三日目、朝食を食い終えた俺とバーティは、授業までの時間をスネイプ先輩とともに廊下で話しながら過ごしていた。
「変身術かなにかの応用で触手って生やせないですかね?」
「セルウィン、悪いことは言わない。君は聖マンゴに行くべきだ」
スネイプ先輩までひどいことを言う。触手を欲しがることの何がおかしいんだ。かっこいいじゃないか。一応俺にはバーティ以上の変身術の才があるようなので、変身術特化の魔法使いになって触手の生やし方について研究するのも悪くはないかもしれない。将来の路線はなんだか決まりそうだ。いずれは魔法界に触手をもたらした偉大な大魔法使いとしてマーリン勲章を手に入れてみせよう。
一時間目は再びの魔法史。カパルディはさっさと眠りにつき、俺とバーティは眠気と格闘しながらゴーストのビンズ先生の話を聞こうと必死になっていた。無口な少年は目は開いていたものの、微動だにしていなかったし、意識があったのか怪しかった。
二時間目は薬草学。今日は堆肥の作り方を学んだ。めっちゃ臭かった。スリザリンは純血名家、いわゆる貴族のような家の出身者が多いので、こういった作業は慣れてないらしく大いに苦戦していた。カパルディと無口な少年はなんの躊躇いもなく作業に没頭し、俺とバーティも負けじと作業を進めた。
三時間目はDADA。もうヤダ。この科目の教授は引退した元闇祓いで、こいつがかなり鬼畜なのだ。見た目は90代のくせに俺達の誰よりもキビキビ動くし、ハイレベルな呪文の扱いを俺たち新一年生に要求してくる。鬼だ。
四時間目は自由時間だった。水曜日は4時間目がなく、代わりに夜中に天文学があるらしい。
「さて、この後の予定は?」
すべての授業が終わった後、俺は呪文学の教室をさろうとするルームメイト達に声をかけた。
「俺はスラグホーン先生に呼ばれてるから、そっちに行くよ」
そういえばバーティはホグワーツ特急でスラグ・クラブに招待されてたな。そのお茶会にでも行くのだろう。
「俺はさっさと寮に戻る」
カパルディはそう言ってさっさと教室を出ていった。
「えっと、それじゃ、君はこの後どうするんだい?」
無口な少年にも訊いてみたが、返事がない。彼はただじっとこちらの瞳を見てくる。なんか怖い。
一分ほどにらみ合いのような物は続いたが、彼が一向に口を開く様子がなかったので、話を進めることにした。
「……つまりそれぞれに予定があるってことだな。解散!」
「因みに俺達に用事がなかったらどうするつもりだったんだ?」
「お、興味ある?」
「特に」
「ないんか〜い」
なんかバーティが徐々に冷たくなってきた気がする……。
* * * * * * *
「Open sesame!!」
特に意味のない掛け声とともに重い扉が開く。
ここは必要の部屋。どうしてもある特定の役割を持った部屋が必要な人物の前にだけ現れる魔法の部屋。正直言ってこれを作った奴はダンブルドア以上の天才だと思う。
中は石でできていて、特に装飾はなく、端のほうに作業台といくつかの工具、ジュークボックス、そして古そうな本が詰まった本棚があるだけで、残りはだだっ広い空間が広がっているだけだった。
「うっし。それじゃ、始めますかぁ〜」
俺は壁際にある机に荷物を置いて、椅子に腰掛けた。高さもちょうどいい。最高の作業部屋じゃないか。
ジュークボックスで音楽をかけて、俺は作業に取り掛かろうとした――その時。
――扉が鈍い音を発しながらゆっくりと開いた。
とっさに杖を構える。
別にホグワーツに敵がいるわけじゃないが、それでも秘密の場所を暴かれたら誰だって緊張するだろ。
入ってきたのは、一人の少女だった。
茶髪でそばかすがあり、用心深そうに部屋の中を見渡している。
そして、俺と目が合って……
「……」
「いや無言で帰るな」
少女は俺をしばらく見つめると、何も言わず戸を閉めようとしたので慌てて引き止めた。必要の部屋を知ってる奴らは原作キャラでも少ないから、どういう伝手でこの部屋の存在を知ったのか確かめなければ。
「ちょっと待ってくれ。別に危害を加えようとしてるわけじゃないんだ。俺の名前はユマノ・セルウィンっていって――」
「――セルウィン? もしかして『あの』セルウィン?」
「おい『あの』ってなんだ」
どうやら向こうは俺のことを知ってるらしい。口調からするに人づてに聞いたんだろうが、俺ってそんなに有名人なんだろうか。
「セルウィンって、あの死喰い人の?」
「……」
なんだようちの悪名ってそんなに世に知られてるのか!?
