俺たちが振り分けられた部屋――一番奥の部屋には窓がついていて、湖の内部がここからも見えるようになっていた。遠くのほうでイカが泳いでいる。
「俺、生まれ変わったらダイオウイカになりたい」
「何言ってんだお前」
俺の発言にバーティが呆れて二人称が「君」から「お前」になってしまった。
「だってダイオウイカは触手があるんだぜ? かっこよくないか?」
「セルウィンは触手がほしいのか?」
「ほしいね。魔法でなんとかならないかな?」
俺の発言にカパルディはため息をつき、早速荷物の開封を始めた。バーティに至っては明日の科目の教科書を開いて読み始めた。
「早速予習か? 真面目だなぁ」
「こうでもしないと父上の期待に答えられないからさ」
バーティは父親からのプレッシャーがすごいらしい。俺は疲れたのでさっさと寝ることにする。おやすみ。
* * * * * * *
次の日。実は今日は日曜で、授業はない。なので殆どの新一年生はこの日を校内の散策や先輩との交流に使った。
この一部屋を除いて。
朝食を食べ、各自保護者にスリザリン寮に入ったことをふくろう便で知らせた後、俺と同室の友人たちは部屋に戻ってそれぞれ自由に過ごしていた。
ティアゴはベッドで天文学の本を読み、バーティは早速勉強。無口な少年は何をするでもなくただ部屋の隅で立っていた。俺はというと、とあることのために準備をしていた。鞄から作業道具や板材などを取り出し、床に並べていった。
「なぁ、何やってるんだ?」
ベッドの上からカパルディが聞いてきた。どうやら本を読み終えて暇になったらしい。
「ちょっくら部屋を改装しようと思って」
「……なんだって?」
「リフォームだよリフォーム! これから七年間この部屋で過ごすんだから少しぐらい快適にしたっていいだろ?」
そう言いながら俺は鞄から板材をもう一枚取り出す。この部屋の住人は本が好きらしいから本棚を作るのがいいかもしれない。バーティは教科書とか参考書とか学術書とか、カパルディは天文学が好きそうなのでそういう本を、俺は魔法理論や闇の魔術に関する本を置くスペースがほしい。無口な少年が本好きかはわからないが、部屋はそこまで狭いわけじゃないんだし本棚をいくつか設置しても彼の邪魔にはならないだろう。
「その鞄によくそれだけの物入れてたな」
「ちょいと法律的にグレーゾーンな拡張呪文をかけたからね。工具とかまだまだ入ってるよ」
「お前って自己紹介のときといい自分の悪事を包み隠さず言うよなぁ」
なんかカパルディに呆れられた気がする。が、気にせずまずは本棚を作ろう。
魔法族のDIYはマグルのそれとは少し違う。マグルよりも便利な点もあれば不便な点もある。その1つ目が、材料の加工に魔法が使えるということだ。
「ディフィンド」
木の板も、呪文一つで真っ二つ。断面もノコギリと比べるまでもなくキレイだ。ただ、不便な点としては、魔法族の家では電動工具が使えないことが多い。ここホグワーツにはマグル避けの魔法などの複雑な防御呪文が大量にかかっていて、その影響で電気製品は正しく動作しないのだ。そのせいで電動ドライバーなどが使えずとても面倒。
「ウィィィィィィィィィィィ」
「……何その音」
「スクリュードライバー回すときの音だよ」
「ドライバーはそんな音出さねーよ」
手動でドライバーを回して、ネジで板どうしを接着する。浮遊魔法を使えば手で支えなくても板が空中に固定されてくれるので便利だ。30分くらいで本棚は完成。もしかして俺ってDIYの才能ある?
