闇の魔法使いの卵   作:黒歴史量産機

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33 賭けの結果

「さて、まずは聞きたいことがある」

 

 ラバスタン・レストレンジは杖をおろして首を傾げた。完全に俺を舐めきっている態度だ。

 胸をざっくりいかれた俺に何かをする力が残っていないから、馬鹿な判断だとは言えない。

 

「お前、なんでここがわかった?」

 

 まぁ、真っ当な質問だろう。

 時間を稼ぐ必要もあるし、この質問には正直に答えても良さそうだ。

 

「この、灯消しライター、の」

「なんだそりゃ、魔法道具か? ま、あの嬢ちゃんのダチなら位置情報のわかるもん持っててもおかしくねぇか。姿現しもそいつのおかげか?」

 

 なんとか頭を動かして頷く。姿現しのタネをすぐに見破るあたり、洞察力はかなりありそうだ。

 

「次の質問だ。なんでお前は俺が嬢ちゃん家にいることがわかった?」

 

 これは難しい質問だ。

 俺がここにラバスタン・レストレンジがいるのではないかと推測した理由は、ガブリエラほどの才能を持っている人物が原作に登場しないということは、第一次魔法戦争中に死んでいる可能性が高いと思ったことと、決め手は――

 

「『深い闇の秘術』」

「――っ!」

 

 俺のその一言に、ラバスタンは激しく動揺した。

 

 そう、魔法界の中で唯一詳細な分霊箱の制作方法及び使用方法が書かれている本だ。

 ヴォルデモートは分霊箱の存在を世に知られないために、大きな影響力を持つ聖28族の一員であるラバスタンにこの本の回収を命じた。この本さえなければ、分霊箱とその破壊方法を知る者はいずれこの世から消えていくことになる。

 

「――そうか」

 

 闇の帝王、トム・マールヴォロ・リドルという男は、自身の保身に関しては非常に慎重な男である。不老不死を絶対のものにするため分霊箱を最終的に7つも作り、更に超絶外道な魔法薬などを使って守るなど、分霊箱の管理はしっかりとしている。

 そんなヴォルデモートなら、ガブリエラほどの才能を持つ人物の手にこの本が渡った時点で自ら赴いて回収するだろう。

 ここにラバスタンしかいないということは、つまり――

 

「この本がここにあること、闇の帝王は知らないんだな」

「――っ!」

 

 俺がそのことを指摘した瞬間、ラバスタンは杖を思いっきり振り抜いて、俺を背後の棚に叩きつけた。傷口に衝撃が走り、思わず叫び声が出てしまう。

 

「思ったより頭が回るじゃねぇか、ええ?」

「……お褒めに預かり、光栄ですよ」

 

 もう杖を握る手の力もなくなってきた。時間稼ぎも、そろそろ限界が近い。

 

「でも、俺を殺しても、何にもなりませんよ。ガブリエラも、教授も、もう逃げた後だ」

「お前の口を封じて、本を回収する。嬢ちゃんとジジイは後でゆっくり追えばいい」

 

 ラバスタンはにやりと笑うと、ゆっくりと近づき、しゃがみ込んで俺の顔を覗いた。

 そして俺の髪を掴むと、自分の目線と合わせるように頭を持ち上げた。

 

「――ぐっ」

「ちょっと頭が働くかと思ったら、次は意味のない時間稼ぎか。いや――」

 

 ラバスタンは更に顔を近づけた。

 

「――お前、何を待ってる?」

 

 そろそろ時間稼ぎも限界か。

 

 一瞬だけ窓を一瞥すると、俺はもう一度ラバスタンに向き直った。

 

「両親には、触手の実験に失敗したと伝えてください」

「あ?」

 

 ラバスタンが眉をひそめると同時に、 窓から色とりどりの閃光が走り、ラバスタンの身体を吹き飛ばしていった。

 

 

 

 

 

* * * * * * *

 

 

 

 

 

「……ん」

 

 目が覚めると、白い部屋のベッドで寝ていた。どうやら気絶していたらしい。

 胸の痛みは消えていた。服――病院服のようなものに着替えられてた――の下を見てみると、傷はすでに消えていた。どうやら誰かに治療してもらえたようだ。

 

