闇の魔法使いの卵   作:黒歴史量産機

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復活しました。


32 殺人鬼 vs いちねんせい

 ユマノ・セルウィンがこの場に登場することができたのは、様々な偶然が奇跡的に重なったからだ。

 

 まず、彼は姿現しを使用してここに現れた。

 11歳の、姿現しの訓練を受けていない子どもが姿現しを行えるはずがない。本来ならば「ばらけ」という現象が発生して、彼の体はバラバラになって千切れているはずだった。

 

 そんな彼が姿現しを成功させることができたのは、屋敷しもべの姿現しで移動したことによりその感覚を理解していたことと、灯消しライターというチートアイテムを持っていたことが要因だ。

 灯消しライターには、望む相手の元へ使用者を姿現しさせる、という力がある。たとえ相手の現在位置がわからなくともだ。

 ガブリエラは校長の執務室で灯消しライターに触れ、その仕組みを解析する機会があった。だから灯消しライターを完全再現することができたのだ。

 そしてそのライターは、必要の部屋に置き忘れられたがために、セルウィンの手の中に。

 

 もう一つの偶然は、オリバンダー家の姿現しを阻害する魔法が切れていたことだ。

 家に防犯呪文をかけたのは、先日殺されたガブリエラの母親。つまり、魔法は発動者を失って効果をなくしている。

 

 感覚を知っていたことと、機能が完全再現された灯消しライターを持っていたこと。そして、防犯用の魔法が効力を失っていたこと。

 3つの条件が揃ったことで、ユマノ・セルウィンは間一髪、この場に参上することができた。

 

 

 

 

 

* * * * * * *

 

 

 

 

 

「ヒーローは遅れてやってくるって聞いたけど、間に合ったってことは俺はヒーローじゃないってことかな?」

 

 遅れてやってくるヒーローよりも、時間通りに来る民間人のほうが役に立つと思うのだがどうだろうか?

 

 普段通り軽口を叩いている間、ラバスタンは顔をしかめてこちらを睨み、ガブリエラは驚愕で口をポカリと開けていた。

 

「……よぉ坊主。どういうつもりでそこに立ってるかは知らねぇが、早いとこそこをどいた方がいいぜ」

「生憎、ここを動くつもりはないんでね」

 

 杖を向けて警告するラバスタンに、俺は真っ向から喧嘩を売った。

 もしかしたらこうなるんじゃないかとは思っていたが、まさか本当にラバスタンが襲撃してくるとは。

 

 背後をチラリと見る。ガブリエラは倒れたままこちらを凝視して震えていた。

 突然死喰い人の息子が家に姿表ししてきたらまぁそういう反応になるのだろう。できるだけ早く立ち上がってくれないと、次の行動が取りにくいから早く正気に戻ってほしいのだが。

 

 さて、ここからどうしよう。

 

 俺の敵は目下のところラバスタン・レストレンジ。場合によってはそこにガブリエラとムーディ教授も加わる。

 ムーディ教授がガブリエラを一人で放っておくはずがない。今ここにいないということは、恐らくすでにラバスタンが手を打ったあとだろう。そして防衛術の教授をするような人を無傷で倒せるということは、ラバスタンは相当な手練れな可能性がある。

 やっぱり正面から戦うのは無理か。

 

「坊主、お前今何やってるのかわかってんのか? 俺を敵に回すってことは、闇の帝王を敵に回すってことだぜ」

「それでもいいよ。別に政治思想に共感してたわけでもないしね」

 

 なんとか時間を稼いで頭の中を整理しなければ。

 今やるべきはガブリエラと、できればムーディ教授の安全確保。宣戦布告した以上、ラバスタンもどうにかして始末しなければならないし、()()()()も処分しないといけない。どうする、どうやって全部達成すればいいんだ。

 後ろに回してある手に杖を構えるが、ラバスタンは気づいただろう。今にも攻撃を仕掛けてくるかもしれない。

 

「最後の警告だ。そこをどけ」

「嫌だね」

「――なら」

 

 ラバスタンは杖を強く握りしめた。ガブリエラは顔を伏せ、俺は呪文を唱えるために口を開いた。

 

「アバダ・ケダブラ!!」

「レダクト!!」

 

 ラバスタンの杖から緑の閃光が走るとともに、俺とガブリエラの足元の床が木っ端微塵に砕ける。重力に従って身体が落ちてゆき、頭のすぐ上を緑色の光線が通り過ぎ、背後のガラス窓に穴を開けた。

 二階から一階の床に落ちる衝撃が体を襲うも、子ども特有の謎の耐久力でなんとか持ちこたえる。体感では骨は折れていない、動ける。

 

「チッ!」

 

 敵を殺害することに失敗したラバスタンは、舌打ちをしてすぐ床に空いた大穴へと向かった。一階から呪文が聞こえ、ラバスタンの眼の前で床が修復されていく。

 

「ボンバーダ!」

 

 呪文により再び床が砕ける。そしてラバスタンが見たものは――

 

 

――容赦なく目と喉を燻しにかかる、濃密な煙だった。

 

 

 

 

 

* * * * * * *

 

 

 

 

 

 煙玉を発動させてからガブリエラを引っ張って家を出たが、魔法を使えばすぐに消されてしまうだろう。さっさと動かないと意味がない。

 家の外に出てもう一個煙玉を発動させる。範囲にだけは自信がある自作の煙玉、役に立ってくれるといいけど。

 

 ガブリエラの手を取ってとにかく家から離れる。ラバスタンに位置がバレたら一巻の終わりだ。

 