まずいな、死喰い人の息子がホグワーツ内のあまり知られてない部屋でコソコソしてるなんてことが他の奴らに知られたら俺の評判は地に落ちる――退学もあり得るかもしれない。原作ではダンブルドアがこの部屋の存在を知ってたが、他の教師がそれを知ってた描写はなかった気がするし、世間にこの部屋があの有名な秘密の部屋と誤解されてしまってもおかしくない。それで俺がスリザリンの継承者扱いされる可能性もある。
まずは弁明して穏便に事を済まさなければ。
「俺は死喰い人じゃない。君は――」
「質問はこっちがする」
「……」
話し終える前に、少女は杖を抜いてこちらに向けて構えた。俺は抵抗の意思がないことを示すために杖を机に置いたが、少女は警戒を解く素振りを見せない。
「オーケー、だいぶアグレッシブだな」
「この部屋の存在はどこで知った?」
まず最初の質問だ。本当はハリー・ポッターの原作を読んだからだが、そんな事を言うわけにはいけない。これについては見つかったときのために事前に回答を考えてある。
「うちは古い純血の家系で、たまたま先祖の日記にこの部屋のことが書かれてたんだ」
セルウィン家は有名な聖28族の一員だ。先祖の誰かがこの部屋の存在を知っててもおかしくはない。少女は少し黙り込むと、やがて納得したようで、質問を続けた。
「他にこの部屋のことを知ってるのは?」
「俺だけだ。両親も知らない」
これは真実だ。本当は日記なんてあるかどうかもわからないし、うちの親は先祖の日記よりも闇の魔術に関する本のほうが好きだろう。
「この部屋には何をしに来た?」
「――これだよ」
俺は少女に手元の羊皮紙を向けた。この羊皮紙は俺の計画書だ。
「……あんた、随分面白いもの考えたね」
どうやら少女も感心してくれているようだ。
現在俺はドクター・フーに出てくる宇宙船、ターディスを魔法の力で再現しようとしている。ターディスとは端的に説明すると、内側が外側より大きく、空を飛び、宇宙のどんな場所、どんな時代にも一瞬で移動できる宇宙船/タイムマシンだ。外から見れば青い電話ボックス――厳密にはポリスボックスという――の形をしているが、内側は計測不可能なまでに広く、無限に部屋が広がっている。検知不可能拡大呪文や空飛ぶ箒などが存在するウィザーディング・ワールドならば再現が可能なのではないかと考えて、必要の部屋で秘密裏に制作しようと思っていたが、まさか実際に作業を始められる前に見つかってしまうとは思わなかった。
「どうだ? いいアイディアだろ?」
「ゴミじゃん、これ」
「んだとテメェ!?」
おい。オタクを本気で怒らせると痛い目合うぞ。ターディスを侮辱するということは地上に存在するすべてのドクター・フーファン――フーヴィアンを敵に回すということだ。
「やろうとしてる事自体は興味深いんだけど、魔法理論が無茶苦茶。ほら、こことか」
少女は俺の手から羽ペンをひったくると、羊皮紙になにか書き込み始めた。どうやら俺の魔法理論に間違いがあったらしく、次々と訂正していく。
「ここも違うし、ここなんかどんな理論をしてるのかすらわからない。こんなんじゃ飛ぶ前に爆発するよ」
「ぐぅの音も出ねぇな」
訂正された箇所は一枚目の羊皮紙だけで6箇所もあった。少女は俺が手に持っている残りの羊皮紙の方を見ている。
「……もしかして、これも修正してくれ――」
「早くよこして」
言われるがままに羊皮紙の束を渡す。ものすごい勢いで訂正が進む。もはや途中から俺の書き込みよりも少女の上書きのほうが多くなっている。
「はいこれで全部。5枚目で盛大にミスってるね。それ以降のはそのせいで全く役に立たない。燃やしたほうがいいよ」
「辛辣だな〜」
用意した羊皮紙は全部で24枚、俺が入学前から丁寧に計画したものだ。せっかく書いたのにここまで間違ってるとは、馬鹿みたいだ。少女の書き込みは全部正しいか、俺の知らない全く未知の理論を使ってるかのどちらかだ。見た目からして俺とそこまで年齢が変わらないはずなのに、よくこんな専門的な魔法理論の知識持ってるな。
……で、
「結局君って誰なの?」
俺の質問に、少女は首を傾げるのであった。
ターディス(TARDIS)
正式名称Time And Relative Dimension In Space
ドラマ『ドクター・フー』に登場するタイムマシン。外側は古いイギリスのポリスボックスの見た目だが、中は外側より広く、無限とも言える空間が広がっている。過去、現代、未来のどこにでも瞬間移動できたり、空を飛んだり、惑星を引っ張ったり、ほとんどすべての攻撃を防ぐことのできるシールドを持つなど、かなりチート。
ウィザーディング・ワールドには不可能検知拡大呪文や、強力な防護呪文があるので実現可能なのじゃないかと思い、登場させてみました。
因みにこの作品の現在時間は1973年で、ちょうどドクター・フーの放送開始から10年経ってます。主人公は三代目のジョン・パートウィー。