 なんとなく身体を起こすと、ここが病院の一室であることに気がついた。マグルの病院のようにいろいろな機械があるわけではないが、花瓶とかベッドとか内装の感じがなんかそれっぽかった。

 ベッドの横に、一人の男が座っていた。ラバスタンでも、父親でもない。どこか見覚えがある気がするが、思い出せない。

 

 何か言おうと口を開いたと同時に、俺は重要なことを思い出して止まった。

 男が何かを言おうとするのをハンドサインだけで制止すると、俺は再びベッドに戻って目を閉じた。

 

 そしてまた目を開いて――

 

「知らない天井だ」

「君は何がしたいんだ……?」

 

 俺の奇行に、男はただただ困惑するだけであった。

 

 

 

 

 

* * * * * * *

 

 

 

 

 

「改めて、私はアラスター・ムーディというものだ」

 

 なるほど、闇祓いか。どこかで見たかと思ったら、原作でも登場していた凄腕闇祓いじゃないか。本編とは違って目と鼻が健在だから気づかなかったぜ。

 

 この状況をまとめると、アラスター・ムーディ率いる闇祓いの部隊がラバスタンを撃退・逮捕し、同時に気絶した俺を保護して聖マンゴ魔法疾患傷害病院に搬送してくれたようだ。

 

「……まさか、我々が来るのを予知して、ラバスタンをあの場に留めるために身を挺して時間稼ぎをする一年生がいるとは思わなかったよ」

「貴方がたが間に合わなければ、俺は今頃死んでいました。ありがとうございます」

 

 俺はそう言ってベッドの上から頭を下げた。

 

 ぶっちゃけ闇祓い達が来るかどうかは賭けだった。

 父親が逮捕された理由は、未成年者の魔法使用を検知する魔法の記録を闇祓いに調べられたからだ。じゃあ、ラバスタンが初手で撃ってきた死の呪文も闇祓いたちに観測されてるんじゃね? と考えた結果、見事賭けに勝ったわけだ。

 

「それにしても、あの『深い闇の秘術』という本は、それほどまでに重要なものなのか?」

「らしいですね。俺はラバスタンが必死で探してた本をガブリエラが持ってるのを知ってたから、嫌な予感がして見に行っただけなので、その本についてはよく知らないです」

 

 俺はとりあえずシラを切ることにした。

 分霊箱についてこのタイミングで魔法省に知られるとどうなるのかわからないし、俺が何故分霊箱について詳しく知っているのか、など追求されそうなのでこれ以上情報は開示しないようにする。

 

 それより知りたいのは……

 

「あの、ガブリエラとパグナックス教授は?」

「すでに我々の方で保護している。退院手続きが終わったら会ってやれ」

「そうですか……」

 

 とりあえず二人は無事らしい。

 俺が一人胸をなでおろしていると、アラスター・ムーディは立ち上がった。

 

「では、私はこれで帰る。イミティス・セルウィンには君の指示通り触手の実験に失敗したと伝えてある。それで何故納得したのかは不思議だが」

「ありがとうございます。俺ってこの後どうなるんですか?」

「君は怪しい点が色々あるから今回の事件の重要参考人になっているが、ラバスタン・レストレンジの逮捕と、パグナックス・ムーディ及びガブリエラ・オリバンダーの保護への協力があったため、お咎めなしだ。君の一族に監視はつくがな」

「なるほど」

 

 セルウィン家への監視は妥当だろう。実際に犯罪を起こしているわけだし、俺自身が家で大人しくしていればいい話だ。しばらくは闇の魔術の訓練もないだろうし。

 

「ところで、最後に君に質問があるんだが」

 

 アラスター・ムーディは扉から出ていく寸前で立ち止まって、振り返った。

 

「君のローブから大量の触手生物が発見されたんだが、あれを使ったほうが戦闘が有利に進んだのではないかね?」

「何言ってるんですか! 俺が触手ちゃん達を危険な目に合わせるわけ無いでしょう!」

「……やはり君が何を考えているのかさっぱりわからん」

 

 ムーディは大きくため息をつくと、今度こそ病室から出ていった。

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