「坊主ッ! どこに行きやがったァ!?」

 

 後ろからラバスタンの叫び声が聞こえるが、あんなのに怯んでいる暇はない。

 

 走っているとやっと煙玉の範囲外までついた。見渡すと、片面には一面の畑が、もう片面にはチラホラと家が見え、その間を道が区切っていた。

 どうやらここは田舎らしい。イギリスの郊外はきれいだからゆっくり観光していたいけど、今はそんな場合ではない。生き残れたらまたいつか来よう。

 

「フリペンド」

 

 小声で呪文を唱えて、通りの片側にある家の玄関の置物を破壊し、すぐに煙玉を投げて反対側に向かって猛ダッシュする。置物が割れる音が静かな村に響き、かすかにラバスタンの声が聞こえたような気がした。

 これにラバスタンが引っかかってくれるといいのだが。

 

 そうだ、ムーディ教授も回収しないといけない。

 

「教授は?」

「じ、じいちゃんなら、確かキッチンに――」

「了解。――飛ぶよ」

「え?」

 

 ガブリエラが声を上げたと同時に、ポケットから再びライターを取り出して姿くらましをする。

 

 身体がねじ曲がり、方向感覚、上下感覚がメチャクチャになって、落ちる。

 

 姿現しのポイントは、もと来た家の一階。恐らくここはキッチ――

 

「――ぅ」

「セルウィン!?」

 

 突如、激しいめまいが俺を襲った。俺はそのまま床に膝をついて、頭を抑えてうずくまった。

 恐らく短時間に慣れない姿現しを二回もやった反動だろう。だが、ここで止まっている時間はない。

 

「き、教授は――」

「いた!」

 

 ガブリエラの返事が聞こえる。

 教授はキッチンの床に倒れていた。息はある。気絶させられただけだろう。

 

「レネベート」

 

 ぐるぐる回る視界の中、なんとか体制を整えて復活呪文を唱える。

 ムーディ教授は小さく唸って、ゆっくりと目を開けた。だが俺を見ると、カッと目を見開いた。

 

「お前は――!」

「じいちゃん、セルウィンは味方だ」

 

 起き上がって杖に手を伸ばす教授を、ガブリエラが即座に静止する。

 良かった、ガブリエラには味方判定されている。これで教授も納得してくれればいいんだが。

 教授は俺とガブリエラを交互に見比べた。いくらか混乱している様子だが、今はそんな時間はない。

 

「急ですいませんが、ここから逃げる方法ってありますか?」

 

 俺の姿現しは、特定の人物のもとにしか移動できない。つまり、確実に姿現しができるエリアに居る味方がいなければ使えないのだ。

 教授が姿現しをできるのならそれでいいが、キッチンの惨状を見る限り、かなりひどく壁に叩きつけられたんだろう。いきなり姿現しはできないかもしれない。

 

「……隣の部屋に、姿を眩ますキャビネット棚がある」

「了解しました、それを使いましょう。――右をお願い」

「わかった」

 

 俺とガブリエラとで左右から教授を支えながら、キッチンを出て隣の部屋に向かう。

 ガブリエラはその部屋の中で一つの黒い戸棚を開いた。

 

「まて、向こう側で待ち伏せされているかもしれん。儂が先に行く」

 

 そう言うと、教授は俺達が制止する間もなくキャビネット棚に入っていき、すぐにまた戻ってきた。

 どうやら異常はないらしい。

 

 教授が再び棚に入っていき、ガブリエラもそれに続く。

 

 そして最後は――

 

「ボンバーダ」

 

 俺は呪文を唱えてキャビネット棚を破壊した。木片が辺り一帯に飛び散り、もはやこれがキャビネット棚であったなんて誰もわからない。これで向こうからはこちらに戻ってこれないはずだ。

 魔法道具の呪文にはかなりの時間がかかる。ドラコ・マルフォイの場合は一年かかった。ラバスタンはこれで二人に接触することはできないはずだ。

 

「悪いな、俺にはまだやるべきことがあるんだ」

 

 俺は部屋を後にして、二階へと階段を上っていった。

 向かった先は、ガブリエラの部屋だ。床に穴が空いているものの、棚や蔵書はそのままだ。

 

 砕けた床の破片の上を歩き、俺は待っすぐ本棚へと向かった。

 

 本棚の膨大な数の本の中から、一冊の本を見つけ出そうとする。

 今回の事件の、全ての根源。それが今、ここにあるはずだ。

 

「あった」

 

 そのたった一冊を見つけ、手を伸ばして――

 

 

 ――背後で、何かが弾けるような音がした。

 

 

 その音の正体が何かを確かめようと振り返った瞬間、閃光が走り、胸から血が吹き出した。

 

「――ぁ」

「思ったんだよ」

 

 体から力が抜け、床に倒れ伏す。

 熱い。

 

「さっきお前は、姿現しを使ってここにやってきた」

 

 傷口から止め処なく地が溢れ出し、床を赤く染めていく。

 熱い。

 

「一年生でそれができるのはおかしいが、できるんならもう一回それを使ってあのジジイを回収しに行ったんじゃねぇか? と思って戻ってきたら――当たりだった」

 

 視界が真っ赤に染まる。傷口がどうしようもなく痛くて、熱い。

 無意識のうちに涙が流れ、体の末端から感覚がなくなっていく。

 

「二人は取り逃がしちまったが、その分いい声で泣いてくれよ。な?」

 

 ラバスタン・レストレンジは、その骸骨のような顔を不気味に歪めながら、俺を見下した。

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