「本棚完成! どこに置けばいい?」
「そこの部屋の端とかいいんじゃないかな?」
部屋に戻ってから初めてバーティが口を開いた。彼が指差した部屋の端というと……バーティのベッドが一番近い。小賢しい奴め。
とりあえず指定されたところに本棚を設置する。大きいから4人分の本は軽く収まるだろう。こうやって移動させるときも浮遊魔法が役立つ。やはりレヴィオサーならぬレヴィオーサは正義。
「他になにか作ってほしいもののリクエストあるかい?」
返事はなし。俺は部屋で触手の研究がしたいので丈夫な机と椅子を作ろう。
* * * * * * *
ティアゴ・カパルディはベッドの上で二冊目の天文学の本を開いた。部屋の片隅ではセルウィンが家具を作り、片隅ではクラウチが勉強し、片隅では昨日から一言も声を発していない少年が瞬きもせず突っ立っている。これ以上にカオスな空間にいたことはない、とカパルディは思った。
カパルディから見て、この部屋の住人は皆異常者だった。
まずバーテミウス・クラウチだ。彼は入学した当日の夜から勉強を始めた。しかも教科書をよく見ると4年生の変身術だ。この部屋の中ではまともな部類だが、端から見れば彼もかなり『普通』とはかけ離れた人間だ。そもそも聖28族の一員であり、父親が魔法法執行部の部長で次期魔法大臣最有力候補だ。地位も学習意欲も一般人とはかけ離れた、まさに秀才の鑑だ。
次に、名も知らぬ少年。この少年は昨日の夜に同室になってから一切言葉を発していない。最低限の頷きと首振りだけで会話がなんとか成り立っている状態だ。重要なこと以外は基本話しかけても無視される。それに、昨夜ベッドに入った素振りがなく、朝起きたときに、全く同じ場所で立っていた。一切動かず一晩中起きていたのだろうか。
最後に、ユマノ・セルウィン。彼は闇の魔法使いであることをカパルディに堂々と公言し、更に触手などの気味の悪い研究もしている。セルウィンが、カパルディの思う最大の異常者だった。いや、異常者というよりはただの性格の悪い奴かもしれない。だが、セルウィンからはなにか普通じゃない気配が漂っているとカパルディは感じた。
これからこの3人と7年間同室で過ごすのかと思うと、頭が痛くなる。カパルディは読んでいた本を閉じ、朝っぱらから寝ることにした。
* * * * * * *
おはよう! セルウィンだよ!
今日から本格的に授業が始まる。楽しみだ。
朝7時30分、朝食の時間だ。この学校のスケジュールはとても健康的だ。ただ一つ問題があるとすれば、朝食と同じ時間にふくろう便が来ることである。今日は俺たち新一年生に入学、そして入寮を祝う手紙が親から多く送られてきた。そのせいで朝食にフクロウの羽根や落とし物が皿に入らないように気をつけなければならなかった。このシステムは本気で見直したほうがいいと思っている。
俺や同室のメンバーにも手紙が届いた。開いてみると、父の字だった。
『我が息子ユマノへ
スリザリン寮への入学おめでとう。お前なら必ず私達の寮へ入ってくれると信じていた。
スリザリンにはロジェールやエイブリー、そしてレギュラス・ブラックのような純血名家の御子息や御息女がたくさんいらっしゃる。
彼らとは仲良くしておきなさい。純血同士で仲が深まるのはいいことだ。ただし絶対に触手の話はするな。わかったな。
それと、友人の伝手で聞いたのだが、あのバーテミウス・クラウチ・ジュニアと同室になったそうじゃないか。
ヤツの父親は法執行部の部長だ。できるだけヤツから魔法省の内部の情報を聞き出してこちらに送れ。いいな。
お前の健やかな成長を願っている。これからも学業に励め。
ソリタム・セルウィン』
……クソオヤジが。結局純血主義者はみんな屑だな。
俺は顔をしかめ、黙って手紙を握りつぶした。
向かいの席でバーティが同じような表情で手紙を読んでいるのを、カパルディだけが見ていた。
ソニック・スクリュードライバー
イギリスで60年間続くSFドラマ『ドクター・フー』に出てくる万能ねじ回し。ネジを回すだけでなく、扉を開けたり、機械なら何でもハッキングして自由に操れるチートガジェット。もはやネジを回すシーンがあったかすら思い出せない。
使用時に「ウィィィィィィィィィィィ」と独特な音を鳴らす。