込んだまま両手を上げて降参を宣言した。

 クラウチは痛そうに背中をさするオズワルドの下へ歩み寄り、途中で落ちた杖を拾い上げて手渡した。

 

「いや〜、一瞬だったよ。さすが」

「ごめん、ちょっとやりすぎた」

 

 周りの目から見ても、今回のクラウチの行動は少しやりすぎだった。

 もともと広い攻撃範囲を持っていた風の呪文を、無理やりオズワルド一人に収束させたことで、本来想定されていた威力よりも高い出力の風がオズワルドに向けて放たれてしまったのだ。

 

「できるだけ周りに迷惑をかけないようにしたかったんだけど、ごめん」

「いいよ。大したことじゃない」

 

 オズワルドは立ち上がって、軽くストレッチをした。

 本人の感覚では、骨も折れてない。ズキズキと体が痛むが、夕飯頃には治っているだろう。

 

「あーあ。初めて負けちゃったよ」

「今まで全戦全勝だったのかい?」

「ギブソンと戦ったときはヒヤヒヤしたけど、今回が初負け。やっぱクラウチは格が違うな〜。無言呪文のプロテゴなんていつの間に覚えたの?」

「冬季休み――って言ったら違法になるから、一学期の間、と言わせてもらおう」

 

 魔法省は、学校外での未成年の魔法使用を検知する魔法の重大な欠陥のせいで、呪文の使用者が生徒本人なのか親なのかを特定することができない。よって親に魔法族を持つ生徒は、違法でありながら家の中で魔法の練習をすることができてしまうのだ。魔法省側も、このことについては目を瞑っている。これを見逃すことでマグル生まれとそれ以外の魔法族の子どもたちの間に実力の差が生まれてしまうが、魔法省には未成年の魔法使用を検知する魔法を改良する気力も、余力もない。もともと純血一族が権力を持っている魔法界で、そんなことが実現できるとは誰も思っていない。

 クラウチやオズワルドは、他の多くの魔法族のように、この事実が生む不平等さを知っていながら見てみないふりをすると決めた。そもそもこの事実に対して声を上げる者はほとんどいない。

 

「そんな短期間で覚えられるのはクラウチだけだと思うけどね」

「まさか。俺よりもすごいやつなんか大勢いるさ。追いつけるようにまだまだ精進しないといけないよ」

 

 その言葉を聞いて、オズワルドは立ち上がり、まっすぐとクラウチと目線を合わせた。

 

「クラウチには、追いつきたい人がいるの?」

「まぁ、そうだな」

「それってもしかして――」

 

 バーテミウス・クラウチ・ジュニアは、父親であるバーテミウス・クラウチ・シニアと同じく、とても優秀な魔法使いだ。現在は経験の差からシニアには全く持って勝ち目はないが、ポテンシャルは父親を凌駕していると言ってもおかしくはない。

 だが、上には上がいるもので、そんなクラウチでも絶対に勝てない相手というものは存在する。マーリンやホグワーツの創設者達といった歴史的偉人や、現代の魔法使いならば今世紀最高の魔法使いアルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア、魔法界を混乱に陥れた先導者ゲラート・グリンデルバルド、そして――

 

「――闇の帝王のことかな?」

 

 クラウチは目を見開いた。

 オズワルドの表情は今までになく真剣だった。クラウチから目を離さず、じっと彼の返事を待っている。

 この魔法戦争において、オズワルド家は未だ立場を表明していない。オズワルド家は聖28族ではないものの、歴史のある純血名家。オズワルド家の支援はどちらの陣営も望んでいることだ。

 そんなオズワルド家の人間である彼女、オードリー・オズワルドは、一体どちらの思想に賛同しているのであろうか。

 

「俺、は」

 

 クラウチは間違いなく闇の帝王に憧れを抱いている。

 それは純血思想に賛同しているからではなく、ヴォルデモートの持つ圧倒的な闇の力に魅せられたからだ。ダンブルドアも闇の帝王と同じくらい、またはより強力な力を有しているが、その力を振るうことは滅多になく、年老いているため若い世代の憧れの対象になりにくい。

 セブルス・スネイプや、レギュラス・ブラックのように、闇の帝王の力に惹かれるものは少なくない。だが、そういった者たちの中には闇の帝王の過激な思想と活動についていけず、なかなか表立ってそう宣言することができない者もいる。クラウチもその一人だった。

 

 自分がここでヴォルデモートへの憧れを吐露したとして、オズワルドは敵にまわるだろうか。スリザリン寮の中で、同室のセルウィンとカパルディを除けば、友達と呼べる相手はオズワルドだけだった。家の立場のせいでもともと友人の少ないクラウチには、オズワルドを失いかねない発言はできず、しばらく沈黙が続き――

 

「本日はここまでとする! 各自、次回の会合までに腕を磨いてくること! 解散!!」

 

 ムーディ教授の解散の宣言によって、沈黙は破られた。

 地獄のような会合から開放された生徒たちが、ぞろぞろと広間から出ていく。

 

「さ、帰るとしますか」

 

 オズワルドは、まるで何もなかったかのようににっこりと笑顔をつくり、他の生徒達と同じように出口に向かい始めた。

 

 答えなくてよかったと思うと同時に、どう答えたら良かったんだろうと、クラウチは思った。

 

 

 

 

 

* * * * * * *

 

 

 

 

 

「よぉ、セルウィン」

 

 ムーディ教授にあれだけ危ない目に合わせられた後だと、どうしても顔を合わせる気になれず、寮の談話室で一人本を読んでいると、いきなり背後から声をかけられた。

 

「――マルシベール先輩」

 

 声をかけてきたのは意外な人物だった。周りを見渡しても、スネイプ先輩はここにはいない。いたら冬季休みのように追いかけっこが始まっていただろう。マルシベールとは、スネイプ先輩と話しているときに少しだけ交流したものの、彼に直接話しかけられることは少ない。彼が俺に声を掛ける理由があるとすれば……

 

「何が欲しいんですか? 金ですか? それとも俺が人生をかけて集めた触手研究の成果ですか?」

「金には困ってねーし、後者に至っては興味ねーよ。ってか、お前は俺をどんなやつだと思ってんだよ……」

 

 服従の呪文を得意とする性悪な闇の魔法使い、と正直に言ったらブチギレられるだろうな。

 マルシベール家は歴史ある純血の家なので金に困っていないというのは当然で、触手に関する研究成果にも興味がないとすると、本当に何の用なんだろうか。見当もつかない。

 

「いやさ、お前がムーディ教授と喧嘩したって聞いてよぉ」

 

 ムーディ教授に一方的に攻撃されそうになったとき、割と大声を出していたから目撃者がいたんだろう。噂が広まっているのか?

 

「決闘クラブ行けないんだろ? だから、そんなお前のために先輩として一肌脱いでやろうと思って――紹介したい人がいるんだ」

 

 そう言って、マルシベールは後ろに立っている人物を指さした。

 

 背の高い男だった。

 マルシベールより年上、五年生かNEWT課程の生徒だろう。黒い髪に、更に黒い漆黒の瞳で、どこかゾッとするような薄い笑みを浮かべていた。

 

 

「紹介するよ。俺達の先輩――エバン・ロジエール先輩だ」

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